≪ピー……ガガガッ……≫
≪ピー……ガッ……≫
≪……“
…………
………
……
…
『PiPiPi!! PiPiPi!!』
目覚まし時計が部屋に鳴り響き、部屋の主を起こす。
「……またあの夢か」
イッセーが天野夕麻に殺されて、グレモリー先輩と約束した日から数日が経った。
あの日、力を使いすぎた俺は家に帰った後、40℃を超える高熱を出してこの数日学園を休むことになった。
あのQと名乗るなにかが夢に出てくるようになったのもその日からだ。
Qという名前以外は声にノイズが掛かっていてなんと言っているのかわからない。
そもそも、Q自体名前なのかどうかもわからないんだけどな……あいつは一体何者なんだ?
「……わからないことをいつまでも考えても仕方ないか」
それに熱もようやく下がってくれたみたいで、今日は学園に行けそうだ。
グレモリー先輩とのあの約束、本当にイッセーは悪魔になってしまったのかも確かめないといけないしな。
「……よし、行くか」
制服に着替えて準備を済ませた俺は学園に行くために家を出た。
「…………ふぅ」
学園に着いた俺は教室の前で立ち、なかなか中に入れずにいた。
別に数日休んだから教室に入りにくいわけではない。
ここから逃げてはいけないのはわかってる。
だけど、どうしても俺はマイナスの方向に物事を考えてしまう。
もし、悪魔になったイッセーが変わってしまっていたら。
もし、悪魔になったイッセーが俺のことを忘れてしまっていたら。
そもそも、もう学園にイッセーが居なかったら。
そんなことを考えてしまうとなかなか一歩が踏み出せない。
「……はぁ」
自分で蒔いた種だというのに、俺ってやつはつくづく……。
「……く、楠緒?」
立っていた俺の横から聞き覚えのある声が聞こえていた。
こ、この声は!?
「……い、イッセー!?」
声の聞こえてきた方を向くと、そこにはいつもと変わらないイッセーがそこに立っていた。
「楠緒! この数日休んでたけど大丈夫なのか!?」
イッセーが本当に心配そうに俺に訊ねてくる。
よかった。いつものイッセーだ。イッセーがイッセーのままで本当によかった。
「あ、ああ。ちょっと熱が出ただけで、もう、大丈夫だ」
「あんなことがあった次の日に休むから心配たんだぞ。おまえの家に電話しても誰も出ないし」
「……あんなこと?」
それはやっぱり天野夕麻のことを言っているんだろうな。
そうだ、イッセーにあの後のことを聞いておかないと……あれ? イッセーはなんであんな暗い顔をしているんだ?
「ま、まあ、おまえが大丈夫そうでよかったよ」
イッセーは俺に笑顔を向けながら軽く肩を叩きながらそう言ってくるが、明らかになにか様子がおかしい。
「なあ、イッセー。おまえ『キーンコーンカーンコーン』……チャイムか?」
「やべぇ、楠緒さっさと教室に入ろうぜ」
「……ああ、そうだな」
イッセーの様子は気になるがいつまでも廊下に居るわけにもいかないか、聞きたいことは結構あるし昼休憩にでも話すとするか……。
そう決めた俺は、イッセーの後を追って久しぶりの教室に入った。
『キーンコーンカーンコーン』
……もう昼休みか。
四時間目終了のチャイムが鳴り、昼休みになった。
さてと、イッセーの所に行くか。
「イッセー、ちょっといいか?」
「おっ、なんだ?」
「実はちょっと話が「お~! 我が同志佐伯よ! この数日休んで一体なにをしてたんだい?」……松田」
イッセーに話しかけた瞬間、坊主頭の男子生徒――松田が肩を組んで話しかけてきた。
……松田よ。いい加減その同志というのは止めろ。てか、肩を組むな。
「おいおい、松田よ。男が悪友に無断で数日間連絡もよこさない理由なんて簡単だろう?」
そんな、俺達の後ろからメガネをかけた男子生徒――元浜が近寄ってくる。
「そうだったな、元浜よ。そんな理由簡単だよな~?」
松田は組んでいた肩を外し、芝居がかった口調で元浜の横に立つ。
……こいつらはなにがしたいんだ?
「「佐伯!!」」
「ッ!?」
突然、二人に教室全体に聞こえるぐらいの大声で叫ばれて驚いてしまう。
二人が鬼気迫る表情を浮かべているのはなぜだろう……? 一体、なんなんだ!?
「「女かっ!!」」
「……」
しかし、二人の口から出てきた言葉は全く意味のわからないものだった。
二人の言葉を聞いて、クラスの女子がこそこそ話している。
………………はぁ? お、女って、相変わらずどういう思考回路してるんだ?
俺は二人の突拍子もない言葉についなにも言い返せず固まってしまった。
「無言ということは、俺達の話を認めるってことだな!?」
「この裏切り者が!」
そんな俺の様子を変に解釈して二人が俺に殴りかかってくる。
「うぜぇ!!」
「「ぐはぁ!!」」
反射的に出た俺の拳が綺麗に二人を捉え殴り飛ばす。
しまった!! つい手が出てしまった……うん! 俺は悪くない!
「……全く、先生も言ってただろうが、高熱が出て寝込んでただけだ」
「嘘をつくな! おまえみたいな馬鹿が熱なんて出すわけないだろ!!」
「そうだ! それにもし本当に熱を出してたとしても、どうせ可愛い子を家に連れ込んで看病してもらってたんだろ!!」
「お・ま・え・ら、人の言うことは信じろと教わらなかったのか? OK。今からその身体に刻み込んでやるよ。力づくでな」
二人の暴言につい拳を握り締めてしまう。
どうして、おまえ等はいつもそういう風に考えるかな~?
