さて、これは一体どういう状況なんだろうな。
『うまい! 日本の食事はうまいぞ!』
「うんうん! これよ! これが故郷の味よ!」
俺の目の前で先日俺たちの前に現れたエクソシストの二人が、一心不乱にファミレスで注文したメニューをガツガツと腹に収めていく。
余程腹が減っていたのか、ゼノヴィアは母国語で喋っていてなにを言っているのかわからない……まあ、だいたいは予想できるからいいけど、それにしてもゼノヴィアの方はまだわかるが。紫藤イリナ、おまえはファミレスの味が故郷の味でいいのか?
俺はその見事な食べっぷりに呆れながらどうしてこうなったのかを思い出す。
木場が俺たちの前から立ち去った次の休日。俺はとある目的のためにこの二人のことを探していた。
さすがに極秘任務中のエクソシストを町中で見つけるのは簡単にはいかないと思っていたんだが……まあ、超能力者である俺にそんな常識は通用しない。
ちょうど練習代わりに生み出したPSIが探し物にはよかったので、それを使ってさっさと二人を見つけたのだ。
けど、本当の問題は二人を見つけたあとだった。
俺が町でこの二人を見つけたときには、二人とも白ローブを着て路頭で祈りを捧げている場面だった。
あまりの目立ちようにPSIを無駄使いした感じになってしまったが、よく見ると二人ともなにやら相当困っている様子だった。
そのあと少しの間二人の様子を観察していると、どうやら紫藤イリナが絵画を購入にて路銀を全て使ってしまったらしい。
そのまま様子を見ていると、遂には顔をぶつけながら喧嘩を始めたり、エクスカリバーを使って大道芸を始めようとするじゃないか。
先日出会ったときは、エクスカリバー使いとして威厳のようなものを感じられたが、あんな姿を見てしまったらなぜか空しい気持ちになってしまった。
結局、そんな二人の姿に耐えられなくなった俺がわざとらしく食事に誘って、こうして二人とファミレスに来たわけなのだ。
まあだいたい俺の予定通りに行ったと言ってもいいだろう……ただ一つの誤算を除いて。
俺は前の二人から視線を外し、隣に座っている誤算の方を見る。
「……なんですか?」
俺の隣に座ってジュースを飲んでいた塔城が怪訝そうな表情で聞いてくる。
俺のただ一つの誤算が二人を見つける前に、町で偶然塔城と出会ってしまったことだ。
ただ偶然出会っただけなら問題なかったのだが、なにをしているのか聞かれたときに少し動揺してしまったのが間違いだった。
俺の様子からなにか企んでいると勘ずいた塔城は、俺の服をガッチリと掴み離さなくなったしまったのだ。
本気を出せば引き剥がせないこともなかったが、そんなことをしては余計に怪しまれるのでこうして一緒に行動する羽目になってしまった。
そんな塔城は俺から視線を外すと、少し納得いかない様子で食事をする二人を見ている。
「ふぅー、落ち着いた。まさかおまえに救われるとは、世も末だな」
「俺だってこんなことになるなんて思ってなかったよ」
食事を終えたゼノヴィアに俺は溜息を吐きながら答える。
まったく、二人だけでどんだけ食ったんだよ?
「はふぅー、ご馳走さまでした。ああ、主よ。心やさしき人にご慈悲を」
紫藤イリナの方は食べ終わったあと、胸の前で十字を切っている。
「で、私たちに接触した理由は?」
水を飲んで一息をついたゼノヴィアが改めて俺に聞いてくる。その姿には先程までの隙が感じられない。
いきなり切り出してくるか。まあ、普通に考えればそうなるよな。
「ああ、聞いた話だとおまえたちはエクスカリバーを、最悪破壊してでも奪還するためにこの国に来たんだよな?」
「そうだ。だが、それが人間であるおまえになんの関係がある」
ゼノヴィアは棘のある言い方だが、食事をして落ち着いているのか先日のような敵意は感じられない。
「エクスカリバーの破壊に協力したい」
俺の告白に前の二人はともかく、塔城まで目を丸くして驚いている。
「……フッ、なにをバカなことをただの人間のおまえになにができる」
ゼノヴィアは俺の告白に鼻で笑いながらそう答える。
確かに俺の力を知らない奴からしたら、なんの力も持たない人間がなにを言ってるんだという話しだろう。
「なら力を見せればいいんだな」
そう宣言して俺はゆっくりと前の二人に手を伸ばす。
「フッ……ッ! なんだこれは!?」
「うそッ! 身体が動かない!?」
ゼノヴィアと紫藤イリナは最初は無造作に手を伸ばす俺をバカにする目を向けたが、その目は一瞬で驚愕に変わった。二人は必死に身体を動かそうとするが、その身体はなにかに拘束されているかのようにビクともしない。
無駄なことだ。俺が手を伸ばし始めたときには既にバーストエネルギーで造り出された鎖が二人の動きを拘束している。
俺はそのまま先程までゼノヴィアが使っていたナイフを掴むと、交互に二人の首にナイフを軽く当てる。
「これでどうだ? 普通の人間よりは力になると思うぞ?」
俺はそう言って二人からナイフを離して、拘束を解除する。
身体が自由になった二人は顔を見合わせてなになら相談を始める。
「……どういうことですか?」
俺が静かに二人の答えを待っていると、先程まで黙っていた塔城がそう聞いてくる。
「どういうもなにも言った通りだ。俺はエクスカリバーを破壊する」
「……祐斗先輩のことですよね?」
……はぁ、この後輩はどれだけ勘がいいんだ?
