オタクに優しいギャルなんていない   作:いひょじん

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ギャルが苦手なオタク

ピピピッ ピピピッ

 

静かな7畳の部屋に起床を知らせる電子音が響き渡る。

 

「ん、んぅ…」

 

アラームに反応して目が覚める。

とりあえず朝からうるさいスマホを黙らせるために布団から右手を出し、枕の周りにあると思われるスマホを手探りで探す。

 

数秒ほど探してスマホの感触があったので画面をタッチしてアラームを停止させる。

 

アラームを止めて静かになったことに安堵すると、まだ覚め切ってない目蓋が重くなり、

また自分を心地よい睡眠へと連れて行こうとする。

 

ピピピッ!ピピピッ!

 

だがアラームはそれを許してくれなかった。

またアラームが小さな部屋に鳴り響き、心地よい夢から厳しい現実へと連れ戻そうとしてくる。

 

「だぁぁ。もう起きるって…」

 

返事があるわけではないけど苛立ちをスマホをぶつける。

 

今度は全身を覆っている布団をめくり、上半身を起こしてからアラームを止める。

 

電子音が響いていた部屋は途端に静かになり

少しの間何も考えずボーとする。

 

「ねっむ…」

 

愚痴を呟きとりあえずベットから降りて洗面所に向かう。

 

洗面所で顔を洗い、ふと顔を上げると鏡に自分の顔が映った。

 

鏡に映る自分の顔をよく見ると目の下にほんのりクマが出来ていた。

 

「流石に3時までゲームしてたら、寝不足でクマもできるよな…」

 

そう呟き、学校に向かうための準備を始める。

 

まぁ、する事と言っても歯を磨き、制服に着替えて余裕があれば朝食を食べる程度だからそんなに大したことではない。

 

そして今日も余裕をもって8時前には家を出る。

 

 

俺が通っている虹ヶ咲学園という高校はお台場にあるから、毎日電車に30分揺られながら通学している。

 

電車乗って音楽を聴きながら特に何も考えずに吊革に捕まっていると、スマホの通知音が鳴った。

 

確認するとチャットアプリにメッセージが送られてきていて、送り主は『ナリー」だった。

 

『ナリー』は1ヶ月程前にオンラインゲームで知り合い、ほぼ毎日一緒にプレイするほどの仲の良いオンラインゲーム友達だ。

 

「おはよう(≧∀≦)」

 

「おはよう。流石に3時までやったから今めちゃくちゃ眠い」

 

「同じく‼︎今朝危うく寝坊して遅刻するところだった…(-_-;)」

 

「ナリーさんが寝坊するなんて珍しい」

 

「昨日終わってからそのまま寝落ちしちゃったのが原因かも(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)」

 

「最近暖かいからまだいいけど、寝落ちは風邪引くから気をつけないと」

 

「だからこれからは寝落ちしてもいいように布団に入ってプレイする‼︎q(OvO)p」

 

「いや、それめちゃくちゃプレイしづらいでしょww」

 

「確かに考えてみればあのゲームは寝転びながらだとプレイしにくいかもΣ(゚д゚lll)」

 

「寝落ちしないように気をつけるのが1番だな。てか、今日19時からイベントあるけど一緒に行かない?」

 

「いいよd(^_^o)。でも帰ってくるのが19時前だから30分くらい遅れるけど大丈夫?(・・?)」

 

「全然問題ない。ログインできるようになったらまたメッセージ送って」

 

「了解( ̄^ ̄)ゞ。じゃあまた夜に〜ヾ(๑╹◡╹)ノ"」

 

こうして今夜も寝不足になることが確定した。

 

こんなふうにナリーさんとは毎朝たわいないことをメッセで送りあったり、ゲームの約束をしたりしている。

 

暇な通学時間にいい暇つぶしになるのでナリーとのメッセのやりとりが毎日の楽しみの1つでもある。

 

でも、楽しい時間とは長く続かないもので

俺にとって物凄く憂鬱な時間が始まる。

 

あれからしばらく電車に揺られ、虹ヶ咲学園に着く。

そして自分の教室に向いドアの前で一度立ち止まる。

 

「すぅ〜、はぁ〜。…よっし!」

 

深呼吸をして、気合を入れてから教室のドアを開ける。

 

ドアを開けた音に教室にいる人の何人かがこちらに視線を移すが入ってきたのが俺だとわかるとすぐに視線は元に戻った。

 

人の視線なんかはどうでもよく、俺は即座に自分の席の状況を確認する。

 

