ハイスクールD×D ~PSIを持った人間~   作:てんとう

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アーシアの会話の『』は外国語で話していると思ってください。


Life.6 修道女

 

 部室で寝ていた俺が目を覚ますと、ちょうどイッセーが家に帰るタイミングだったので、一緒に帰ることにした。

 それにしても、やっぱりソファーとはいえ座りながら寝るもんじゃねぇな、体中が痛い。

 俺は体の痛い場所を擦りながら、イッセーと街中を歩いていた。

 

「そういえば、今日はどうするんだ? また仕事に着いてくるつもりか?」

 

「あぁ~。そうだな……」

 

 俺はイッセーの質問に考える。

 どうするか、昨夜着いて行ったのは一度は悪魔の仕事を見ておかないといけないと思ったからで、結局は邪魔をしただけだったしな。

 

「……今回は止めておくわ。どうせ俺が一緒だと邪魔になるだけだろうしな。てか、今日もだと俺の体がきつい。今だってまだ眠いしな」

 

「そうか。まあ、それなら『はうわ!』……ん?」

 

 突然聞こえてきた声にイッセーが振り向く。

 俺もそれに釣られて振り抜くと、そこにはシスターが転がっていた。

 てか、手を大きく広げ、顔面から路面に突っ伏しているあの体勢は大丈夫なのか。

 見た目はなんとも間抜けだが、あの体勢じゃあ下手をしたら受け身を取れず、顔面強打してるだろ。

 

「……だ、だいじょうぶっスか?」

 

「イッセー……しかたないか」

 

 俺は悪魔のイッセーが敵側のシスターに近寄ろうとするのを注意しようとするが、状況が状況だけに途中で止めて、俺も後を追う。

 

『あうぅ。なんで転んでしまうんでしょうか……ああ、すいません。ありがとうございますぅぅ』

 

 声からして若い女性なのはわかるが、日本語じゃないからなにを言っているのか理解できない。

 外国の人みたいだな。わざわざ修道服を着てるのだから旅行ってわけじゃあないよな。

 イッセーが彼女の手を引いて起き上がらせると、その瞬間、強い風が吹きシスターのヴェールが飛んでいく。

 

「……っ」

 

「……ほぉ」

 

 ヴェールの中で束ねられていたであろう金色の長髪。ストレートのブロンドが夕日に照らされキラキラと光る。

 そして、吸い込まれそうなほどに綺麗なグリーン色の相貌がこちらを見つめている。

 俺たちはしばし、その女の子に見入ってしまった

 

『あ、あの……どうしたんですか……?』

 

 なにを言っているのかは分からないが、その子は訝しげな表情で俺たちの顔を覗き込んでくる。

 

「あっ。ゴ、ゴメン。えっと……」

 

「……わるい」

 

 俺とイッセーは言葉が続かない。

 まあ、見惚れていたと言うわけにもいかないし、それよりもまず、彼女が話している言葉を俺は話すことができない。

 コミュニケーション手段がないわけだが……さて、どうしたものか?

 

「りょ、旅行?」

 

 沈黙に耐えられなかったのかイッセーが彼女に質問する。

 イッセー。外国の子に日本語で話しかけても通じないと思うが?

 

『いえ、違うんです。実はこの町の教会に今日赴任することとなりまして……あなた方もこの町の方なのですね。これからよろしくお願いします』

 

 彼女は話すのを止めると、ペコリと頭を下げる。

 俺はその光景に驚いていた。

 あの反応を見るに彼女とイッセーは会話が成立していた。

 彼女は日本語が通じるのか?

 イッセーと彼女が会話に集中している中であることを思い出した。

 そういえば、部長に悪魔の話を詳しく聞いていたときに、転生悪魔の特典として『言語』というものがあると聞いたような気がした。

 確か、イッセーの言葉が声を耳にする人間の一番聞きなれた言語として受け入れられ、逆にイッセーが日本語以外の言語を耳にしてもすべて日本語として変換されるモノだったか。

 

「おい。楠緒?」

 

「あ、あぁ、わるい。なんだ?」

 

 考え事をしているところでイッセーに話しかけられたので、俺は少し慌てて反応する。

 

「じ、実は、彼女を教会に案内したいんだけど……」

 

「はぁ? おまえ本気で言ってんのか?」

 

 俺はイッセーの言った言葉に驚く。

 教会に案内したいって、こいつ自分がどんな存在なのかわかっているのか?

