ハイスクールD×D ~PSIを持った人間~   作:てんとう

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Life.33 小さい楽園

 ……ギャスパーは生きているだろうか?

 みんなの分のジュースを買いに別行動を取っている俺は、デュランダルを持ったゼノヴィアに追いかけられるギャスパーの姿を思い出して空を見上げる。

 ゼノヴィア曰く「健全な精神は健全な肉体から」と言うことらしい。

 非常に豪快で体育会系なゼノヴィアらしい考え方だが、つい先ほどまで引きこもりだったギャスパーの精神が先に死んでしまわないか非常に不安である。

 塔城が次の準備にとニンニクを用意していたが、あれはなにに使うつもりだったんだろうか?

 ……ギャスパーのはトマトジュースでいいか。

 今日初めて会ったギャスパーの好みがわからない俺は、しょうがないので吸血鬼といえばこれだという飲み物をチョイスする。

 血は嫌いだと言っていたが、トマトは嫌いと言って無かったので大丈夫だろう。

 全員分のジュースを買い終えた俺は合流するためにみんなのもとへ向かう。

 ……あれはどうなってるんだ?

 しばらく歩いてみんなの元に帰ってくると、非常に不味い状況になっていた。

 見たことない男に対して、全員が武器を構えて戦闘態勢をとっている。

 よく見ると匙までいるじゃないか。どうやらただ事ではないみたいだな。

 ……しかしなぜだ? あの男から凄まじい力は感じられるが敵意は感じられない。一体何者なんだ?

 

「ん? 誰だおまえは?」

 

 その男は俺の存在に気がついたのか、そう言いながら俺の方に振り向く。

 

「あんたこそ何者だ? イッセーたちに近づいて一体なんのようだ?」

 

 男の顔を真っ直ぐ見詰めながら、徐々に近づいていく。

 

「なんだよ、こいつ等の知り合いかよ。でも、おまえ見た感じ悪魔じゃねぇよな……なるほど、おまえがそうか」

 

 なんだこいつ。人の顔を見て笑いだしやがった。俺のことを知っているのか?

 男はなにかを思い出したかのか、楽しそうな笑顔で俺を見てくる。

 

「ヴァーリから話は聞いたぜ。おまえがコカビエルを殺したんだろ?」

 

「――なッ!」

 

 なんでこいつがヴァーリとコカビエルのことを知ってるんだよ。

 ……まさかこいつは!?

 俺が驚いてまま男の顔を見ると、男の背中から十二枚の漆黒の翼が展開した。

 

「……アザゼル?」

 

「なんだ俺のことを知ってたのか。一応、おまえが殺したコカビエルの上司をやってた。よろしくな、暴王の力を持った人間」

 

「てめェ……!」

 

 俺は抱えていたジュースを投げ捨て、バースト・ストリームを展開する。 

 こんなところで堕天使の総督がなんのようだ?

 

「なに勝手に殺気立ってんだよ。確かに暴王の力には興味はあるが、やる気はねぇよ。ほら、構えをときな。あっちの下級悪魔くんたちにも言ったが、ちょっと散歩がてら悪魔さんの所に見学に来ただけだ。目当ての聖魔剣使いがいなかったから、いまはこいつらに神器の使い方をちょっとレクチャーしてただけだよ」

 

「……本当なのか?」

 

 俺はアザゼルの後ろにいるみんなに問い掛けと、全員首を縦に振って頷く。

 どうやらアザゼルのことは本当だったみたいだな。

 俺は暴王の流星を消して頭を下げる。

 

「勘違いしてすまなかった」

 

「別に気にしちゃいねぇよ」

 

 アザゼルはそう言って笑って俺を許す。

 器の大きい人間なんだろう。流石は堕天使のトップをやっているだけのことはある。

 

「まあいい暇潰しになったぜ」

 

 アザゼルはそう言い残してこの場を後にしようとする。

 ……そうだ!

