「バルパー・ガリレイ。覚悟を決めてもらう」
遂に僕たちは憎き宿敵を追い詰めた。
佐伯くんに無理矢理教会から逃がされたあと、エクスカリバー使いの二人とも大分揉めたが、話し合いの結果僕たちは戦闘を開始していた部長たちと急いで合流した。
すぐに佐伯くんを助けに行きたいと思う気持ちはあったが、佐伯くんの心遣いを無駄にしないために僕たちはその気持ちを抑え込んだ。
部長たちと合流した僕たちは憎き宿敵であるバルパー・ガリレイと聖剣エクスカリバーを操る神父フリード・セルゼンと激突した。
エクスカリバーと戦う最中、僕は昔の同志たちの想いを受け継ぎ『魔剣創造』の禁手『
後はこの男を斬れば全てが終わる。さあ、同志たち。これで終わりにしよう! 全ての決着を!
「……そうか! わかったぞ! 聖と魔、それらをつかさどる存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明はつく! つまり、魔王だけではなく、神も――」
僕がバルパーを切り込もうと動きだした瞬間、なにかの思考に辿り着いたバルパーの胸部を光の槍が貫いた。
――これは!
バルパーは口から血の塊を吐き出すと、そのままグランドに突っ伏した。
僕は彼に駆け寄り、生死の確認をしようとするが――すでに彼は絶命している。
「バルパー。おまえは、優秀だったよ。そこの思考が至ったのも優れているがゆえだろうな――だが、もうおまえは必要ない。最初から一人でやれる」
突然現れたコカビエルは宙に浮かびながら、こちらを見て嘲笑ったいる。
しかし、そのコカビエルの姿は異常だ。
堕天使の証である黒い翼は半分失い、左腕も根元から無くなっている。それ以外の場所も所々が失っている箇所がある。まさしく満身創痍と言ったいい状態だろう。
誰がコカビエルほどの強者にあれほどの傷を……佐伯くんは!
「佐伯くんはどうしたんだ!!」
僕は聖魔剣の剣先をコカビエルに向け叫ぶ。
コカビエルがこの場に現れたということは、まさか佐伯くんは……。
僕の頭の中に最悪の結果が浮かび上がる。
「佐伯だと……ああ、あの人間か? 奴は素晴らしかったぞ。暴王の力を使い、人間の身でありながら俺をここまで追い詰めた。まあ、最後は自らの力に飲み込まれてしまったがな」
「……なんだって?」
「……うそよ」
「……佐伯先輩が」
「……そんな」
「……まさか」
「……う、嘘をつくな! あいつが……楠緒が死ぬはずがないだろ!」
コカビエルの言葉は僕ら全員に途轍もない衝撃を与える。
部長は口を手で押さえ、地面に膝をついてしまった。
他のみんなも信じられないといった表情を浮かべている。
イッセーくんだけコカビエルに叫んで抗議をしている。
「だが、奴の最後だけは滑稽だったな。自分の扱う力に飲み込まれる最後はな!」
コカビエルはそれだけ言うと地面に降り立つ。
明らかに満身創痍の状態のはずなのに、その重圧は教会で出会ったときの比ではない。
……だけど。
「暴王の力をこの手にできなかったことは不満だが、手にできなかったものは仕方ない。当初の目的だけ済ませよう。おまえたちの首を手土産に、戦争を始めてやる!」
「ふざけるなぁ! その前に俺がおまえをぶっ飛ばしてやる!」
『Explosion!!』
親友をバカにされたイッセーくんが怒りの叫びをあげながら、倍加した力でコカビエルに殴りかかる。
「赤龍帝か。あの忌々しい龍の対となる力か、だがその程度では足りんな」
「ガァアアア!」
イッセーくんはコカビエルの右手から発された波動により簡単に吹き飛ばされる。
「イッセーくん! ハァアアアア!」
横目で吹き飛ばされるイッセーくんの心配をしながら、僕は手に持っている聖魔剣でコカビエルに斬りかかる。
怒っているのはイッセーくんだけじゃない! 僕だっておまえを許さない! 佐伯くんの覚悟を笑ったこいつだけは絶対に!!