 教会っていったら完全に敵陣じゃねぇか。

 部長にも、教会とかには絶対に近づくなって言われただろ。

 

「おまえな。部長に言われたことを憶えてないのか?」

 

「わかってるけどさ。困った女の子を放っておけないだろ?」

 

 そうだよな、イッセーならそういうと思っていたけど。

 俺はイッセーから視線を外して、彼女の方を見る。

 俺と目が合った彼女はどうしたのかといった風に首を傾げる。

 ……仕方ないな。

 

「わかったよ。だけど、俺の着いて行くし、教会の近くで危ないと感じたら無理矢理連れて帰るからな」

 

 俺はイッセーの目を見ながら本気で言う。

 

「ああ、わかった。じゃあ、早く行こうぜ。あの娘も待ってるしな」

 

 こうして、俺はシスターを引き連れるイッセーの後を追った。

 

 

 

 

 

 教会に向かう途中、公園の前を横切る。

 

「うわぁぁぁぁん」

 

 そのとき、公園の中から子供の声が聞こえてきた。

 

「だいじょうぶ、よしくん」

 

 どうやら、母親を近くに居るみたいだし、大丈夫だろう。

 しかし、イッセーを追って俺の前を歩いていたシスターが突然公園の中に歩を向ける。

 

「おいおい」

 

「マジかよ」

 

 そしてそのまま、座りこんで泣いている子供のそばへシスターは近寄って行った。

 俺とイッセーは少し呆れた表情を浮かべてながら、シスターの後を追う。

 

『大丈夫? 男の子ならこのぐらいのケガで泣いてはダメですよ』

 

 シスターは男の子に優しげに微笑みかけながら、頭を優しくなでる。

 そして、シスターがおもむろに自身の手のひらを子供がケガを負った膝へ当てる。

 次の瞬間、俺とイッセーは驚きの光景を見た。

 シスターの手のひらから淡い緑色の光が発せられ、子供の膝を照らしている。

 なんだあれは? あんな光景は初めて見る。

 しかも、よく見れば、子供のケガが見る見るうちに消え去っていく。

 なんだ、あの光が原因なのか。

 その光を見ながら、俺の脳裏にある単語が過ぎる。

 

 ――神器。

 

 特定の人間の身に宿る、規格外の力。俺の超能力とはまた別の力だ。

 確かに超能力でも似たようなことはできるが、あれはなんか違うと確信できる。

 イッセーもその光が神器によるモノだと感じたのか、少し左腕を触っている。

 子供の母親はその現象にきょとんとしている。

 

『はい。傷はなくなりましたよ。もう大丈夫』

 

 シスターは子供の頭をひとなですると、俺たちのほうへ顔を向ける。

 

『すいません。つい』

 

 舌を出して少し笑う彼女。

 きょとんとしていた母親は頭を垂れると、子供を連れてそそくさと公園から出て行った。

 

「ありがとう! お姉ちゃん!」

 

 子供の感謝の声が聞こえてくる。

 

「ありがとう、お姉ちゃん。だって」

 

 イッセーが彼女に子供の言葉を通訳している。

 だが、俺は見てしまった。

 最後にこちらを見た母親の目。

 あれは子供のケガを治してもらった感謝の目ではない。

 あれは異質なモノを見る目だ。

 ……やっぱりな。あれが普通の反応だ。

 仕方のないこととはいえ、俺は心の中で少し悲しくなる。

 

「おい……おい、楠緒!」

 

「えっ、あ、ああ、どうした?」

 

 俺は戸惑いながらもできるだけ自然に返事を返す。

 

「いや、どうしたんだよ。教会に行くぞ」

 

「そうだったな。わるい。少し考え事をな」

 

 俺は気持ちを切り替えて、再びイッセー達の後を追って教会に向かった。

 

 

 

 

 