 

「ちょっと待て! アザゼル!」

 

 俺はヴァーリに言われたことを思い出してアザゼルを呼びとめる。

 

「はぁ、なんだよ?」

 

 アザゼルは溜息を吐いてめんどくさそうに振り返る。

 

「ヴァーリが言っていた。おまえたちの組織『神を見守るもの(グリゴリ)』には注意した方がいいと、おまえたちはコカビエルを殺した俺をどうするつもりだ?」

 

「あぁ? ヴァーリがだと?」

 

 俺の言葉が予想外だったのか、アザゼルは本当に驚いているようだ。

 なんだあの反応は? まるで今初めて知ったかのような表情だ。

 

「ヴァーリの奴がおまえになにを吹き込んだのかはしらねぇが、コカビエルは俺たちにとっても裏切り者だ。おまえがやらなかったら処理はヴァーリがやる予定だった。そんな奴を殺されたぐらいで、別に俺たちはおまえをどうこうしようなんて考えちゃいねぇよ」

 

 アザゼルの言葉からは嘘は感じられない。

 そうなってくると、あのときのヴァーリの言葉はなんだったんだ? 俺に不信感を持たせるための嘘だったのか?

 

「とりあえずヴァーリには俺から話してみるから、おまえは安心しろ」

 

「あ、ああ」

 

 アザゼルの言葉を聞いて、俺は素直に引き下がる。

 

「……たく、あいつは面倒ばかりかけやがるな」

 

 アザゼルはブツブツと呟きながらこの場を後にした。

 取り残された俺たちがどうしたらいいのか反応に困っていると、匙が息を吐いて口を開く。

 

「……とりあえず、そこの新顔くんに俺の神器を取り付けてみるか。その状態で神器を使ってもらって練習でもしようぜ。その代わりに今度おまえらに俺の花壇を手伝ってもらうからな」

 

 匙の提案にみな頷き、ギャスパーの神器修行が開始された。

 どうやら匙の神器は他の神器の力も吸い取ることができるらしい。

 その能力を利用して、『黒い龍脈』の舌をギャスパーに接続して余分な力を吸い取ることができるらしい。

 これがさっきアザゼルに教えられた神器の使い方らしい。

 ……随分と神器に詳しいんだなアザゼルは。

 俺はその知識に感心しながら、ギャスパーの練習に付き合う。

 練習自体は簡単なものだ。俺たちが投げるバレーボールをギャスパーが狙って停止させていくだけだ。

 とりあえず俺は危険予知でギャスパーの神器が発動するタイミングを感じ取れるため、基本的にはギャスパーが間違えてイッセーたちを停止させるのを防ぐのが仕事だ。

 とりあえず視界さえ封じてしまえば問題ないので、そんなに難しいことではない。地味に俺もPSIの訓練になっているため一石二鳥だ。最初は純粋な危険予知で発動を察知していたが、今ではPSIを使って発動を察知できるようになったため、俺への負担はかなり減っている。

 ただギャスパーの無意識発動を防ぐたびに「ゴメンなさいぃぃぃぃぃ!」と叫んで逃げ出しそうになるのを防ぐ方がめんどくさい。一度逃げ出しそうになると、なかなか元に戻ってくれないからな。

 ……俺だけ上手くなっても意味がないんだけどな。

 

「どう? 練習ははかどっているかしら?」

 

 俺が溜息を吐いて、どうしようかと考えているとサンドイッチを作って来てくれた部長が様子を見に来てくれた。

 さっきから力を吸われ続けてヒィヒィ言っているギャスパーを休ませるため、休憩がてら部長の作ってくれたサンドイッチを頂くことにする。

 

「部長、うまいっス!」

 

「久しぶりにこんなうまいもん食うな」

 

