ハイスクールD×D ~PSIを持った人間~   作:てんとう

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Life.12 フェニックス

 魔方陣から炎と共に現れた男。ライザー・フェニックスは、現在軽々しく部長の肩を抱いて、ソファーに座っている。

 グレイフィアさんから、あの男が誰なのか紹介されたが……まさか、部長の婚約者とはな。

 最近の部長の様子がおかしかったのは、あの男が原因なのか?

 俺たちは二人から少し離れた席に集まって、二人の様子を見守ることしかできない。

 イッセーを見ると、思った通り二人をものすごい形相で睨みつけている。

 心配しながら、イッセーの様子を見ていると、突然にやけながら小さく笑い始めた。

 ……な、なんだ? 気持ち悪いな。あっ、涎まで流し始めた。

 

「あ、あの、イッセーさん。なにか楽しいことありました?」

 

 イッセーの隣に座っていたアーシアが怪訝そうな顔で話しかける。

 

「……卑猥な妄想禁止」

 

「イッセー君、とりあえず涎を拭いた方がいいよ」

 

 塔城がぼそりと呟いて、木場が爽やかな笑顔でハンカチを差し出す。

 俺はイッセーたちから視線を外し、部長たちの様子を見直す。

 

「いい加減にしてちょうだい!」

 

 二人の様子を眺めていると、ついに部長の我慢の限界がやってきたのか、部長がソファーから立ちあがって、ライザーに激昂した様子で睨みつける。

 しかし、ライザーはそんな部長を見ても、未だニヤけた表情を浮かべている。

 それから、二人の言い争いを黙って聞いてわかったことがある。

 どうやら、この婚約は部長の家が勝手に決めたことで、部長自身はその婚約に納得していないようだ。

 悪魔社会のことを殆ど知らない俺にはよくわからない話だが、色々複雑な事情があるのだろう。

 俺はそんなことを考えながら、二人の様子を眺める。

 

「私は家を潰さないわ。婿養子だって迎え入れるつもりよ」

 

 部長の言葉を聞いて、ライザーは満面の笑みを浮かべる。

 

「おおっ、さすがリアス! じゃあ、さっそく俺と」

 

「でも、あなたと結婚しないわ、ライザー。私は私が良いと思った者と結婚する。古い家柄の悪魔にだって、それぐらいの権利はあるわ」

 

 ライザーの言葉を遮り、部長はハッキリと自分の意思を伝える。

 その言葉を聞いた瞬間、ライザーは見るからに機嫌が悪くなり、纏う雰囲気が変わる。

 

「……俺もな、リアス。フェニックス家の看板を背負った悪魔なんだよ。この名前に泥をかけられるわけにもいかないんだ。この狭くてボロい人間界の建物なんかに来たくなかったしな。というか、俺は人間界があまり好きじゃない。この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔としては、耐えがたい!」

 

 語尾を強くライザーが言うと、周囲に炎が駆け巡る。

 

「俺はキミの下僕を全部燃やし尽くしてでもキミを冥界に連れ帰るぞ」

 

 そう言った瞬間、ライザーから敵意と殺意が合わさったプレッシャーが襲いかかる。

 さっき、メイドに見つめられたときよりは下だが、それでも相応の迫力が俺たちに襲いかかる。

 あんな態度だが、だてに上級悪魔じゃないってわけか。

 アーシアは震えながらイッセーの腕に抱きつき、イッセーはアーシアを守るように立つ。

 木場と塔城はいつでも臨戦態勢に入れる空気を創り出す。

 部長はライザーと対峙し、紅いオーラを全身から薄く発し始めている。

 まさしく一触即発、いつ戦闘になってもおかしくない空気が部室を包む。

 その空気の中、冷静に介入してくる人が現れた。

 ……さっきまで、静かに様子を見守っていたグレイフィアさんだ。

 

「お嬢さま、ライザーさま、落ち着いてください。これ以上やるのでしたら、私も黙って見ているわけにもいかなくなります。私はサーゼクスさまの名誉のためにも遠慮などしないつもりです」

 

 静かで迫力のある言葉が聞こえた瞬間、見つめられたときと同じ感覚が襲いかかる。

 部長もライザーもグレイフィアさんの言葉を聞いて表情を強張らせる。

 そして、二人とも臨戦態勢を解くとグレイフィアさんから感じていた感覚が消える。

 ……ホントに、何者だあの人?

 俺はソファーに座りこんで息を整えながら、グレイフィアさんの言葉に耳を傾ける。

 すると、どうやら部長の親やライザーの親はこの事態を想定していたのか、最終手段としてある話を持ちだした。

 部長はグレイフィアさんの話を聞いて言葉を失う。

 グレイフィアさんの話は、レーティングゲームと呼ばれるもので決着をつけるというものだった。

 ……レーティングゲーム? 

