エクスカリバー破壊団を結成して数日後。
俺は自分の席に座って溜息を吐いていた。
イッセーも俺と同じ様子で難しい顔をして溜息を吐いている。
あの日から連日、夕方にエクスカリバーの探索をしているのだが、正直結果は上手くいってない。
ゼノヴィアと紫藤イリナを見つけたPSIも使ってみたが、相手が巧妙に隠れているのか上手く見つけることができない。
教会の追手である神父を襲っているという情報があったので、ゼノヴィアから貰った、魔の力を抑える神父服を着て町を探索したり、フリードが悪魔を呼び出す人間を殺したことを利用して、俺が悪魔に魅入られているアピールをしながら町を探索したが、全て無駄に終わってしまった。
正直早くしないと部長にバレてしまうかもしれないので、出来ることなら早く見つけたいんだが、こればかりはどうしようもない。
「どうしたんだい、同士佐伯よ? 最近、昔のような顔をしていることが多いじゃないか」
どうすればいいか考えていると、松田が話しかけてきた。
「だから同士って言うな! てか、マジか。最近、色々困ったことがあってな。気をつけないとな」
松田の忠告を受けた俺は指で眉間をほぐす。
「で、なんのようだ?」
「ああ、例のボウリングとカラオケをする会合についてなのだが、どうなのだ?」
松田の言葉を聞いて、そんな計画を立てていたことを思い出す。
そういえば、いつもの俺たち四人に加え、アーシア、クラス女子でありアーシアの友達の桐生、さらには木場と塔城を加えて、休みの日に半日遊び倒す計画を立てていたのだ。
最近色々あってすっかり忘れていた。
「わるいな。木場と塔城はイッセーが誘ってるから、イッセーに聞いてくれるか?」
「おお、そうなのか! わかった。では、早速イッセーに聞いてみようではないか」
そう言って松田はイッセーの席に歩いていく。
どうやら俺の方も余裕がなかったみたいだ。反省しないといけないな。サンキューな、松田。
心の余裕の無さを気づかせてくれた松田に心の中で礼を言って、心を休めるため席でボーっとする。
ボーっとしていると、イッセーの方からスパンと気持ちのいい音が聞こえてきた。
いい音が鳴ったなー……ああ、音の正体は桐生か。
イッセーたちの方を見るとメガネ女子の桐生が不機嫌そうに眉を吊り上げて元浜を睨んでいる。
あいつらは相変わらず仲が悪いな。
そのままその様子を見守っていると、桐生の不敵な笑みとほぼ同時にイッセーと松田と元浜が両手で股間を隠す。
なにをやってるんだあいつらは?
イッセーたちのよくわからない行動を眺めていると、しばらくして松田が号泣しながら俺の席に戻ってくる。
「うおぉぉぉ! 同士佐伯よ! 桐生の奴が! 桐生の奴がぁぁぁ!」
「煩い! 泣くな気持ち悪い。桐生がどうしたんだよ?」
泣きついてくる松田を必死に引き離す。
まったく、さっきの感謝を返してくれ。
結局、俺のその後の休み時間は松田の相手をすることで終わってしまった。
その日の放課後。表の部活を俺たちは今日もフリードを誘い出す為、神父服を着て町中を歩き回った。
今日こそはと意気込むものの結果は残酷なもので、いつの間にか空は夕焼けに染まっていた。
「ふぅ、今日も収穫なしか」
匙が気落ちした様子で呟く。
最初はあれほど嫌がっていたのに、今となっては一番気合が入っている。
まあいいヤツなんだと思う。イッセーとも大分仲良くなったみたいだしな。
そんなことを考えていると、嫌な気配を感じる。どうやら木場もなにか勘づいたのか歩みを止めている。
「……祐斗先輩」
塔城も俺たちと同じようになにを感じ取ったようだ。
その瞬間、どこかから誰かが俺たちに殺気を飛ばしてくる。
どうやら、漸く目当ての人物が現れたみたいだな。
「上だ!」
匙の叫びと共に俺たちが上空に目を向けると、長剣を構えた白髪の神父が俺たちに向かって降ってくる。
あいつがフリード・セルゼンか……。
『神父の一団にご加護あれってね!』
落下しながら斬りかかってくるフリードに対して、木場が素早く魔剣を取り出してその一撃を防ぐ。
「フリード!」
『おやっ! その声はイッセーくんかい? へぇぇぇぇ、これはまた珍妙な再開劇でござんすね! どうだい? ドラゴンパゥワーは増大してるかい? そろそろ殺していい?』
俺にはイッセーたちとは違い『言語』の力を持っていないから、こいつがなにを言っているのかわからないが、その様子から相当イカレたやろうってのは理解できる。
そして、あいつの持っている長剣が奪われた聖剣エクスカリバーの一本か。確かにあの二人が持っていたエクスカリバーと似たような力を感じる。