「ほう、これが聖魔剣か。だが使い手がこの程度ではな!」
僕の斬戟はコカビエルの光の剣により全ていなされてしまう。
くっ! 満身創痍の状態でここまで動けるなんて!
「堕天使コカビエル! 我が主の名の下に貴様を断罪する!」
僕に続いて動き出したゼノヴィアがそう宣言して、自らが持っていたエクスカリバーに並ぶ伝説の聖剣デュランダルで斬りかかる。
「ほう、この聖剣はデュランダルか! 暴王の力といい、聖魔剣といい、今日は珍しいものをよく見る日だ」
コカビエルは手に持っていた光の剣でデュランダルを受け止め、愉快そうに口元を歪ませる。
「なるほどな。あそこに転がっている折れたエクスカリバーはデュランダルの仕業か。だがしかぁぁぁし!」
「――ッッ!」
コカビエルは鍔迫り合っていたデュランダルを弾くと、ゼノヴィアの腹部で強烈な蹴りを繰り出す。
「ガフッ!」
苦悶の声を発し、ゼノヴィアが後方に吹っ飛んでいく。
「その程度の力では俺を満足させることはできんぞ。先代のデュランダル使いは、それは常識を逸脱する力を持っていた」
ゼノヴィアは空中で上手く体勢を立て直すが地面に着地したとき蹴られた腹部を抑えて膝をつく。
「ゼノヴィア!」
膝をつくゼノヴィアにもう一人のエクスカリバー使い紫藤イリナが心配そうに駆け寄る。
「クッ、さすがは堕天使の幹部ということか。まさかあの体でこれほどの攻撃を繰り出すとは」
「今の俺は先程の人間との闘いにより滾っている。簡単に潰れてくれるなよ」
コカビエルの言葉にゼノヴィアは奥歯を噛み締めるような表情を浮かべる。
「こうなれば仕方ない……イリナ、キミはこのエクスカリバーとあそこに落ちているエクスカリバーの残骸を回収して、この場を離れろ」
「ッ! なにバカなこと言ってるのよ! この状況で私だけ逃げろっていうの!」
イリナはゼノヴィアの言葉に怒った様子で反対する。
「私たちの任務はエクスカリバーの回収が最優先だ。優先順位を考えろ」
「それは……でも……」
イリナはゼノヴィアの言葉に言い返すことができず、言葉がつまる。
「なにかつまらんことを相談しているようだが、この場からは誰ひとりとして逃がさんぞ」
「そうはさせない!」
ゼノヴィアとイリナの二人に襲いかかろうとするコカビエルを聖魔剣で斬りかかり止める。
「……わるいけど、あなたには僕の相手をしてもらう」
「邪魔をするな!」
「クッ!」
聖魔剣で斬りかかるが、次の瞬間にはコカビエルの持つ光の剣に弾かれてしまう。
駄目だ。禁手に至ってもこれほどの力の差があるのか。これが堕天使の幹部の力。こんな化け物を相手に佐伯くんは一人で立ち向かったのか。
「早くしろイリナ!」
「……わかったわ」
イリナは決意をした目で頷くと、ゼノヴィアからエクスカリバーを受け取って、地面に落ちているエクスカリバー残骸を回収するため動き出す。
「そうはさせんぞ!」
「雷よッッ!」
「むぅ!」
イリナの行動を妨害するために動き出したコカビエルに凄まじい天雷が襲いかかる。
あの雷は朱乃さんの!
