ハイスクールD×D ~PSIを持った人間~   作:てんとう

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Life.19 暴王の月

 俺はPSIによって生み出した黒い球体を背にライザーに一歩ずつ近づく。

 ライザーは俺と黒い球体を交互に見ると、険しい表情を浮かべる。

 どうやら、この黒い球体はPSIが見えないはずのライザーにも見えるほどの大質量のバーストエネルギーの集合体のようだ。

 

「不愉快だ。人間ごときがこのライザー・フェニックスを消すだと? ならば、俺はこの炎で貴様を焼き尽くしてやろう」

 

 そう言って、ライザーは俺に向けて炎を放つ。

 

「楠緒ぉぉぉ!」

 

 新校舎の屋上から、部長の叫び声が聞こえる。

 当たれば確実に俺を燃やし尽くす業火。

 俺はその炎に恐怖することなく、ライザーに近づき続ける。

 そして、炎が俺に当たる直前、まるでライザーの炎に反応するかのように動き出した黒い球体が全ての炎を飲み込んだ。

 

「なんだと!?」

 

 ライザーは自分の炎が防がれたことに、驚愕して目を見開く。

 

「……この程度か」

 

「くっ……!」

 

 ライザーは少し表情を歪めると、炎の翼を広げて、空に逃げる。

 

「退くのか……どうした恐いのか?」

 

「恐いだと……? 人間が、人間ごときがこのライザー・フェニックスを嘗めるなァァァ!」

 

 ライザーが叫ぶと、両翼が大きく燃え上がり、全身を炎が渦巻く。

 

「火の鳥と鳳凰! そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火! その身で受けて燃え尽きろッッ!」

 

 全身を炎で包んだライザーが高速で迫ってくる。

 その姿は巨大な火の鳥そのものだった。

 直接触れなくても、そのあり得ない熱気が俺の肌に伝わってくる。

 だが、俺はそんなライザーを見ても、先程と同じようになにも感じない。 

 

『……喰らい尽くせ』

 

 俺の頭の中でなにかの声が響いたと思った瞬間、黒い球体は枝のようなものをライザーに向けて高速で射出する。

 

「フン、その程度でどうにかできるとでも思ったのか?」

 

 ライザーが余裕な笑みを浮かべ、向かってくる黒い球体の枝を避ける。

 しかし、そんなライザーの表情は一瞬で変貌した。

 

「……なっ!」

 

 避けたはずの黒い球体の枝がライザーを追尾するように、無数に枝分かれをしてライザーに襲いかかる。

 炎を生み出す両翼、そして炎に包まれていた体。

 ただ貪欲に、ライザーの全身の炎を喰らい尽くした。

 両翼だけでなく、体のほとんどを枝分かれした枝に喰らい尽くされたライザーは、空中にいることができずに地面に倒れ落ちる。

 

「ぐぉぉぉぉ!」

 

 地面に倒れ落ちて、苦痛な声をあげ、ライザーは失った体を再生するために炎が巻き起こす。

 しかし、その炎も今度はライザーを喰らい尽くそうと動く黒い球体によって飲み込まれた。

 

「自慢の不死身はどうしたんだ?」

 

 俺は倒れているライザーに近づくと、見下すように上から眺める。

 

「な、なんだ……貴様は……」

 

 人間に見下されるという屈辱を受けたライザーは俺を睨み、そう口にする。

 

「『メルゼー』」

 

 ライザーの言葉を聞いて、俺は自分の声とは思えない声色で、自分の意志とは関係なく、自然とその名を口にする。

 

「メ、メルゼー……だと……」

 

 俺の口にした名を聞いた瞬間、ライザーの表情が確かな恐怖で歪む。

 俺はそんなライザーの顔を見て、俺はまるで自分が自分ではない意識で笑みを浮かべる。

 

「『ククク、灰の中からでも蘇るフェニックス。ならば、灰さえかけらも残さず喰らい尽くせば、どうなるだろうな?』」

 

「や、やめろぉぉぉぉ!」

 

「『もう喋るなと言ったはずだ』」 

 

