「楠緒! どうして邪魔したんだよ!?」
ライザーが部室からいなくなったあと、イッセーが興奮した状態のまま、俺に詰め寄ってきた。
「ああ? あんな馬鹿な行動止めるに決まってんだろ」
「なんでだよ! おまえはあいつと部長が結婚してもいいのかよ!?」
「そんなわけあるか! 部長とあいつを結婚を阻止するんなら、レーティングゲームに勝てばいいだけだろうが! それなのに、おまえは一体なにをしようとしたんだ!?」
俺は語尾を荒くイッセーに叫ぶように言う。
「ゲームなんざ必要ねぇさ! あの場で俺が全員倒せばよかったんだろ!?」
「おまえがどうやってあの全員に勝つって言うんだよ! 言ってみろよ!!」
「この神器があれば、いずれは神すら倒せるんだぞ!!」
イッセーが左手の籠手を俺に見せながら言ってくる。
なにを言ってるんだこいつは?
いくらその神器が凄いと言っても、今のおまえの実力でなにが出来たんだ?
「馬鹿かおまえは! いずれっていつだよ! 十秒か? 百秒か? それとも千秒か? 言っとくがな! ライザー・フェニックスは一秒でもあればおまえを殺すこともできたんだぞ!!」
俺にでもそのぐらいのことはわかった。
イッセーもライザーと自分の実力の差ぐらい感じただろう。
「なんだよその言い方! じゃあこの神器がどんなもんか、おまえが試してみるか!?」
『Boost!!』
イッセーがそう言うと、籠手の甲の部分にある宝玉から音声が発せられる。
そして、そのまま俺に殴りかかってくる。
「うおぉぉぉぉ!」
「いい加減にしやがれ!!!」
「ガァ!」
俺はイッセーの拳をかわすと、カウンター気味にイッセーの顔面に拳を叩きこむ。
殴られたイッセーは吹き飛んで床に倒れ込んだ。
「イッセーさん……!? もうやめてください!」
アーシアが慌ててイッセーの元に駆け寄って、俺が殴った場所に神器を使う。
悪魔さえ治療してしまう神器『
「わかったか? 俺程度に殴り飛ばされたおまえが、あそこにいた全員を倒す? ハァ! 笑わせんなよ!」
俺はアーシアを無視して、こちらを悔しそうに睨んでいるイッセーにそう言ってやる。
「結局、おまえはライザー・フェニックスの挑発に乗って暴走しただけだろうが!」
俺の言葉を聞いたイッセーがさらに表情を歪ませる。
「いい加減にしてちょうだい楠緒。さすがに言い過ぎよ」
俺たちの様子に我慢の限界が来たのか、部長から注意の声が聞こえてきた。
「あなたにも言いたいことがあるんですよ。部長!」
俺がイッセーから部長に相手を変えて部長に詰め寄る、部長は予想してなかったことに身体を強張らせる。
「な、なにかしら?」
「あなたもなに子供みたいな態度とってイッセーのことを見てるんですか!? ああいうときに真っ先にイッセーを止めないといけないのは、主であるあなたでしょうが!! 最悪の場合どうなってたのか、わからないわけではないでしょう?」
「……そ、それは」
俺の言葉を聞いて、部長は動揺しながら顔を逸らし、悲しそうな表情を浮かべる。
俺はその顔を見て、頭に上っていた血が完全に引いて冷静になってくる。
……俺は興奮してなにを言ってるんだ。
「……すいません。部長だって色々大変なのに勝手なことばかり言って……今日はもう帰ります」
俺は一歩下がって部長に謝罪すると、色々あって疲れた家に帰ることにした。
「イッセーも悪かったな。さすがに言い過ぎた」
「……俺もライザーに対して冷静じゃなかった……ゴメン」
俺の謝罪に、イッセーも冷静になったのか謝ってくる。
俺は他のみんなにも謝ると、自分の鞄を持って部室の外に出た。
部室を出る直前まで、部屋の隅で静かに立っていたグレイフィアさんが俺のことを見つめていた。
翌日、早朝公園でいつもどおりPSIの特訓を行っていた。
この前、コーヒーとクリーム使ってイメージを投影する感覚を身につけた俺のPSIの特訓は、先日とは比べ物にならないぐらいほど進歩していた。
現在では三つの力の内、烈破のバーストを身につけるために努力している。
……コントロールもしっかりできるようになってるし、特訓の様子が目立つようになってきたから、そろそろ公園での特訓はやめるべきだな。