俺たちは神父服を脱いでいつもの制服姿になる。
ちょっとの間だけでも、こいつと同じ格好なんて勘弁だからな。
『おやおやぁ? それによく見れば、悪魔さんたちだけではなく。普通の人間が混じっているではあーりませんかぁ? まあしかし、どうやら悪魔と一緒にいるようですし、そんな人間は殺さなくてはいけませんねェ! それじゃあ早速、このエクスカリバーの錆となって、死んじゃってくださぁぁぁぁい!』
フリードが長々と喋ると、狂った笑みで俺に向かってエクスカリバーで斬りかかってくる。
「楠緒! クソッ! ブーステッド・ギア!」
『Boost!』
「伸びろ、ラインよ!」
俺に襲いかかるフリードに対して、イッセーと匙がそれぞれの神器を使い事前の打ち合わせ通りに動き出す。
どうやらフリードは悪魔に魅入られた人間も嫌いみたいだからな。フリードが現れたら狙われるのは俺か因縁のあるイッセーだと考えていた。
イッセーはその後のサポートのために譲渡するための力を高め。匙は神器らしい手の甲に装着されたデフォルトされたトカゲの顔らしきもの口から黒く細い舌を伸ばす。
あれが匙の神器か話を聞く限り、相当自信があるみたいだが一体どんな能力なんだ?
『うぜぇっス!』
フリード・セルゼンはその触手を聖剣で薙ぎ払おうとするが、聖剣が触れる直前で舌が軌道を変えて聖剣をかわす。
そのままフリードの右足に張り付き、ぐるぐると巻きついていく。
フリードは俺に襲いかかるのを止めて聖剣で舌を斬ろうとするが、舌は聖剣をすり抜けてまったく効いていない。
「そいつはちょっとやそっとじゃ斬れないぜ。木場! これでそいつは逃げられねぇ! 存分にやっちまえ!」
なるほど、あの舌には相手を拘束する力があるらしい。まずは相手の機動力を削ぐとは、なかなかやるな。
「ありがたい!」
木場が一気に攻めていくのを確認して俺も打ち合わせ通り援護ができる位置に移動する。
今回エクスカリバーと戦うのは木場だ。俺たちは木場が戦いやすいように援護するのが役目となっている。まあ、危険になったら全員でいくんだがな。
俺が援護しやすい場所に移動したときには、破砕音を鳴らし木場の二本の魔剣が砕け散る。
流石は七本に別れているとはいえ、聖剣の代名詞と言ってもいいエクスカリバーだ。その力は本物ということだろう。木場の魔剣が一振りで破壊されている。
「木場! 譲渡するか?」
「まだやれるよ!」
木場がイッセーのサポートを拒否するが、その声には若干の苛立ちが感じられる。
自分の魔剣がまたエクスカリバーに負けたことが木場のプライドを傷つけてしまったのかもしれない。
その後、飛び出してくるフリードに対して、木場が幅広い魔剣で受け止めようとするが、青白いオーラを纏った聖剣の一撃はその魔剣も一振りで打ち砕く。
間髪入れないフリードの二撃目が木場に襲いかかる。
「させるか!」
木場が危ないと判断した俺は、ファミレスでゼノヴィアたちにやったようにバーストエネルギーで鎖を造り出し、フリードを腕を拘束する。
『うおぉぉっと? なんですかこれはぁ? てめェの仕業かクソ人間がぁぁぁぁ!』
フリード・セルゼンは最初は驚くが、俺がやったことに気がつくと、俺に対して激昂している。
「アイキャンノットスピークイングリッシュ。おっと、おまえが喋ってんのは英語じゃないあ。わりぃ、なに言ってんのかわかんねぇや。今だ木場!」
俺は盛大にフリードをバカにしたあとで木場に指示を出す。
「……わかった!」
木場は一瞬だけ複雑そうな表情を浮かべるが、即座に魔剣を生み出しフリードに襲いかかる。
『チィ! やってくれるじゃあーりませんかっと!』
フリード・セルゼンは手首だけで聖剣を投げ逆の手で掴むと、再び一振りで木場の聖剣を粉砕する。
イカレてるのは性格だけじゃなくて、技術もってことか。
今ので決められなかった俺は動揺からイメージが乱れ、フリードを拘束している鎖が消滅してしまう。
『おやぁ? さっきまで俺の腕を縛っていたなにかが漸く消えてくれやがりましたねェ。けど、また同じことされるのも気に喰わないんでぇぇっ! こういうのはどうでしょうかぁぁぁ?』
フリード・セルゼンはそういうと凄まじい速度で動きまわる。
クソッ、駄目だ。目で追うことはできても、さすがにあの速さを捉えられる操作はまだできない。
再び同じように拘束しようと考えていた俺は、すぐさまその考えを捨てる。
木場は即座に新たな魔剣を生み出してフリードを捉えるように動き出す。
神速といえる速度で木場は動くが、フリードも木場と同じぐらいの速さで動きまわる。
なんだあの速さは? 俺が言うのもなんだが、あいつ本当に人間か?