 俺は初めて聞く言葉に首を傾げる。

 

「爵位持ちの悪魔たちが行う、下僕同志を戦わせて競い合うゲームのことだよ」

 

 俺の様子を察して、木場が近くに来て説明してくれる。

 なるほどな、話し合いで決着がつかないのなら、実力で決着をつけろということか。

 グレイフィアさんの説明を聞いて、お怒り様子の部長の全身に殺気を漲る。

 しかし、部長は婚約を解消するいいチャンスだと考えたのか、ゲームで決着をつけることを了承してしまった。

 

「わかりました。ご両家の皆さんには私からお伝えください」

 

 両者の了承を確認したグレイフィアさんは頭を下げる。

 ゲームを行うことが決定したあと、ライザーは俺たちを見渡して嘲笑を浮かべた。

 

「なあ、リアス。まさか、ここにいる面子がキミの下僕なのか?」

 

 ライザーの一言に部長が眉を吊り上げる。

 

「だとしたらどうなの?」

 

 部長の言葉を聞いて、ライザーが我慢できないといった感じで笑い声を洩らす。

 

「これじゃ、話にならないんじゃないか? よく見たら、人間まで紛れ込んでるじゃないか」

 

 ライザーが完全に見下した目で俺を見てくる。

 

「……ああ?」

 

 その視線が頭にきた俺は、ライザーを睨む。

 

「やめなさい楠緒。ライザーも彼は私の下僕じゃないわ」

 

 部長に止められる俺をライザーがニヤけながら眺めてくる。

 

「……まあいい。どちらにせよキミの女王である雷の巫女ぐらいしか俺のかわいい下僕に対抗出来そうにないな」

 

 そう言いながら、ライザーが指を鳴らすと、また魔方陣が光り出した。

 先程、ライザーが現れたときの模様のまま、その魔方陣から続々と人影が現れる。

 

「と、まあ、これがかわいい下僕たちだ」

 

 ……あれが、ライザーの眷属悪魔なのか?

 堂々というライザーの周りには、鎧を着た女性、着物を着た女性、動物のような耳がついている女性、顔がよく似た双子の姉妹らしき少女、その他合計十五名の眷属らしき女性が集結した。

 確か、部長たち上級悪魔は『悪魔の駒(イ―ヴィル・ピース)』と呼ばれるものを魔王から十五個授かって、それを下僕にしたい者に使うことによって、主従関係を結ぶらしい。

 そうすると、ライザーの下僕は十五人。フルメンバーが揃っていることになる。

 まあ、下僕にしたい者の潜在能力によっては、駒の消費が増える場合があるらしい。

 その例外として、イッセーは兵士の駒を八個全部使用しているらしい。

 それを考えれば、ライザーの下僕には潜在能力が高い悪魔がいないと考えられるわけだが……それにしてもこれは……。

 戦いのルールによっては、質よりも量を優先される。

 俺を合わせて七対十六……二倍以上の戦力差か、しかも、イッセーとアーシアは悪魔になったばかり、俺はPSIがまだバーストを少し使えるぐらいで、トランスとライズは使えない。

 それに加えて、ライザーは何度かレーティングゲームの実践を行ったことがある。

 ……これは絶望的な状況じゃないのか?

 部長の親も絶対に部長が不利なのを知ってて、レーティングゲームの話を持ってきただろ。

 そんなことを思いながら、ふとイッセーの方を見てみると、なぜかイッセーはライザーを見て大号泣していた。

 

「お、おい、リアス……この下僕くん、俺を見て大号泣しているんだが」

 

 ライザーは本気で引いている表情を浮かべながら、部長に訊ねる。

 部長もさすがに困り顔で額に手を当てていた。

 

「その子の夢がハーレムなの。きっと、ライザーの下僕悪魔達を見て感動したんだと思うわ」

 

 ……俺が横で真面目なことを考えている近くで、こいつは一体なにを考えているんだ?

 

「きもーい」

 

「ライザーさま、このヒト、気持ち悪ーい」

 

 ライザーの下僕の女の子たちがイッセーを見て、心底気持ち悪そうな表情をしていた。

 ……悪いイッセー、これは俺も同じ意見だわ。

 ライザーはその女の子の体をなでなでしながら慰める。

 

「そう言うな、俺のかわいいおまえたち。上流階級の者を羨望の眼差しで見てくるのは下賤な輩の常さ。あいつらに俺とおまえたちが熱々なところを見せつけよう」

 

 そう言うと、ライザーは女の子の一人と濃厚なディープキスをし始めた。

 うわぁ、なんだあれ? 正直……引くわ。

 部長も似たようなことを思っているのか、呆れてみている。

 

「んっ……あふっ……」

 

 ライザーに足を絡ませながら、官能的な喘ぎ声をあげる女の子。

 イッセーはその様子を興奮した様子で眺めている。

 

「わわっ!」

 

「悪いなアーシア。あれはおまえには早過ぎる」

 

