HUNTER×HUNTERの世界ヤッホー!! 作:斗穹 佳泉
「――て!」
「――ナさん!」
「シイナさん!起きて!」
身体を揺さぶられながら、聞こえてきた声に意識が覚醒する。
……ハッ!?
ゴンくんに起こされている!?
「やっと起きた、ほらもう二次試験始まっちゃうよ?」
「お、おはようゴンくん、起こしてくれてありがと」
だ、誰か、今の場面をカメラで写真なり録画なりされてた方はいらっしゃらないか!?
心臓バックバクだよ、推しに起こしてもらえるのやばくない?
眠気なんかもう吹っ飛んじゃった。
ゴンに引っ張られながら二次試験会場への門をくぐる。
全員が敷地内に入り込んだと同時に、ハリのある声が響いた。
「一次試験を通過した受験者の諸君、ようこそ。私が二次試験官のメンチよ」
「同じくブハラ」
グゥウウウウウ!!
思わず耳をふさぐほどのお腹の音。
私じゃなきゃ耳を塞ぎきれないね。
二次試験の課題は、ビスカの森にいる豚を使って二人に美味しいと言わせること。
豚ちゃんとの戦闘は、私がこの世界に来てから初めての戦闘。
一次試験で問題なく身体を使うことができたから心配してはないけど、実際にあの迫力に怖気づかないか不安だ。
しかし!
みんなの活躍を見るためには頑張らなきゃねっ!
「それじゃあ二次試験、スタート!」
ブハラの腹太鼓で二次試験が始まった。
「豚を捕まえて料理、一次試験よりずっと楽だな」
「だといいのだがな」
「そんなに簡単にいかないとこがハンター試験だよね」
豚ちゃんを探しながらクラピカ達と談笑していると、
「やっほーー!待てよゴン!」
キルアの楽しそうな声が聞こえてきた。
ゴンが豚ちゃんを見つけて坂を滑り降りているのかな。
「私達も続こう、なにか見つけたのかもしれない」
クラピカの言葉に頷き、レオリオが走り出す。
え、あ、私スカート……。
四苦八苦しながらなんとか転ばずに坂を下り終えると、もう四人は豚ちゃんから逃げだすところだった。
「逃げるぞシイナ!あの豚肉食だ!」
「えぇ!?ちょ、みんな待ってー!」
レオリオの叫びで、みんな一斉に走り出す。
一次試験に続き、二次試験もマラソンスタートだ。
たくさんの受験者が豚の大群にのされている時も、ゴンからは目を離さない。
そろそろ動き……ほら!
竿を持って豚ちゃんに向かっていった!
弾き飛ばされるも受け身を取って衝撃をいなす。
額が弱点だ、ってことに気づいた、閃いた時のあの眼。
やばいマジでカメラほしい。
その後次々に他の受験者も豚ちゃんを倒し始め、私もそれに続く。
あまり豪快なジャンプはできないから、さっき豚ちゃんの額を傷つけた木の実を拝借して、と。
「エイッ!」
ポコ、というかわいらしい音で額に当たり、豚ちゃんは気絶する。
握った時にわかったけど、この木の実、石なんじゃないかっていうくらい硬い。
ということで、二次試験の豚ちゃん狩りは滞りなく進んだ。
脱落者?あ、この世界のモブには興味ないので、私。
さぁやってまいりました料理タイム!
私の周りでは、それ下処理したの?と言わんばかりに丸焼きの準備が進められている。
ゴン達は一端様子見をするみたいだ。
かくいう私はというと。
「ふんふふ~ん、さてさて、作りますよ~」
豚ちゃんの解体はしたことないので時間がかかったけど、楽しかったのでよし。
いいよね、こう、正解が提示されていない中でいろいろ試行錯誤するの。
あ、ネギとキャベツも切らなきゃね。
回鍋肉用のタレは……あれ、私この世界の調味料、塩砂糖くらいしかわかんないや。
舐めてみて、使えそうだと思ったらいろいろ混ぜてどうにかしよう。
そんなこんなしている間も、ブハラとメンチの前には丸焼きが並んでいく。
メンチの酷評はまったくもってその通りで、少し料理をする者としてちょっと同情しちゃうな。
ゴン達の見た目や工夫を加えるという案も見事酷評され(クラピカの料理でメンチ一口目)その後の受験者は何かと工夫を加え始めたみたいで、列に並ぶ人はいなくなった。
試行錯誤の末、回鍋肉のタレになんとか近づいたので、後はサクッと簡単調理。
鍋からいい匂いが漂い始め、周りの受験者の手が止まりだす。
視線を感じながらも料理を続け、最後に味見をして、と。
「……うん、いつもの、とはちょっと違うけど、これはこれでアリ!」
「シイナさん、めっっちゃいい匂いだけど、何作ってるの?」
「回鍋肉っていう料理だよ、キルアくん。そだ、食べてみる?」
一口分を小皿に取ってキルアに渡してあげる。
いいの!?と目をキラキラさせて小皿を受け取り、パクっと食べるキルア。
え、なにこの展開。すごい自然な流れだったけど、私結構すごいことしたのでは!?
