ハイスクールD×D ~PSIを持った人間~   作:てんとう

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Life.37 禁人種

 ――ッ、今のは……?

 なにが起きたのか理解できない俺は周囲を警戒する。

 一体、なにが起きたんだ? どうやら身体に異常はないみたいだけど――。

 周囲を警戒しながら、落ちついて自分の身体に異常はないか調べていると、突然、窓の外から閃光が飛び込んでくる。

 なんだ? それにさっきから微妙に校舎が揺れているような……? 窓の外でなにかが起こっているのか?

 そんなことを考えながら、さっき閃光が飛び込んできた窓から外の様子を見ると、窓の外には空中に至るまで人影らしきものがあった。

 誰だあいつらは? さっきまではあんな奴等はいなかったはずだ。それに今の学園には結界が展開されているはずだし、その周囲には悪魔と天使と堕天使が守っていたはずだろ? それらを無視して、こんな大量に学園内に侵入なんてできるのか? それこそ時間でも停めて誰にも――。

 俺はそこまで考えてあることに気がついてしまう。

 ……まさか、さっきの危険はギャスパーの神器によるものだったのか? いや、それだと少し違和感がある。ギャスパーの神器の範囲は視界に映っているものだけのはずだ。さっきの危険な気配は明らかにその範囲を凌駕していた。どうなっているんだ?

 もう一度、外の様子をよく見てみると、黒いローブを着込んだまるで魔術師のような連中がこちらに魔力の弾に似た攻撃を放っている姿を確認する。

 ……あれって人間だよな? どうして人間が攻撃を仕掛けてくるんだ? 駄目だ、いくら考えてもなにが起きているのか理解できない。一度、会議室に戻ってサーゼクスさまになにが起きているのか確認するのがいいみたいだな。

 そう考えた俺が会議室に向かおうと振り返った瞬間、背中に危険は気配を感じ取る。その危険な気配のする方向に意識を集中してみると、後ろの廊下の先から微かに足音が聞こえてくる。

 どうやら、敵は校舎の中にまで侵入しているようだ。気配からして侵入者は一人だけ、どうする……?

 考えた結果、俺は侵入者を待ち受けることにした。

 俺だけでどうにか出来ればそれがベストだし、もしも俺の手に負えない危険な奴だった場合は、どんな奴かをサーゼクスさまたちに伝える必要があると思ったからだ。

 俺が最大限まで警戒をして侵入者を待ち受けていると、廊下の先から侵入者が姿を現す。

 その侵入者はシルエットだけでは人型をしていたが、その姿を見た瞬間、そいつが人間でないことがわかった。

 

「……アグロ……」

 

 身体にエプロンを装着して、球体が埋め込まれた仮面を装着した人型の化け物がよくわからない言葉を発したがらゆっくりと近づいてくる。

 あの化け物はなんだ? 明らかに人間じゃないし、天使や悪魔ってわけでもないよな……。

 俺がその化け物を警戒しながら観察していると、その化け物も俺に気がついたのか足を止める。

 

「アグロ……」

 

 化け物がまたよくわからない言葉を発して片手で指を鳴らすと、凄まじい勢いで俺に襲いかかってくる。

 ――ッ、速い!? だけど!

 俺はライズを使って俺に襲いかかる化け物の拳をかわす。

 大丈夫だ。対処できない程ではない。

 

「わるいな。おまえがなにかは知らねぇが、手加減は無しだ!」 

 

 化け物に忠告して、俺は全力で化け物の空いている横腹に蹴りを入れるが――。

 ――ッ、硬い!?