 俺はイッセーの隣で赤くなっているアーシアの目を手で覆って、ライザーたちの行為を見えないようにする。

 ……たくっ、純粋なアーシアには教育的に悪すぎるだろ。

 俺は久しぶりに、道端に落ちているゴミを見るかのような目でライザーたちを見る。

 ついでに、イッセーがライザーのことを本気で羨ましそうに見つめていたので、あとで一発殴ろうと心に決める。

 

「おまえじゃ、こんなことは一生できまい。下級悪魔くん」

 

「俺が思っていること、そのまんま言うな! ちくしょう! ブーステッド・ギア!」

 

 ライザーのわかりやすい挑発に、イッセーが嫉妬心を全開にして左手を天にかざして叫ぶ。

 その瞬間、イッセーの左手にイッセーの内に宿っている神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』がイッセーの左手に現れる。

 この前見たときとは形状が少し変化している。

 俺はその籠手から、なにかとてつもない力を感じる。

 ……あれがイッセーの本当の神器か。

 

「おまえみたいな女ったらしと部長は不釣り合いだ!」

 

 うん。その言葉には同意だが……今のおまえが言っても、なんの説得力もないからな。

 

「は? おまえ、その女ったらしの俺に憧れているんだろう?」

 

 ライザーがイッセーの本音をつくと、イッセーの顔に動揺が走る。

 

「楠緒さん。そろそろ、手を……」

 

「あ、ああ! 悪い」

 

 俺はすっかり忘れていたアーシアの顔から手を放す。

 

「なにが英雄だ! おまえなんか、ただの種まき鳥野郎じゃねぇか! 火の鳥フェニックス? ハハハ! まさに焼き鳥だぜ!」

 

 アーシアから手を話している間に、イッセーがライザーのことを種まき鳥野郎、焼き鳥といって挑発していた。

 あいつはなにをしてるんだ!?

 俺はイッセーのあまりの態度に驚愕する。

 

「焼き鳥!? こ、この下僕悪魔がぁぁぁぁ! 調子にこきやがって! 上級悪魔に対しての態度がなってねぇぜ! リアス、下僕の教育はどうなってんだ!?」

 

 ライザーは激昂して声をあげる。

 部長はこの状況に知るかと言わんばかりにそっぽを向いている。

 部長もなんであんな子供みたいな態度を取ってるんだ!?

 

「焼き鳥野郎! てめぇなんざ、俺のブーステッド・ギアでぶっ倒してやる!」

 

「イッセー、そこまでにしとけ……これ以上は俺も我慢できないぞ」

 

 今にもライザーに襲いかかりそうなイッセーを止めるために、俺は二人の間にわって入る。

 今の俺はライザーよりも、イッセーの態度に怒っている。

 

「退いてくれ楠緒! 俺はそいつをぶっ倒さなくちゃいけねぇ!」

 

「悪いイッセー。黙っててくれ」

 

 俺はイッセーに向かってそれだけ言うと、ライザーの方を向く。

 

「関係のない人間が悪魔の事情に口を挟むな」

 

「ゲームの開始が決定してるのに問題が起こるのはよくないでしょう。俺はその前に止めに来ただけだ……そうですよね? グレイフィアさん」

 

 ライザーからとてつもない殺意を感じるが、俺は一歩も退かずにそう言うと、部屋の隅で静かにこちらの様子を眺めていたグレイフィアさんに訊ねる。

 

「はい。出来る限り両チームの方には、万全の状態で試合に臨んでいただきたいと思います」

 

 グレイフィアさんに頷いてもらい、俺は安心すると再びライザーの顔を見つめる。

 

「……というわけです」

 

「……フン、貴様の態度は気に食わんが、今回だけは最強の女王の顔に免じてこちらが引いてやろう」

 

 ライザーはやれやれと言った風に手を振ると、殺意を抑える。

 

「その人間に感謝するんだな、リアスの兵士……リアス、ゲームは十日後でどうだ? 今すぐやってもいいが、それではおもしろくなさそうだ」

 

「……私にハンデをくれるというの?」

 

「嫌か? 屈辱か? キミも先程の話を聞いていただろう? 俺たちは両チーム万全の状態で決着をつけなければならない。十日はその準備期間だ。初めてレーティングゲームに臨むキミにはこれぐらい必要だろう。いくら才能があろうと、いくら強かろうと、初戦で力を思う存分に出せずに負けた奴らを俺は何度も見たぞ」

 

 ライザーの言葉に部長は文句も言わずに聞いている。

 予想外だな、この男が時間をくれるとは、まあ、それでも自分たちが必ずゲームに勝つという自信からなんだろうけど。

 

「じゃあな、リアス。ゲームの時を楽しみにしているぞ」

 

 ライザーはそう言い残し、魔方陣を起動させて、下僕たちと共に魔方陣の光の中に消えて行った。

 ……なんとかなったか。

 俺はライザーが部室からいなくなったことを確信して、安心からか深い溜息を吐いた。

 

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