紀述者より   作:moti-

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奇形自死 - 2

 

 

 人はどうやって成長するのか?

 

 オレならばこう言う。「生きていればそのうち」と。

 妖精ならばこう言うだろう。「プロファイリングの果て」と。

 五条悟ならばこう言うかもしれない。「強くあるため」と。

 仏陀御莉蘭はこう言った。「美徳と悪徳、共に十ずつ知ればいい」と。

 

 良いところと悪いところ。共に知ってどうするのだろうか。

 

 死体は喋らない。

 オレにはもう、彼の言葉を聞く術がない。

 だからその真意は聞き出さない。

 

 けれど。

 きっとそこには、彼の哲学があるのだろう。

 

 雨が降る。オレの体を濡らすことはない。

 非実体の雨が、体をすり抜けて流れている。

 まるでプロジェクションのようだ。映像を戦闘に流用する。美学に基づいたものではない。おそらくは相手の術式の条件を満たすためのもの。

 

「手早く叩いたほうが得だな」

 

 術式を展開する。現実を改変し、オレは肉薄して拳を三度叩き込んだ。

 頭部に一撃、腹部に二撃、右手で掴んだ頭を引っ張って三発。

 しかしそのどれも効果はなかった。暴れるようにオレの体を振り払って弾き飛ばす異形に、舌打ち一つ。

 

 今のやり取りで一つわかった。おそらく相手には痛覚がない。

 痛みはヤツを止める要素になりえない。それが面倒なことはよくわかる。呪霊であれど、本来は攻撃すると怯むのだ。

 けれどやつはそんなものを知らない。だからこそ、本来手が止まるべき場所で容易く反撃を繰り出してくる。

 

 舌打ち。面倒くさい。本当に、本当に、面倒だ。

 

 つまりは決定的に体を破壊する方向であったほうがいい。そう思うが、こぼれ落ちた目玉が再生されるのを見て顔を顰めた。

 

「再生持ちかよぉ……」

 

 こういうとき、妖精なら対策を思いつくのだろうか。

 あのときからオレもそこそもに場数を踏んだとはいえ、それでもまだまだ未熟な身。

 オレが何より頼りにした相棒よりも遥かに戦闘勘というものは劣る。

 

「ぐぎぎぎぎ-ん」

 

 頭を振るって、その棘を飛ばしてくる。

 走って、側の柱の影に隠れることで一旦凌ぐことにした。けれども無数に刺さり続ける棘。このままだとすぐにこの柱は壊されてしまうだろう。

 呪霊の治癒は人間のそれと比べ簡単だ。呪力を流し込めばいいだけだから。

 肉体が呪力で出来ている呪霊は、反転術式を必要としないのだ。

 

 気息を導引し、頭の中をクリアにする。

 術式を利用する──無理だ。失敗した。オレの姿は留められている。こうなると、オレは走って逃げるしかない。

 だがある程度予想はしていた。大丈夫だ。オレならやれる。柱の影から身を現した。

 

 瞬間、飛んでくる無数の棘。その雨の中を掻い潜りつつ、次の柱の影へと向かう。

 オレの後ろを追跡するように飛んで、さっきまで立っていた場所に深々と突き刺さる──そんな棘の様子を見ていると、怖気が奔る。

 しかしそうだからと言って怯んではいられない。柱の影に隠れたオレは、左腕にそっと目を落とした。

 

「まだか?」

 

 言葉への返答はない。

 踏切の向こう。伏黒恵は未だ戦っている。

 

「ふぅ──」

 

 左腕が淡く発光した。

 ぎちり、ぎちり。拘束の中で深く脈動している。

 どす黒い呪力が流れ込んでくる。指先から黒く染まり、拘束を溶かそうとするその姿を嗜める。

 

「まだだ」

 

 まだやれる。

 オレはまだ詰んでいない。

 

 それを切るのにはまだ早い。

 

 ──しかし。

 ふと視界を上げたオレは見た。

 見覚えのある姿だ。一度見た。そして、死んだと聞いた姿。

 

「はぁー、あ」

 

 目があった彼は、こちらににこりと微笑む。

 一体どんな思惑かは知らないが、これが仕組まれたことであることはわかった。そして今オレをこうして狙っているということは、ヤツはオレを消す理由があると言うことだ。

 仕方ない。ここでオレが手札を惜しんで殺されるのと、情報を少しでも残して処刑されること。どちらがいい?