 部長のサンドイッチが予想以上に美味かった俺は、部長の前で敬語を忘れてサンドイッチに夢中になってしまう。

 いつもコンビニ飯だからな。こうして人の作ってくれた料理というのはまた別格だ。

 そう言えば部長の料理は初めて食べたな。合宿の時は料理を作ってくれたのは姫島先輩だったし……うん。二人とも同じぐらい美味いな。

 

「もうそんなにがっつかないの」

 

「あっ、すいません。つい」

 

 流石に行儀がわるかったのか部長に注意されてしまった。

 部長に頭を下げた後、今後は気をつけてゆっくり食べていく。

 部長の話では姫島先輩と祐斗はまだサーゼクスさまの元にいるらしい。

 俺たちは食事をしながら部長にアザゼルのことを話す。

 

「アザゼルは神器について造詣が深いと聞くわ。神器についてのアドバイス……。知識を他者に助言するほど余裕ということかしら。というより、楠緒が白龍皇と接触したなんて初めて聞いたのだけど、一体、いつ接触したの?」

 

 最初こそ驚いていたが、冷静なった部長はアザゼルについて考えたあと、俺にヴァーリとのことを聞いてきた。

 

「あのプール開きの日ですけどちゃんと電話で伝えましたよね?」

 

「えっ、あ、ああ、あの日ね。ゴ、ゴメンなさい。そうだったわね」

 

 部長はあの日のことを思い出したくないのか、顔を少し赤くして誤魔化す。

 そういえば、電話口で部長は少しボーっとしてたような気もする。

 まあ、俺もあの日のことはできるだけ思い出したくないんだこれ以上は止めておこう。

 隣でイッセーが睨んできてる気がするが無視だ無視。

 

「でも、確かに白龍皇の言ったっていう言葉は気になるわね。どうして自分の所属する陣営のことをわざわざ話したのかしら……」

 

「しかも、アザゼルはそのことをまったく知らない様子だった。なにかがおかしいですね」

 

 俺と部長がヴァーリの行動について考え始める。

 

「リアス先輩が帰って来たし、俺はそろそろ花壇の作業に戻る」

 

 匙が部長の作ってきてくれたサンドイッチを二、三個食べて立ち上がる。

 

「匙くん。わざわざ私の下僕に付き合ってくれてありがとう。お礼を言うわ」

 

「い、いいっスよ。先輩は会長の大事なお友達ですし、神器について新たな可能性も見えました。俺としても収穫ありってことで」

 

 匙が部長のお礼に顔を赤くしながらそう言う。

 匙も初対面の印象は悪かったけど、結構いいやつだよな。

 なんか憎めないというのか、イッセーに似てるんだよな。

 

「じゃ、あとはがんばれや」

 

「おう、サンキューな」

 

「ありがとうな。おまえも花壇の整備頑張れよ」

 

 俺とイッセーがお礼を言うと、匙はこの場を後にした。

 匙を見送ったあと部長は、気の陰で休んでいたギャスパーに向けて言う。

 

「ギャスパー、まだいけるわね? 匙くんに吸われて、ちょうど力もいい感じに調整されたでしょうし、残りの時間は私も一緒に練習に付き合うわ」

 

 部長は頼もしくそう言うが、果たしてギャスパーに体力が残っているだろうか?

 

「が、がんばりますぅぅぅぅ」

 

 部長の前だからか、ギャスパーもへろへろになりながら立ち上がる。

 ……やるじゃねぇか! こうなったら俺も引くわけにはいかねぇな!