「……ああ。まったく、本当なら誰にも言うつもりはなかったんだけどな」
誤魔化しようがない俺は素直に負けを認めて塔城に答える。
「だからおまえも嫌ならこれ以上関わるな。部長にばれたら大変だからな」
「……嫌です」
俺の言葉に塔城は真っ直ぐ俺の顔を見ながら拒絶する。
「わたしも協力します。仲間のためです」
塔城はハッキリと強い眼差しでそう言ってくる。
「……それに佐伯先輩を一人にしたら、またとんでもない無茶をしそうです」
「こればっかりは性分だからな。そう簡単に治りそうにねぇな」
「そろそろいいだろうか?」
塔城の言葉に笑って答えると、相談を終えたゼノヴィアが話しかけてくる。
「ああ、わるい。それでどうだ?」
「キミの話を受けよう」
ゼノヴィアから出てきた言葉は意外なものだった。
協力を得られる可能性は低いと考えていたが、まさかこうも簡単に了承してもらえるとは思わなかった。
「意外だな。てっきり悪魔に魅入られた人間の言うことなんて聞かないと思ったんだが」
「私の信仰は柔軟でね。いつでもベストな形で動き出す。キミのその不可思議な力が協力をするのに値すると考えたまでだ」
なるほど、どうやらPSIを実際に使って見せたことが利いたらしい。
「紫藤イリナ。おまえの方もそれでいいのか?」
「ええ、もう勝手にしてちょうだい」
若干諦めた空気を醸し出しながら紫藤イリナも了承してくれる。
「商談成立だな。じゃあちょっと待っててくれ。あと何人か戦力があった方がいいだろ?」
俺はゼノヴィアにそう告げてケータイで、ある人物たちに連絡を入れた。
「……話はわかったよ」
木場は俺から事情を説明され嘆息しながらもコーヒーに口をつける。
最初の方は呼んでも渋っていたが、エクスカリバー使いと一緒にいると言うと、素直にファミレスに来てくれた。
「それにしても、楠緒も同じこと考えてたなら相談ぐらいしてくれよ。おかげで無駄に町中を捜したじゃねぇか」
一緒に呼んだイッセーはジュースを飲みながら文句を言ってくる。
「わるかったって、塔城にばれる前までは一人でつもりだったんだよ。で、匙だったっけ? なんでおまえまでいるんだよ?」
俺はイッセーに対して謝ったあと、イッセーの隣で今にも死にそうな顔で項垂れている匙に問い掛ける。
こいつ俺の話を聞いてからずっとこんな様子だけどどうしたんだ?