「こうなったら仕方がねェ! 木場ぁぁぁぁ! 譲渡すっからなぁぁぁぁ!」
『Transfer!!』
木場とフリードの攻防を見ていたイッセーが、遂に痺れを切らしたのか木場にドラゴンの力を譲渡する。
木場の全身からオーラが迸り、大量の魔力が流れたことが見てわかる。
「……もらった以上は使うしかない。『
木場の神器の解放と共に周囲一体に魔剣の刃が咲き誇る。
『チィィィ!』
フリードは舌打ちをしながら、自分に向かってくる魔剣の刃を横薙ぎに破壊していく。
しかし、あまりに大量の刃のためかフリードの足がその場で止まる。
その一瞬生まれた隙を木場が逃すはずがなく先程よりも速く縦横無尽に駆け回り、地面から生える魔剣を抜いてはフリードに目掛けて放っていく。
『うっは! これはおもしろいサーカス芸だね! この腐れ悪魔がぁぁぁ!』
フリードは木場の姿をしっかりと目で捉え、狂気に彩られた表情を浮かべながらエクスカリバーで飛んでくる魔剣を撃墜していく。
『俺さまのエクスカリバーは『
フリードの持つエクスカリバーの剣先がブレ始め、凄まじい速度で周囲の魔剣を破壊していく。
あれがあのエクスカリバーの力か、担い手の速さを上昇させる力があるのか?
周囲の魔剣を破壊し尽くしたフリードはその速さで木場に襲いかかる。
「駄目か!」
木場の両手に持っていた魔剣が破壊され、木場に致命的な隙が生まれてしまう。
『死・ね』
愉快そうな表情の浮かべるフリードの凶刃が木場に襲いかかろうとした間際、フリードがなにかに引っ張られるように体勢を崩す。
「へっ! どうだ! これが俺の神器『
なるほどあの神器には動きを拘束するだけではなく、相手の力を吸収する力まであったのか。
随分と便利な神器だな。
『……ドラゴン系の神器か! 一番厄介な系統だねぇ! 初期状態は大したこと無くても、成長したときの爆発力が他系統の神器と違って段違いに凶悪だから怖い怖い。まったく、忌々しいことこの上ないってね!』
そうなにかを言いながらフリードが匙の神器を振り払おうとするが、先程と同じように聖剣は匙の神器をすり抜けて効果がない。
どうやらあの舌は実体があるわけではないみたいだな。
「木場! 文句言ってられない! とりあえず、そいつを倒せ! エクスカリバー問題はその次でいいだろう! こいつ、マジで危ねぇ! こうして敵対してるだけで危ない気をビシビシ感じるしよ! このまま放置してたんじゃ、俺や会長まで害がありそうだ! 俺の神器で力を吸収させて弱らせるから、一気に叩け!」
フリードの危なさを実感した匙が、神器を発動させ続けて木場に提案をする。
正直、いい提案だ。こういうタイプは早いうちに始末した方がいい。
木場は自分の手で勝てなかったことが気になるのか一瞬だけ、また複雑そうな顔をするが、すぐに決意を決めた顔で魔剣を生み出す。
「……不本意だけど、ここでキミを始末するのには同意する。奪われたエクスカリバーはあと二本ある。そちらの使い手に期待させてもらう」
『ハッ! 他の使い手さんより俺さまの方が強いんだぜ? つまりだ! 俺を五人がかりで倒した瞬間、満足な相手は居なくなるってことでございますよ! いいんかい? 俺を殺したら満足できる聖剣バトルはなくなるぜ?』
不敵な笑みでなにかを言うフリードの言葉を聞いて、木場が目元を引きつらせて攻撃を躊躇する。
なにをやってるんだ木場! フリードの奴になにを言われたんだ?
