修行を始めてから一週間が過ぎた。
初日に偶然使えたライズも今ではある程度使えるものになってきた。
そして、ライズを使っていて一つ気がついたことがある。
ライズの種類は二種類あるということだ。
俺はこれを『センス』と『ストレングス』と名付けた。
センスは反射神経など五感を高めるライズ。
ストレングスは筋力や身体能力を高めるライズ。
今は、この二つのライズを上手く使いこなすために特訓している。
「……っ!」
俺は鋭い太刀筋で襲いかかってくる木場の木刀を紙一重で避ける。
俺がライズを使えるようになってから、木場と塔城との組み手はレベルが跳ね上がった。
昔の勘を少しづつ取り戻してきたのも、理由の一つだろう。
「そろそろ決めるよ!」
そう言って、木場が一段階スピードを上げて襲いかかってくる。
スピードが上がった木場の太刀筋をライズのセンスで見切り、一瞬のうちに木場の後ろに回り込む。
そして、俺は反撃として繰り出した右拳を木場の後頭部に当たる直前で寸止めする。
「……僕の負けか」
「おまえ、最後わざと避けなかっただろ。いつか絶対に本気のおまえに一撃ぶちこむからな」
木場の呟きにそう言い返してから距離を取る。
「あはは、あれだけ攻めたのに全部避けられたんじゃあ、僕の負けだよ」
「そうかよ」
木場との組み手はセンスを、塔城との組み手はストレングスを使っていた。
さっき塔城と組み手したときは、塔城の一撃をストレングスで耐えきって、ひっつかまえたところを反撃した。
結果として、ようやく二人から組み手とはいえ一本取れたな。
あとは、残り時間で出来る限りライズの力を高めるだけだ。
「木場、もう一度頼む。今度は本気で来いよ。今度は俺も両方使うからな」
「わかった。今度は僕が勝たせてもらうよ」
俺と木場は互いに構えると、もう一度組み手を始めた。
その日の夜、ベッドに寝て考え事をしていると、イッセーがベッドから抜け出して部屋を出て行った。
喉でも乾いたのかと思ったが、時間が少し経ってもイッセーが部屋に帰ってこなかった。
イッセーのことが心配なった俺は、ちょうど喉も乾いたので、水を飲みに行くついでにイッセーのことを探すことにした。
隣で眠っている木場を起こさないように、静かにベッドから出ると、俺はキッチンに向かうため部屋を出た。
キッチンの近くまで来ると、リビングの方で誰かの話声が聞こえてきた。
……誰だ、こんな時間に?
気になった俺は静かにリビングを覗きこむと、そこには部長とイッセーがなにか話していた。
こんな時間になんの話をしているんだ?
二人の話が気になった俺はその場で見つからないように聞き耳を立てた。
「私はグレモリーを抜きとして、私を、リアスを愛してくれるヒトと一緒になりたいの。それが私の小さい夢……残念だけれど、ライザーは私のことをグレモリーのリアスとして見ているわ。そして、グレモリーのリアスとして愛してくれているの。それが嫌なの。それでもグレモリーとしての誇りは大切なのよ。矛盾した想いだけれど、それでも私はこの小さな夢を持っていたいわ」
聞こえてきたのは部長のそんな話。
……しまったな。俺が勝手に聞いていい話じゃなかった。
興味本位であんな話を隠れて立ち聞きしてしまった俺は、自分のことが嫌になる。
部長とイッセーはまだなにか話しているが、俺が勝手に聞いていい話じゃないな。
そう思った俺は静かにその場から立ち去って、自分のベッドに戻った。
……夢か。
ベッドに戻った俺は悪いと思いながらも、頭から離れない部長の言葉を思い出してしまう。
俺は人間だから、悪魔社会におけるグレモリー家の名前の重みは理解することはできない。
だけど、俺は部長に返しても返し切れない恩がある。
グレモリーのリアスではなく、リアス・グレモリー個人にだ。
なら、俺のやるべきことは一つだな。
俺は部長の言ったその小さな夢を叶えてもらいたい。
多分、上級悪魔の考え方としてはライザー・フェニックスの方が正しいんだろう。
