ハイスクールD×D ~PSIを持った人間~   作:てんとう

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Life.28 全てを貫く流星

 ――それはほんの一瞬のことだった。

 僕たちの前で真っ黒な流れ星が閃き――僕たちの目の前にいる堕天使の左胸――心臓を貫いた。

 

「ゴフッ! こ……この力は……」

 

 心臓を貫かれた堕天使コカビエルは口から血を吐き出して、自分を貫いたなにかを見つめると、歓喜に満ちた笑みを浮かべ盛大に笑い声をあげた。

 

「ハハハッ! カァーハハハッハハハハハハハッ! そうかおまえはまだ――」

 

 コカビエルが笑い声をあげながらなにかを言おうとした瞬間、その流れ星はコカビエルの身体を一回転して引き裂いた。

 斜めに引き裂かれた上半分は支えを失い、重力に導かれるように地面に落ちていく。

 地面に落ちたコカビエルの表情は歓喜に満ちて笑みでありながら、狂気に包まれた表情をしていた。

 ……一体なにが起きたんだ?

 つい先程まで勝てるはずがないと考えてしまった強大な存在であったコカビエルが、今は動くことなく完璧にその命の灯を消している。

 理解が追いつかない僕たちは、あまりの衝撃にその場でなにもせず立ち尽くすことしかできなかった。

 

――○●○――

 

 ……どうやら上手く勘違いさせることができたみたいだな。

 実際に本当に紙一重だった、下手をすればコカビエルの言う通りメルゼーに飲み込まれていただろう。

 だが、俺は賭けに勝った。そして今ここで確実にあいつを――コカビエルを討つ。

 ビルの屋上から学園の校庭を見つめる俺は、一人でそんなことを考えて、行動を開始する。

 

「行くぞ……俺の新しい『暴王の月』」

 

 ビルの屋上で小さな暴王の月にそう告げた俺は、一気に身体を引き絞る。

 引き絞る力を強くするほど、暴王の月が空気中を弾ける音が強くなっていく。

 

「こいつは敵味方関係なく危険に巻き込んじまういわば爆弾だ……その力を制御するために生み出した暴王の星屑は欠点だらけの力だった。その欠点を解消するため別の三つのプログラムを新たに書き込むことで、コイツは今度こそ完全に生まれ変わる……!!」

 

 新たに生まれ変わった暴王の月は、今にも暴れ出しそうな勢いで大きな産声をあげ空気中をハジケる。

 

「一撃必殺の矢に!!」

 

 そう宣言して発射した生まれ変わった暴王の月は、空気を切り裂きながら高速で前方に飛んでいく。

 

「追加イメージプログラムその一。前方高速射出」

 

 闇に交わり誰にも気づかれない黒点はある地点に達することでその姿を変える。

 

「追加プログラムその二。三十メートルで周囲に存在する最も強い力に対してホーミング開始」

 

 暴王の月から射出された一本の枝が、周囲に存在する最も強い力――コカビエルに向かって襲いかかり、反応する暇もなく後ろからコカビエルの心臓を貫いた。

 

「小さくなったことで……追尾性能は瞬間的なものになっちまったけど、その分スピードは跳ね上がってるぜ……」

 

 その姿はまるで流星――全てを貫く『暴王の流星(メルゼズ・ランス)』。

 心臓を貫かれたコカビエルはその場で狂ったように笑い声をあげる。

 ……あいつがそれだけで死なないことはわかっていた。だからこそ最後のプログラムで決める。

 

「最後のプログラム。ホーミングはニ回……だ」

 

 再び動き出した暴王の流星が一撃目を起点にしてその場で一回転し、コカビエルの身体を二つに引き裂く。

 俺はその場から二つに引き裂かれたコカビエルの上半身が地面に落ちていくのを見つめている。

 あのとき、ドーナシークやライザー・フェニックス、そして教会でコカビエルと戦ったときは必死で気づかなかったが、こうして冷静に奴の命を奪ったのに、俺はなにも感じていなかった。

 どうやら俺はやると一度心に決めたら後はなにも感じない。他人の命を奪うときでも驚くほど冷静に行動する自分がそこにいた。

 

「……終わったか」

 

 小さくそう呟いて俺はその場に崩れ落ちる。

 教会でコカビエルに使ったニ回の暴王の星屑に逃げるために全力で行った暴王の月の発動。

 ……そして今の暴王の流星。俺は頭はPSIの過剰使用に既に限界を超えている。

 もうなにかを考える余裕もない俺はその場で倒れたまま気を失った。

 

 

 

 

 

 目覚めたときには、空は夕焼けに染まっていた。

 少しボーっとする頭でまたかと思いながら、俺はビルから下りて学園に向かう。

 もう授業は終わっているだろうが、俺の目的はそっちじゃない。

 俺は一切迷うことなく一直線に旧校舎に向かうと、みんなのいるオカルト研究部の部室の扉を開ける。

 

「……失礼します」

 

 ここまで来た勢いはなんとやら、恐る恐る扉の先を覗くと、部室の中には全員が集まっていた。その中にはもちろん木場の姿もある。

 しかし、なぜかみんなはまるで幽霊でも見たような目で俺のことを見ていた。

 