 ライズを使った俺の全力の蹴りを受けたというのに、その化け物は微動だにせず自分の横腹に当たっている俺の脚を掴む。

 

「……エイブラハム」

 

「しまッ――ガァ!」

 

 ヤバいよ気がついた瞬間には、俺は化け物に壁を壊す程の力で隣の部屋まで投げ飛ばされた。

 ――ッ、なんて怪力だ。ライズで強化してなかったら危なかったぞ。

 

「……アグロ……」

 

「チッ、休ませちゃくれないわけか……」

 

 化け物は俺が壊した壁を通って部屋の中に侵入してくる。

 ……信じられないことだが、さっきの攻防でこの化け物について一つだけわかったことがある。 

 俺はへやに侵入してくる化け物を見つめながら、わかったことを考えるが、どうしても納得いかないことがある。

 ……どうしてこの化け物がPSIを使えるんだよ。

 さっきの俺の蹴りを受けても微動だにしなかった硬さ。そして俺をこの部屋まで投げ飛ばした怪力。同じ力を使う俺だからこそなんとなくわかる。あれは間違いなくライズによるものだ。

 

「教えろ。どうしておまえがPSIを使える?」

 

「アグロ……」

 

 俺の質問に帰ってくるのはそんな意味のわからない言葉だった。

 こいつが発した言葉は『アグロ』と『エイブラハム』の二つ。

 その言葉にどんな意味があるのかはわからないが、どうやら会話をする知能は持ってないらしい。

 

「……それならてめぇをぶっ倒して、直接その身体に聞いてやるよ」

 

 ヤバい奴だったらサーゼクスさまに伝えるために逃げようと思ってたが、どうやら、そうはいかなくなったみたいだ。こいつは俺が相手をしなくてはいけないようだな。

 再び襲いかかる化け物の拳をかわしながらそんなことを考える。

 ――さて、どうやってこの化け物を倒すかだよな。攻撃が単調で大振りだから攻撃をかわしているが、ライズはこいつの方が俺を凌駕している。

 

「――それなら、こいつはどうだ? 『指弾(フィンガー・ボム)』」

 

 接近戦では分が悪いのを悟った俺は化け物から距離を取って指弾を放つが――。

 

「……これも殆ど効いてないみたいだな」

 

 指弾は化け物の身体に命中するが、衝撃で少し化け物が少しだけよろめくだけで無傷だ。

 指弾も効かないとなるとどうしたものか、五行爆華(フィフスフィンガーボム)なら少しは効くかもしれないが、こんな狭い部屋で使ったら爆風で俺の方が危ない。暴王の月も暴王の流星もこんな場所では使うことはできない。暴王の月で校舎を消し飛ばすわけにもいかないし、暴王の流星はこの距離だと、放つよりも早く奴が俺の攻撃が俺に襲いかかるだろう。

 ……さて、これは万事休すってやつか? けど、おかしいな? 全然、そんな気がしない。

 あいつを倒す手段が見つからないという絶望的な状況のはずなのに、俺は一切悲観することなく、冷静に化け物を観察する。

 確かにあのライズは凄いが、あの化け物からはライザーやコカビエルと戦ったときのような脅威は感じない。

 ――こいつ程度で足踏みしてるわけにはいかねぇよな。

 

「……ちょうどいい。新しいPSIの使い方の練習相手になってもらうぜ」

 

 俺は部屋の中にあった掃除道具入れから取りだした箒を突き付けてそう宣言する。

 

「……アグロ……」

 

 化け物は俺のの言葉に反応するように、真っ直ぐ俺に飛び込んでくる。

 確かにこいつのライズは俺のライズを凌駕している――だがな!

 

「それだけじゃ甘いんだよォ!」

 

 そう叫んで、手に持つ箒を飛び込んでくる化け物の胸の中心を目掛けて全力で突き刺す。

 

「エイブラハム……」

 

 俺の持つ箒が化け物を身体を貫くが、化け物はなんでもないように俺の首を掴む。

 

「グェッ……!」

 

 俺の首を掴む化け物の手に尋常ではない力が込められ、俺の首からメキメキと軋むような音が聞こえてくる。

 ――ッ、駄目だったか? このままじゃあ俺の首が先に折られる。

 

「や゛れるも゛んなら!や゛ってみろ゛おおおおおおッ!」

 

 首を掴まれながら化け物に対して叫んだ瞬間、俺の首を掴む化け物の腕が灰のようになって消滅した。

 

「ゲホッ……グッ……ゲホッ……!」

 