 こうして、夜になるまでギャスパーの神器練習兼俺のPSIトレーニングが行われた。

 

 

 

 

 

 次の日の夜のある問題が起こってしまった。

 今日はイッセーとギャスパーが一緒に仕事に出かけたのだが、二人が帰ってきたら大変なことになっていたのだ。

 

「ギャスパー、出て来てちょうだい。無理してイッセーに連れて行かせた私が悪かったわ」

 

 さっきから、ギャスパーの部屋の扉の前で部長が謝っている。

 

「イッセーと仕事をすれば、もしかしたらあなたのためになると思って……」

 

『ふぇえええぇぇぇぇええええんっっ!』

 

 ギャスパーの部屋の中から外まで聞こえるぐらいの声量の鳴き声が聞こえてきた。

 ギャスパーが再び自室に引きこもってしまったのは、部長がギャスパーを無理矢理イッセーと一緒に直接人間と会う契約に連れて行かせてしまったことが原因だった。

 イッセーの話ではギャスパーが仕事中に契約者である人間に対して神器を使ってしまったらしい。

 もちろんギャスパーはわざとではないだろう。初めて会う人間が怖くて神器が発動してしまっただけだろう。

 しかし、そのことで傷ついてしまったギャスパーはこうして再び自室に引きこもってしまった。

 部長から聞いた話では、ギャスパーは名門の吸血鬼を父に持つが、母が人間の妾だったため、純血ではなかった。悪魔以上に純血でない者を軽視、侮蔑する吸血鬼たちは、たとえ親兄弟であっても扱い方は差別的だと聞いた。

 ギャスパーは腹違いの兄弟たちに子供のころからいじめられ、人間界に行ってもバケモノとして扱われて居場所がなかったという。

 しかし、ギャスパーの類稀なる吸血鬼の才能と、人間としての才能――特殊な神器を両方兼ね備えて生まれてきてしまったため、望まなくてもその力は歳を取ると共に大きくなっていったんだそうだ。

 仲良くしようとしても、ちょっとした拍子で時間停止の神器が発動してしまい、相手を停めてしまう。

 ……バケモノか……辛いよな。周りからそう蔑まされるのは。

 

「ねぇ、二人とも。あなたたち、もし時が停められたら、どんな気分?」

 

 部長の質問。

 

「……少し、怖いですね」

 

 イッセーは素直を気持ちでそう言ったんだろう。

 けど、俺は……。

 

「楠緒。あなたはどうかしら?」

 

「……わかりません」

 

 部長の言葉に、俺はついそんなことを言ってしまう。

 

「俺にはわかりません。そんな気分なんて……もし、とか他人が想像出来るものじゃないと思うんです……時を停めてしまう怖さとか……人からバケモノだって言われる辛さと恐怖は、言われた本人にしか絶対にわからないんです」

 

「……楠緒。あなた」

 

 部長は俺の顔を見て悲しそうな顔をする。

 

『ぼ、僕は……こんな神器いらないっ! だ、だって、みんな停まっちゃうんだ! 怖がる! 嫌がる! 僕だって嫌だ! と、友達を、な、仲間を停めたくないよ……。大切な人が停まった顔を見るのは……も、もう嫌だ……』

 

 ギャスパーの部屋から啜り泣くながら悲痛な叫びが伝わってくる。

 

「困ったわ……この子をまた引きこもらせてしまうなんて……『王』失格ね、私」

 

 部長はギャスパーの叫びを聞いて落ち込んでしまう。

 俺の隣にいるイッセーも責任を感じているのか、部長の姿を見て辛そうな顔をしている。

 

「部長、ギャスパーと話をさせてもらえませんか?」

 

「……ギャスパーを連れだしてくれるの?」

 

「わかりません。それを決めるのはギャスパー自身ですから」

 

 俺の言葉に部長は少し不安そうな顔をする。

 ここで嘘を吐いて必ず連れだすと言うのは簡単だ。

 だけどそれは俺じゃなくギャスパーが決めることだ。

 

「それに、部長はこれからサーゼクスさまたちと打ち合わせがあるんですよね?」

 

「ええ、でももう少しだけ時間を延ばしてもらうわ。先にギャスパーを――」

 

「駄目ですよ。それで万が一にでも不都合が起きてしまえば、ギャスパーはそれを自分のせいだと思ってしまいますよ」

 

