翌日、夢結と梨璃が訓練をすると言うので訓練場に向かった。
既に始まっていたので隅の方で見学する。
「くぅ…!」
夢結が梨璃に打ち込み梨璃は、耐えきれてないようだ。
(スパルタだな…俺もお姉様や姉上にしごかれたっけ…)
と百之助は、昔を思い出していた。
「ヒュージとは、通常の生物がマギによって怪物化した物よ。マギと言う超常の力に操られるヒュージには同じマギを使うリリィだけが対抗できる…マギを宿さないチャームなど、それはただの刃物よ。」
「は、はい…」
「もっと集中なさい。そうすればチャームも動く…強靭になる。」
梨璃のチャームにマギが宿っていく…
タタタ…ガン!
そこに夢結が打ち込む。
「ぐぅ…あぁ!」
「素人相手になんてことを!」
(あれが一般的な反応だな。)
楓の言う事にそう思った百之助である。
「もう少し粘って見せなさい、梨璃さん。
「はい…」
タタタ、ガン!
「ゔあ!」
ガタン
梨璃は、チャームを落とし、膝を付いた。
「はぁ…はぁ…」
「軽いわね。」
「随分と手荒いですこと。私にマゾっ気があればたまらないでしょうね〜!夢結様のお噂は、存じておりますわレアスキルルナティックトランサーを武器に数々のヒュージを屠ってきた百合ヶ丘屈指の使い手トランス状態ではリリィ相手でも容赦しないとか!」
「楓さんそれは…」
楓の言葉に狼狽する二水。すると立ち上がった梨璃が言う。
「いいんです…私…私、皆より遅れてるからやらなくちゃいけないんです。だから…続けさせて下さい。」
この後も続けられ、日が沈むタイミングで止めを掛ける。
「そこまでだ…もう体が持つまい?それに明日もやるんだろうからもう休め…」
「ですが!」
「お前な…はぁ…強情だな…とにかく休め。夢結も…やり過ぎだ…俺の姉上じゃないんだから…」
「貴方のお姉様は、異常よ」
「確かに鬼以外の何者でもなかったがな。それでもぎりぎりで止めてたぞ?梨璃の場合突破してるからな。」
「そうね…この位にしておきましょう」
「だそうだ。」
「分かりました…」
夢結と二水と楓が帰っていく。
「はぁ…夢結…何考えてんだ?…昔はもっと優しかったと記憶してるんだが…」
「変わったのよ…」
「そうかよ…」
百之助は、夢結との間に壁を感じた。
「じゃあやる事あるから寮に戻るよ」
「ええ…」
夢結と別れたあと墓地に向かった。
ここには戦火で散って逝ったリリィたちが眠っている。
「大変遅くなりました…姉様方…」
同じレギオンだった戦友に、花を手向ける。一人一人に…だが自分のシュッツエンゲルと二人の姉には、手向けなかった。理由は夢結が居ないからである。
(やっぱり夢結と一緒に来た時に手向けることにします。お姉様方…それまで…待っててください。)
ーその頃女子寮風呂ではー
「おいたわしや〜梨璃さん〜痣だらけですわ〜ほらここも〜ここも〜あら〜こんな所も〜」
楓のスキンシップがどんどん過激なものに変わってゆく。流石にこれには耐えられなかったようで。
「そこは違います〜!」
と叫んでいた。
暫くして湯船につかっていた。楓だけ浮島に上がっていたが。
「はぁ…私には解せませんわ。そこまでして夢結様にこだわることないんじゃありません?」
「楓さんだって最初は…」
「こんな所で挫けていられないよ…だって私、夢結様のこと全然知らないから。」
するとアールブヘイムの一年、田中壱、藤堂亜羅椰、江川樟美の3名がやってきた。
「貴方が夢結様のシルトね。」
「まさか本当に物にしちゃうなんてね。」
「おめでとう梨璃さん…」
順番に壱、亜羅椰、樟美である。
「アールブヘイムの皆さん!?」
二水は、興奮しすぎて鼻を抑えた。
「丁度良いですわ。教えて頂けません?夢結様のこと。」