 化け物の手から解放された俺は、咽ながらその場で膝をつく。

 あ、危なかった。あと一瞬でも遅かったら、首の骨が折られてたな。

 俺を解放した化け物は慌てた様子で身に付けているエプロンを剥ぎ取る。化け物が剥ぎ取ったエプロンの奥には、身体に埋め込まれた球体が俺の箒によって貫かれていた。

 ど、どうやら、上手くいったみたいだな。あいつを観察したときに、あいつのPSIの流れが不自然なまでにあの球体に集まっていた。あそこがあいつの弱点だと予想した俺は、あの箒にバーストエネルギーを纏わせて、あの球体に向けて全力で突き刺したのだ。結果は大成功。バーストエネルギーを纏うことで強化された箒に、俺が全力のライズ突き出す力と、あいつが飛び込んでくる力を合わせたことで、あいつの球体を貫くことができた。

 

「アララララ、ご愁傷様だァ……! その球体は、おまえにとって大事なもんなんだろ……?」

 

「グァロッ」

 

 化け物は今日一番の叫び声をあげながら、床に膝をついている俺に向かって悪足掻きとばかりに襲いかかる。

 

「……げ!?」

 

 慌てて体を捻って拳をかわすが、化け物の拳はその勢いのまま部屋の床を粉砕した。

 

「……この、バッカ野郎……!」

 

 下の階への落下から逃れるため崩壊してない床まで跳ぼうとすると、化け物が俺の足首を掴んで、道連れとばかりに引き摺り落そうとする。

 

「バフッ」

 

「てめェにそこまで付き合うつもりはねェ! 一人で落ちてろォ!」

 

 俺はそう叫んで、掴まれていない方の脚で化け物の顔面を蹴り飛ばす。蹴り飛ばした瞬間、俺の足首を掴んでいた方の腕も煙のように消滅し、蹴り落とした勢いのまま下の階の床に落下する。

 

「『マテリアル・ハイ』!」

 

 化け物に時間を取られたせいで床の崩壊から逃げられなくなった俺は、即座にPSIで空気中の待機を超圧縮し、立方体のような物体を生み出して空中に固定し足場としてその上に立つ。

 マテリアル・ハイの上から下の階に落ちた化け物を見ると、化け物の身体は限界なのか全身が灰のようになって消滅していく。そして化け物が完全に消滅する最後の瞬間、顔に装着していた仮面が砕け散り、その中から化け物の素顔が現れる。

 ――化け物の素顔は皮こそ剥がれているが、間違いなく人の顔だった。

 化け物が灰となって消滅したのを確かめると、俺はマテリアル・ハイを解除して下の階に降りる。

 今のは……? 結局、あの化け物が何者なのかわからず仕舞いか……とりあえず、サーゼクスさまたちと合流しよう。

 俺は化け物が灰となった場所を一瞥して、サーゼクスさまたちがいる会議室に向かうことにした。

 それから少し歩いて、今度は敵に遭遇することなく会議室へと辿り着いたが、会議室の扉を開けて中に入ろうとしても、扉がビクともせず開かない。

 サーゼクスさまたちがこの部屋に敵が侵入しないように、結界かなにかを展開したのだろう。

 

「……『トリック・ルーム』」

 

 扉からは会議室に入れないとわかった俺は、トリック・ルームを展開し、βのキューブで自分を包み、αのキューブを会議室の中に設置する。

 

「『β⇒α(アップロード)』」

 

 次の瞬間、俺は廊下から会議室の中へと転送される。

 

「楠緒くん。大丈夫かい? ボロボロじゃないか」

 

 会議室の中に現れた俺の姿を確認して、サーゼクスさまが少し驚いた様子で訊ねてくる。

 

「大丈夫です。ここに来る途中に敵に襲われただけです」

 

「なるほど。先程聞こえてきた音の原因はそれか、まさかこの校舎にカテレア以外の敵が侵入しているなんて、よく無事でいてくれたね」

 

 サーゼクスさまは俺の話を聞いて一瞬だけ表情を硬くするが、すぐに表情を柔らかくして気遣ってくれる。

 

「俺のことよりも、今、この学園でなにが起きているんですか? ギャスパーの神器がこの校舎全体に発動したと思ったら、次に気がついた瞬間、外は魔術師のような奴等で埋め尽くされているし、化け物は校舎の中に侵入しているしで、俺にはなにが起きているのか?」