「知らねぇよ。そんなこと俺が聞きたいわ! なんで関係のない俺がこんな危険なことに協力しなけりゃあいけないんだよ!」
匙はぶつぶつと文句を言いながら机を叩く。
「イッセー、どういうことだ?」
匙に聞いても答えてくれないので、俺は諦めてイッセーに聞いてみる。
「いやー、出来る限り戦力は居た方がいいと思って、俺が知っている悪魔で協力してくれそうなのがこいつぐらいだったもんで」
「ふざけんなぁぁぁ! 俺がてめぇの協力なんてするわけねぇぇぇだろぉぉぉ! 最初からおかしいと思ってたんだよ! いきなり駅前に来てくれなんて言われて、あぁぁ、なんで俺は素直にこいつの誘いに乗っちまったんだよぉぉぉ!」
イッセーの言葉を聞いた匙が号泣しながら叫ぶ。
最初会ったときは気に入らない奴と思ったが、今の姿を見ると根はいいヤツではないかと思えてしまう。
「ま、まあなんだ。危ないと思ったら逃げろよ」
「そう言うなら今すぐ逃げさせろぉぉ! 最悪だ! エクスカリバー破壊なんて勝手なことをしたら、会長に殺される! おまえだって会長と知り合いならあの人の厳しさを知ってるだろうがぁぁぁ!」
匙が今度は俺に泣きついてくる。
確かに会長の厳しさは去年に嫌なほど体感しているが、こうなったら少しでも戦力が欲しい。
俺は心の中で匙に悪いと謝る。
「さて、それじゃあ全員揃ったところでエクスカリバー破壊の計画でも立てるか」
未だに騒ぐ匙のことはとりあえず置いといて、俺は話を進めていく。
「そうだね。正直に言うと、エクスカリバー使いに破壊を承認されるのは遺憾だけどね」
ようやく本題に入ろうとしたところで、木場がゼノヴィアと紫藤イリナに噛み付く。
「随分な言いようだね。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で切り捨てているところだ」
睨み合う木場とゼノヴィア。いつ殺し合いが起こってもおかしくない空気が二人の間に流れる。
おいおい、協力するって言ってる傍からなにやってるんだよ。
「木場、気持ちはわかるが今は抑えてくれ。やるなら話し合いが終わったあとにしてくれ」
俺の説得に渋々といった様子で木場が退いてくれる。
やれやれ、前途多難だな。こんな調子で大丈夫だろうか。
その後、俺たちはお互いに知っている情報を話していった。
ゼノヴィアと紫藤イリナからは、例の『聖剣計画』の責任者の名前。
――『皆殺しの大司教』バルパー・ガリレイ。
この名前を聞いたとき木場の瞳には新たな決意のようなものが生まれていた。今までわからなかった明確な目標を知れただけでも木場にとっては大きな前進だったのだろう。
そして、木場からはこの街に潜伏するエクスカリバーを持った敵の名前。
――フリード・セルゼン。
俺は直接の面識はないがイッセーたちは別だろう。
あのアーシアの件で敵対したはぐれエクソシストだ。
俺にはドーナシークの記憶にあったことと、イッセーたちから話に聞いた範囲でしか知らない。
まあ、イッセーの話では相当なクソ神父だったらしいけどな。
ゼノヴィアと紫藤イリナの方もフリード・セルゼンのことを知っていたらしく、二人の話では相当な危険人物のようだ。
一通り話し終えたあと、ゼノヴィアから連絡先の書いたメモを受け取ったあと、一先ず今回の話し合いは解散となった。
二人が去っていくのを見送ったあと、なんとか上手くいった安心から大きく息を吐く。
どうやら他のみんなも似たような気持ちなのか、それぞれ俺と似たような様子だ。
「……佐伯くん。どうして、こんなことを?」
木場が静かに聞いてくる。
「別に、おまえには一回だけ俺の願いを聞いてもらったことがあったからな。今度は俺の番かなって思っただけだよ。イッセーも似たようなことを考えてたみたいだしな」
「僕が下手に動けば部長に迷惑がかかるから――。それもあるんだよね?」
「さあ、どうだろうな? まあ、俺は部長に迷惑をかけることは慣れてるからな。二度あることは三度あるってやつだ。それになおまえの心配をしてたのはなにも俺とイッセーだけじゃないんだぞ」
「えっ?」
俺の言葉を聞いて木場が不思議そうな顔をする。
なんて顔をしてるんだ。部長や姫島先輩だって木場のことは心配してるだろうし、それに何よりさっきから俺の横で黙っている後輩が一番心配してただろうしな。
「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは……寂しいです」
いつも無表情は塔城が少しだけ寂しげな表情を浮かべる。
あのときもそうだったが、いつも無表情の分ちょっとした表情の変化でもその威力は跳ね上がる。
「……お手伝いします……だから、いなくならないで」
塔城の訴えは横で聞いていた俺たちにも響く。
「どうすんだ? 学園の王子様が可愛い後輩にここまで言われて」
茶化すような俺の問い掛けに木場は困惑しながら苦笑いをする。
