木場を追いかけ続けしばらくしたあと、ある建物の前で木場とゼノヴィアと紫藤イリナの三人が立ち止まっていた。
「……ここにあいつらがいるのか?」
「佐伯くん!」
俺がその三人に後ろから話しかけると、木場は驚いたような声をあげて、俺の方に振り返った。ゼノヴィアと紫藤イリナも似たような目で俺のことを見ている。
「まさか私たちの後を追いかけてきたのか!?」
「まあな、それでこの中にフリード達がいるのか?」
俺は三人の前にある建物。アーシアのときにも堕天使たちに使われていた古びた教会を見上げる。
「ああ、まさかこんな所に隠れているとは」
「灯台下暗しとはこのことね」
俺の質問にゼノヴィアと紫藤イリナが肯定してくれるが、俺の中で疑問が生まれる。
……おかしい。俺には確か真っ先にこの教会を調べた。そのときにはなにもおかしいところはなかったはずだが……やっぱり上手く隠蔽されていたのか?
「僕の後を追いかけてきたんだね」
「ああ、おまえがいきなり駆け出すもんだからな。まったく、気持ちはわかるがもう少し落ち着いて行動してくれ。なにかあったら塔城が悲しむだろ」
「……ゴメン」
俺のことがを聞いて木場が難しい顔で謝ってくる。
「いや、わかってくれたんならいいさ。それで中に入るか?」
「ああ、漸く奴等の居場所を掴んだんだ。ここで退くわけにはいかないな」
俺の質問にゼノヴィアがそう言って頷く。
そうだろうな。本当なら戦力を整えてから行きたいが、折角掴んだ尻尾を逃すわけにはいかないよな。
「わかった。なら俺も一緒に行く。戦力は多い方がいいだろう?」
「それは構わないが、いいのか? この中にはフリード以上の敵も居るかもしれないぞ」
ゼノヴィアが言っているのはエクスカリバーを強奪した堕天使のことだろう。
「ああ、俺ならなにがあっても一人で逃げ切れるから心配するな」
「そうか。キミがそういうのなら勝手にすればいい」
俺の言葉を聞いたゼノヴィアがそう言って教会の方を見る。
「ちょっと! 本当に大丈夫なの?」
今度は紫藤イリナが心配そうな表情で聞いてくる。
「だから大丈夫だ。おまえにも俺の力は見せただろう?」
「あなたはわかってないわ! いいこの中にいるのはね――」
「だから心配はいらないって、本当に危なくなったらすぐに逃げるから」
俺は紫藤イリナの言葉を遮って笑いながらそう告げる。
紫藤イリナはまだ納得言ってないように不貞腐れている。
「……佐伯くん」
「おまえまで俺の心配か?」
さすがに全員に言われると疲れてくる。
俺は少し呆れながら木場に問い掛ける。
「……危なくなったら、絶対に逃げるんだよ。キミが無茶するのは、いつものことなんだから」
「ああ、おまえも気をつけろよ。死んだらエクスカリバーに復讐することもできなくなるぞ」
「……わかってるよ」
木場はそう言い終わると神器で魔剣を造り出す。
「それじゃあ行こうか」
「おう!」
そう言って俺と木場は教会の中に向かう。
「おい、ちょっと待て!」
「勝手に行かないでよ!」
その後ろをゼノヴィアと紫藤イリナが文句を言いながら追いかけてくる。
教会の入り口を潜り、俺たちはフリードたちを捜しながら聖堂まで辿り着く。
……さて、ここまで来たら相手側は俺たちがこの教会に潜入していることに気がついているはずだ。
それにしても悪い趣味だな。十字架の磔になっている聖人の彫刻の頭部が破壊されているじゃないか。
「……おかしい」
聖堂を見渡す木場がそう呟く。
「どうかしたのか?」
「いや、僕たちがテリトリーに潜入していることに気がついているはずなのに静かすぎると思って」
確かに木場の言うとおり敵の気配は愚か、人っ子一人気配を感じない。
……まさか、ここにはいないのか?
「どうやら俺の根城にネズミが入り込んでいるようだな」
俺がそんなことを考えた瞬間、どこかから冷たい声が聞こえてくると共に、途轍もないプレッシャーが圧し掛かってくる。
……ッ、なんだこの重圧は? ライザーと戦ったときに感じたものでも比べ物にならない。
この感じはグレイフィアさんと初めて会ったときに似ている?