 

「──見てろよぉ、夏油」

 

 拘束が弾け飛んだ。

 

 妖精の左腕、完全解放。

 それはこの場の何よりも重圧を持って、世界を支配する。

 

 

「やっちゃうぞ」

 

『ひっさしぶりぃー! 私がいなくて寂しくなかった!? 大丈夫だった!? ごめんね、一人ぼっちにして! でもこれからはずっと一緒だよ! さぁ行こうか、アベルくん!』

 

 

 こうなった以上、今更小細工は必要ない。

 オレの左腕に畏れをなしたのか、瞬間飛んでくる棘。全方向を包囲したそれが、オレの体をばらばらにしようと迫る。

 

「仮定魔術、発動」

 

 しかしそんなもの、強度を増した術式の前では無力。

 オレが包囲を突破した結果を捻出し、本来出られるはずがないほどの針のむしろを突破する。

 

「オレの術式は現実改変能力。結果を強引に作り上げて、仮定を有耶無耶にする呪術。

 この術式は第三者の観測には滅法弱いが、格下とのタイマンに関しては最強の術式だ」

 

 わかるか? と問いかける。

 

「ぶぅぅぅぅん」

 

『簡単だよ。術式がほぼ確実に通用するから!』

 

「正解。だから──こういうこともできるんだよ」

 

 相手を殺す結果を作り出す。

 死因は不明。けれど、オレが相手を祓ったという結果だけが残り、領域は霧散した。

 

「ふぅ」

 

 後輩の方を見るに、向こうもどうやら終わった様子。

 左腕が再び拘束されるのを見ながら、オレは任務の達成に一息ついた。

 

「お疲れ様」

 

「はい。……あの、さっきの──」

 

「察しの通りじゃない? 左腕を解放した。この後の処罰は甘んじて受け入れるよ。でもとりあえず、五条悟に一つ伝言を──」

 

 言おうとして、殺気が首元を掠めた。

 オーケー、そういうことか。感じ取れなかった恵は疑問を前面に出してオレの言葉を待っている。

 

「あー、っと。先帰っといてくれ」

 

「は? どうして急に……そもそも、今すぐに処刑ってことにはならないんじゃ」

 

「そういう感じのアレじゃないよ。さっさ帰って。オレが戻らなかったら五条悟に警戒とか呼びかけといて。オレも左腕の詳細を知らない。帰ってる途中で勝手に暴走するかもしれない。だからだよ。何事もなけりゃ一人で勝手に帰る」

 

「……………………」

 

『疑われてるねぇ。信用ないの?』

 

 五条悟よりはあるわ。

 という冗談はさておき、後輩を駅から追い出した。

 そのまま、少し待つ。

 二十分ほど経った頃、夏油傑はオレの前に姿を現すのだった。

 

「やぁ」

 

「よっ。久しぶりだな」

 

「そうだね。──私を気取る勘の良さ。やっぱり君は優秀な術士だ」

 

「そうだなぁ。そうかもしれねぇ」

 

『待って、アベルくん。何かおかしい』

 

 おかしい? 何が? しかし妖精の言葉ならばきっと真実だ。ここからの相手の言葉はあんまり信用しないほうがいいな。

 左腕を解放することはしない。アクション次第では聞き出せる情報も聞き出せなくなる。

 

「だからこそ惜しいね。君がもう少し愚鈍で無能なら、ここで果てることもなかっただろうに」

 

「あ──、なるほどなるほど。そういう感じね」

 

『……わかった。アベルくん、そいつ夏油傑じゃない』

 

 妖精の言葉に耳を傾ける。しかし、相手のほうもオレの雰囲気からそれを気取ったのか、手を広げる。

 合図?

