ヴァーリと美猴には逃げられてしまったものの、敵に捕まっていたギャスパーも無事に救出することもでき、禍の団の襲撃を乗り切って三大勢力の会談は無事に成功。天界代表のミカエルさん、堕天使中枢組織『
以降、三大勢力の争いは禁止事項とされ、協調体制へ――この和平協定は会談の舞台となった俺たちの学園から名を採って『駒王協定』と称された。
あのあとで聞いた話だが、やはりヴァーリはアザゼルを裏切り禍の団に入っていたらしい。そのことを話しているときのアザゼルの瞳はどことなく寂しげなものだった。態度ではなんでもないようにしてても、やはりヴァーリのことで考えることは思うところがあるのだろう。
サーゼクスさまには俺が倒した化け物のことを伝えると、サーゼクスさまやミカエルさん、アザゼルでさえもPSIを使う化け物のことは知らないらしい。一応、あの化け物も禍の団ではないのかと話になり、確証が持てないため各勢力で注意するように決めるだけで終わってしまった。
それ以外にも、イッセーがミカエルさんに頼んでアーシアとゼノヴィアが神への祈りでダメージを食らうシステムを二人の分だけ神への祈りのダメージを無しにしてもらったり、木場がミカエルさんに聖魔剣を渡す代わりに、今後の聖剣研究では犠牲者を出さないように誓って貰った。ミカエルさんは快くそのお願いを聞いてくださり、四人とも凄く喜んでいた。
ミカエルさんはそのままヴァルハラと須弥山に今回の件を報告するために、大勢の部下と共に飛び経ってしまった。
アザゼルは自分の軍勢に指示を出して、堕天使たちを帰すとあと始末をサーゼクスさまに任せてどこかへ去ってしまった。
アザゼルが去る直前にイッセーとアーシアに対して、当分、人間界にいるから神器のことを世話してやると言っていたが、俺を含めて全員がその言葉を冗談として受け取っていた。
しかし、そのときのアザゼルの一言は決して冗談ではなかったようだ……。
「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問となることになった。アザゼル先生と呼べ。もしくは総督でもいいぜ」
現在、なぜか着崩したスーツ姿のアザゼルがオカルト研究部の部室の中にいる。
「……どうして、あなたがここに?」
額に手を当て、困惑している様子の部長。
部長がそうなってしまうのは仕方ないだろう。なにせ今の状況を理解できている人物なんて、この場に一人としていないのだから。まさか、あの言葉が本気だったとは……。
「ハッ! セラフォルーの妹に頼んだら、この役職だ! まあ、俺は知的でチョーイケメンだからな。女生徒でも食いまくってやるさ!」
「それはダメよ! って、なぜソーナがそんなことを」
「堅いな、リアス・グレモリー。いや、なに。サーゼクスに頼んだら、セラフォルーの妹に言えと言うんだ。だから頼んだ」
俺の頭の中に疲れた会長の顔が浮かんでくる。
会長も苦労してるんだな、そりゃあ魔王さまに言われたと、和平を結んだばかりの堕天使の総督が頼んできたら無碍にすることなどできないだろう。多分、教師にしたのも苦渋の決断だったのだろう。
俺は頭の中で会長に対して手を合わせる。
「って、その腕は? 片腕失いましたよね?」
イッセーがなにかに気がついた様子でアザゼルの腕を指差す。
確かにアザゼルはあのとき片腕を失っていたはずだ。聞いた話ではカテレア・レヴィアタンと戦ったときに片腕を犠牲にして勝利したと聞いた。
「ああ、これか。神器研究のついでに作った本物そっくりの義手だ。光力式レーザービームやら、小型ミサイルも搭載できる万能アームさ。一度、こういうの装備してみたかったんだよな。片腕失った記念に装着してみたわけだ」
バシュっと、アザゼルの左手が飛びだし、くるくると横に何回も回転し始める。
確かに俺も男だから浪漫がわからないわけではないが、よくもまあ無駄に高性能なものを作ったな。
俺が若干呆れるのを余所に、アザゼルは自分がこの学園に居られる説明を始める。