だけど、部長の夢のために、レーティングゲームには絶対に勝つ。
それが少しでも恩返しになるのなら、俺は、俺のできることを全力でやるだけだ。
俺はそう心に決めて眠りについた。
次の日の朝、俺たちは全員でイッセーの模擬戦を観戦することになった。
しかも、修行中に一切禁止にされていた神器を使ってだ。
さて、イッセーはどれだけ強くなってるんだろうな。
イッセーの籠手から十二回『Boost』と発せられたとき、部長がパワーアップを止めるように指示を出した。
十二回の力の倍加、それによってイッセーがどれほど強化されるのかはわからない。
「いくぞ! ブーステッド・ギア!」
『Explosion!!』
イッセーが神器を発動した瞬間、イッセーの力が跳ね上がったのが肌で感じることができた。
……これは予想以上だな。
俺もこの修行で強くなったと思っていたが、あれほどではないだろうな。
そうして、模擬戦が始まった。
木場はその速さを生かして、先に攻撃を仕掛けるが、イッセーは瞬時に腕を交差させて木場の木刀を防ぐ。
木場も予想外だったのか、少しだけ驚いた表情を浮かべて、一瞬だけ足が止まった。
イッセーがその隙をついて拳を放つが、拳が当たる寸前、木場が素早く飛んでイッセーの拳を避けた。
イッセーは木場のそのスピードについて行けずに、木場を見失ってしまったようだ。
木場が上空から木刀を下へ突き出して降っていく。
イッセーは直前で気がついたようだが、回避もガードも間に合わず、木場の木刀がイッセの頭部に直撃する。
……あれ、痛いんだよなぁ。
何度もくらった一撃を見て、俺は苦笑いを浮かべる。
「痛っ……」
しかし、イッセーは打たれた箇所を抑えもせずに、着地した木場に対して蹴りを放った。
おいおい、まともにあれを受けて大丈夫なのかよ……頑丈になったなぁ。
当然だがイッセーの放った蹴りは、木場に回避されてしまった。
わかっていたが、イッセーじゃあ木場に攻撃を当てることは難しい……さて、どうする?
「イッセー! 魔力を撃ってみなさい! 魔力の塊を出すとき、自分の一番イメージしやすい形で撃つの!」
部長の指示を聞いて、イッセーが木場に対して魔力の塊を作り出す。
大きさは相変わらず米粒ぐらいのサイズだった、その魔力が放たれた瞬間、どんなものになるのか一瞬で理解できた。
「木場! 避けろ!」
俺がそう叫んだ瞬間、イッセーの手のひらから魔力が放たれる。
イッセーの手のひらから魔力が放たれた瞬間、米粒ぐらいの大きさだった魔力が巨大なものに変貌した。
木場はその巨大な魔力を簡単にかわしてしまったが、問題はそれじゃない。
俺の見つめる視線の先には、とんでもない光景が広がっていた。
イッセーの放った巨大な魔力は、凄まじい爆音と爆風を撒き散らして、隣の山を吹っ飛ばした。
……マジかよ。
『Reset』
あまりの光景に全員が呆気にとられていると、イッセーの籠手から音声が発せられた。
「そこまでよ」
部長の一声によって、イッセーと木場の模擬戦は終了を告げられた。
木場は木刀をおろし、イッセーは腰を抜かしたように地面に座り込む。
その後、部長が二人に模擬戦の感想を聞く。
木場もいつもどおり爽やかに答えるが、内心は予想以上で驚いているみたいだ。
イッセーは未だに自分の力を疑っているみたいだ。
部長がイッセーに言っているが、今回の勝負はは個人戦ではなく団体戦だ。
イッセーのこの攻撃力が試合を左右するぞ。
俺はイッセーが吹き飛ばした山を見つめて、そう考える。
「楠緒。聞こえてるかしら?」
「は、はい! なんですか?」
突然聞こえてきた部長の声に慌てて返事をする。
「イッセーの修行の成果は見せてもらったわ。次はあなたの成果を見せてくれないかしら」
「はい。別にいいですよ」
「ありがとう。それじゃあ、相手は小猫でいいわね」
「……はい」
部長の提案に了承すると、部長は模擬戦の相手に塔城を選んだ。
塔城も部長に促されて、前に出てくると、俺と対峙する。