 

『中身が別人だよ』

 

「バレるの早すぎだろ」

 

「妖精の左腕、解放」

 

 拘束が弾け飛ぶ。

 動き出すよりも早く、奥から何かが飛んできた。

 炎だ。一発目を術式によって回避──失敗。左腕によってかき消すことによって辛うじてセーブ。

 しかしその次の攻撃は受けられない。

 

 体が燃える。熱による苦痛を、妖精がすべて無効化した。息苦しさもない。苦痛もない。ただ、あるがままの自然体。

 

「はっ、マジかよ」

 

「驚いた、まだ喋る余裕があるのか。けどここから反撃されても怖いし。漏瑚」

 

「わかっている」

 

 二度目の炎。出力が違う。押し負ける。

 拮抗の間際。最後の抵抗に相手を煽った。

 

「いいのか? オレを殺したあと、暴走する可能性だってあるんだぜ?」

 

「ないね。その左腕の底は知れた。阿見原の一件で、既にそんな余力もないだろう?」

 

『…………!』

 

 妖精の反応がすべてを物語っている。

 つまりはそういうことだ。

 

 炎がすべてを包み込む。

 オレの意識はそのまま溶けて──

 

 

 

 

 目を覚ます。

 どこか、地下のようだった。

 下水道? そうだろうか。自問自答。

 手を握って、そして見下ろす。

 

 オレは今、生きていた。

 

「これはいったい」

 

『よかったぁ……間に合ったんだ』

 

 妖精の声。オレよりも事情を知っていそうだったため、無言で言葉を催促する。

 そんな心が伝わったのかわからないが、彼女は二度ほどため息をつき。

 

『よかったよぉぉぉ……不死といっても完璧じゃないからねぇぇぇ……アベルくんが死ななくてよかったぁ……』

 

「不死……?」

 

『まぁ、正確には別個体かな。アベルくんが死ぬたびに、私が『神々の図書館』に用意したバックアップの書物からアベルくんを再生したの。つまり、さっきまでのアベルくんの記憶を持ったコピー、みたいになっちゃう』

 

「おおっとぉ?」

 

 それ、正確には不死って言えるのだろうか。

 まぁいいや。今ここにいるオレは、オレという個我を持っている。ならそれでいいのだ。

 魂は同一。記憶も同一。体も同一。

 そんなオレを、どうやって先程までのオレと別人とみなすのだろう。

 

 と、そのとき足音が聞こえた。

 誰だ。警戒に顔を動かすと、そこにはツギハギ顔の男がいる。

 

「──やっぱりいた。魂を操作できるんだもん。そりゃあ生き返りもするよね」

 

「おいバレてんぞ脳内妖精」

 

『なんでぇぇぇぇぇ!?』

 

 頭を抱えてごろごろと視界の隅で動き回る姿。正直うざったい。脳内検索エンジンに『お前を消す方法』を入力。こんなかわいい美少女を消すなんて勿体ない! だなんてアラートが出てきた。ウザい。

 

 しかし、バレたものはどうしようもない。

 既に拘束の存在しない左腕を振るって、オレは術式を発動する。

 

「退けよ。今なら見逃してやる」

 

「誰に命令を──!?」

 

 交渉決裂。

 

 術式を展開する。

 さっきの死亡の瞬間、オレが掴んだ呪力の核心。

 そしてオレの術式の果てを見た。

 

 故に、この術は絶対的な事実の上書きを可能とする。

 

 その名を紀術。

 確定魔術である。

 

「く、なんだ……? 魂の形が、変わって──!」

 

「だから言ってやったのにな」

 

 といっても大それたことはできない。

 二度と覆されることがないほど絶対的な楔。それを個人で行使する場合、攻撃などになるものは不可能なのだ。

 相手に簡単に抵抗されてしまう。

 例えば死。例えば敗北。その定めの確定は不可能。

 

 だからこそ、オレは嫌がらせにこの能力を使うことにした。

 

「お、オマエ……! 何をした!?」

 

「嫌がらせ」

 

 魂の形を固定した。

 これで相手は、あの姿を基本として生きていくことになる。

 

「じゃあな。さよなら()()()、また会おう」

 

『ないわーアベルくんないわーキモいわー』

 

 脳内妖精の言い草を無視。そのまま去っていく。

 

 

 

 

「……随分とかわいらしい姿になったね」

 

 きっとそれは煽っているのだろう。舌打ち一つ。まさかここまでふざけた男だとは思わなかった。

 

「あいつ、絶対殺す」

 

 舌っ足らずな、幼い声。

 無駄に長い髪。そしてはるかに低くなった視線。

 

 人間から産まれた呪いである彼は、今や彼女と成り果てた。

 

 そう、真人は女児になったのである。






 ロリ真人がメスガキムーブして虎杖にぼっこぼこにされる作品はまだですかって思って考えてたら シルバーブルーメ擬人化っ子からステーションの破片やら取り出されるやつみたいな感じになってほしいというこころが産まれた

 ひどい
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