 

「今、この学園は旧魔王派であるカテレア・レヴィアタンを筆頭に『禍の団(カオス・ブリゲード)』と呼ばれる組織の襲撃を受けている。今はギャスパーくんの神器の影響を受けなかった者たちで対応しているところだ」

 

 その禍の団がどんな組織なのか知らないが、まともな組織じゃないことは簡単に想像ができるな。それにしても、旧魔王派カテレア・レヴィアタンがこの襲撃の筆頭ということは、この襲撃はクーデター。つまり現魔王派に対する旧魔王派の反乱ってことか……そんな奴らにギャスパーが利用されたってのか……。

 サーゼクスさまの話を聞いて、俺は禍の団に対して静かに怒りを溜める。

 

「今こちらで動けるのは、私たちトップ陣四人以外は、グレイフィア、白龍皇、リアス、兵藤一誠くん、木場祐斗くん、ゼノヴィアさんだけだ。他のものはギャスパーくんの神器の影響を受けて動くことができない」

 

 サーゼクスさまの言葉を聞いて、部長たちが座っていた壁際の席に視線を移すと、そこにはさっき朱乃先輩、塔城、アーシア、会長がギャスパーの神器の影響を受けて停まってしまっている。

 

「ギャスパーは無事なんですか!? その禍の団に捕まっているなら、早く助けに行かないと!」

 

「安心しなさい。ギャスパーくんなら、リアスと兵藤一誠くんが助けに行ったよ。それ以外にはカテレアをアザゼルが対処してくれている。私とミカエルはここで学園を覆う結界の強化。グレイフィアが魔術師転送用の魔方陣の解析。白龍皇が前に出て敵の目を引き、木場祐斗くんとゼノヴィアさんが校庭にいる魔術師の対処を行っている」

 

 サーゼクスさまの話を聞いて、今の状況を把握する。

 どうやら、俺があの化け物の相手をしている間にとんでもないことになっていたようだな。

 

「状況はわかりました。俺も力を貸します」

 

「なにを――いや、わかった。キミの力を貸してほしい」

 

 サーゼクスさまは俺の申し出になにか言い返そうとするが、その言葉を飲み込んで俺の申し出を受けてくれる。

 

「できれば校庭で魔術師の相手をしている木場祐斗くんたちの所に行ってほしい。魔術師は数が多い。一人でも人数が多いほうがいいだろう」

 

「わかりました!」

 

 サーゼクスさまに返事をした俺は会議室の窓から全力のライズで校庭に向かってジャンプする。あっという間に校庭の上空まで辿り着くと、校庭で祐斗とゼノヴィアが多数の魔術師と戦っている姿を確認できた。俺はそのままマテリアル・ハイで空中に足場を作ってその上に立つ。

 

「なんだ?」

「あれも奴等の味方か?」

「撃て! 奴等の味方なら遠慮する必要はない」

 

「楠緒くん!?」

 

「祐斗! ゼノヴィア! 一旦、その場から離れろ! 一気に片付ける!」

 

 祐斗とゼノヴィアにその場から離れるように忠告して、魔術師が放つ魔力に似た弾を複数のマテリアル・ハイを展開して防ぐ。魔術師の攻撃がマテリアル・ハイに衝突するたび爆発を起こすが、マテリアル・ハイはビクともしない。俺は驚いている魔術師たちに対して片手をあげながら口を開く。

 

「わるいな! このマテリアル・ハイはそういう攻撃に滅法強い――『固定解除(フォール・ダウン)』!」

 

 そう宣言して手を下ろすと、その動作がキーとなって、空中に固定されていた複数のマテリアル・ハイが校庭を目掛けて落下し、魔術師たちを押し潰す。

 超圧縮された大気の塊に押し潰された魔術師たちは命は大丈夫でも気を失っているだろう。

 さてと、とりあえず今校庭にいる魔術師は一掃したが、グレイフィアさんが魔術師転送用の魔方陣の解析が終わるまでまだ出てくるんだよな。こりゃあキリがないな。そんなに何回も今のはできないぞ。