「ははは。まいったね。小猫ちゃんにそんなこと言われたら、僕も無茶はできないよ。わかった。今回はみんなの好意に甘えさせてもらおうかな。みんなのおかげで真の敵もわかったしね。でも、やるからには絶対にエクスカリバーを倒す」
木場のやる気に満ちた発言。しかもその表情からは前までの恐い雰囲気を感じない。
どうやら、少しだけ元の木場に戻ったみたいだな。
「よし! 俺らエクスカリバー破壊団だ! がんばって、奪われたエクスカリバーとフリードのクソ野郎をぶっ飛ばそうぜ!」
気合が入ったのは木場だけではなく、イッセーも気合十分といった感じで立ち上がりそう宣言する。
しかしイッセーよ、さすがにエクスカリバー破壊団はダサいと思うぞ。
まあ、この場でそんな空気を読まない発言はしないけど。
「……あの、俺も?」
全員がエクスカリバー破壊に気合が入っているなか、匙一人だけが乗り気ではなく、手をあげてそんなことを聞いてくる。
「つーか、結構俺って蚊帳の外なんだけどさ……。結局、なにがどうなって木場とエクスカリバーが関係あるんだ?」
そういえば、こいつはイッセーが無理矢理連れてきただけで、木場とエクスカリバーの関係なんてなにも知らないんだよな。
匙がこういう反応をするのも当然だよな。
「……少し、話そうか」
匙の疑問にこたえるかのように、木場がコーヒーに口をつけたあと、自分の過去を語った。
その内容は当事者だからこそ語ることができる悲惨さと酷さがあった。
自分たちは神に愛されていると信じ込まされた少年少女は、来る日も来る日も非人道的な実験を繰り返し、ひたすら『その日』が来ることを待ち焦がれた。
特別な存在に、聖剣を使える者になれると信じて……。
しかし、そんな実験に耐え続けた木場たちを待っていた結果は『処分』という現実だった。
木場たちは聖剣に適応することができなかったのだ。
「……皆、死んだ。殺された。神に、神に仕える者に。誰も救ってはくれなかった。『聖剣に適応できなかった』、たったそれだけの理由で、少年少女たちは生きながら毒ガスを浴びたのさ。彼らは『アーメン』と言いながら僕らに毒ガスを撒いた。血反吐を吐きながら、床でもがき苦しみながら、僕たちはそれでも神に救いを求めた」
俺たちはみんな無言で木場の語りを聞く。
研究施設からなんとか逃げ出せた木場だが、もはや体を蝕む毒によって死ぬ寸前。そんなときにイタリアに視察に来ていた部長と出会い、いまここに至る。
「同志たちの無念を晴らしたい。いや、彼らの死を無駄にしたくない。僕らは彼らの分も生きて、エクスカリバーよりも強いと証明しなくてはいけないんだ」
木場の語りが終わったあと、俺たちの間に静寂が訪れる。
予想以上に凄まじい過去だ。俺も超能力で過去に色々あったがそれとは比べることなんてできないだろう。
俺は一人だったが、木場には背負っている者がある。
木場とは性質の違う過去を持つ俺では、木場の苦しみを完全に理解することはできないだろう。
「うぅぅぅぅ……」
そんな中、どこかからすすり泣く声が聞こえてくる。
俺はすすり泣く声が聞こえる匙の方を見ると、匙は本気で号泣していた。
ファミレスだというのに鼻水まで垂らして大泣きしている。
そのまま匙は木場の手を取り、本気の想いをぶつける。
言っていることは色々とアレだが、その言葉から匙の人の良さが伝わってくる。
どうやら、いいヤツなんじゃないかと思ってたが、本当にいいヤツだったみたいだな。イッセーがこいつを連れてきたことは間違いじゃなかったようだ。
「よっし! いい機会だ! ちょっと俺の話も聞いてくれ! 共同戦線張るなら俺のことも知ってくれよ!」
匙は気恥ずかしそうにしながらも、目を爛々と輝かせて自分の目標を大声で語る。
その内容は会長とデキちゃった結婚をするという馬鹿馬鹿しいものだったが、なにやらイッセーの琴線に引っかかったらしく兵士同士でなにやら意気投合している。
二人について行けない俺と木場と塔城は少し離れて呆れる。
「……ありがとう」
呆れながらイッセーたちを眺めていると、不意に木場がそんなことを言ってくる。
「別に礼を言われることなんてしてないさ。俺がそうしたいから勝手にやっただけだ」
「フフッ、そうかい」
俺の返答を聞いて木場が小さく笑う。
「なあ、木場」
俺はその流れのまま木場に話しかける。
「おまえがいくら遠ざけようとしても、俺は逆にグイグイおまえに近づいていくぜ。俺が言うのもなんだが、一人で抱え込むなよ。最初に俺のことを仲間って言ったのはおまえなんだからな。言ってなかったが、俺はそこらの女よりも重いタイプだからな」
最後の方は気恥ずかしさを誤魔化す為に冗談を交えて、木場に俺の想いを伝える。
「そうか。それは大変だね。気をつけないと」
木場が笑顔を浮かべ答える。
その後はイッセーと匙が未だに号泣し合い、自分の魂をぶつけ合うのを少し離れた位置で眺める。
こうしてイッセー命名『エクスカリバー破壊団』が結成された。