 ライザーは悲痛な叫びをあげるが、黒い球体は俺の声に反応するようにライザーの口と喉を喰らう。

 もはや、ライザーの肉体は顔の上半分だけとなり、他の体は炎によってシルエットを象っているだけだ。 

 その炎も肉体が復活しないよう、黒い球体に少しずつ喰われていく。

 残ったライザーの目には、もはや恐怖の色しか残っていなかった。

 

「『恐いか? だが、安心しろ。その恐怖は恥じることではない』」

 

「……」

 

 俺の言葉にライザーはなにも反応することなく、恐怖した目で俺を見続けるだけだった。

 

「『不死鳥だろうと、獣だろうと、人間だろうと、天使だろうと、堕天使だろうと、悪魔だろうと……ましてや、神や魔王でさえ、■■(オレ)にとっては、餌でしかないのないのだから』」

 

 俺はそう言い終わると、黒い球体はライザーの全てを喰らい尽くそうとする。

 

「もうやめなさい! 楠緒ぉ!!」

 

「……部長?」

 

 突然、部長の叫び声が聞こえくる。

 その声を聞いた瞬間、黒い球体がライザーに当たる直前で砕け散った。

 黒い球体が砕け散っていく姿を見ながら、頭の中でなにかが切れる音が聞こえると、俺は地面に膝をついて座り込んだ。

 呆然とする頭で、自分が光に包まれていくのを感じる。

 俺は自分がリタイヤすることを悟ると、消滅する前に部長のいる屋上を見つめる。

 部長はなぜか泣き崩れて屋上に座り込んでいた。

 ……なんで?

 

『リアス・グレモリーさまの「ゲスト」一名、リタイヤ。なお、両チームの「王」がこれ以上のゲームの続行を不可能だと判断し、このゲームは引き分け(ノーゲーム)とさせていただきます』

 

 俺の消滅と同時にグレイフィアさんのアナウンスがゲームの終了を告げる。

 俺は消滅と共に意識を失った。

 俺がそのとき最後に見た部長の顔は、望んでいた笑顔ではなく、望んでいない泣き顔だった。

 

 

 

 

 

 

「……ここは?」

 

 消滅と同時に意識を失った俺が次に目覚めたのは、以前にも来たQの城だった。

 あのときと同じ、所々が朽ち果てた宮殿に巨大は砂時計。

 そして、そのまえの王座に座り、俺を見つめるQ。

 

「……今度はなんの用だ?」

 

≪ピィー……ザザッ! 久しぶりだな、佐伯楠緒≫

 

 俺の問い掛けに、前のときと同じように傍に置いてある古いタイプのラジオから声が聞こえてくる。

 前のときよりもノイズが薄れ、声がクリアになっている気がする。

 

≪本当に危ないところだった……リアス・グレモリーの声がなければ……君は完全にメルゼーに飲み込まれていた≫

 

「なっ……! まさか、あの黒い球体がおまえの言っていたメルゼーなのか?」

 

 Qの言葉に、俺は思いつく原因を口にした。

 

≪その問い掛けには、半分正解で半分不正解と答えよう≫

 

「どういうことだ?」

 

 Qのよくわからない答えに、俺は続けて問い掛ける。

 

≪あの黒い球体の名前は『暴王の月(メルゼズ・ドア)』……メルゼーの力のほんの一部でしかない≫

 

「なっ!」

 

 俺はQの言葉を聞いて驚愕した。

 あのライザー・フェニックスを圧倒した力が、ほんの一部だと……。

 

≪佐伯楠緒……メルゼーの力を制御しろ。私はそのために君にPSIを伝えた。メルゼーに飲み込まれれば、君は自分の守りたいものを自らの手で壊すことになる≫

 

「あの力を制御だと……?」

 

 俺はQの言葉を聞いて言葉に詰まる。

 あの力を制御するなんてこと、俺に出来るのか。

 ライザーと戦ってたとき、あの暴王の月という黒い球体を出したあとは、まるで自分が自分ではないような意識になった。

 多分、あれがメルゼーに飲み込まれることなんだろう。

 あの巨大な力をどうやって……?