 

「大丈夫だったか?」

 

 俺は魔術師たちが転送されることに呆れながら、地上に降りるて二人に話しかける。

 

「うん、ありがとう。助かったよ」

 

「だが、まだまだ気は抜けないぞ。すぐに次の魔術師たちが転送されて来るからな」

 

 ゼノヴィアの言葉に俺と木場は頷いて答える。

 

「それにしても、なんでそんなにボロボロなんだい?」

 

 聖魔剣を手に持ったまま木場が俺の姿を見て心配そうに訊ねてくる。

 

「ああ、ここに来る前に化け物退治をしてな。そのとき壁をぶっ壊す程の力で投げ飛ばされてな」

 

 ライズで防御を固めていたから怪我自体は大したものではないが、着ている制服は上下共にボロボロになってしまっている。

 ……新しい制服を買わないといけないよな。

 

「話はそこまでだ。どうやら、次の敵が来たみたいだぞ」

 

 俺が制服の心配をしていると、ゼノヴィアがデュランダルを構えて忠告してくる。ゼノヴィアの忠告に俺と祐斗は顔を見合わせると、頷いてそれぞれ魔術師の相手をするために構える。

 次の瞬間、校庭に無数の魔方陣が出現し、その魔方陣から魔術師たちが出現する。

 

『ふざけんなぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』

 

 ――ッ、この声はイッセーか?

 

「隙を見せたな! 滅びよッ!」

 

「ッ、しま――」

 

 突然、旧校舎の方から聞こえてきたイッセーの叫び声に気を取られてしまった俺に対して魔術師が攻撃を仕掛けてくる。完全に不意をつかれた俺は反応することが遅れてしまった。

 ――しまったッ! 間に合うか!?

 

「そうはさせないよ」

 

 反応が遅れてしまった俺に魔術師の攻撃が当たりそうになったところで、祐斗が間に入って魔術師の攻撃を聖魔剣で防いでくれる。

 

「楠緒くん。ここは僕たちに任せて、キミはイッセーくんの所に!」

 

「いや――」

 

「あれぐらいで気を取られるのなら邪魔になるだけだ。それにこの程度の相手なら私たちだけで十分!」

 

 木場に抗議しようとしたら、ゼノヴィアがデュランダルで大量の魔術師を薙ぎ払ってそう言ってくる。

 

「ゼノヴィアの言う通りだよ。それになんだかイッセーくんの様子が普通じゃない。あっちの方でなにかが起きてるのかもしれない」

 

 祐斗も聖魔剣で魔術師を斬り倒しながらそう言ってくる。

 二人とも……ッ!

 

「わかった。ありがとうな二人とも! ここは任せたぞ!」

 

「うん。この場は僕たちに任せてくれ!」

 

「だから、あっちは任せたぞ!」

 

 俺は頼もしい騎士の二人にこの場の魔術師たちの相手を任せて、イッセーの声が聞こえてきた旧校舎に最短距離で跳んでいく。

 

「逃がすな!」

「撃て!」

 

「そうは――」

「――させない!」

 

 ……ありがとうな。祐斗、ゼノヴィア。

 上空を跳ぶ俺の背に向けて放たれようとする魔術師の攻撃を防いでくれる二人に感謝をしながら、俺は校庭を離れた。

 そのままマテリアル・ハイで作った足場を跳んで旧校舎に辿り着くと、そこには禁手状態のイッセーと地面に叩きつけられるヴァーリの姿が見えた。

 ……一体、あれはどういう状況なんだ? 確かにイッセーの神器に宿る赤い龍とヴァーリの白い龍は争う宿命にあることは聞いているが、それをなんでこの状況で?