他のみんなも同様のプレッシャーを感じ取ったのか少なからず動揺している。
「……コカビエル」
ゼノヴィアがある方向を見てエクスカリバーを構える。
俺たちもゼノヴィアに釣られその方向を見ると、十の黒い翼を生やした堕天使が立っていた。
あの堕天使がコカビエルか。確かにドーナシークの記憶を見たときにどんな存在かは知っていたが、他人の記憶で見るのと、実際に見るのではここまで違うのか。
……正直、予想以上としか言いようがないな。
コカビエルから感じる途轍もない重圧に、心の中で苦笑いを浮かべる。
「聖剣使いが二人に、魔剣使いが一人、そして人間が一人か、物足りないが歓迎してやろう」
そういうとコカビエルは手に光の剣を生み出す。
その光の剣からはドーナシークの光の槍とは比べのものにならないほどの力を感じる。
「……駄目だな」
コカビエルの力を実際に見た俺はそんな諦めの言葉を呟く。
無理だ。あれは俺たちの敵う相手ではないな。
勝手についてきておいてこの様とは情けないな。
「三人とも今の俺たちではあいつの相手をするのは無理だ。全員でなんとか逃げよう」
「ここまで来ていまさら逃げられないな。逃げたいのなら一人だけで逃げろ」
俺の提案を聞いたゼノヴィアがエクスカリバーを構えながら反対する。
「そうだよ。折角目的の相手が目と鼻の先に居るんだ。こんなところで退くわけにはいかないよ」
木場もそう言って手に持っている魔剣を構えている。
どうやら紫藤イリナも同等の意見らしく、ゼノヴィアと同じくエクスカリバーを構えて戦闘態勢に入っている。
「そこにいる人間は随分と利口のようだ。だが下らんな。その三人のように俺に向かってくる勇敢さはないのか?」
「わるいけど、勇敢さと無謀を吐き違えるつもりはないんでね」
コカビエルの言葉に俺は逃げ出しそうな身体を必死に抑えて言い放つ。
さて、やっぱりこうなったか。三人の後を追いかけて正解だったな。
俺は目の前でコカビエルという化け物相手に一歩の退こうとしない三人を見て、そんなことを考える。
「わるいな三人とも、先に謝っとくぞ」
俺がそう告げると木場たち三人をキューブ状の箱のようなものが包み込む出現する。
「なんだ?」
「四角い箱?」
「ッ! 佐伯くん!!」
ゼノヴィアと紫藤イリナはなにが起きたのか理解していないが、俺のことを知っている木場はすぐさま俺の方を向いて叫ぶ。
「……木場、部長たちの力を借りろ。この場は俺が逃がしてやる」
「佐伯くん! キミはまさか最初からこのつもりで!?」
「……また後でな『トリック・ルーム
俺の宣言と共に箱の中に居た三人の姿が消える。
これが俺がテレポーテーションをPSIとして造り変えた力『トリック・ルーム』。任意地点をαとし、自分の近くにβというキューブ状の箱を生産し箱の中身を転送する能力だ。
今回は自分の近くから他の場所に転送する手段を取って、三人を教会の外まで転送したのだ。
……ッ! さすがになれないことをするとキツイな。
ズキンっと、PSIの過剰使用に頭痛が俺に襲いかかる。
……さてと、後は俺がこいつから逃げればいいだけか。
俺は無謀なことを考えながら、頭痛の痛みを振り払いコカビエルと向き合う。
「ハハハハハハハ! なにが勇敢さと無謀を吐き違えるつもりはないだ。貴様のやっていることは無謀そのものではないか!」
コカビエルはなにがおもしろいのか俺のことを見て盛大に大笑いしている。
「なんだ? 自分一人なら俺から逃げられるとでも思ったのか? 愉快な冗談だな。確かに神器とも魔術とも違う不可思議な力を使えるようだがそれがどうした? 貴様が面白そうなことをするから、特別にあの三人を見逃してやっただけだ。試してみるか? 貴様のその自慢の力がどれほどのものかを?」
コカビエルは愉快そうにそういうと両手を広げる。
これは油断か慢心というものだろう。しかし奴にとってはこの力の差が当然のものなのだ。
「俺にチャンスでも与えるつもりか?」
「チャンスだと? ハハハ、やっぱり貴様は愉快な奴だな。ただの人間ごときが、本当に俺を倒せると思っているのか?」
その凄まじい眼光で睨まれるだけで、俺の身体は恐怖で情けないほど震えだしそうになる。
……だが、相手がわざわざチャンスをくれるというのなら。
「……ふぅ」
俺は一回大きく深呼吸をすると、心を落ち着かせて自分の周囲にバーストエネルギーを循環させる。
バースト・ストリーム。俺は現在自分ができる最高の攻撃をする準備を行う。
「……いくぞ」
「……むぅ」
バースト・ストリームを行ったまま、両手の間にバーストエネルギーを凝縮させていく。