 

≪暴王の月は大質量のバーストエネルギーの集合体……ならば、メルゼーの力はPSIで制御できるはずだ≫

 

「それはどうやればいいんだ!?」

 

≪……わからない≫

 

 今まで、俺の質問に全て答えてくれたQから、始めて答えが返ってこなかった。

 

≪すまない。こればかりは力になれない≫

 

「……いや、おまえには感謝している」

 

 QがPSIのことを教えてくれなかったら、俺はいつか知らないうちにメルゼーに飲み込まれていただろう。

 

「メルゼーの制御法は必ず見つけてやる。俺だって、あの力がどれぐらいヤバいものなのかわかってる」

 

≪……そうか……ザザッ……ピィー≫

 

 Qはラジオの音を止める。

 どうやら、今回の会話はこれで終わりらしい。

 Qは前のときと同じように、俺に右手を向ける。

 

「じゃあな、Q……ぐっ!」

 

 その瞬間、また心臓がなにかに鷲掴みされたような痛みが走る。

 俺はその痛みに逆らうことをせず、そのまま意識を落とした。

 

 

 

 

 

 俺はQの城から現実に目を覚ます。

 見覚えのある天井が広がっていた。

 ……またこの部屋か。

 俺はベッドから少しだけ首を動かして、周囲を確認すると、自分がいるのが旧校舎の一室だとわかった。

 そういえば、ゲームはどうなったんだ? 俺がリタイヤしたアナウンスは聞こえたが、そのあとグレイフィアさんがなにをアナウンスしたのか聞こえなかった。

 ライザーがあれ以上戦えるとは思えない。

 それなら、レイヴェルが参戦しない限り部長が勝ったはず……。

 そんなことを考えていると、俺はゲームで最後に見た光景を思い出す。

 あのとき部長は確かに泣いていた。俺のせいなのか?

 ……駄目だ一人で考えてもわからない。部室に行けば誰かいるだろうか?

 

「ガァァァ!」

 

 ベッドから降りると、今まで感じたことのない頭痛が俺を襲い、その場に倒れ込んだ。

 ……な、なんだ……こ、これは、暴王の月を……メルゼーの力を使った代償なのか。

 

「なにか物音が聞こえましたが、大丈夫ですか」

 

 俺が倒れた音に気がついたのか、誰かがドアを開けて入ってくると、丁寧に俺の体を起こす。

 

「す、すいません。大丈夫です」

 

「そうですか。お気をつけてください」

 

 どこかで聞いたことのある声だと思い、起こしてくれた人を見ると、部長の家のメイドのグレイフィアさんだった。

 どうして、この人がここに?

 

「目覚めたばかりで、無茶をされてはいけません。どうされたのですか?」

 

 グレイフィアさんは起こした俺をしっかりとした場所に座らせると、そんなことを聞いてきた。

 ……そうだ。審判をしていたこの人なら、ゲームの結果を知っているはず。

 

「ゲームは? ゲームの結果はどうなったんですか?」

 

「ゲームの結果は引き分けとなりました」

 

 ひ、引き分けって、それじゃあ……。

 

「それじゃあ部長はどうなるんですか!?」

 

「勝敗がつかなかった今回の場合は、最初から存在した婚姻関係のほうが優先されました。リアスお嬢さまもそれで納得されています」

 

「ッッ!!」

 

 ……なんだよそれ!?

 

「ふざけないでください!! ゲームで負けてないのに、なんで部長が!? ぐッッガァ!」

 

 グレイフィアさんに対して叫ぶと、再び頭痛が走る。

 

「落ち着いてください。ただでさえ、あなたは危険な状態だったのですから」

 

 興奮している俺に、グレイフィアさんが落ち着くように言ってくる。

 あんな話を聞いて落ち着けるわけないだろ。

 俺は関係ないとわかっていても、ついグレイフィアさんを睨んでしまう。

 

「……やはり、納得されませんか」

 

「当たり前です! 勝負がついていないのに、納得できるわけありません!」

 

「リアスお嬢さまは、御家の決定に従ったのですよ?」

 

 家の決定だと……なんだよそれ……?

