転生悪魔になった特典の『言語』便利すぎ……。
親父から受け取った資料を読み始めて二日目の朝。
資料の内容をなんとか理解した俺は、その中に書かれていたPSIの制御方法を試すために、朝早くから一人で誰も居ない球技大会の練習をした場所まで足を運んでいた。
頭の中でPSIの制御方法を再確認しながら心を落ち着かせていく。
大丈夫だ。親父の研究を信じろ。あれの通りにやれば絶対に大丈夫だ……行くぞ!
「ふぅ……『バースト・ストリーム』」
一回大きく深呼吸をしたあと、一つ目の制御方法『バースト・ストリーム』を展開する。
俺から発せられるバーストエネルギーをイメージ通り自分の周囲に球体状に循環していく。
このバースト・ストリームをいう制御方法は資料によれば、これを行うことで体内で発生する物理的波動を外界へ逃がし、脳への負荷を軽減でき、これによって脳負荷に余裕ができるため、巨大なPSIエネルギーであってもコントロールする余地が生まれるというものらしい。
さてと、実際にバースト・ストリームの展開自体は家でも何回か練習して親父にも見てもらった。しかし、本番はここからだ。いくらバースト・ストリームを展開してもこれを制御できなければ意味がない。
俺はバースト・ストリームを展開したまま、その効果を実証するために暴王の月を発動する。前に出した俺の両手の間にバーストエネルギーが凝縮していき、あのときと同じような黒い球体が出来上がる。
「ぐッ!」
今にも暴れ出しそうな暴王の月を必死に抑え込む。
落ちついてイメージしろ。この今にも暴れ出しそうな巨大なバーストエネルギーをバースト・ストリームで自分の周囲に循環させろ。
次第に暴王の月から発せられるバーストエネルギーが抑えられていき、暴王の月が小さくなっていく。暴王の月の大きさが少し大きめのビー玉ぐらいの大きさになったところで、漸く落ち着いて暴王の月を発動できるようになってきた。
いける! PSIの消耗が激しくクラクラするが、頭の痛みはかなり軽い。
バースト・ストリームを使えば暴王の月――メルゼーの力をコントロール出来る!
要するにこいつは巨大なハンドルなんだ。人の小さな脳じゃあ、まったくコントロールの効かない巨大な動物を乗りこなす為の……。
俺は目の前に存在する小さい暴王の月を見つめながらそう考える。一つ目の制御方法が上手くいったことに安心しながら、暴王の月を消すと同時にバースト・ストリームの展開を止めてその場に仰向けで倒れこむ。
……すげぇ眠い。
この二日間一切寝ずにPSIの制御方法を特訓していた俺は、バースト・ストリームが上手くいった安心からか途轍もない睡魔に襲われる。
まあ今はそんなに寒い時期でもないし、このまま寝ても風邪をひくことはないよな。
そんなことを考えながら睡魔に負けた俺は、仰向けの状態のまま意識を無くすように寝始めた。
「……ぱい……ください」
「あぁ? なん……だ?」
いい気分で寝ていたのに誰かに身体を揺すられて起こされる。
「……おはようございます」
目を開けた先で塔城が俺の顔を覗き込むながら朝の挨拶をしてくる。
「お、おはよう」
どうしてこんなところに塔城がいるのか疑問に思いながら挨拶を返す。
「……早く起きて下さい」
そんなことを言いながら塔城が俺に手を差し伸べてくる。
「あぁ、わるいな」
そう言いながら塔城の手を掴んで、ゆっくりと身体を起こす。
ん~。地面で寝てたせいか身体が痛いな。
痛くなった身体を伸ばしながら今の状況を確認していく。
どうやら空が夕焼けに染まっているということは、あれから俺は夕方までずっとここで寝ていたようだ。うん。見事に授業を全部サボってしまったな。それにしても、全員揃いでなにかあったのか? なんか見たころない人まで居るし、それにしてもあの二人凄い恰好だな。緑のメッシュが入った青い髪の女性は長剣を栗毛の女性の方は日本刀のような剣を持っている。なにやら穏やかな状況ではないみたいだな。
「今日は部活に来ないと思ったら、こんなとこで寝てるなんてね」
「あ、あはは、やっちまいました。で、どうしてここに?」
呆れたように顔に手を当てる部長に気まずさに少し笑いながら質問をする。
「それは後で教えてあげるから、まずはこっちに来なさい」
『ちょっと待ってほしい』
部長に手招きをされたので、みんなの方に近づこうとしたら、緑メッシュの方の女性が少し前に出て話に入ってくる。
「えっと、なにか?」
『いや、キミは見たところ悪魔ではないようだが』
緑メッシュの女性は外国語でなにかを言いながら目を細めて俺を観察するように見てくる。
その視線に若干の敵意を感じるのは気のせいだろうか?
