ゲームは序盤を終え、中盤に入った。
現在の俺たちのチームの状況は、塔城がリタイヤして、残りは部長、姫島先輩、イッセー、木場、アーシア、俺の六人。
一方、ライザーのチームは、兵士が六人、戦車が一人リタイヤして、残りは兵士が二人、騎士二人、僧侶二人、戦車一人、女王一人、そしてライザー・フェニックスの計九人。
撃破数はこちらの方が多いが、残り人数ではまだ向こうの方が上。
まだまだ、気を抜くことはできないな。
さっき、部長に通信をしてみんなの状況を確認したら、姫島先輩が塔城を撃破した相手の女王と一騎打ちをしているらしい。
部長とアーシアも移動中で、俺と木場は当初の予定通りイッセーと合流するように指示された。
イッセーとの合流場所である運動場に、先に辿り着いた俺たちはイッセーが来るまでの間に、運動場にいる敵チームを調査する。
一人は剣を持っていることから騎士と考えていいだろう、残り二人はここが重要拠点と考えれば戦車と僧侶と考えるのが妥当か。
相手に気がつかれないように調査を終えた俺は、木場の待つ合流場所に戻ると、イッセーも到着していた。
「イッセー、やっと着いたか」
「悪い。楠緒はどこに行ってたんだ?」
イッセーは俺の言葉に一言で謝ると、真剣な表情でなにをしていたのか聞いてきた。
「運動場にいる相手を見に行ってたんだ。運動場にいるのは騎士一人、僧侶一人、戦車一人の合計三人だ」
「……すげぇ厳重じゃないか」
「まあ、それだけ警戒しているのさ。こちらからの侵入を。ただでさえ、体育館を消し飛ばされたわけだから、こちらにも力を集中するよ」
「そうだな。それに、急がないと残りの敵も来るかもしれないからな」
なんせ俺たちが体育館を消し飛ばしたことで、相手はここだけを守ればよくなったんだからな。
不死身のフェニックスに護衛なんて必要ないんだ、残りの兵士二人と騎士一人もこの場所に来てもおかしくない。
ここがこのゲームの大一番になりそうだな。
そんなことを考えながら、ふとイッセーの顔を見ると、明らかに緊張しているのが伝わってきた。
「緊張しているのかい?」
木場もイッセーの様子に気がついていたのか、にこやかにイッセーに話しかける。
「あ、当たり前だ! こちとら戦闘経験なんて無いに等しいんだぞ。てか、楠緒も俺と似たようなもんなのに、なんでそんなに落ち着いてるんだよ!?」
イッセーは顔を紅潮させながら、俺に話を振ってくる。
……落ち着いているか。別にそんなことはないんだけどな。
「イッセー、勘違いをするな。俺だって緊張しているさ。ただそれを必死に隠しているだけだ……ほら、実際はこうだ」
俺はそう言うと、イッセーに見えるように自分の手を上げる。
上げた俺の手は、よく見ると小さく震えていた。
「僕も似たようなものさ。いくら戦闘経験があっても、レーティングゲームに参加するのは初めて。お互いが全力でぶつかり合う試合で緊張しない人なんていないよ。僕は今感じているこの歓喜と恐怖を忘れたくない。この緊張も、張りつめた空気も、全て感じ取って自分の糧にする。だから、みんなで強くなろう。二人とも」
いいことを言うな木場は流石だ。
「それじゃあ、このゲーム絶対に勝つぞ! 部長のためにも、俺たちのためにも!」
「ああ!」
「そうだね」
俺たちはそう言って、再びゲームに勝つために結束を固めた。
そのとき、運動場の方角から女性の大声が聞こえてきた。
「私はライザーさまに仕える『騎士』カーラマイン! こそこそ腹の探り合いをするのも飽きた! リアス・グレモリーの『騎士』よ、いざ尋常に剣を交えようではないか!」
運動場の中心で、さっき姿を確認した騎士の女が堂々と立っていた。
随分と豪快な女だな。
どうやら、あの女は木場に用があるみたいだな。
「呼ばれてるぜ、どうするんだ? ここから俺が攻撃するっていう手もあるぞ」