 

「小猫ちゃんはな! 小さいおっぱいを気にしてんだぞ!? それを半分!? 俺が許さない! あの子からこれ以上おっぱいを奪うなッッ! その苦しみをおまえは理解できるのか!? この半分マニアめッ!」

 

 ……本当にどういう状況なんだ? 途中からだとまったく追いつけないんだが……とりあえず、今のイッセーの言葉を聞いたら塔城が本気で怒るだろうな。

 魔術師たちの相手を任せてしまった二人に申し訳なくなっていると、背後から若い男の声が聞こえてくる。

 

「ハハハッ! ヴァーリ相手にあそこまでやるとは、あの赤龍帝もなかなかやるねぃ」

 

「――ッ! 誰だ!」

 

 まったく気配を感じなかった俺は、慌てて声が聞こえてきた方に振り返る。

 すると、俺の背後には三国志に出てくる武将のような鎧を身に纏った男が金色の雲に乗って立っていた。

 誰だこいつは? ヴァーリの名を呼んでいたということは、あいつの知り合いか?

 今の状況からこの男が味方ではないとわかっている俺は、なにが起きても対応できるように警戒をする。

 

「なんでぃなんでぃ、俺っちとやるってのかい? けど、残念だねぃ。おまえさんおもしろいオーラをしてるから戦いたいのはやまやまなんだが、今日は時間がなくてねぃ!」

 

「――なッ! 待てッ!」

 

 男は残念そうな顔をしてそう言うと、神速の速さでその金色の雲を操作して、俺を素通りしてイッセーたちのいる場所に向かう。

 

「――行かせないッ!」

 

 俺はマテリアル・ハイを足場に全力で蹴り飛ばして、弾丸のような勢いで男のあとを追う。

 

「ヴァーリ、迎えに来たぜぃ」

 

「美猴か。何をしに来た?」

 

「説明ならあとにしてやるぜぃ。とりあえず追手が来る前に帰ろうや」

 

「そう簡単に逃がすわけねェだろうがァ!」

 

 俺は空中で体勢を変えて、勢いを保ったまま男に向かって叫びながら飛び蹴りをくらわせる。

 

「ハハハッ! 思った通り、おまえさんなかなかおもしろいねぃ。もう俺っちに追いつくとはねぃ」

 

 男は俺の飛び蹴りをおもしろそうに笑いながら、どこかから取りだした長い棍で防ぎ、そのまま昆を振り回して俺を弾き飛ばす。

 

「――チッ!」

 

 弾き飛ばされた俺は体勢を整えてイッセーの隣に着地する。

 

「おまえは――」

 

「楠緒!?」

 

 突然現れた俺にヴァーリとイッセーが驚いた様子で声を出す。

 

「どうして楠緒がここに!? それにあの男は?」

 

「――あいつは闘戦勝仏の末裔だ」

 

 なにが起こっているのか理解できていない様子で俺と男を指差すイッセーにアザゼルが説明を始める。しかし、俺とイッセーは闘戦勝仏の意味がわからずに首を傾げる。

 あれ? アザゼルはカテレア・レヴィアタンの相手をしていたんじゃないのか? いや、よく見るとアザゼルもダメージを負っているようだし片腕を失っている。どうやらカテレア・レヴィアタンはもうアザゼルによって倒されたと考えてもいいのだろう。

 

「ソッコ―で把握できる名前で言ってやる。――奴は孫悟空。西遊記で有名なクソ猿さ」

 

「そ、そ、孫、悟空ぅぅぅぅぅぅっ!」

 

 イッセーが予想外の名前が出てきたことに驚いている。

 ……なるほどな。あいつが孫悟空なら、あの棍は如意棒で、金色の雲の方が筋斗雲ってわけか。

 

「正確に言うなら、孫悟空の力を受け継いだ猿の妖怪だ。しかし、まさか、おまえまで『禍の団』入りとは世も末だな。いや『白い龍』に孫悟空か。お似合いでもあるのかな」

 

 アザゼルの言葉に男はケタケタと笑う。

 

「俺っちは仏になった初代とは違うんだぜぃ。自由気ままに生きるのさ。俺っちは美猴よ。よろしくな、赤龍帝にそっちのおもしろい男」

 

 こんな状況だというのに、あの男――美猴は気軽に挨拶をしてくる。

 美猴は手に持つ棍をくるくると器用に回し、地面に突き付ける。

 刹那、地面に黒い闇が広がり、ヴァーリと美猴はその闇の中にずぶずぶと沈んでいく。

 あいつら、あの闇で逃げるつもりか!?