 公園を出てから数分。この町で唯一教会と呼べるであろう、古ぼけた教会に辿り着いた。

 しかし、あの教会ってまだ使われてたのか。

 いや、遠目に見て灯りが見えるから誰かいるのだろう。

 そして、先程からイッセーの様子がおかしい。

 少しだが、汗をかいているように見えるし、よく見ると体が小刻みに震えている。

 やはり教会は駄目だな。

 これ以上近くに行くのは危ないだろうし、彼女もここまで来れば大丈夫だろう。

 

『あ、ここです! よかったぁ』

 

 なにを言っているのかは分からないが、手に持っている地図と、あの安堵した表情を見るに、もう案内は必要ないだろう。

 イッセーはシスターと少し別れが惜しそうだが、ここで連れて帰ろう。

 

「イッセー。これ以上は駄目だ。帰るぞ」

 

「あ、ああ。そうだな」

 

 どうやら、イッセーもこれ以上は危険なのに気が付いていたのか、俺の言葉に特に反論せず受け入れた。

 

「じゃあ、俺たちはこれで」

 

『待ってください!』

 

 イッセーが別れの挨拶を言って、帰ろうとするとシスターに呼びとめられた。

 

『私をここまで連れてきてもらったお礼を教会で――』

 

「いや、俺たち急いでいるもんで」

 

『……でも、それでは』

 

 彼女が困った表情を浮かべる。

 イッセーの会話から察するに、教会でお礼でも誘われたのだろう。

 しかし駄目だ。これ以上教会には近づけない。

 

「俺は兵藤一成。周りからはイッセーって呼ばれてるから、イッセーでいいよ。で、キミは?」

 

『私はアーシア・アルジェントと言います! アーシアと呼んでください!』

 

 会話の中でなんとかアーシア・アルジェントという単語だけ聞きとれた。

 それが、彼女の名前なのだろうか?

 そんなことを考えていると、彼女が俺のほうを見ていることに気が付いた。

 なんだ? 俺の方を見てどうしたんだ?

 

「おい、おまえも名前ぐらい教えてやれよ」

 

 どうしたのかと彼女を見ていると、横でイッセーがどうすればいいのか教えてくれる。

 ああ、ただ後ろに着いて来てただけの俺のことも気にしてくれてたんだ。

 

「イッセー、通訳頼むぞ……佐伯楠緒だ。好きなように呼んでくれ」

 

「えっと、こいつの名前は佐伯楠緒。好きに呼んで欲しいって」

 

『わかりました。それでは楠緒さん。私のことはイッセーさんと同じくアーシアと呼んでください!』

 

 彼女の言葉から、少し発音のおかしい楠緒って単語と、アーシアって単語を聞きとる。

 

「えっと、アーシアって呼んでくれって」

 

「わかったって彼女に伝えてくれ」

 

 イッセーから伝わった俺の言葉を聞いて、彼女は俺の方を向いて笑顔を浮かべる。

 

「じゃあ、シスター・アーシア。また会えたらいいね」

 

「じゃあな。アーシア」

 

『はい! イッセーさん、楠緒さん、必ずまたお会いしましょう!』

 

 深々と頭を下げるアーシアに、俺たちは手を振って別れを告げる。

 アーシアはその後も俺たちが見えなくなるまで、ずっと見送ってくれた。

 教会から少し離れた後、俺はイッセーに話しかけた。

 

「最後、彼女はなんて言ってたんだ?」

 

「必ずまたお会いしましょうだって」

 

「……そうか」

 

 それは難しいな。

 彼女はシスター。イッセーは悪魔。そして俺も悪魔と関係を持つモノ。

 決して相容れることのない関係だ。

 また会おうとしたら、運命のいたずらでもない限り不可能に近いだろう。

 

「また、会えたらいいな」

 

「……ああ、そうだな」

 

 イッセーも自分とアーシアの関係をしっかり理解しているようだ。

 その表情から、再びアーシアと出会うのがどれほど厳しいことなのか理解しているように感じる。

 ただ、俺はなんとなく確信していた。

 彼女が近い未来。イッセーと大きく関わることになるだろうと……。

 思えばこれは勝手に発動した未来視だったのかもしれない。

 

 

 

 後日、今日の一件で俺が部長にきついお叱りを受けたのは余談である。

 

 

 

 

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