 俺の言葉に部長は異を唱えることができなかった。

 三すくみの間の溝が深くなる可能性もあるし、下僕を大切にする部長だからこそ、俺の言葉の意味を理解してくれたのだろう。

 

「安心してください。ギャスパーならきっと大丈夫ですから」

 

 俺はギャスパーに聞こえないぐらいの清流で、部長が安心できるようにできるだけ優しく笑顔でそう話しかける。

 

「……楠緒。わかったわ。ギャスパーをお願いね」

 

 部長は俺の言葉を受け入れてくれ、微笑んで頷く。

 部長はもう一度ギャスパーの部屋を一瞥し、この場を後にする。

 

「……楠緒」

 

 部長が去ったあと、イッセーが辛そうな顔のまま話しかけてきた。

 

「イッセー。おまえも部室で待っていてくれないか」

 

「だけどさ! ギャスパーがまた引きこもったのは俺のせいで……」

 

 やっぱり責任を感じていたイッセーはさっきから握りしめている拳が小さく震えている。

 

「おまえのせいじゃないさ。いつかはこうなるだろうと思ってたんだ」

 

「……どういうことだよ?」

 

 俺の言葉にイッセーは怪訝そうな顔で聞いてくる。

 

「ギャスパーは最初から部屋の外に出るのを嫌がっていた。それなのに昨日は半ば無理矢理部屋から連れ出したからな。またなんかの拍子で引きこもりに戻ってもおかしくなかった」

 

 逆によく耐えたほうだ。下手をすればデュランダルを持ったゼノヴィアに追いかけられたときに部屋の中に逃げ込まれてもおかしくなかったからな。

 それなのにギャスパーは昨日の練習を最後まで耐えることができたんだ。

 だから俺はそんなギャスパーを信じたい。

 

「とにかく、まずは俺がギャスパーと話してみるから、イッセーはその顔をいつも通りの顔に戻してギャスパーを待っててくれ」

 

 俺はイッセーの辛そうな顔を指摘してそうお願いする。

 

「……わかった。頼んだぞ」

 

「決めるのはギャスパー自身だけどな。まあ、部室で他のみんなと待っててくれ」

 

 俺の言葉に小さく頷くとイッセーは部室に戻った。

 ギャスパーの部屋の前で一人になった俺は、とりあえず扉の前に座り込む。

 

「さてと、とはいえなにから話したものか……よし! それじゃあ最近あったおもしろいことを教えてやる」

 

 俺は部屋の中にいるギャスパーに聞こえるぐらいの声量で他愛もない話を始めた。

 

 

 

 

 

「――そしたら、イッセーの奴がまた同じことを」

 

 ギャスパーの部屋の前で他愛もない話を始めてから小一時間が経過した。

 俺は話を聞いているのかもわからないギャスパーに話しかけ続けていた。

 

「でだ、そのとき松田が――」

 

『……あの』

 

 俺の話を遮るようにギャスパーが扉越しに話しかけてくる。

 

「どうした。おもしろくなかったか?」

 

『せ、先輩は、僕を部屋から連れ出さないんですか……?』

 

 ギャスパーは恐る恐るといった感じの声で聞いてくる。

 どうやらいつまで経っても他愛もない話を続けていたことを不思議に思ったみたいだ。

 

「なんだ? 無理矢理連れ出して欲しかったのか?」

 

『ヒィィィ! ゴメンなさいぃぃ! お外は嫌ですぅぅぅぅ!』

 

 俺の質問にギャルパーは凄い勢いで怯え出してしまう。

 

「落ちつけ。別に無理矢理連れ出すつもりはないよ。部長たちにも言ったけど、おまえと話をしたかっただけだ」

 

『ほ、本当ですか?』

 

 俺の言葉を信じ切れないのかギャスパーの声にはまだ怯えを感じる。

 

「ああ、とりあえずおまえが反応してくれるまでは一方的に話そうと思ってたんだけど、俺もそんなに話が上手いわけじゃあないからな、このまま無視されたらどうしようかと思ってところだ」

 

 実際にあと三十分ぐらい無視されていたら話しのタネが尽きていただろう。

 そうなる前にギャスパーが反応してくれて助かった。

 

「とりあえずなんでもいいから話そうぜ。扉越しならおまえの神器が発動しても誰も停まらないからな、おまえも安心して話せるだろ」

 

『……』

 

 俺の言葉にギャスパーの反応はない。

 流石に無理があったかないまのは……?