俺は自分の肩口から第三の腕が生えるイメージを創り、その創り出した腕で近くに落ちていた空き缶を持ちあげ握り潰すイメージをして現実に投影する。
その瞬間、頭が少し熱くなった気がすると、自分の肩口から第三の腕が生えて、落ちている空き缶を拾い握り潰した。
これを他の人が見ると、勝手に空き缶が宙に浮いて潰れたように見える。
そのまま新たなイメージを創り出して、近くのゴミ箱に潰した空き缶を投げ飛ばす。
……今日はこれぐらいにしとくか。
そう思って、公園の出口の方を向くと、出口の近くに部長と大きな荷物を持ったイッセーとアーシアが立っていた。
「昨日はすいませんでした。それにしても、今日はどうしたんですか? 特訓にしては随分と大きい荷物ですけど?」
俺は部長たちに近づくと、昨日のことを謝罪しながらイッセーたちの荷物を見ながら問い掛ける。
「昨日のことは今は無しにしましょう。それよりも今から家に帰って宿泊の準備をしなさい」
「い、いきなりどうしてですか?」
俺は部長の突然の言葉に、怪訝に思って問い掛ける。
「修行をしに山に行くわよ」
部長は笑顔を浮かべながら、予想外の言葉を口にした。
んー、空気が美味いなぁ。
俺は周囲に広がる豊かな自然と、青く広がる空を見て、山の風景を堪能する。
部長に言われて身支度を済ませたあと、部室にある魔方陣からみんなで山の麓に転移した。
それにしても、俺も一緒に転移できてよかったな……下手すれば、俺だけ一人で電車移動になるところだった。
「ひー……ひー……」
俺の後ろの方から、イッセーが本当にひーひー言いながら、尋常じゃない荷物を背負って山道を登っていた。
「イッセー、大丈夫か?」
「し……死ぬ」
イッセーは声を絞り出すように答える。
いっせーとは昨日のいざこざで少し接しずらいと思っていたけど、思ったよりも普段と同じ感覚で接することができた。
「そうか。頑張れよ」
「う……裏切り者……」
俺の言葉にイッセーが怨むような目で見てくる。
悪いな。これも修行の一環だから部長に手伝うなって言われてるんだ。
「ほら、二人とも、早くなさい」
少し先を歩いている部長が檄を飛ばしてくる。
部長の隣に立っているアーシアは、心配そうにイッセーの様子を見つめている。
「部長、山菜を摘んできました。夜の食材にしましょう」
そう言いながら、先程から姿が見えなかった木場が横から涼しい顔で俺たちを追い抜いて行く。
木場もイッセーと同じぐらいの荷物を背負ってるのに凄いな。
後ろで必死に歩いているイッセーと見比べて、そんなことを考える。
「……お先に」
すると、さらに俺たちの横を誰よりも大きい荷物を背負った塔城が通り過ぎて行く。
……さすがだな。てか、一体あの荷物の中になにが入ってるんだ?
「うおりゃぁぁぁぁ!」
塔城の背負っている荷物を見て驚いていると、イッセーが叫びながら俺の横を通り、山道を駆け登っていった。
……頑張るなー。
俺はそんなイッセーの様子を眺めながら、自分のペースで目的地である部長の家が持つ別荘までの山道を堪能した。
そうして、しばらく山道を歩いていると、木造建築の別荘に辿り着いた。
中に入ると、あまり嗅ぎ慣れない木造建築独特の木の臭いが鼻に入り込んできた。
リビングに入ると、イッセーが力尽きたように床に倒れこんでいた。
リビングの中には、イッセー以外に木場だけが残っていた。
「他のみんなはどこに行ったんだ?」
「他の人たちはニ階に着替えに行ってるよ」
俺の問い掛けに木場が答える。
「僕も着替えてくるから、佐伯くんも空いてる部屋で着替えた方がいいよ」
そう言うと、木場は青色のジャージを持って一階の浴室に向かった。
「覗かないでね」
「マジで殴るぞ、この野郎!」
部屋を出る直前に木場が言った冗談に対して、疲れて余裕のない様子のイッセーは殺意の籠った目で木場を睨む。
そう言えば、最近学園の一部の女子の間で『木場×イッセー』というBL的なカップルの図式が流行りつつあるという噂を耳にしたことがある。
木場の奴、そのことを知ってて言ったんじゃないのか?
俺は心の中で溜息を吐くと、自分の荷物の中からジャージを取り出して、それに着替えるためにリビングを出た。
……レーティングゲームまでの間にPSIの使い方を身につける。
空き部屋に向かいながら、俺はこの十日の目標を確認した。