部室をあとにした俺は、あの公園のベンチに座っていた。
この公園に来た理由は特にない。気が付いたら、こうしてベンチに座っていた。
地面を見つめて、あの日から今日までのことを思い出す。
イッセーを助けることができなくて、イッセーを悪魔にして、部長たちと出会い、超能力者として生きる決意をして、ミルたんのおかげで超能力が少しだけ好きになれるような気がして……結局、これか。
……なにやってんだろ、俺は……そろそろ帰るか。
自分の情けなさに自嘲して、家に帰ろうとベンチから立ちあがった瞬間、俺の目の前に黒い羽根が降ってきた。
この羽は……ッ!!
「ようやく一人になったな……人間」
俺が上を見上げると、そこには背中に黒い翼を生やしたスーツ姿の男が、俺を見降ろしていた。
あの男には見覚えがある。あいつはここでサイコメトリ―を使ったときに見た、イッセーを襲った……。
「……堕天使」
「ほう、私のことを知っているか。グレモリーの者に聞いたか? ならば、話が早い」
堕天使がそういうと、俺を見降ろしたまま、右手に光の槍を生み出す。
その瞬間、未来視と危険予知が起こって、俺の数秒先の未来を視る。
その数秒先の光景は、俺の心臓があの光の槍に貫かれているモノだった。
「あのお方からの指示だ。怨むならば、危険な力を宿したその身を怨むのだなッ!」
そう言い終わると同時に、堕天使は右手に握っていた光の槍を俺に向けて投げつけてくる。
凄まじい勢いで俺に向かってくる光の槍。
その攻撃を先に視ていた俺は、テレキネシスを使って、光の槍を受け止める。
突然、空中で停止する光の槍を見て、堕天使は驚愕の表情を浮かべている。
俺はその一瞬の隙をついて、光の槍を堕天使に投げ返す。
「ぬっ、小癪な!」
しかし、堕天使は即座に新たな光の槍を生み出すと、簡単に俺の投げ返した槍を弾き返した。
チッ、やっぱりあの程度じゃあ無理か。
俺は頭痛に耐えながら、堕天使の方を見続ける。
「なるほど、これがあのお方の言っていた力か。しかし、神器を使用した様子はどこにもなかった……貴様、本当に人間か」
堕天使が怪訝な表情で俺を見てくる。
なるほど、俺もイッセーのように、神器を持っていると思われて襲われたわけか。
……部長の不安が的中したわけか。
そして、堕天使のいったあのお方とは、天野夕麻のことを言っているんだろう。
しかし、そうだとしたら、なんで今頃になって俺を襲う?
あの日から、だいぶ日にちが経っているはずだ。
襲おうとしたら、もっと早く襲えていたはずなのに……そういえば、さっきあの堕天使はようやくと言ったか?
「……さっきのようやくって、どういう意味だ?」
俺はいつ攻撃されてもいいように、最大の注意を払いながら、堕天使に問い掛ける。
「そんなことが気になるのか? まあ、いい、冥土の土産に教えてやろう。あのお方に命じられて貴様を見つけたときには、常にグレモリーの使い魔が貴様のそばに居て、こちらが手を出したくても出せん状況だったのだ。だが、ようやく今日になって貴様が一人になったのでな。こうして、貴様を処分するために出てきたわけだ」
なるほどな。結局、部活に入ってから常に守られていたわけか。
「これで聞きたかったことは十分か? では、そろそろ貴様の命を貰おうか。その力が神器によるものでなくても、私たちにとって害となるモノに違いはない。どちらにせよ、貴様には死ぬ未来しか残ってないのだからな!」
槍を投げても、さっきと同じように投げ返されると考えたのか、今度は槍を手に持ったまま飛びかかってくる。
駄目だ、槍ぐらいならまだしも、さすがにあの勢いの身体はテレキネシスでは完全に停め切れない。
どうする、考えろ、テレポーテーションで逃げるか? 嫌、今の状態では少しの距離しか跳ぶことはできない、追いつかれたらそこで終わりだ。なら、どうすればいい。
避けきれるか? 駄目だ、俺の身体能力じゃあ避けきれない。
身体で受け止める? 駄目だ、それだと予知と同じ結果になる。
……それなら!