 

「……ククク、ハハハ、ハハハハハハハッ!」

 

 俺はグレイフィアさんの言葉を聞いて、狂ったように大声で笑う。

 

「なにが可笑しいのですか?」

 

 突然笑い出した俺をグレイフィアさんは怪訝そうに見てくる。

 

「いやいや、別にグレモリー家もフェニックス家も、上級悪魔としてのプライドってものがないんだなって思っただけですよ?」

 

「……それはどういうことですか?」

 

 自分の仕える家が馬鹿にされたことに、グレイフィアさんは冷たい殺気を纏う。

 その殺気に心の中では、震えあがるほど恐怖を感じるが、俺は一切そんな態度を見せることなく口を開く。

 

「だってそうじゃないですか。ゲームでのライザー・フェニックスの姿を見てなかったんですか? 自分より弱いイッセーを一方的に嬲っただけで、人間ごときと見下していた俺に一方的にやられただけじゃないですか? そんな奴が部長と結婚? ゲームの勝利一つ。いや、ただの人間一人に勝てない男が、旧家の名を継ぐに相応しい男なんですかね」

 

 悪魔社会のことは知らないが、上級悪魔であり名門なら、それなりのプライドを持ってると思ったんだけどな。

 

「……では、どうすれば納得いたしますか?」

 

 俺の話を静かに聞いていたグレイフィアさんが、少し考え事をしながら、そんなことを聞いてきた。

 俺はグレイフィアさんの言葉と、最後に見たイッセーとライザーの目を思い出して、あることを思いつく。

 

「……グレイフィアさん、魔王サーゼクス・ルシファーさまと話をさせてもらえませんか」

 

 俺はグレイフィアさんに無茶なお願いをする。

 だが、俺が今思いついたことを実行できるのは、この人ぐらいしか思いつかない。

 確かグレイフィアさんはサーゼクスさまの女王だったはず、話をすることぐらいはできるんじゃないか?

 しかし、グレイフィアさんは俺の言葉を聞いて難しい顔をする。

 

「サーゼクスさまはお忙しい御方です。そう簡単に……」

 

「まあ、いいじゃないか。グレイフィア、そのぐらいにしてあげよう」

 

 グレイフィアさんが言い終わるとほぼ同時に、何者かがそう言いながらドアを開けて部屋の中に入ってくる。

 部屋に入ってきたのは、どこか部長に似た面影をした紅髪の男。

 

「……サーゼクスさま」

 

 グレイフィアさん静かにその男の名を言う。

 サーゼクス、この人が部長の兄であり、魔王。

 

「突然すまないね、私が魔王サーゼクス・ルシファーだ」

 

「……佐伯楠緒です」

 

 魔王は優しげな微笑みを浮かべて、自分の名前を言う。

 俺も名前を言い返すと、サーゼクスさまは微笑みを止めて、俺の顔を見つめる。

 

「それで、なにやらグレイフィアとおもしろい話をしていたが、私になんの話かな?」

 

「聞いていたんですか?」

 

 俺は少し怪訝そうに聞き返す。

 

「悪いが全て聞かせてもらったよ。実はグレイフィアと共に部屋の前には来ていたんだ」

 

 全てということは、あの話も聞かれたのか、正直な気持ちだから悪いとは思ってないが……。

 

「キミの正直な気持ちは聞かせてもらったよ。すまないね。こんな試すようなことをして」

 

「いえ、俺の方こそ頭に血が昇って言い過ぎました」

 

「構わないよ。魔王としては許容できないが、キミの気持ちもわかる……だから教えてくれないか、私に話とはなにかな?」

 

 サーゼクスさまが真剣な眼差しで問い掛けてくる。

 ただ立っているだけのはずなのに、凄い迫力だ……これが魔王か。

 俺は迫力に負けないように、サーゼクスさまを見つめると、決心をして口を開いた。

 

「魔王サーゼクス・ルシファーさま。俺と契約を結んでください」

 

 俺は魔王に対して無謀なことを口にした。

 

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