だが、確認した時には既に時遅し。

俺が1番心配してたことが起こっていた。

 

そこには1人の女子生徒が机に腰掛けて友達と楽しそうに喋っていた。

 

「はぁ…最悪だ…」

 

溜息を吐き、入り口に立っていてもどうにもならないのでとりあえず静かに自分の席まで移動する。

 

自分の席までもう少しというところで女子生徒が俺に気づいた。

 

「あっ、やまやんおはよう‼︎」

 

「お、おはよ…」

 

「なんか元気ないけど大丈夫?体調悪い?」

 

「ふ、ふ、普通です…」

 

「そっか、ならよかった!今日も元気に頑張ろうね!」

 

「はい…」

 

そして女子生徒は俺の机から離れて自分の席に戻っていった。

 

俺の学園生活が憂鬱な1番の理由はこの女子生徒が原因だ。

 

彼女の名前は宮下愛

 

高校2年で同じクラスになったのだが、彼女を一言で表すならまさに太陽。

そしてギャルである。

 

性格はめちゃくちゃ明るく、常に笑顔でテンションが高い。

そして誰とでも分け隔てなく仲良くなれる超絶陽キャ。

 

こんなオタクで根暗な俺にも挨拶してくれたり話しかけたりしてくれる周りから見ればとても良い人なんだも思う。

 

でも、そういった優しさが親切が俺にとっては迷惑でしかない。

 

別に宮下が俺に何かしてきたというわけじゃなく、宮下のことが嫌いなわけでもない。

 

ただ俺が個人的に陽キャやギャルにトラウマがあるだけだ。

 

でも、迷惑だからといって本人に直接そういうことをやめてくれというのは雰囲気が悪くなるし、最悪の場合宮下の友達から反感を買いクラスにいづらくなる。

 

流石にそこまでして宮下と関わりたくないわけではない。

 

なにより俺は平和になるべく何事もなく生活したいので、そこは我慢するしかないと自分に言い聞かせている。

 

それ以外は特に問題もないから。

 

 

そして、今日も長い学校生活が始まる。

 

 

時間は進み、昼休みの時間になっていた。

 

「やっと昼休みだ…」

 

午前中の授業は寝不足が原因で永遠と睡魔が襲ってきたせいで全くと言っていいほど集中出来なかった。

 

「とりあえず腹減ったから食堂行くか」

 

食堂で500円の弁当を買い、いつもの場所に向かう。

そこは学園の屋上。

ここ虹ヶ咲学園は海が近く、校舎が相当の大きさと高さがあるという理由で常に風が吹いている。

そして屋上ともなるとその影響を他よりも大きく受けるため、部活動以外で使う人はほとんどいない。

だが俺にとってはそれが逆に好都合だった。

多少風が強くても周りに人がおらず、1人で落ち着いて食べれる方がいいからだ。

 

俺は日当たりがいい場所を探し、鞄から折り畳んだブルーシートを取り出し床に敷いてそこに座る。

弁当の蓋をあけ、少し冷めたご飯を食べる。

この学園の学食は私立校ということもありレベルが高く、そこらへんのファミレスより美味しいと思えるくらいだ。

 

「今日はこのまま平和に終わってくれよ…」

 

そんな事を呟きながら弁当を口に運ぶ。

 

それから昼飯を食べ終え、時間を確認すると昼休みが終わるまでまだ30分程時間が残っていたので20分程仮眠を取ることにした。

 

鞄を枕代わりにして寝転び目を閉じる。

今日は天気がよく、気温も低くないので日の光がとても心地よく感じる。

その気持ちよさに段々と意識が遠のいていく。

 

 

「オタクが粋がってんなよ」

「お前みたいな奴が代表に選ばれるとか勿体ないよな」

「私、こいつに襲われました‼︎」

「お前の人生もこれで終わったな」

「早く死ねばいいのに」

 

「はぁっ!!」

 

頭の中に聴こえてくる声に俺は飛び起きた。

 

「はぁ、またかよ…」

 

思わずため息が出てしまう。

せっかくの気持ちよく寝ていたのに一気に最悪の気持ちになってしまった。

 

とりあえず今の時間を確認するためにスマホの画面を見る。

そこに表示されていた時間は

 

13:37

 

昼休み終了まで残り時間3分になっていた。

 

「やっべ寝過ぎた!」

 

その瞬間頭の中で遅刻の文字が浮かんだ。

 