『ほう、『魔剣創造』か? 使い手の技量次第では無類の強さを発揮する神器だ』
木場がフリードへの攻撃を躊躇しているそのとき、関係のない場所から第三者の声が聞こえてくる。
俺たちがその声の方を見ると、そこには神父服を着た初老の男が立っていた。
誰だあの男は? 神器のことを知っているということはただ者じゃないよな。
『……バルパーの爺さんか』
どうやらフリードはその男のことを知っているのか、男の顔を見ながら声を出す。
フリードの言葉の意味はわからないが俺はその言葉の中から聞き取った単語に驚愕する。
フリードは今あの男を見てバルパーと言ったのか? そうしたらあの男が『聖剣計画』なんてふざけた研究を行った張本人バルパー・ガリレイか。
なるほど、奪われたエクスカリバーに聖剣計画によって処分され堕天使側に堕ちた責任者。部長の話では聖剣を奪ったのは堕天使だと聞いていたが、考えてみれば繋がっていてもおかしくない組み合わせだったな。
「……バルパー・ガリレイッ!」
木場も憎々し気に男を睨んでいる。
『いかにも』
男――バルパー・ガリレイは木場の言葉に肯定するような仕草を取る。
『フリード。なにをしている』
『じいさん! このわけわからねぇトカゲくんのベロが邪魔で逃げられねぇんスよ!』
『ふん。聖剣の使い方がまだ十分ではないか。おまえに渡した『因子』をもっと有効活用してくれたまえ。そのために私は研究していたのだからね。体に流れる聖なる因子をできるだけ聖剣の刀身に込めろ。そうすれば自ずと切れ味は増す』
バルパー・ガリレイがなにかアドバイスでもしたのか、バルパーの言葉を聞いたあと、フリードの持つ聖剣の刀身にオーラが集まり、聖剣が眩しく輝きだす。
『こうか! そらよ!』
その光輝く聖剣が匙の神器に触れると、それまでなんともなかった神器が難なく切断された。マズイ、フリードを拘束してたものが無くなってしまった。早くもう一度捕えないと逃げられてしまう。
『逃げさせてもらうぜ! 次に会うときこそ、最高のバトルだ!』
捨て台詞を吐いて逃げようとするフリードを捕えるため、もう一度PSIで拘束を試みようとしたとき――。
『逃がさん!』
俺の横を誰かがものすごいスピードで通り過ぎていき、手に持っている長剣で斬りかかる。
……あれは、ゼノヴィアか?
「やっほ。イッセーくん」
「イリナ!」
いつの間にかイッセーの傍には紫藤イリナが現れていた。
このタイミングで救援に来てくれたのか!
『フリード・セルゼン、バルパー・ガリレイ。反逆の徒め。神の名のもと、断罪してくれる!』
ゼノヴィアは俺と話したときの日本語ではなく、フリードと同じ言語であろう外国語で話している。
『ハッ! 俺の前で憎ったらしい神の名を出すんじゃねぇや! このビッチが!』
エクスカリバー同士の斬戟の繰り広げるなか、フリードが懐に手を突っ込み、光の玉を取り出す。
なんだあれは?
『バルパーのじいさん! 撤退だ! コカビエルの旦那に報告しに行くぜ!』
『致し方あるまい』
『あばよ、教会と悪魔と人間の連合共が!』
フリードがその光の玉を地面に叩きつけた瞬間、辺り一帯が眩い光に包まれる。
しまった。目くらましか!
光が退くころには、フリードもバルパーも姿を消していた。
チィ! 逃がしたか!
『追うぞ、イリナ』
『うん!』
ゼノヴィアと紫藤イリナの二人は頷きあってから、フリード達を追うために駆け出していく。
「僕も追わせてもらおう! 逃がすか、バルパー・ガリレイ!」
木場もそんな二人のあとを追うように駆け出す。
「おい! 木場! あのバカ! イッセー、塔城! 木場は俺が追いかける! 後は任せたぞ!」
俺はイッセーにそう告げると既に姿が小さくなっている木場の後を追うためにライズを全開にして駆け出す。
「お、おい! 楠緒! 木場! ったく! なんなんだよ!」
後ろからイッセーの怒った声が聞こえてくるが、俺はその声を無視し木場の後を追いかけた。