「え、ええっと……」

 

「楠緒ッ!!」

 

 その視線になんと言っていいのかわからず口ごもっていると、席から立ち上がった部長が凄まじい勢いで俺に飛び込んできた。

 

「うおっ!」

 

 突然の衝撃に支えきれなかった俺は、そのまま押し倒されるように倒れ込む。

 

「ぶ、部長!?」

 

 驚いて部長と呼ぶと、部長なにも言わず俺の頬を叩いた。

 

「――ッ!」

 

「部長!? じゃないわよッ! あなたは何度私に同じことを言わせれば気が済むのよッ!」

 

 俺の上に乗った状態でそう叫ぶ部長の目からは涙があふれ出している。

 

「……すいませんでした」

 

「すいませんでしたじゃないわよッ! あなたが自分の力に飲み込まれたと聞いたときに! 私が! 私たちが! どんな気持ちだったか! あなたにはわかるのッ!」

 

 部長はそう泣き叫びながら俺の胸を叩く。

 部長の涙と言葉になにも言い返せない俺は、そのまま黙ってその拳を受ける。

 

「どうしてあなたはいつも、いつもこんな無茶ばかり……」

 

 部長の拳が止まり、俺の身体の上に置かれる手が震え、服には部長の涙が落ちる。

 そのまま黙って部長が落ち着くのを待っていると、しばらくして泣き止んだ部長が涙を拭いて立ち上がる。

 

「……おかえりなさい」

 

 部長の優しい声と共に手が差し伸べられる。

 おかえりなさい。ただそれだけの言葉なのに、俺の胸は信じられないほど暖かくなるのを感じる。

 

「……ただいま戻りました」

 

 俺はそう言って部長の手を掴んで立ち上がる。

 

「おかえりなさい。楠緒くん」

 

「……おかえりなさい。佐伯先輩」

 

「おかえり。佐伯くん」

 

「おかえりなさい。楠緒さん」

 

 みんながこんなどうしようもない俺に対してそんな言葉をかけてくれる。

 

「……楠緒」

 

「……イッセー」

 

 部長と変わって俺の前に立つイッセー。

 最初は真剣な顔をして左拳を俺の前に差し出してくる。

 

「おかえり!」

 

 次の瞬間、イッセーは笑顔でそう言葉をかけてきた。

 俺は少しの間呆然とイッセーの差し出した拳を眺めたが、自然と顔が笑顔になり右拳を合わせる。

 

「ただいま!」

 

 こうして俺は無事にオカルト研究部のみんなの所に帰ったのだと心から思った。

 

「……さて」

 

 そう思った直後、危険な音を立てて、部長が手に紅いオーラを纏った。

 ……えっ? い、一体何事だろうか?

 笑顔でこちらに近づく部長になぜか身体が震え始める。

 

「楠緒。勝手なことをした罰よ。お尻叩き千回ね」

 

 ニッコリと綺麗な笑顔でそう告げる部長に恐怖を憶える。

 

「い、いえ、部長。ほら、に、二度あることは三度あるって諺がありますから」

 

 俺が口を詰まらせながらそう告げるが、部長はわかってるわといった様子で歩みを止めない。

 

「楠緒。回数を間違えてるわよ。一度目は一人で堕天使と戦ったとき、二度目は勝手にお兄さまと契約を結んで色々企んだとき、そして三度目は勝手に教会の聖剣使いと協力してエクスカリバーの破壊をしようとしたとき……そしてもう一つ。一人でコカビエルに立ち向かったこと。諺にもあるわよね。仏の顔も三度までって、一度あなたにはキツイお仕置きをした方がよさそうね」

 

 あ、あれ? あのまま感動的に終わるんじゃなかったんですか?

 

「い、イッセー」

 

 イッセーに懇願の視線を送ると、イッセーは静かに視線を逸らした。

 

「き、木場?」

 

 今度は木場に視線を向けると、木場はニコッと笑顔を浮かべる。

 その笑顔に一瞬だけ期待をするが――。

 

「諦めた方がいいよ。僕とイッセーくんもその罰を受けてるから」

 

 期待していた木場の言葉は、まさかの死刑宣告だった。

 その後、部長に捕まった俺はこの年になってお尻叩き千回という苦行を耐えるのであった。

 俺が尻を叩かれている間、隣でイッセーと木場が爆笑していたのは一生忘れないだろう。

 

 

 

 

 

 お尻叩き千回が終わってあと、痛む尻を擦りながらみんなにコカビエルを殺したのは自分だと伝えると同時に俺が気を失ったあとなにがあったのかを聞いた。

 あのあとイッセーの神器に宿る赤い龍と対なす白い龍アルビオンが現れ、コカビエルの死体とフリードを回収したのだとか。

 話を聞き終わったあと、昨日帰らなかったことを親父に言うため、部長に頼んで早めに家に帰ってきた。

 

「……ただいま」

 