俺は平凡な生徒であるために遅刻をして変に注目されることはなんとか避けないといけない。

そのためにはなんとしても3分で教室まで戻らないといけないが、この学園は高校にしてはありえない大きさのため屋上から自分の教室まで普通に歩けば5分はかかる。

だが、今は走らないと確実に間に合わない状況。

だったら、答えは走るということしかない。

 

俺は急いでブルーシートを折りたたんで弁当のゴミと一緒に鞄の中に放り込み、鞄の持ち手を両腕に通しリュックのように背負う。

 

次に軽く屈伸を数回行い、手足をブラブラさせ柔軟させる。

 

「すぅー、はぁー」

 

深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

そして、上半身を前に少し倒し、右足を前に出して体重を乗せる。

 

「Go!」

 

合図と同時に右足の足裏力を込めて地面を思いっきり押し出す。

飛び出した勢いに乗り次は左足を前に出し地面を押し出し、また右足を前に出す。

そして段々と加速していきながら、勢いを少し抑えて屋上の扉を開け、自分の教室がある2階まで一気に階段を駆け降りる。

2階に着いたらあとの道は全て平らなので一気に加速させていく。

耳元に風を切る音が聞こえ、体全身で風を感じる。

俺自身がまるで風になったかのような錯覚に陥ってしまいそうなほど走ることに夢中になる。

 

だが、曲がり角に差し掛かり左へ曲がろうとした時だった。

 

「きゃっ⁉︎」

 

女子生徒が曲がり角から出てきた。

俺は咄嗟に体を捻って右に避け衝突を防ぐ。

幸い、女子生徒は転んだりはしていなかった。

 

「すみません‼︎」

 

俺は女子生徒に特に何もないことを確認し、大丈夫そうだったので謝罪だけしてその場を後にする。

 

「ちょ、ちょっと待ってください‼︎廊下を走るのは校則で禁じられているのでってもうあんな遠くに…」

 

走り続け、自分の組が書かれたプレートが視界に入り、これで間に合うと安堵し足の運びを遅くする。

 

キーンコーンカーンコーン

 

だが安堵しスピードを落とした瞬間に昼休み終了のチャイムが鳴り始めた。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

教室まで後50m。

最後の力を振り絞って更に加速する。

 

キーンコーンカーンコーン

 

最後のチャイムが鳴り終わる。

それと同時に教室の扉を開く。

 

「はぁ、はぁ、間に合った…」

 

膝に手をつき息を切らしながら呟く。

 

だが、違和感に気づいて顔を顔を上げる。

そこには、先生含めクラスの全員の視線が俺に集中していた。

 

「あー…」

 

やってしまった。

遅刻して目立つのを防ぐために必死に走ってきたが、それ以上に目立つ事をしてしまったことに今気づいた。

 

みんなの視線が痛い。

なんだあいつとか思われたりしてるんだろうなと余計な事を考えてしまう。

もう今すぐこの場から立ち去って消えてしまいたい。

息が上手くできなくなり心臓の鼓動が速くなる。

目の前が真っ白になり、足の力が抜けていく感覚がじわじわ伝わってくる。

 

「…ん、…ま…ん」

 

遠のいていく意識の中に微かに誰かの声が聞こえてくる。

 

「やまやん‼︎」

 

誰かに肩を掴まれハッと意識が返ってくる。

 

「やまやん、大丈夫⁉︎」

 

そこにいたのは宮下愛だった。

 

「うぉ‼︎」

 

目の前に宮下があることにびっくりして大きな声が出てしまう。

 

「わぁ、びっくりした‼︎」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「あー気にしないで。でもやまやん凄い息が上がってたけど大丈夫?どっか調子悪い?」

 

「え、あの…だ、大丈夫で…す」

 

ダメだ、ただでさせ苦手な宮下に距離が近い上に体を触られてる。

あとなんか凄いいい匂いする。

これが女の子の匂いって奴なのか…

やばい、さっきとは別の意味で倒れそう。

 

「そっか!なら良かった!もう授業始まってるから早く準備した方がいいよ」

 

宮下は俺の肩を1回叩いて笑顔でそう言って自分の席に戻った。

 

「は、はい…」

 

何が起こったのかちゃんと理解出来ていないが自分も席に戻る。

 

「山谷君」

 

だが、これで無事に終わるわけがなかった。

 

「放課後に職員室に来るように」

 

「はい…」

 

クラスの中に笑いが起こった。

 

 

俺はただ平凡に過ごしたい。

誰からも注目されず目立たず生きたい。

ただそれだけ…

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