「名乗られてしまったら、『騎士』として、剣士として、隠れるわけにもいかないか」
俺が冗談を混ぜながら木場に問い掛けると、木場は笑いながらそう言って立ち上がると、一人で出て行ってしまった。
「だと思ったよ。イッセー行くぞ!」
「しょうがねぇな!」
俺がイッセーを促しながら木場のあとを追うと、イッセーも文句を言いながらついてきた。
そして、俺たち三人は運動場の真ん中にいる相手チームの騎士、カーラマインの前に立った。
「僕はリアス・グレモリーの眷属、『騎士』木場祐斗」
「俺は『兵士』の兵藤一誠だ!」
「『ゲスト』の佐伯楠緒」
俺たちはそれぞれカーラマインに名乗る。
カーラマインはそんな俺たちを見て、嬉しそうに口元を吊り上げた。
「リアス・グレモリーの眷属悪魔におまえたちのような戦士がいたことを嬉しく思うぞ。堂々と真正面から出てくるなど、正気の沙汰ではないからな」
普通ならあのまま姿を隠したまま攻撃するのが、まともな戦略なんだったんだろうな。
「木場、騎士の相手は任せた」
「うん。任せて」
俺の言葉に木場が剣を抜きながら答える。
相手の方も騎士同士の一対一の戦いを望んでいたのか、嬉しそうに剣を抜き放つと、木場と対峙する。
「それでは行くぞ! リアス・グレモリーの騎士よ!」
そう言い放つと同時に、カーラマインの踊るような斬撃が木場に襲いかかる。
お互いの騎士の特性を最大限に使った、まさしく神速の戦い。
あの騎士の相手は木場に任せて、俺とイッセーは他の相手をしよう。
「イッセーなに呆けてるんだ、俺たちの相手はあの二人だ」
俺は木場の戦いを見て呆けている、イッセーの頭を掴んで無理矢理イッセーの視線を残りの二人に合わせる。
俺たちの視線の先にいるのは戦車と僧侶。
これも一筋縄ではいかない相手だ。
「さて、状況的に二対二だが……どうする?」
俺は二人を睨むように見つめて言い放つ。
「ほう、人間と思って甘く見ていたが……なかなか出来るようだな」
顔の半分に仮面を付けた女が、俺の顔を見ながらそう言ってくる。
多分、こいつが戦車だろう。力強い雰囲気が伝わってくる。
俺と戦車の間に、一触即発の空気が漂う。
「待ちなさい、イザベラ。あなたはそちらの兵士のお相手をしてさしあげなさい。少しそちらの人間の殿方に興味があります」
そんな空気の中、相手の僧侶が割り込んできた。
「わかりました」
イザベラと呼ばれた仮面の女は、俺から視線を逸らすと今度はイッセーの方を向いた。
「イッセー、どうやらあの僧侶は俺に用があるらしい。あの戦車の相手を任せてもいいか?」
「おう! ブーステッド・ギア、スタンバイ!」
イッセーはそう言うと、その場から飛び退き、神器を発動して構える。
イザベラも僧侶の横から移動して、イッセーに対峙する。
「さて、俺の相手はおまえか」
俺はそう言いながら僧侶に対して構えると、なぜか僧侶は呆れた目で俺のことを見ていた。
「私は戦いなんてしませんわ。それよりも、少しお話をしません?」
「はぁ?」
俺は僧侶の口から出た信じられない言葉に、つい気の抜けた声を出してしまった。
わざわざ指名しておいて戦わないって、どういうことだ?
「あー、気にしないでくれ。その子は特殊だから。今回の戦いもほとんど観戦しているだけだ」
俺たちの様子を見て、額に手を当てて、困った表情を浮かべている。
「な、なんだ、そりゃ!」
一緒に話を聞いていたイッセーもさすがの内容に驚いて声をあげている。
イッセーの気持ちもわかる。こっちは勝たないといけないのに、なんだこいつは?
俺は内心、相手の僧侶の態度に苛立ってしまう。
「彼女は……いや、あの方はレイヴェル・フェニックス。ライザーさまの妹君だ。特別な方法でライザーさまの眷属悪魔とされているが、実の妹君だよ」
……はぁ?