キルアが私の作った料理を食べてる……?
え、なにその笑顔めっちゃかわゆい。
「うま!?めっちゃうまいよシイナさん!」
「そ、そう?ありがとキルアくん」
やばい、めっちゃ照れる。
誰かに食べてもらったことなんてなかったから、美味しいと言ってもらえて本当に嬉しい。
ニヤニヤが顔に出ないように気を引き締めていると、キルアがゴン達を呼んだみたいで、いつのまにか期待の眼差しを受けていた。
「わ、わかったから。はい、ゴンくん、クラピカ、レオリオどうぞ」
「すまない、キルアの反応を見て気になってしまってな」
「おぉ、まじで旨そうな匂いだぜ」
「ゴンくんには起こしてもらったからね、少し多めにしておいたよ」
「ありがと、シイナさん!」
「あ、ずっりぃ、俺ももっと食いたかった」
「ジャッジしてもらう分が減っちゃうからこれでおしまいね」
キルアとゴンの一悶着、眼福眼福。
軒並み高評価をもらい、これならいけるぜ!とレオリオから励ましの言葉をもらった。
クラピカには今度料理を教えてほしいと言われたし、ゴンにはまた料理作ってよって言われた。
一人暮らしで料理に慣れてて、本当によかった……。
他の受験者に食べさせる気はさらさらないので、持っていく分をお皿に盛り付け、簡単なサラダを付けて、完成!
視線が私に集まってるのがわかる。
そんな目で見られてもあげませんよーだ。
しかし、まぁ、こんな人数に注目されることなんて今までなかったから、緊張にあんまり慣れていない。
緊張で身体も震えるし、料理気に入られるかなと、不安なところもある。
一度深呼吸をして、まだ若干震える手で料理をメンチとブハラのもとへ運ぶ。
「ジャッジをお願いします」
「……ふぅん?あんたは他の受験者とは違うみたいね」
今までのメンチはつまらなそうな、呆れた眼で料理を見ていたが、今回は違う。
きちんと精査するという意思を持つ、真面目な眼だ。
料理に使われている材料、部位、調味料、そして味をみる。
ちなみに、隣のブハラは丸焼きの時と変わらない反応だ。
二次試験会場は料理の音すら止み、受験者は全員彼女の料理が合格かどうか固唾を飲んで見守っている。
「……これは回鍋肉ね。よく作るのかしら?」
「普段からよく作ってます。誰かに、というわけじゃなく自分に、ですが」
緊張で少し声が震える。
精神自体は死ぬ前と変わらないから、もっと緊張に対して慣れておけばよかったと心の中で後悔。
私の答えを聞いて、メンチはもう一口、さらにもう一口。
そして、完食した。
「悪くなかったわ。もう少し甘さを抑えると万人受けする、いい料理になる。ブハラは?」
「丸焼きもおいしいけど、これはもっと美味しいね。僕は文句ないよ」
「なら、406番。二次試験合格よ」
「……やったぁ!!!!!!」
柄にもなくぴょんぴょんジャンプしながら喜んでしまった。
やった、やったやったぁ!!!!
メンチに悪くなかったって言ってもらえた!
純粋に嬉しい。メンチを満足させられる料理人が世界に数える程しかいないのは知ってる。
お世辞だったとしても、悪くなかったって言われるのこんなに嬉しいなんて!
ゴン達の方を見ると、笑顔で親指を立ててくれていた。
それに笑顔で、ピースで返していると、
「いつまでそこにいるんだい!?他の受験者もいるんだからさっさと戻る!」
「ひゃい!」
めっちゃびっくりした、メンチの大声こんな至近距離で聞くものじゃないって!
しかも返事噛んじゃったし。
キルアとかに後で笑われそう……。
それはそれでいいか、と小走りでみんなの下へと戻った。
私のすぐ後は丸焼きの数が減り、工夫が少し為されたものが増えたが、どれもレオリオと同レベルと酷評され、ついにその時がやってきた。
「食った食った~、もうお腹いっぱい~」
「私もお腹いっぱぁ~い。てなわけで、合格者は406番一人。しゅうりょ~」
合格者一人!?
本気で言ってるのか?
ふざけるな!という怒号が飛び交う。
メンチと受験者の一人が言い合いを続けるが、堪忍袋の緒が切れたのか、受験者の一人がメンチに飛び掛かる。
お~飛ぶ飛ぶ、ブハラのあの一撃、いったいどれだけの力があるんだろ。
あれで生きてるの、本当にすごいよね。
精孔が開いてなくても、微量のオーラが出てるから、元の世界と違ってこの世界の生物は打たれ強いのかも。
「武芸なんて、ハンターやってりゃ嫌でも身に着くのよ。注意力も、未知のものに対し挑戦する気概もない。それだけで、十分ハンターの資格なしよ!」
かっこいい。
やっぱり、アニメや漫画で見るのとは違う。この世界で、色々な経験を積んできた人の言葉は、重みが違う。
会長に諭される時も、すぐ冷静になって自分の失態を認めるところ、人として出来すぎじゃない?