 玄関のドアを開けると、リビングの方からテレビの音が聞こえてくる。

 どうやら親父はリビングにいるようだ。

 リビングに向かうと予想通り親父が一人でソファーに座ってテレビを見ていた。

 

「おや、おかえりなさい。高校生が朝……いえ、夕方帰りですか?」

 

 俺の姿を見た親父がからかう感じでそんなことを言ってくる。

 どうやら親父には全て見抜かれているようだ。

 

「ただいま。連絡しなくてゴメン」

 

「いえ。無事に帰って来れたのならいいんですよ。コーヒー飲みますか?」

 

「うん」

 

 親父はいつも通りの笑顔で聞いてくる親父に頷いてソファーに座る。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう」

 

 親父からコーヒーを受け取って一口飲む。

 コーヒーの心地よい苦みが口の中に広がっていく。

 

「コーヒーをブラックで飲むようになっているとは、子供とは気がつかないうちに成長するものですね」

 

 親父はそう言って微笑みながら自分のコーヒーに大量の砂糖を入れる。

 

「私はブラックはどうも苦手でしてね……それでどうでした? 彼は笑えるようになりましたか?」

 

 さっきとは打って変わって、真剣な様子で聞いてくる親父に対して俺はさっきの出来事を思い出す。

 俺は痛いだけだったが、あのときの木場は確かに笑顔だった。

 それも造り物の笑顔ではなく、本当の……。

 

「ああ、もう大丈夫だと思う」

 

「そうですか。それはよかった」

 

 俺の答えを聞いて親父は本当に安心したといった表情を浮かべてそう言う。

 親父も木場のことを心配してくれていたみたいだ。

 

「ありがとう。親父のおかげだ」

 

 親父がくれた資料が無ければ、俺はこうして帰ってこれなかったかもしれない。

  

「いえ、頑張ったのはあなたとオカルト研究部の皆さんですよ」

 

 親父は当たり前だと言った風にそう言った。

 

「そうかな……ありがとう」

 

「いえいえ……さてと、それじゃあ晩御飯にしましょうか」

 

 親父はそう言ってコーヒーを飲み終えると、ソファーから立ちあがって晩御飯の準備を始めた。

 ……本当にありがとうな親父。それにしても本当に今回も無茶をしすぎた。アーシアに傷は癒してもらったが、流石に体力は一日寝たぐらいじゃあ回復してないか、流石にもう限界だな。

 

「楠緒。そういえば言い忘れていたのですが……おやおや、しょうがないですね」

 

 親父が俺を呼ぶ声が聞こえてくるが、体力の限界を迎えた俺はソファーに寝転がったまま意識が落ちていった。

 

 

 

 

 

「……ふぅ、疲れたな」

 

 コカビエル襲撃事件から数日後、俺たちは休日を利用して当初の予定通り、半日遊び倒すプランを実行していた。

 参加者は俺、イッセー、松田、元浜、アーシア、桐生、塔城……そして木場だ。

 駅前で待ち合わせたあと、無駄に体力を使って四ゲームもボウリングをしたあと、カラオケボックスに入店して代わる代わる歌を歌っている。

 俺は一曲歌い終わったあと、マイクをイッセーに渡して少し休憩するために個室の外にある椅子に座っていた。

 

「隣、いいかな?」

 

 次はなにを歌おうかと考えていると、個室から出てきた木場が話しかけてきた。

 

「別にいいけど、どうしたんだ?」

 

「うん。ちょっとね」

 

 木場はそう言って俺の隣にある椅子に座る。

 

「わざわざこのタイミングで俺になんのようだ?」

 

「うん。あの日からこうして落ち着いて話す機会がなかったからね――あの日はありがとう」

 

 俺の目を真っ直ぐ見つめながら木場が真剣な顔でそう言ってくる。

 

「そうか……おまえの同志は許してくれたんだな?」

 

 俺は木場の言葉にそう呟いて、ずっと気になっていたことを質問する。

 部長から聞いた話では木場はあのときの戦いで昔の同志たちの力を受けて『禁手』に至ったらしい。

 

「うん……みんないつだって心は一つだって言ってくれたよ」

 

「……そうか」

 

 穏やかで顔でそう言う木場を見て、俺は心から安心してそう呟いた。

 

「ならもうこの話は終わりだ。みんな無事に帰って来れた、それでいいじゃないか……まぁ、俺の尻は尋常ではない被害を受けたわけだが……」

 

「……あはは、それは僕も同じだよ」

 

 椅子から立ち上がって冗談交じりで笑いながらそう言うと、木場も俺に釣られて笑いだした。

 

「それじゃあ俺はそろそろイッセーの歌が終わるころだから戻るな。おまえも早めに戻ってこいよ……祐斗」

 

 その場から立ち去る際、俺は友情の意味を込めて木場の名前を呼ぶ。

 木場――いや、祐斗はいきなり名前で呼ばれたことに驚いた顔をするが、すぐにいつも通りの爽やかな笑みを浮かべる。

 

「僕ももう少し休んだら戻るよ……楠緒くん」

 

 俺は後ろを向いたまま祐斗に手を振って、みんながいる個室へと戻った。

 

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