コカビエルは自分に降り注ぐ雷を見て少し唸るが、すぐに残った五本の黒き翼を羽ばたかせ、雷を消し去る。
「あなただけは決して赦しませんわ」
朱乃さんの凍りつくような暗く冷たい目で空からコカビエルを見下ろしている。
「俺の邪魔をするか、バラキエルの力を宿す者よ!」
「……あの者は関係ありませんわ。今は楠緒くんを殺したあなたを焼き尽くして差し上げますわ」
いつもの朱乃さんからは考えられない威圧するような声を発しながら、コカビエルに雷を連発するが、全てコカビエルの翼に薙ぎ払われてしまう。
「まさか悪魔に堕ちるとはな! ハハハ! まったく、愉快な眷属を持っているな、リアス・グレモリーよ! 赤龍帝、禁手に至った聖剣計画の成れの果て、そしてバラキエルの娘! おまえも兄に劣らずゲテモノ好きのようだな!」
「ッ!」
コカビエルの発言に膝をついて動かなかった部長かピクリと反応する。
自分の兄である魔王さまと、眷属である僕たちを侮辱される物言いに反応したのだろう。
「そうだ! ならば今から俺の根城に行ってあの人間の死体でも捜してみたらどうだ? 暴王の力に飲み込まれた姿は確認したが、もしかすれば死体が転がっているかも知れんぞ? そうだ! それがいい! そうすれば俺はもう一度あの暴王の力と得る可能性があるかもしれん! どうだ? いい提案だとは思わんか? ハハハ、カァーハッハハハハハハハッ!」
なんだと……! こいつはどれだけふざけたことを!
「ふざけないでちょうだい!!」
僕がコカビエルにもう一度斬りかかろうとした瞬間、立ち上がった部長が激昂して滅びの力を宿した魔力を放つ。
「いい魔力の波だ。だが足りん! 全然足りんぞぉぉぉ!」
コカビエルは部長の魔力を全身から発する衝撃と気合だけで消滅させる。
「赦さない! 兄の――我らが魔王への暴言! 私の下僕への侮辱! そしてあの子を冒涜したこと! 万死に値するわッ!」
部長の怒りの叫びをコカビエルは鼻で笑い、挑戦的な物言いをする。
「魔王の妹! 紅髪の滅殺姫よっ! おまえの言う人間はこの身をここまで喰らったぞ! そこまで言うのであれば、この身を滅ぼしてみろ!」
そうだ。佐伯くんは一人だけで戦ったんだ。僕の聖魔剣がどこまで通じるかわからないが、佐伯くんのためにも負けるわけにはいかない。
「同時に仕掛けるぞ。いけるか?」
気がつくと立ち上がったゼノヴィアが僕の後ろまで近づいて訊ねてくる。
どうやらイリナはエクスカリバーを回収して、この場から離脱し終わったようだ。
「うん。タイミングは任せるよ」
「そうか。ではいくぞ!」
そう告げたゼノヴィアが僕の後ろから一気に加速して駆け出す。
それを合図に僕も駆け出し、剣に力を込めて同時に斬りかかる。
「コカビエル! 僕の聖魔剣であなたを滅ぼす!」
「ほう! 聖剣と聖魔剣の同時攻撃か! おもしろい! 実にいいぞ! 来いッッッ! そのぐらいでなければ俺は倒せんッッ!」
コカビエルは狂喜に満ちた表情で、僕たちの攻撃を弾き返す。
「そこ!」
コカビエルの後方から小猫ちゃんが拳を打ち込む。
「フンッ! 甘いわッッ!」
黒き翼が鋭い刃物と化し、小猫ちゃんの身体に襲いかかる。
突然の不意打ちに反応できなかった小猫ちゃんは、身体中を切り刻まれ鮮血を撒き散らす。
「小猫ちゃんッ!」
「ほら、余所見は死ぬぞ!」
「ッ! 聖魔剣よッ!」
小猫ちゃんのダメージで生まれた一瞬の隙をコカビエルに狙われ、僕は咄嗟にコカビエルの周囲に聖と魔のオーラを放つ刃を出現させる。
「それがどうしたッ!」
不敵に笑うコカビエルの黒い翼が重なり合い剣のようになって、周囲の聖魔剣を難なく破壊する。
くっ! 駄目か!