どうやら、部長の眷属が持つ未成熟な神器を正しく成長させることが条件らしい。今回現れた禍の団に対する将来的な抑止力の一つとして、『赤い龍』と部長たちの名前が挙がったのが理由らしい。まあ、その本当の理由はヴァーリも自分のチームを持っているらしく、対『白い龍』専門と言うことらしい。俺が報告した化け物の件は、やはり未だに実体が掴めていないらしい。
三勢力が動いて情報が見つからないなんて、あの化け物がいる組織はどうなっているんだ? 考えても謎は深まるばかりだな。今はどの勢力でもいいから情報を手に入れることを願おう。
その後もアザゼルは次々と話を進めていく。流石、堕天使の総督をしていただけのことはあり、正直に受け入れなければいけないことばかりだ。確かに三大勢力の和平は上手くいったが、今度また禍の団が襲撃してくるのかわかったものではない。下手をすれば、禍の団との戦争なんてこともありえる。そのときに俺はどうなっているかわからないが、もしものためにも力をつけておかないとな。あのとき、俺はメルゼーの力を過信しすぎて、あんな簡単な弱点でさえ思いつかなかった。もっとメルゼーの力だけではなく、PSIの力自体を高めていかないとな……。
アザゼルの言葉を受けて新たに決意を固めると、アザゼルの視線が朱乃先輩に向けられる。
「まだ俺らが――いや、バラキエルが憎いか?」
アザゼルが口にするのは朱乃先輩の父親の名前。確かに朱乃先輩の父親はアザゼルの部下だ。
朱乃先輩は厳しい表情でアザゼルを見つめながら口を開く。
「許すつもりはありません。母はあのヒトのせいで死んだのですから」
「朱乃、おまえが悪魔に降ったとき、あいつはなにも言わなかったよ」
「当然でしょうね。あのヒトが私になにかを言える立場であるはずがありません」
「そう言う意味じゃねぇさ。いや、まあ俺がおまえら親子の間に入るのも野暮か」
「あれを父だとは思いません!」
ハッキリとそう言い切る朱乃先輩を見てアザゼルは一瞬だけ複雑そうな表情を浮かべる。
「そうか。でもな、俺はおまえがグレモリー眷属になったのは悪かないと思うぜ。それ以外だったら、バラキエルもどうだったかな」
「……」
アザゼルの言葉に朱乃先輩はなにも言い返さず複雑そうな表情を見せる。
すると、アザゼルが今度はイッセーに視線を向ける。
「おい、赤龍帝――イッセーでいいか? イッセー、おまえ、ハーレムを作るのが夢らしいな?」
「ええ、そうっスけど……」
一体、なにを言うのかと思えば、アザゼルはそんなくだらないことをイッセーに訊ね始めた。さっきまでは真面目な内容だったと言うのに、一瞬で興味を失った俺は、二人の会話を聞き流すことにした。そのあと、色々とアザゼルの話を聞いたイッセーは目を輝かせながら完全にアザゼルに懐いてしまった。
「おー、そうか。よし、じゃあ童貞卒業ツアーにでも出かけるか」
俺が話を聞いていないうちに話はとんでもない方向に進んでいたらしい、もはやイッセーはアザゼルについていく気満々だ。
「はぁ、アザゼル。うちのイッセーに変なことを吹き込まないでちょうだい」
部長はイッセーとアザゼルの姿に溜息を吐くながら注意をする。
「いいじゃねぇか。このぐらいの年頃なら女の一つや二つ知っていておいたほうが健全ってもんだ。それとも下僕が女を知るのになにか不具合があるのか?」
「今のイッセーが女を憶えてしまったら、きっと今以上に女にのめり込むに決まってるわ」
部長が額に手を当てて呆れた様子でそう言う。
確かに部長の言う通りだな。今のイッセーが女を知ったところでいい方向に進むとは思えない。
「イッセーさん、私を置いて遠いところに行ってしまうのですか……?」
イッセーとアザゼルのツアー内容を理解していないが、自分が置いていかれると理解したアーシアは悲しそうな表情をしてイッセーを見つめている。イッセーもアーシアのことを忘れていたのかアーシアの表情を見て慌てている。
はぁ、くだらねぇ……。
「く、楠緒先輩は、全然興味なさそうですねぇ?」
俺がイッセーたちに呆れて溜息を吐いていると、俺の様子が気になったのか段ボール箱からギャスパーが話しかけてくる。
「……イッセーの童貞の行方なんて、俺が興味あるわけないだろ」
「アハハ、確かに楠緒くんの言う通りだね」
ギャスパーの言葉に俺がさらに深く溜息を吐いてそう言うと、木場が笑って俺の言葉に同意する。