おまえ達のせいでクラスの女子がコソコソと「ねぇねぇ、さっきの話どう思う?」とか「やっぱり、佐伯もそうなのかな?」とか「そうよね~。あのエロ猿共といつも一と一緒だし……」とか「だよね~。ああいう人ほど裏でなにしてるか分かんないし……」とか話してるのが聞こえるじゃねぇか! というより、最後の言ったの誰だ!?
「ハッハッハ! 冗談に決まってるじゃないか同志よ! だから、その手を早く下ろしてくれ」
「そうだぞ。まあ、どうやら本当に熱は大丈夫そうだし、安心したぞ……だから、それだけは勘弁してくれ」
どうやら、この二人も俺を心配してくれていたのだろう。
……さて、このやり場のない感情はどこに向ければいいんだ?
「それで佐伯よ。なにかイッセーに用があったのではないか?」
元浜が手でメガネを上げながら言ってくるが、おまえ等のせいだろうが!
……凄い、無駄な時間だった。
「そうだ。楠緒。なんの用だったんだ?」
「……あ~、やっぱいいや。時間がかかりそうだし放課後にでも話すわ」
俺がそう言うと、イッセーはなぜかばつの悪そうな表情を浮かべた。
「あ~、悪い楠緒。実は放課後ちょっと用事があって無理そうだわ」
「……そうか。まあ、用事なら仕方ないか……それじゃあ、明日にでも話すわ」
「悪いな」
「いいって、気にするな」
まあ、できるだけ早く話したいことだけどイッセーに用があるんなら仕方ない。
「それじゃあ、この話はこれぐらいにして、昼飯買いに購買に行くか」
「おお、そうだな。おまえたちはどうする?」
「おう、行く行く」
「同じく」
そうして、俺はイッセー達と一緒に購買に向かうのだった。
授業も無事に終わり、放課後になった。
さてと、本当ならイッセーとあのことについてを話すつもりだったんだけど、イッセーに用事があるんなら仕方ないし、先にあっちを調べておくか……。
これからの予定を決めた俺は教室から出た瞬間、廊下から教室に入ってこようとしていた誰かとぶつかってしまった。
「……わりぃ」
「いや、僕の方こそ不注意だったよ。ごめんね」
ふと、ぶつかった人物と目が合う。
木場祐斗。イッセー達が言うには、この学園一のイケメン王子。
ちなみに、クラスは違うが同級生らしい。
わざわざ別のクラスに来るなんて、誰かに用でもあるのだろうか?
……まぁ、俺には関係ないか。
俺はそのまま木場から視線をそらすと、無言のまま歩き出した。
「さてと、ここから始めるか」
学校から出て、俺が一番最初に来たのは例の公園だった。
あの夢の最後の場所もここだったし、ここから順番に遡っていくのが一番いいだろう。
……それじゃあ、始めるか。
俺は噴水の前に手をかざし、目を閉じて意識を集中する。
そして、その閉じた目を開いた瞬間、俺の目はいつもと違う景色を視る。
…………
………
……
…
一人の少年が凄い速さで公園に駆け込んでくる。
少年を息を整えながら、噴水の前まで歩み、なにかに気付いて驚いている。
そのとき、少年は背後になにかの気配を感じ、ゆっくりと振り返る。
すると、正面の眼前には黒い羽根が舞った。
「逃がすと思うか? 下級な存在はこれだから困る」
そう言いながら少年の前に黒い翼を生やしたスーツの男が現れる。
「おまえの属している主の名を言え。こんなところでおまえ達に邪魔をされると迷惑なんでな。こちらとしてもそれなりの……。まさか、おまえは、『はぐれ』か? 主なしならば、その困惑している様も説明がつく」
スーツの男が少年に向かって話しかけているが、少年は驚いているせいか全く話を聞いていない。
しかし、そんなことお構いなしにスーツの男は話を続ける。
「ふむ、主の気配も仲間の気配もなし。消えるそぶりも見せない。魔方陣も展開しない。状況分析からすると、おまえは『はぐれ』か。ならば、殺しても問題あるまい」
スーツの男が物騒なことを口にした瞬間、男の手には光の槍が握られていた。
…………
………
……
…
「……ッ! ハァ、ハァ、ハァ、い、今のは……?」
あの姿は間違いない、イッセーだ。
だけど、どういうことだ? なんでイッセーがまた命を狙われている?
今回はスーツを着た男だったが、あのときの天野夕麻と同じ黒い翼を持っていた。
あの男と天野夕麻は何か関係があるのか?
……駄目だ。あれだけでは全然わからない。
もう少しだけ視る必要があるか?
『……この人が』
「……誰だ?」
「……えっ?」
誰かの声が聞こえてきたので、振り返ると小柄な少女が立っていた。
その少女はなにやら驚いた様子で、俺の方を見ている。
……俺になにか用でもあるのだろうか?
「……なにか用か?」
「はい」
『……この人がリアス先輩の言ってた人?』
「……そういうことか」
「……なにか」
「あぁ、いや……」
少女は俺の反応に不思議そうに首を傾げている。
さっき力を使ったせいでコントロールが……彼女の話した言葉ではないものに反応してしまった。
「わるい。それでなんのようだ?」
「リアス・グレモリー先輩の使いで来ました」
グレモリー先輩か一体、俺になんの用だ?
……まあいい。俺もちょうどあの人に話したいことができたところだ。
「わかった。どうすればいいんだ?」
「……ついてきてください」
そう言うと少女は一人で歩きだす。俺はその少女の後ろを静かについていった。