ある日の昼頃百之助は、木陰で木により掛かり黄昏れていた。理由は特に無い。ただそうしていただけだった。夢結の事は今日だけ伊吹に任せたのである。
「平和だな〜」
等と言っていたら眠くなったので目を閉じる。暫くして声を掛けられた。
「隣、良いですか?」
見れば自分と同じ黒髪と黒い目をした少女が立っていた。
「ど〜ぞ。」
「では、失礼します。」
少女が隣に座ってきた。
「寝る前に聞かせてくれ。お前…軍人だな? 雰囲気と空きの無い動きが軍人のそれだ。」
「よく、分かりましたね?」
「俺も軍人だからな。で?…何者だ?」
「そうですね…昔話をしても?」
その答えがその少女の事だと気付く。
「ああ。」
「昔々ある所に、とある軍人がいました。その軍人は、妻子もちでしたが一個小隊程の愛人がいました。その中の一人には、その軍人の子供を生みました。その子供は、6歳のときに母親を亡くし、軍人の元に引取られました。その家には、娘二人と子息がいました…引き取られた子供はとても可愛がられました…軍人以外の人達に…やがてその子供は一人になりました…そして2年前、姉二人が戦死し、兄が重症を負いました。…」
百之助は、話をぶった切った。
「そこまででいい!…文香…だな…?」
「はい…兄上…」
文香を抱き寄せ頭を撫でた。
「すまんかったな…やらかしたから帰れなかった…」
「それは知ってます…古参の方から聞きました。」
「そうか…」
「兄上…お願いがあります…」
「どうした?」
「私と…シュツエンゲルの契りを結んで下さい。」
「いいぞ」
「有難うございます」
「まさか…兄弟全員…ここに来るとは…」
「そうですね…」
暫くして共用スペースに向かい、書類を書き、提出した所。1時間ほどで受理され。現在、共用スペースで寛いでいた。
「百之助今、暇?」
振り向くと空葉とそのシルトがいた。
「立ち話も何だから、ここ座れ。」
「どうも。」
「有難うございます。」
二人が席に付く。
「結論から言うと暇だな。」
「そう。じゃあ…その娘が、貴方のシルト?」
「いや…情報早すぎだろ…」
「で?どうなの?」
「そうだよ…ついでに言っとくと俺の妹だ。」
「全然似てないよ?」
「そらそうだ…腹違いだもん。」
「何その小説みたいな設定?」
「俺の親父は愛人が沢山いたからな。」
「女として殺意が湧いたよ…」
「だろうね…」
「私、天野天葉。貴方、名前は?」
「船坂文香です。」
「そっか…本当に妹なんだ…」
「で?本題は?」
「実は…貴方の実力が私のレギオンで疑問視してる娘が居て…耐えられないから見せてあげてほしいの。」
「別に良いけど…相手は?」
「勿論私!」
「そうかよ。」
その時、面白い事を百之助は、考えついた。
「代わりにお願いがあるんだが…」
「なに?」
「お前のシルトと俺のシルトで模擬戦やってくれないか?」
「どうする?樟美?」
「受けます。」
「だって!でも何で?」
「俺だと秒で決着が付いてしまって訓練にならんからだ。」
「あ〜確かに…私ですら30秒持てば良い方だもん。」
「そんなに強いんですか?」
「強く無い…速いだけだ。」
天葉が頬を膨らませた。
「嘘つき…強く無かったらヒュージの軍勢に囲まれたとき、真っ先に突撃して道を切り拓くなんて芸当…出来るわけないよ。」
「お前が言うと説得力が違うな…まあ死にかけたわけだが。」
「ごめん…失言だった…」
「おいおい…気にすることはないだろう?」
「でも…」
「良いか戦友?…もう終わったことだ。それにああしなければ、もっと多くのリリィが戦死してたはずだ。20名で済んで良かったとさえ思ってるぞ俺は。大体…何で、皆気にしてんだよ…今は戦時、死体なんぞいくらでも積み上がる。いちいち気にしてられんわ。」
ここで百之助は、紅茶を飲む。
「姉上には、後を頼むと言われた。だから俺は姉上の遺言に従い敵を叩き潰す。…残された者は、志半ばで散った戦友の意志を継がなきゃならん。それは先祖にも顔向けする為でもあるが。…おれは嫌だぞ。この国の為に散って征った先祖たちに国が無くなりましたと報告するのは。」
「何で…何でそこまで前向きなの!…貴方!可笑しいよ!?姉を亡くしたんだよ!?」
「…そこがお前の良い所であり悪い所だ。それに俺が死んだらその時は…」
バチーン
辺りが静まり返る。文香による平手打ちだ。
「兄上!天葉様は軍人ではありません!普通の女の子です!託す相手が違います!この学院で死ぬ覚悟と失う覚悟があるのは、私と兄上と伊吹様だけです!」
「そんな事は分かってるさ…彼女たちはリリィだもん。軍人じゃない。」
「どうして…どうしてよ…何で死ぬのが怖くないの…」
「戦って死ぬ、この上ない名誉だ。…それに俺が死んだって悲しいやつ…夢結以外でいないだろ?」
「貴方ほんとに知らないのね…皆心配してたのに…」
「は?本気で?」
「お通夜状態だったよ?」
「ええ…俺をいじり倒すのが趣味みたいな連中なのに…まあいいや。行こうぜ?」
「はあ…」
「兄上…」
そうして四人で演習場に向かった。