それに答えたのは壱だった。
「そうは言っても中等部は、校舎違うしね〜」
「でも、夢結様と言ったら…」
「甲州撤退戦…」
壱の言葉にアールブヘイムの二人は被せる。
「甲州…」
梨璃にとっても思い出深い戦いであった。何せ助けてもらったからだ。
二水が説明する。
「2年前…ヒュージの攻勢によって甲州の大部分が陥落した戦いですね?百合ヶ丘からもいくつかのレギオンが参加したものの、大きな損害を出して威勢を誇った先代のアールブヘイムが分裂するきっかけとなり、白襷隊が玉砕しかけたと聞いてますが…先輩方に伺っても口が重くて…」
「度胸あるわね…貴方も…」
「中等部だった夢結様も特別に参加したと…」
「なら知っているでしょう?夢結様はそこで自分のシュツエンゲルを亡くしてるって…」
流石にこれにはを動揺する面々。
「亡くしたと言えば白襷隊もそうですね」
「天葉様が言ってた…白襷隊は、甲州撤退戦の時リリィたちがヒュージの軍勢の中で孤立したとき。真っ先に退路を開き、嬉々として殿を引き受けて、笑って戦っていたって…」
樟美の言葉に動揺する面々。
「「「「「「え?」」」」」」
「死体も笑ってたらしいよ…」
「うそ!?」
「まあ…天葉様曰く、先代のアールブヘイム全員集めても白襷隊一人に勝てないらしいから…」
「そりゃそうでしょう…何せ他のリリィとは考え方と命のあり方が違うんですから。」
いきなりの闖入者に困惑する面々。
「誰よ?」
亜羅椰が聞く。
「申し遅れました。船坂文香であります。船坂百之助とは、腹違いの妹です。」
と文香は敬礼する。
「「「「「「腹違い!?」」」」」
「はい…私の父は一個小隊ほどの愛人がいましたから…大体30人位…」
これには唖然とする面々。
「それで?違うとは?」
帰ってきた楓が聞く。
「他の人は存じ上げませんが…当時、所属していた兄上と二人の姉上は、自分の命が軽い物と考えていましたし、勝つ為なら死ぬ事も良しとする人たちでした。…そして、船坂家では戦死する事が美徳と教えられます。物心付くときには戦い方を教わります。…姉上二人の戦死を夢結様から聞いたとき耐えられませんでした…でも夢結様の方が辛そうでした…父はそうか逝ったかと言って直ぐに何処かに行きました。でも顔が笑ってました。」
楓が怒った。
「なんて親ですの!?子供が可愛く無いんですの!?」
「まだいい方です…父は手柄を立てた者しか興味が無ので。」
「はあ!?」
「私は放置されてましたよ?」
「なんて親…なの…。」
これには全員絶句するしかなかった。
「私の家系は軍人です。故に戦にしか興味が無く、それしか知らないのです。…もっとかんたんに言うと功名餓鬼ですね。」
「想像を絶するわ…」
「どう反応していいかわからない…」
「理解不能ですわ…」
困惑する面々。
「白襷隊の意味…分かりますか?」
「分からないわね…」
「敵陣に真っ先に斬り込む部隊の事を指すんです。」
「「「「「!?」」」」」」
「そして真っ先に死にます。敵が全滅するか…味方が全滅するまで…。」
「てことは…全滅するまで戦い続けるのが掟だったの!?」
「ええ…」
「理解できませんね…」
「戦うためなら死ぬことさえ良しとする…まるで日本兵ね?」
「その通りです。白襷隊は、それを自分達の命を持ってヒュージを食い止めました。…最後まで…」
「でもよく生きてたわね…あの二人…」
「結構ぎりぎりだったみたいですよ?見つかった時は満身創痍だったらしいですから…でも兄上が生きてて良かった…」
「どうして?」
「可愛がってもらいましたから…それに兄上が8歳の時から会ってませんから…会えるのが楽しみです。」
「そう…」