「……えっと、すいません。言葉がわからないんですけど」
『ああ、そうか。悪魔でないなら言語の力もないのか。まったく、面倒だな』
向こうの言葉が通じないことに気がついたのか、凄くめんどくさそうな表情を浮かべる。
いや、そんな顔されても困るんだけど。
「……これでいいか」
「えっ、ああ、はい。大丈夫です」
そんなことを考えていると、緑メッシュの女性は少し片言っぽい日本語で喋り始めた。
どうやら話そうと思えば、日本語でも話すことができるようだ。
俺は少し戸惑いながらも首を縦に振って答える。
「では、もう一度聞くが、キミは悪魔ではないようだな」
「俺は人間ですけど、それがどうかしたんですか?」
「そうか」
俺の答えに緑メッシュの女性はそれだけを言うと、手に持っている長剣を俺に突き付けられる。
「なんの真似だ」
俺を睨むように見つめる緑メッシュの女性の視線からは明確な殺意が漂ってくる。
どういうことだ? さすがにいきなり殺気を当てられるのは理解できないんだが。
緑メッシュの態度に俺は敬語を止めて睨み返す。
「なに、悪魔に魅入られて堕ちた輩を神の名の下に断罪しようとな。おまえのような罪深く、愚かな輩にも我らの神ならば救いの手を差し伸べてくれるはずだ」
「はぁ?」
俺と緑メッシュの間に一触即発の空気が流れ出す。
「お止めなさい。楠緒」
そんな空気の間に部長が割り込んでくる。
「いや、向こうから来ただけで俺はなにも」
「いいから。まったくイッセーといい、祐斗といい、あなたといい。どうしてこう面倒ばかり起こすのよ」
「イッセーと木場が?」
イッセーと木場の方を見ると、イッセーはなにかビクビクして落ち着きがなく、木場は特大の殺意を全身から発しながらこちら……いや、緑メッシュの方を睨んでいる。
「聞きなさい楠緒。彼女たちはね正式に派遣されてやってきたエクソシストなの、私たちと一緒にいるあなたを敵視するのは仕方ないわ。だからここは抑えてちょうだい」
エクソシストねぇ、それでさっき神がどうとか言ってたのか。
「……わかりました」
部長に言われて納得いかないが渋々引き下がる。
「あなたも彼に手を出さないでちょうだい」
「まあいいだろう。今回はこちらも退こう」
緑メッシュはそれだけを言うと長剣を下げて元いた位置に戻っていく。
「なんなんだよ……それで、なんでエクソシストがこんなところに居るんですか?」
「後にしようと思っていたけど、今からちゃんと説明してあげるわ」
こうして俺は部長の説明を聞くことになった。
なるほどな、エクスカリバーね。
部長の説明を聞き終わった俺は、イッセーと木場の決闘を眺めながらそんなことを考える。
どうりで木場があんなに殺気を出しながら緑メッシュ……ゼノヴィアだったか? あいつを睨んでいたわけか。それにしても、あいつ俺だけじゃなくアーシアに対してもあんなことを言ったのか。その場にいなかった俺がどうこう言える話じゃないが、それでも腹が立つな。
俺は部長の話の中にあったこの決闘が行われる経緯の内容を思い出して、木場と戦っているゼノヴィアを睨む。
信仰とかそういうのは他人に迷惑をかけないようにしろよな。これだから宗教は恐いんだよ。
そんなことを考えていると、別の場所で戦っていたイッセーがもう一人のエクソシスト紫藤イリナに対してスケベな表情を浮かべながらダイブで飛び込んでいく。イッセーのダイブと紫藤イリナのいる位置から嫌な予感がした俺は咄嗟に塔城とアーシアの前に移動する。結果紫藤イリナへのダイブを紙一重で避けられたイッセーが結界を飛び越えてちょうど俺が移動した位置にやってくる。
「いらっしゃ~い」
肩を掴んでイッセーを受け止めた俺は満面の笑みでイッセーを出迎える。
「く、楠緒。なんでそんなに笑顔なん――ぐふぅ!」
俺は焦っているイッセーに対してライズで強化したボディーブローを叩きこむ。
「たくっ、おまえはまた
ボディーブローのせいでイッセーは腹を押さえながら倒れ込み、俺は手の振って痛さを和らげる。
『Reset!』
イッセーのブーステッド・ギアの能力開放時間が終わり、イッセーの身体から倍増された力が消える。
「紫藤イリナって言ったか、わるいな。イッセーはここまでだ」
「えっ、あ、うん。って、あれ?」
あまりのぐだぐだな結果に紫藤イリナは理解が追いついてないみたいだ。
「わるいアーシア。イッセーの治療を頼めるか」
「は、はい。わかりました」
俺の声を聞いてアーシアが倒れているイッセーに駆け寄る。
さてと、そうこうしている間に木場の方も決着がつくみたいだな。