……相手は塔城か。まあ、木場はさっきイッセーと模擬戦をしたし、普通に考えればそうだよな。
「塔城も本気で頼むぞ」
「……わかりました」
俺の言葉に塔城はそれだけを返すと、組み手のときと同じ構えを取る。
成果を見せろってことは、今の俺の全力を出せということだ。
塔城との模擬戦ではライズのストレングスしか使っていなかった。
出来れば、トランスも使いたいところだが、今回の修行はバーストとライズを優先したため、トランスはまだ上手く使えない。
だから、今回はライズとバーストで塔城と模擬戦をする。
俺は塔城と対峙して構える。
「二人とも準備はいいわね。では、始めてちょうだい」
部長の合図とほぼ同時に塔城が俺目掛けて突っ込んでくる。
俺は塔城の攻撃を受けるために、両足を踏ん張ってガードをする。
しかし、塔城はガードしていても問題ないといった感じで、ガードの上から拳をぶつけてきた。
「ぐっ!」
ストレングスを全力で使っていたから大丈夫だと思っていたが、塔城の拳の予想以上の威力にガードした腕が鈍い音を響かせて痛みと痺れが襲っていた。
くっ……塔城め、やっぱり組み手で手を抜いてたな。
塔城の二撃目をかわすと、そのままセンスで一瞬にして距離を取る。
さすが戦車の攻撃力だな、まともにくらったら危ないな。
だけど問題ない。確かに、塔城の力は脅威的だが……。
俺は追撃を仕掛けてくる塔城の拳を、全て紙一重のところでかわす。
……スピードなら木場の方が速い。
一旦、体勢を立て直すためか、今度は塔城の方が俺から距離を取った。
距離を取ったか、だけどそこは俺の攻撃範囲内だ。
俺はバーストで近くにあった石を何個か持ち上げると、塔城に投げつける。
凄まじい速度で襲いかかる石に一切怯むことなく、塔城は的確に動いて全て防ぎきる。
だが、俺は塔城が石を防ぐ一瞬の隙の間に、ライズを全力で使って塔城の懐に潜り込む。
女の子を殴れないなど言ってたら、こっちがやられる。
それに、全力で来てくれると言った塔城に失礼だ。
俺はそのまま空いている塔城の体に拳を打ち込む。
「もらった!」
「……っ!」
俺の拳が塔城の体に当たり、塔城の小柄な体が宙に浮く。
俺は確かな手ごたえを感じたと思った瞬間、その一瞬の隙を塔城につかれて、突き出したままの腕を掴まれる。
……しまった!
そう思ったときにはすでに遅く、そのまま塔城に完璧に腕の関節を極められてしまった。
「ぐっ! いたたたた! 塔城ギブアップだ! 放してくれ!」
「そこまで」
部長の宣言を聞いて、塔城が俺の腕を解放してくれる。
いって、それにしても完全に油断したな。
「お疲れさま、二人とも。さて、感想を聞こうかしら。小猫、どうだった?」
イッセーのとき先に木場に感想を聞いたように、部長は先に塔城に感想を聞く。
「……思ったより強かったです」
「そうね。まさか、小猫に一撃当てるとは思わなかったわ。楠緒はどうだった?」
塔城の感想を聞いたあと、今度は俺に感想を聞いてきた。
「塔城の防御力を甘く見てました。結構本気で殴ったんですけど、結果は見ての通りです」
「そうね。けれど、凄いじゃない。まさか小猫とあそこまで戦えるとは思っていなかったわ」
俺の感想を聞いたあと、部長は俺のことを褒めてくれた。
どうやら、部長の想像以上に修行の成果は出ていたらしい。
俺としては、さっきの模擬戦も反省点はそれなりに多いんだが……。
「二人とも修行の成果はしっかりと出たみたいね。それじゃあ、相手に見せつけてやりましょう。相手がフェニックスだろうと関係ないわ。リアス・グレモリーとその眷属悪魔と私たちの仲間がどれだけ強いのか、彼らに思い知らせてやるのよ!」
「はい」
「はい」
「……はい」
「はい!」
「はい」
「はい!」
部長の掛け声に全員が力強く返事をした。
全員で力を合わせてライザー・フェニックスを倒す!
決意を新たに、結束を深めた修行は順調に行われた、全員無事に終了した。
そして遂に、俺たちは決戦の日当日を迎えた。