イザベラの言葉にイッセーは驚き、俺は呆れてしまった。
「で? その妹君が俺に話ってなんだ?」
あまりの呆れてしまい、一旦、戦う気力を失ってしまった俺はそのライザー・フェニックスの妹、レイヴェル・フェニックスに話しかけた。
「もう少し品のある話し方は出来ないのですか? 先程のことといい、随分と野蛮な方ですのね」
……ハハハ、言ってくれるじゃねぇか。
俺はレイヴェルの毒舌に苦笑いを浮かべる。
「まあいいですわ。では、始めにただの人間であるあなたがなぜ? このゲームに参加されているのですか?」
……なるほどな、確かに俺が今回のゲームに参加しているのは特別な処置だ。
こいつはそれが気になって、俺に興味があったというわけか。
「今回の婚約に納得がいってないから」
「そこですわ」
俺が理由を言うと、レイヴェルは少し食い気味に口を開く。
「人間であるあなたがなぜそこまでするのですか? 悪魔社会のことは、あなたには関係のないことでしょう?」
確かに、正直言って俺にとって悪魔社会のことなんてどうでもいい。
だけど……。
「悪魔社会なんて関係ない。俺はリアス・グレモリー個人に幸せになってもらいたいだけだ」
「……お兄さまとのご結婚が、リアス・グレモリーさまの幸せにならないと?」
静かだがレイヴェルの声からは僅かに怒りを感じる。
どうやら、自分の兄が馬鹿にされていると感じたらしい。
まあ、あまり否定はしないが。
「ああ、確かにそこから始まる幸せもあるのかもしれない。だけど、それを部長が望んでないんだ。望まない結婚で幸せが生まれると思うか?」
「……」
俺の言葉を聞いて、レイヴェルは静かに黙り込む。
女としてわかる部分があったのだろう。
「……ですが、それは不可能ですわ。このゲームで勝つのはお兄さまですもの」
「違うな。勝つのは俺たち。オカルト研究部だ!」
「なっ……!」
俺がレイヴェルに対してそう言い放った瞬間、イッセーの新必殺技『
『ライザー・フェニックスさまの「戦車」一名、リタイヤ』
「よっしゃぁぁぁぁっ!」
運動場に死闘を制したイッセーの歓喜の叫びが響き渡った。
「わかったか。レイヴェル・フェニックス! 俺たちはこのゲームに絶対に勝つ! おまえたちに部長の幸せは奪わせない!」
「……っ!」
レイヴェルは俺になにも言い返さず、悔しそうな表情で俺を睨む。
俺はそんなレイヴェルを真っ直ぐを見つめる。
そんなことをしているとき、木場の戦っている方向から感じたことのない殺気を感じる。
俺はレイヴェルから視線を放し、その方向を見ると、木場がとんでもない殺気と迫力を纏って相手を睨んでいた。
「その聖剣使いについて訊かせてもらおうか」
聖剣使い? それが木場をこんな風にした原因なのか?
木場と聖剣使いの間になにかあるのだろうか?
そんな木場とカーラマインの間に凄まじい殺気が立ち込める。
そんな殺気とは別の方向から何者かの気配が近づいてくるのを感じる。
「ここね」
「あれ? イザベラ姉さんは?」
「まさか、やられちゃったの?」
あれは……ライザーの残りの眷属か。
やってきたのは全部で四人。兵士が二人、僧侶が一人、騎士が一人。
まさか、このタイミングとはな……。
イッセーはさっきの戦いでボロボロだ。
となれば、この四人の相手は俺か。
「ねー、そこの『兵士』くんと『ゲスト』くん」
その中の一人が俺とイッセーに話しかけてくる。
「ライザーさまがね、あなたたちのところのお姫さまと一騎打ちするんですって。ほら」
その女が指差す先に視線を向けると、新校舎の屋上に炎の翼を羽ばたかせる人影と黒い翼を羽ばたかせている人影があった。
あの黒い翼の人影の見覚えのある紅色の髪は間違いなく部長じゃないか。
「お兄さまったら、リアスさまが意外に善戦するものだから高揚したのかしらね。ホホホ、先程の威勢も無駄だったみたいですわね」
レイヴェルが先程とは一変して、嫌味な笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「部長は強い! 朱乃さんだって女王を倒してすぐに駆けつけてくれる! 木場も魔剣コンボで騎士を倒すし! 楠緒だっている! 俺だってブーステッド・ギアで――」
「『紅髪の滅殺姫』、『雷の巫女』、『魔剣創造』、そして『赤龍帝の籠手』、こちらの方も普通の人間とは少し違うようですけれど、あなた方の相手は『不死鳥』です。どんなに絶対の力を持っていても不死身が相手ではどうしようもありませんわ」
「だが、フェニックスにも弱点はある!」
イッセーが反論するように叫ぶが、レイヴェルはそんなイッセーの言葉を鼻で笑う。
「精神がやられるまで何度も倒すのかしら? それとも神クラスの力で一撃必殺? あなたたち、このゲームに勝とうと思ってるの? お笑いね」
俺はレイヴェルの言葉を黙って聞く。
レイヴェルの言葉を聞くたび、俺の中のなにかが蠢く。
レイヴェルの指示によって、ライザーの眷属たちがイッセーを囲んだ。
どうやら、四人で一気にイッセーを倒す作戦を取ったらしい。
……そんな好き勝手出来ると思うなよ。
「……ライズ、全開」
俺は誰にも聞こえない声で呟くと、誰も気がつかない速さでイッセーを囲んでいる一人を撃破する。
『ライザー・フェニックスさまの「僧侶」一名、リタイヤ』
「……えっ?」
レイヴェルはなにが起こったのか理解できていないのか、グレイフィアさんのアナウンスを聞いて間抜けな声を出す。
「イッセー動けるか?」
「あ、ああ!」
「そうか。なら俺が騎士をすぐに始末する。それまで逃げ切ってくれ」
「わかった」
俺の言葉にイッセーは頷いて答える。
「もう一度言ってやる。レイヴェル・フェニックス」
俺は未だ呆然としたレイヴェルを見つめながら口を開く。
「相手が不死身のフェニックス? だからどうした! 勝つのは俺たちだ!」
俺はレイヴェルを真っ直ぐ見つめたまま、さっきと同じ言葉を言い放った。