木場とゼノヴィアの方を見ると、ちょうど木場の巨大な魔剣をゼノヴィアの持つ『
『キミの武器は多彩な魔剣とその俊足だ。巨大な剣を持つには筋力不足であり、自慢の動きを封じることになる。破壊力を求める? キミの特性上、それは不要なものだろう? そんなこともわからないのか?』
ゼノヴィアは木場になにかを告げると、木場の腹部にエクスカリバーの柄頭を深く捩じり込む。
たったそれだけの攻撃なのにこっち側まで伝わってくる衝撃波からその威力の高さが窺える。
「ガハッ」
その一撃を受けた木場は口から吐しゃ物を吐き出し膝から崩れ落ちる。
『刀身での一撃でなくとも、今の打ち込みで当分は立ち上がれないよ』
ゼノヴィアはただ一言そう言うと、木場を一瞥して踵を返す。
「……ま、待て!」
地面に倒れたまま木場がまだ負けてないと必死にゼノヴィアに手を伸ばすが、勝敗はもう誰が見ても明らかなものだった。
戦いの終わりを告げるように姫島先輩が張っていた結界を解く。
『先輩、次はもう少し冷静になって立ち向かってくるといい。リアス・グレモリー、先程の話、よろしく頼むよ。それと、下僕をもう少し鍛えた方がいい。センスだけ磨いても限界がある』
そうなにかを忠告してくるゼノヴィアに対して木場は憎々しげに睨みつけている。
ゼノヴィアは木場の視線を無視してイッセーの方に視線を移す。
『そちらの赤い龍の方に言おう――『
ゼノヴィアがイッセーになにを言っているのかはわからないが、一つだけ聞きとれた名前があった。
――バニシング・ドラゴン。
その名前を聞いてイッセーは驚いたようだが、イッセーとバニシング・ドラゴンになんの関係があるんだ?
『いずれ出会うだろうが、その調子では絶対に勝てないだろうね』
ゼノヴィアはそう言うと、最後に俺の顔を見て口を開く。
「それと、そっちにも言っておこう。これは忠告が命が大切ならすぐに悪魔との縁を切って、我らの神に懺悔することだ」
「なっ!」
部長たちとの縁を切れだと? ふざけやがって!
ゼノヴィアはそう言い終わると、持ち物を手にその場をあとにする。
部長に迷惑をかけないようにするため、俺は詰め寄りたい気持ちを抑え黙って歩いていくゼノヴィアの背中を睨みつける。
「ちょっと待ってよ、ゼノヴィア。じゃあ、そういうことでイッセーくん。裁いて欲しくなったら、いつでも言ってね。アーメン」
紫藤イリナは胸の前で十字架を切りながらイッセーにウインクをすると、早足でゼノヴィアのあとを追いかける。
こうしてエクソシストとの決闘は、イッセーは俺の介入で微妙な結果になってしまったが、木場の方は完敗という結果に終わった。
「大丈夫か。イッセー?」
エクソシストとの決闘が終わったあと、俺はアーシアに治療してもらっているイッセーに話しかける。
「ああ、てか、いきなり殴ることはないだろ」
「わるかったって、おまえがアーシアと塔城に洋服破壊を使うところだったてのもあるけど、あのままやっても聖剣に斬られてただろうから、それよりはましだったと思ってくれ」
「い、いや、あれは向こうが避けるからで……」
エロの権化たるイッセーでも、少しは悪かったと反省しているのか少し口ごもりながら反論してくる。
「……あと一段階神器の倍加をあげていれば、勝てたかも」
そんなイッセーに俺の隣で決闘の様子を見ていた塔城が言う。
確かに塔城の言うことは理解できる。見る限りでは紫藤イリナの方もそこまで余裕があったわけではない。最後の洋服破壊に関していえば本当に紙一重でかわしたと言ったところだった。
「……それがわからないのは修行と実践不足。あと、エロすぎです。どスケベ先輩」
塔城に痛いところ突かれたイッセーがバツのわるそうな表情を浮かべる。
「待ちなさい! 祐斗!」
そうしていると横から部長が木場を制止の声が聞こえてくる。
なにがあったのかと、俺たちがそちらの方に顔を向けると、その場を立ち去ろうとする木場と激昂している部長の姿があった。
ど、どうしたんだ一体?
「私のもとを離れるなんて許さないわ! あなたはグレモリー眷属の『騎士』なのよ。『はぐれ』になってもらってわ困るわ。留まりなさい!」
「……僕は、同志たちのおかげであそこから逃げだせた。だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ……」
木場はそれだけを言うと、この場から消えるように立ち去る。
木場、おまえは……。
「祐斗……どうして……」
……一人で全部抱え込むなよ。おまえは俺たちの仲間じゃなかったのかよ。
俺は部長の悲しそうな表情を見つめながら、立ち去った木場のことを考えていた。