そんなことをしていると、どうやら向こうの方も話がまとまったのかアザゼルが夏休みのことを話し始めた。夏休みの間にイッセーの禁手化を完全なるものにする以外にも、色々と全体のパワーアップのことを考えているらしい、その中でもレーティングゲームはいい実戦練習になるとらしい。アザゼルもイッセーと祐斗とギャスパーの神器には興味深々らしく、どんな風にパワーアップさせるか危険な笑いを発しながら考えているようだ。
それにしても夏休みか、折角の長い休みなんだ。俺も色々と考えないとな……前途多難、先行き不安だが、俺も少しずつでも前に進んで行かないとな。
――○●○――
「――以上が、ミカエル殿からの報告です。オーディンさま」
「若造どもが、跳ねっ返りよってからに。神の見真似など大胆なことをする、ミカエルめ」
「いかが致しましょう? 『聖書』に記されし神が崩御されていたとは予想外でしたが」
「若造ミカエルを始め、ルシファーの偽物、悪戯小僧のアザゼル、まったくもって小童どものお遊戯会じゃな」
「では、その小童どもに、我らアース神属の、本当の『神々』を知らしめますか?」
「いや、それは止めておこう。今更世界を巻き込んだ戦争なぞ、この年老いた身には応えるわい。それに小童共の側には、厄介な存在がいるみたいじゃしのぉ?」
「それは報告にあった暴王のことですか?」
「そうじゃ。まったく、どうしてあの力が今になって現れたのか見当もつかんわい。じゃが、あの力を甘く見てはいかん。今は完全に目覚めていないようじゃが、あの力は真の意味で全てを喰らい尽くすからのぉ。それに若造どものひたむきさは見ていておもしろい。悪魔どものレーティングゲームでも観戦しに行くか」
「実に楽しそうですね」
「楽しいわい。父なる存在を失った小僧どもの足掻き。そして、暴王という過ぎた力を持った人間。さあさあ、これからどうする? その過ぎた力に喰われるか、逆に喰らってしまうのか。ほっほっほっ、一度その人間を会ってみるのも面白いかも知れんのぉ」
――○●○――
夏休みに入る前日。つまり終業式が終わり家に帰ってときのことだった。俺は家の前まで辿り着いてある違和感に気がつく。
……あれ? どうしてまた電気が点いてるんだ?
朝、家を出る前に確実に消したはずの家の電気が点いていたのだ。また連絡も無しに親父が帰って来たのかと玄関の扉を開けると――。
「うふふ、おかえりなさい」
扉を開けた先に朱乃先輩が微笑んで立っていた。
……あれ? なんで朱乃先輩が俺の家に? 家を間違えてしまったのだろうか?
朱乃先輩がなぜ家にいるのか理解できない俺は驚いて混乱してしまう。
「うふふ、楠緒くん!」
俺が混乱したままその場で立ち尽していると、朱乃先輩が抱きついてくる。
「朱乃、ただいまあなたのもとへ到着しました。楠緒くん……」
朱乃先輩が抱きついたまま潤んだ瞳で見つめてくる。
「えっ、ど、どういうことですか? どうして朱乃先輩が俺の家に?」
「あらあら、二人っきりのときは朱乃と呼んでと言ったじゃないですか」
「今はそれよりも、とりあえず先になんで朱乃先輩が俺の家にいるのか教えてください」
「あらあら、うふふ、仕方ありませんわね」
姫島先輩は微笑みながらそう言うと、俺の耳元に口を近づけて囁く。
「いつまで待っても楠緒くんが答えを出してくれないので、お家まで押し掛けてしまいましたわ。今後、ちゃんと答えてもらえるまでお世話になりますね」
「あっ――いやいや、うちには親父がいるんで、流石にそう言うのは無理だと思うんですけど?」
「でも、楠緒くんのお父さまには既に了承してもらいましたわよ?」
「はいぃ?」
ど、どういうことだよ。確かに朱乃先輩への答えをウジウジ考えている俺が悪いのかもしれないが、俺の知らないところで話が進み過ぎじゃないか? てか、どうやって俺を経由しなくて親父と連絡を取ったんだよ? とりあえず、そのことも含めて親父に確認しないと……。
「あ、朱乃先輩。ちょっと親父に電話したいんで、話してもらっていいですか?」
「……仕方ありませんわね」
俺のお願いに朱乃先輩は残念そうな声を出しながら、渋々放してくれる。