まぁ、キレちゃった件は置いといて。
なんやかんやでネテロ会長が降ってきて、マフタツ山に向かうことになった。
ずっと疑問だったんだけど、アニメだとネテロ会長が出てきたとき、何者なんだ?って言ってる受験者いたよね。
ネテロ会長って、ハンター協会のトップなんだから、姿くらい知ってそうなものだけど。
面接の時に、弊社の社長の名前を、とか、学校長の名前をって聞かれたとき、知りませんって答える人かな?
ということで、マフタツ山到着!
「さぁみんな、がけ下を覗いてみて」
うわ、高い。
私は高所恐怖症ではないけど、さすがにこの、どこまでも岩肌が続く谷をずっと覗いてはいられない。
谷には、蜘蛛の巣のような糸が張り巡らされており、ところどころに白い塊が付いている。
「ゆで卵って、まさか」
受験者の一人がそう呟くと、メンチは笑顔で、
「その、まさかよ」
じ、自殺行為だろ!?
お、おい、飛び込めっていうのか!?
確かに私も最初、え、自殺じゃん!?って思ったもん。
紐なしバンジーだもんねこれ。
メンチの姿が見えなくなってすぐに、強い風が下から吹き出し、空でも飛んでいるかのようにゆったりと戻ってきた。
「はい、これでゆで卵を作るのよ。406番は挑戦しなくていいわ、私が二個持ってきたから。それで――」
「こういうの待ってたんだ!」
ゴンとキルアが真っ先に飛び出し、レオリオ、クラピカが続く。
それにつられて他の受験者も半分くらいが飛び込んでいく。
「あ、ちゃんと説明を!」
メンチがそういった時にはもう遅く、受験者の半分がクモワシの巣にぶら下がる状態になった。
崖上からゴン達を見ると、今にも巣の糸が切れてしまいそうで、ちゃんと帰ってくるってわかっててもハラハラする。
私?メンチに行かなくていいって言われたから行かないよ?
スカートじゃなきゃいったかもだけど。
ていうか、ハンター試験にスカート不利じゃない?
ローランドの軍服を基にして作ったけど、スカートはやめるべきだったかな……。
「メンチさん、質問いいですか?」
「ん?なに?406番」
「この卵の取り方、最初に考え付いた人って誰なんです?」
「それは――」
「わしじゃよ」
話に割り込んできたのは、ネテロ会長。
すごく綺麗なオーラだ。淀みがなくて、無駄がない。
今の私では逆立ちしても敵わない、そう思うには十分すぎる経験やスキルの差が分かった。
この人なら仮にこの高さから落ちても死ななそうなんて思いながら、次の風が吹くまでお話をした。
冷静になって後々考えたけど、私やばいことやってた。
少しすると、大きな風の音と共に、飛び込んだ人たちの大半が帰ってくる。
その中に、無事四人の姿を確認して、一安心した。
みんなが取ってきた卵を茹でるんだけど、これがまた長い。
そりゃこのでかさだもんね。
動画とかで、ダチョウの卵を食べる、みたいなのを見たことあるけど、40分とか1時間とか茹でてたから、それよりも少し大きいクモワシの卵は、もうちょっとかかりそう。
メンチに確認したら半熟でも十分食べれるとのことだったので、茹できる前に取り上げなきゃ。
いざ、実食!
あ、でも私の食レポは期待しないで。まじで。
やけどしないように、ふー、ふー、ってして、パクリ。
黄色より山吹に近い色の黄身がとろっと出てきて、甘く濃厚な味が口いっぱいに広がる。
白身もプリッとしてて、食べ応え抜群!
え、なにこれ、やばすぎ、鶏の卵とは全然違う!
幻の卵って言われるだけ美味しくて、もう、美味しいしか出てこない。
みんなもこの卵の美味しさに、黙々と食べ進めていた。
その中で、ゴンは挑戦できなかった人たちのところに歩いてく。
このシーンのゴン、優しいよね。
「ねぇ、トウドウさん。よかったら食べてみない?」
「あ、おう。……うめぇ」
……あ゛!?
ゴンの優しさに目が行って忘れてたけど、おいコラトウドウ。
お前何ゴンが口つけたもの食ってんだ?
……スゥー。
いけない、落ち着け。
卵に免じてここは許そう。
うん、はい深呼吸。
「シイナさ~ん!これコショウかけると更にうまいよ!」
「馬鹿いえキルア、卵には塩一択だろ」
「アホ舌のレオリオにはわかんないかぁ」
「なんだと!?クラピカ、お前も言ってやれ!」
「すまない、レオリオ。私もキルア側の人間だ」
「ムキー!シイナは塩だよな!?」
援護を頼んだのに梯子を外され、あたふたするレオリオとその反応を見て笑うキルアとクラピカ。
援護してあげたい気持ちは山々だけど。
これは好みの問題だもんねっ。
「あはは、私は塩コショウ派なので、中立ですよ?」
卵を食べ終わるまで、この論争は続きそうだ。
ちなみにゴンは、何もかけない派らしい。