真正面からコカビエルに斬りかかるが、コカビエルは何事もないように右手の二本指だけで僕の聖魔剣を受け止める。
「こんなものか」
嘆息するコカビエル。その隙をついて凄まじい速さで、僕の後ろから飛び出したゼノヴィアが振り上げたデュランダルで斬りかかる。
「それで隙をついたつもりか?」
「なッ!」
「くっ」
コカビエルは一切動じず聖魔剣を放し僕の手首を掴むと、勢いよく持ち上げゼノヴィアの攻撃を妨害する。
僕がぶつかったことでゼノヴィアはバランスを崩してしまい剣を外す。
余裕そうな笑みを浮かべこちらを見るコカビエル。
僕は生まれたその隙を逃さないように、手首を掴まれたまま宙に浮いた状態で、掴まれていない左手に聖魔剣を創造し、コカビエルの首筋に斬りかかる。
「ハッ!」
普通の状態ならなんともないような一撃にコカビエルは虚をつかれたような反応をし、咄嗟に僕投げ飛ばし後方に退く。
確かに剣がコカビエルの身体に触れる感触はあった。今のダメージは?
コカビエルを確認すると、首に薄い切り口が生まれている。どうやら皮一枚と言ったところだろう。
僕は予想以下のダメージに奥歯を噛み締める。
「ハハハッ! 人間との闘いで左腕を失っていたことをすっかり忘れていたな。おかげで予想外の一撃を受けてしまったよ」
そう言ってコカビエルは余裕そうな笑みを浮かべ苦笑する。
「しかし、仕えるべき主を亡くしてまで、おまえたち神の信者と悪魔はよく戦う」
突然、コカビエルは謎の言動を発し始める。
なにを語るつもりだ?
「……どういうこと?」
部長の言葉にコカビエルは心底おかしそうな大笑いをした。
まるで無知な者を笑うかのように。
「フハハ、フハハハハハハハハハ! そうだったな! おまえたち下々まであれの真相は語られていなかったな! なら、ついでだ。あの人間にも教えたが、おまえたちにも教えてやるよ。先の三つ巴の戦争で四大魔王だけでなく神も死んだのさ!」
……ッ!
……な、なにを……彼はなにを言った……?
信じられないような様子なのはこの場にいる全員がそうだった。
その後もコカビエルの独白は続き、全てを聞き終えた僕たちの反応は全員似たようなものだったが、アーシアさんとゼノヴィアだけ尋常ではない様子だった。
当然だ。これまで神を信じて生きてきたのに、あんな真実を知ってしまえば仕方がない。
僕だって、僕の同志たちのことを考えると心中は複雑だ。
「アーシア! アーシアしっかりしろ!」
神の死を聞きその場に崩れ落ちたアーシアさんをイッセーくんが抱えて呼び掛ける。
「俺は戦争を始める、一人だけでもあのときの続きをしてやる! 我ら堕天使こそが最強だとサーゼクスにも、ミカエルにも見せつけてやる!」
――ッ!
ルシファー。ミカエル。
どちらも聖書に記された、強大な存在だ。コカビエルはその者たちを相手にしようとしている。それだけの力を有している。
僕たちはそのような者と闘っていたのだ。
――勝てるはずがない。
スケールが、僕らと違いすぎる。イメージが、僕らとは桁違いだ。
最初から立ち向かうべき相手ではなかったのかもしれない……。
それでも、彼のためにも――。
剣を握りしめ、コカビエルに立ち向かうため顔をあげた瞬間――。
「……なんだ……あれは?」
僕は目の前に映る光景に目を奪われた。
それは幻覚だったのかもしれない。
しかし、僕はそのときしっかりと見た。
暗闇に包まれているはずの空一面が、眩い白い光に包み込まれている光景を――。
――○●○――
木場祐斗が空を包む白い光を見る少し前、全身に深い傷を負った一人の少年が駒王学園の近くに建っているビルの屋上から戦場を様子を静かに見つめていた。
少年は全身の傷の痛みをまるで感じさせない様子で戦場を普通では考えられないほど落ち着いた冷静な目で見つめている。
少年は一度だけ自分の敵である堕天使を強く見つめると、静かに両手を自分の前に差し出す。
バチバチとなにかがハジケるような音が少年の周囲に鳴り響き、両手の間に小さな黒い球体が生まれる。
少年はその黒い球体を見つめると、まるで弓を引くをような体勢をとる。
少年の目は標的である堕天使の姿しか映していない。
「行くぞ……俺の新しい『暴王の月』」
少年はその場から静かに自分の両手の間を漂う黒い球体にそう告げた。