俺の両手の間に凝縮するバーストエネルギーは大気を奮わせながら少し大きめのビー玉ぐらいの黒い球体に変貌していく。
コカビエルは俺の両手の間にある小型の暴王の月を見て唸る。
だが、これではまだ不完全だ。このメルゼーの力を制御するためにはもう一つ必要なことがある。
俺は親父の資料に書かれていたPSIの制御方法の二つ目をこの場で行う。
俺はこの小型の暴王の月を制御するため、『プログラム』という技術により、好き勝手動くメルゼーの力にあらかじめ動く法則を組み込んでいく。
今回組み込むプログラムは簡単だ。
組み込むプログラムはただ一つ。
『真っ直ぐ飛んでいく』だ。
「『
「……なにッ! この力は!?」
あの巨大な球体が月なら、この小さい球体はただ目っ直ぐ進むことしかできない星屑だ。
俺から手元より放たれた暴王の星屑が、コカビエルの左胸――心臓に向かって真っ直ぐに飛んでいく。
最初は余裕そうな表情を浮かべていたコカビエルだが、暴王の星屑が触れる直前、突然必死の形相で暴王の星屑を回避する動きを見せる。
「ぐぅ、ぐぅううううううう」
しかし流石に回避が間に合わなかったのか、暴王の星屑はコカビエルの心臓に当たることはなかったが、コカビエルの左腕の根元の辺りに命中し、コカビエルの身体と左腕の接続部を喰らった。
予想外の攻撃だったのかコカビエルは暴王の星屑に喰われた個所を右手で抑えて蹲る。
……おいおい、避けんじゃねぇよ。
俺はコカビエルの心臓に命中しなかったことに奥歯を噛み締める。
「この力はまさに……ハハハ! カァーハッハッハハハハハハハハハッ!! 素晴らしい!! なんて偶然!! なんて運命だ!! まさかこんな人間界の小さな島国で過去に全ての勢力から恐れられた暴王の力と巡り合えるとはなッ!! おもしろい! おもしろいぞ! 貴様はなんて愉快な存在なのだッ!!」
コカビエルが狂ったような笑い声をあげ、狂喜な目で俺のことを見てくる。
どうやらメルゼーの力が随分とお気に召したらしい。
「いいぞ! その力をもっと俺に見せてみろッ! その今は無き神にさえ恐れられた暴王の力をッ!!」
コカビエルはテンションを最高潮にして俺に促してくる。
……ちょっと待て、さっきとんでもないことを言わなかったか。今は無き神だと? それはどういうことだ?
「……神がいないだと?」
「ああ、そうか! そうだった! 神の存在さえ確かではない人間にこんなことを言っても無駄か。そうだ! 先の三つ巴の戦争で四大魔王だけじゃなく、神も死んだのさ!」
コカビエルの言葉は信じられないものだった。
部長の話で過去に四大魔王が死んだのは知っていたが、まさか神さまも死んでいたなんて、このことを木場やアーシアが知ったらなんと思うのか。
しかしそうと思えば色々と納得いくことがあるな。
「おや? 思ったよりも驚いてないようだな。まあ元よりこの国は信仰心の低い国だから、特に驚くようなことでもないのか? まあ、おしゃべりもここまでだ。さあさっきの続きといこうではないか! 俺にもっとその力を見せてみろ!」
いいだろう。そんなにみたいならいくらでも見せてやるよ!
俺は再び暴王の星屑を放つ。
「そうだ! その力だッ! その力を俺に寄越せ人間! その暴王の力一つあれば、もはやコソコソ計画を企てる必要はない! 俺一人で全勢力に戦争を仕掛けてやる!」
コカビエルは暴王の星屑に触れることなく回避すると俺の首を掴んで持ち上げる。
「ガッ……! グッ!」
コカビエルに首を絞められ息ができない俺は震えながら片手をコカビエルの眼前に持っていく。
「無駄だ! もはや貴様の攻撃は喰らわん! 確かに暴王の力は脅威だが、使用者が貴様ではなんの脅威も感じん!」
確かにただ真っ直ぐ進むだけの暴王の星屑では、注意していれば放った後に回避しても間に合うだろう。
だから俺が使うのは暴王の星屑ではない。
とりあえずコカビエルから離れることを考えろ。
「ふぃ、フィ、フス……フィン、ガー、ボムズ」
俺の指先に集められた五発分の指弾がコカビエルの顔面に零距離で爆発する。
指弾がコカビエルに触れた直前に発生した爆炎と爆風により、俺の身体は吹き飛ばされる。
「カハッ! ゴホッ!」
なんとか解放されたが、さすがにキツイな。
爆炎により身体の所々は火傷になっている。
「フンッ! 小賢しい真似をしてくれる」
煙が振り払われると、そこから無傷のコカビエルが現れた。
あれで無傷かよ。メルゼーの力に御熱心なコカビエルから逃げ切ることは不可能だろう……こうなったら刺し違える覚悟をする必要がありそうだな。
「『アアアアアアッ!』」
俺はコカビエルから逃げる為にQとの約束を破り、暴王の月を発動した。