 

『あ、あの、一つ聞いてもいいですか……』

 

 扉の向こうからギャスパーが恐る恐るといった感じで聞いてくる。

 

「ああ、なんでも聞いてくれていいぜ。あっ、でも好きな人の名前とかは止めてくれよ。流石に恥ずかしいからな」

 

『……ど、どうしてですか? せ、先輩も、普通の人とは違う力を持ってるんですよね……? な、なのにどうしてそんなに楽しそうに生きられるんですか? も、もしかしたら、大切ななにかを失うかもしれないんですよ? こ、怖くないんですか?』

 

 怖くないんですか、か……。

 どうやらギャスパーには俺の姿がそんな風に見えていたんらしい。。

 

「……怖いさ。大きな力であろうが、小さな力であろうが、力を持つっていうのは怖いことさ……でもな、ギャスパー――」

 

『でも?』

 

「俺は怖いって気持ちはわるいとは思わないぞ。怖いからこそ、その力とちゃんと向き合わないといけないんだ」

 

『怖いからこそ向き合う……?』

 

 ギャスパーは俺の言った言葉を小さく復唱する。

 

「ああ、力から目を逸らし、逃げることなんて誰にもできるんだよ。それこそ、自分だけの小さい楽園に引きこもったりしてな。けどな、考えてみろよ。そんな怖いもんに向き合えるなんて、すげぇカッコイイことだと思わないか?」

 

『ぼ、僕には無理です。僕は先輩みたいに強くありませんし、カッコよくなくてもいいですぅ……』

 

 ……俺が強いか。

 

「ギャスパー勘違いするな。俺は強くなんかないさ。だって、俺はこの春まで自分のこの力から逃げ続けてたんだからな」

 

『……え?』

 

 俺の言葉を聞いたギャスパーから信じられないといったような声が聞こえてくる。

 

「それにもっと前には、いまのおまえのように自分だけの小さい楽園に引きこもってた時期だってあったんだ。けど、おまえはそんな俺を強いって思ってくれたんだろ? なら、おまえだって強くなれるさ。急ぐことはないんだ。ゆっくりでいいからさ、一緒に強くなっていかないか?」

 

『ぼ、僕も強く……』

 

「どうするのかはおまえ次第だ。強くなりたいんなら、自分の意思でこの扉を開いて楽園の外に出ろ。それが最初の一歩だ。それができたら絶対おまえは強くなれるよ」

 

 俺はそう言い終わると、その場から立ち上がる。

 

「楽園の外には辛い現実が待っているが、おまえなら大丈夫さ。外の世界には部長が居る、姫島先輩が居る、祐斗が居る、塔城が居る、昨日会ったばかりだけど、イッセーもアーシアもゼノヴィアも居る、もちろん俺だって居る、おまえは友達の、仲間の、大切な人の停まってる顔をもう見たくないって言ったが、自分だけの小さい楽園に引きこもってるのは、おまえの中でみんなが停まってるのと同じだと思うけどな」

 

『……』

 

「怖いだろうけど、外の世界に一歩踏み出してみろよ。おまえが居る楽園なんて比べ物になんねぇぐらい、広い世界が見えるかもしれないぞ……じゃあな。部室で待ってるからな」

 

 俺はそう言い残して、静かになったギャスパーの部屋の前をあとにした。

 

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