 

「待て! 逃すか!」

 

 イッセーが二人を逃がさないように跳びだそうとした瞬間、神器が解除され鎧が消えてしまう。どうやら時間切れのようだ。イッセーが動けないのなら俺がやるまでだ。

 俺は闇の中に沈んでいく二人に向けて暴王の流星を構える。

 その状態じゃあ避けらんねぇよな!

 

「おいおい、あの黒いオーラはなんかヤバいぜぃ。まさか、あれが噂の暴王の力って奴かぃ?」

 

「ああ、無限でさえ喰らい尽くせると言われる力だ。使い手がまだまだ未熟だがな」

 

 美猴はメルゼーの力を見て目を見開いて驚いているが、ヴァーリの方は余裕そうだ。

 ヴァーリ、堕天使側だったはずのおまえがなんで敵になっているのかは知らないが、敵なら容赦はしない。

 俺はそのまま一切容赦せずに二人に目掛けて暴王の流星を発射する。

 高速で前方に発射された一撃必殺の矢がプログラム通りに二人に目掛けてホーミングを開始する。ヴァーリはそのホーミングを確認すると暴王の流星を小さく鼻で笑い、少し離れた場所に魔力の塊を生み出す。次の瞬間、暴王の流星はその魔力の塊に導かれるようにホーミングを行い、二人から大きく逸れる。

 

「……な……に」

 

「未熟だと言っただろ。その力は一度見ている。予想だが、周囲の力に対して追尾を行っているのだろう。それなら囮を作ってしまえば簡単に防げる。所詮、不意打ちでしか通用しない力だな」

 

「クッ!」

 

 ヴァーリの言葉を聞いて俺は奥歯を噛み締める。

 確かに暴王の流星は狙撃用の力なのはわかっていたが、こうも簡単に防がれるなんて……。

 

「悪いが、旧魔王の血族で白龍皇である俺は忙しいんだ。敵は天使、堕天使、悪魔だけじゃない。おまえも赤龍帝も、いずれ、再び戦う機会があるだろう。そのときはさらに激しくやろう。お互いもっと強く――」

 

 それだけ言いかけて、ヴァーリは美猴と共に闇の中へ消えていった。

 

 

――○●○――

 

 

「旧魔王派に貸していた『禁人種(タブー)』がやられたらしいなァ! やったのは俺たちと同じサイキッカーだとか」

 

「旧魔王派? あぁ、あの女が禁人種を一体貸せと言ってきたやつか……」

 

「ハァッ! 所詮は低知能型のザコだろ? 別に気にすることじゃねェだろ」

 

「えー、でも、あの子は結構改造してたから、普通の禁人種よりも戦闘能力は高くなってるだよ?」

 

「そんなこと知るかッ! オレさまからしたら禁人種なんて、どれも同じのザコなんだよ」

 

「むー! 私が作った子を悪く言わないでよ!」

 

「落ちつけ二人とも、ククク……それにしても面白い!! まだ改造された禁人種を倒せる程のサイキッカーが俺たち以外にもまだ存在するとはなァ……気に入った!! ブチのめして俺の仲間にするぞ!! そいつは今どこにいるぅ!!」

 

「やれやれ、またメンドクセ―のが始まった」

 

「今は止めておいた方がいいと思いますよ。どうやら彼は魔王の一人と親しくしているようですし」

 

「何ぃ……魔王だと……!? 魔王か……? そ、それは……オレが嫌いでメンドクサイ奴だから、あいつと元老院から、今は魔王と接触するのを禁止されているオレにウソをついてるとかじゃなくて……か……? そうなのか……!? 違うと言ってくれ……!!」

 

「違います」

 

「必至だな……」

 

「チッ! 相変わらずメンドクセェ性格だなァ!」

 

「どうします。彼とコンタクトでも取ってみますか?」

 

「まあいい、泳がせておくさ。あいつにも報告しないといけないからなァ! それに、そいつが魔王ひいては悪魔と関わるのなら、いずれは俺と闘うのが宿命!! そのときまで楽しみにしているぞ!! 純粋種のサイキッカー!!」

 

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