迫りくる死に対して、高速で思考する考えの中、俺は生き残るための道を見つけ出す。
「ぐっ!」
「ほう、また躱したか」
堕天使の槍が当たる前に、俺は自分の身体にテレキネシスを使い、出来る限り離れた位置まで身体を投げ飛ばした。
着地のことを考えずに投げたため、上手く着地することができずに、投げ飛ばした勢いのまま地面に転がってしまった。
……全身が痛いが、なんとか槍からを避けることができたが、このダメージだと、最初からテレポーテーションで逃げた方がよかったんじゃないか?
選択を間違ってしまったかもと考えながら、地面に倒れたまま立ち上がれずにいた。
「いい加減諦めろ。もう一度言うが、貴様には死ぬ未来しかないのだ」
堕天使は右手に槍を構えながら、俺を蔑む表情で近づいてくる。
その速度は、先ほどとは明らかに違い、一歩一歩、ゆっくりだ。
地面に倒れたままの俺を対して、止めを刺すつもりなんだろう。
すぐに戸と目を刺さないのは、ゆっくり俺に死の恐怖を与えて、楽しんでいるのだろう。
俺は一歩一歩迫りくる死に対して、俺が感じていたのは恐怖でなかった。
……俺が感じていたのは、この堕天使の思考と記憶。
「これで終わりだ……死ね」
俺の近くまでやってきた堕天使がそう言い終わると、槍を俺に向けて振りおろした。
受けてしまえば確実に死んでしまう一撃。
「……なっ! 貴様いい加減にせんかッ!!」
しかし、その槍は俺の身体を貫くことなく、俺の身体の直前に停止している。
俺は槍が身体を貫く直前に、テレキネシスで堕天使の身体ごと槍の攻撃を防いでいた。
こちらに凄まじい勢いで飛んでくる身体を停めることは出来なくても、立ち止まって、腕を振り下ろしてくるぐらいの身体なら停めることは出来る。
そして、一度停めてしまえば、この堕天使のいうあのお方でさえ、動くことができなかったんだからな。
俺の頭上で堕天使がなにか叫びながら、テレキネシスの拘束から逃れようとしている。
残念ながら、頭痛が酷過ぎてなにを言っているのかわかんない。
さて、それじゃあ終わらせよう。
元々、テレキネシスで堕天使の動きを停めたのは攻撃を防ぐためじゃない。
さっき読んだこの堕天使の思考と記憶。
その中にあった、堕天使達がやろうとしている、計画の内容。
他の堕天使はイッセー達がなんとかするだろうが、この堕天使だけは俺が……この後、俺がどうなろうとイッセー達の足手まといにはならないだろうさ……なぜなら、こいつが言って通り、今の俺は一人だからな!!
俺は全力でテレキネシスを堕天使にかける。
その力は拘束するための力ではなく!!
「――――――――――――!!」
俺の頭上にいた堕天使が言葉にならない叫び声を上げながら、頭を抱えて仰向けに倒れ込む。
……痛いじゃすまないだろう……視たぞ、おまえの身体の中、確かに羽とかある分、人間とは少し違う部分があったが、基本は人間と同じ。
そして、思考能力を持つ生き物なら、脳を弄られたらそうなるよな!!
俺の使ったテレキネシスの対象は一つ、堕天使の頭の中にある脳。
俺の頭痛なんて比じゃない、それ以上の痛みが堕天使に襲いかかったはずだ。
テレキネシスを使った時間は一瞬だが、倒れ込んだ堕天使は既に動かなくなっていた。
……どうやら、失神したか、死んだみたいだ。
じゃあな、堕天使ドーナシーク。もう二度と会うことはないだろうさ。
使っちまったか、親父に絶対に使うなって言われた使い方の一つだったんだけどな。
……駄目だ、力を使い過ぎて、頭痛さえ感じなくなってきた。
しかも、目の前まで暗くなってきやがった……これは、もう駄目かもしれないな。
沈んでいく意識の中、俺はイッセー達のことを考える。
堕天使達がやろうとしている計画は、もう行われている。
急げよ、アーシアを助けることができるかどうかはおまえしだいだ。
……ああ、眠いな。もう、ここで眠っちまうか。
俺が意識を失いかけた瞬間、俺の横で砂が擦れるような音が聞こえたような気がした。