さて、研究中の親父には悪いけど緊急事態だ。早いところ連絡を取らないとな。
そんなことを考えながら、俺は受話器を取って親父の研究室に電話をする。数回のコールが鳴ったあと、相手が電話を取ってコール音が鳴り止む。
『もしもし、どうしたんですか? 楠緒から電話してくるなんて珍しいですね』
「どうしたんですか? じゃねぇよ、なんで朱乃先輩が家にいるんだよ。しかも今日からうちに住むみたいなことを言ってるんだけど!?」
俺が電話した理由を聞いてくる親父に少し声を荒げながら要件を伝える。
『少し落ちついてください。朱乃先輩とは、姫島朱乃さんのことですよね?』
「……ああ、そうだけど」
『それならば間違いありません。彼女は今日から我が家に住むことになりました』
「いやいや、俺は結果じゃなくて理由を聞いてるんだけど?」
電話越しで親父にそう急かすように問い詰める。
『別にいいではないですか。あなたは彼女が我が家で暮らすことになにか不満でもあるんですか?』
「いや、不満があるってわけじゃないけど、それ以上に問題だらけだろうが!」
付き合っていない男女が一つ屋根の下で二人暮らしとか、常識的に考えて問題があるだろ。あれ? 確かに親父は天然なところはあるが、ここまで常識知らずだったか……?
『問題なんて起きませんよ。私はあなたがそんなことをしないと信じていますから』
「……い、いや、まあ、確かにその通りだけどさ」
電話越しに届く、親父からの俺への絶対的信頼の言葉に俺は素直に同意することしかできなかった。
『どうも、最近研究が忙しくてあなたが夏休みの間も家に帰れそうにないんですよ。彼女には我が家に住んでもらい、あなたを監視してもらいます。そうでもしないとあなたはまた、勝手に途轍もない無茶をしてしまいそうですからね。というよりも、もう既に一回やってしまったみたいですけどね』
「えっ、いや……」
親父の言葉にドキッとした俺は言葉に詰まる。
……既に一回って、まさかあれのことじゃないよな? そうだとしても、なんであのことを親父が知ってるんだ?
そんなことを考えていると、電話越しに親父の溜息を吐く音が聞こえてくる。
『サーゼクスさんから連絡を受けたときは驚きましたよ。どうしてあなたはいつも私に一言でも連絡や相談をしてくれないんですか?』
「それは……ゴメン」
『まったく、私がそこにいたら父の愛の鉄拳が炸裂しているところですよ。まあそういうわけで、サーゼクスさんに相談をした結果、彼女の力を借りることになったというわけです。彼女には我が家に住んでもらい、あなたがまた私に黙って無茶なことをしようとしたときには、私にそのことを連絡してもらうことになっています。過保護すぎると思うかもしれんせんが、あなたにはそのぐらいしないといけないみたいですからね』
呆れた口調ながらも本気で俺のことを心配してくれる親父になにも言い返すことができなくなる。
『用件がそのことだけならば、もう電話を切ってもよろしいですか? そろそろ研究に戻らないと他の人たちの迷惑になってしまうので』
「あ、ああ……研究で忙しいのに電話してゴメン」
『いえいえ、理由はどうあれ息子と話ができて嬉しかったですよ。では、よろしく伝えておいてください』
親父はそう言い終わると電話を切ってしまった。俺は受話器を戻して一度大きく深呼吸をする。
「……とりあえず、朱乃先輩がこの家に住むことになった理由はわかりました」
「では、今日からよろしくお願いしますわね」
「まあ、親父にああ言われたらなにも言えませんね。俺の方こそよろしくお願いします」
朱乃先輩がこの家に住むことを了承するしかない俺は頭を片手で擦りながら朱乃先輩のいる方を向いて答える。
「うふふ、愛しい楠緒くんと一つ屋根の下での共同生活。今から楽しみですわ」
「……先に言っておきますけど、お互ちゃんと節度を持って生活しましょうね」
「うふふ、もちろんわかっていますわ」
朱乃先輩は俺の言葉を聞いているのかいないのか、どこか上の空な様子で俺に答える。俺はそんな朱乃先輩を眺めながら、今日から始まる共同生活に少しの不安を感じながら、朱乃先輩が住む部屋をどこにするか考えていた。