「……おっけー」
僕は料理を作り終わると一度背伸びをした。
僕はどこにでもいる一般人で、どこにでもいる一般人社会人。
「ねえね〜!ねえ〜ね〜!」
僕は姉と二人暮しだ。
基本的に僕が家事全般をやっていて、姉は基本的に駄目駄目だ。
ちなみに姉は基本テレワークで、部屋に引きこもってる。
「…?」
返事がない。
「ねーーえーーーねーーー!」
僕は大きな声を張り上げて呼ぶが、中々姿をあらわさない。
「……寝てるのかな?」
面倒くさいと思いながらもキッキンから離れ、ゆっくりと姉の部屋へと足を運ぶ。
「おーい!ねえね〜!」
コンコンコンッとノックをするが、反応なし。
「あけるよー」
返事がないのを確認し、寝ていると判断した僕は、姉の部屋を開けた。
「すぅ……すぅ……」
思ったとおり、姉は静かに寝息を立て、椅子と机を使い眠っていた。
ゲームが作動していて、どうやらゲームをしてて眠ってしまったらしい。
「まったくもう……ん?」
ふと、付いている画面に目が行く、そこにはゲームの画面だけではなく、可愛い女の子が写っていて、そして。
コメント
『誰だこいつ?!ミウっちの彼氏か?!』
『彼氏きたぁーー!!!━━━━(゚∀゚)━━━━!!』
『いや、普通にねえねって読んでたし、弟だろ』
『おい声震えてっぞ()』
『ミウっちの弟か、俺らのことお兄ちゃんって読んでいいんやで?』
察するに、ライブでゲーム配信をしていたのだろう。
ぶっちゃけ、あまり知らないけど。ブイチーバー?ってのが流行ってるらしいから、多分それ。
「えっと………えー…」
僕は困惑しながらも、マイクに顔を近づけて小さな声でしゃべる。
「えと…、うちの姉貴がお世話になっております。勝手ながら…えっーと……。ゲーム配信を切らせていただきます」
そういって、僕はどうやってかライブ配信を切ろうとする。
「……あれ……きり方……どうするんだろ」
勿論。ただの一般ピーポーにそんなことわかるはずもない。
コメント
『何この子かわいいかよ』
『そこ押せば切れるよー』
『話には聞いてたけど、まじでショタでてぇてぇ』
『てか突然姉貴呼びになったな』
『弟襲来で、切り取り不可避』
「えっと…お疲れ様でしたー」
どうにか僕はライブ配信を切り、姉をゆする。
「ねえね〜、ねえね〜〜」
「ん……、あれ…ねちゃっ…て…あれっ……配信────」
「もう止めたよ、ご飯食べよ」
「そっか……、ご飯食べる〜……」
まだ寝ぼけてるが、どうやら起きてくれたようだ。
それにしても、姉が動画配信やってたとは……、衝撃の事実である。
───
──
─
「ねえねえ」
「?」
その日の夜、ご飯を食べ終わると姉にちょいちょいっと肩の辺りを引っ張られた。
「なに?ねえね」
「ちょっとこっちおいで」
「?」
「いいからいいからっ」
僕は頭にハテナマークを浮かべながら、姉の後を素直に付いていく。
姉の部屋につれてかれた。またパソコンを起動しっぱなし。
「…ねえね。パソコンつけっぱはやめてって──」
「待たせたわね!あんたらの最高の歌姫ミウよ」
「ほ?」
「ご要望どおり、私の最愛なる弟つれてきたよ〜!」
コメント
『キタコレっ!!』
『ミウ弟きたぁぁ!!』
『初見です。切り取りの弟襲来から来ました』
『ミウ弟だぁ!!』
「?????」
「今日は麗しく愛しい弟に向けての質問コーナーやるわ。きちんと聞きなさい」
「?????」
僕は突然のこと過ぎて頭がどうにかなりそうだった。姉さんは何を言ってるのだろう。
「……説明するね」
「うん」
「私が寝落ちしてさ。アンタが変わりにゲーム消してくれたよね?」
「うん」
説明してくれるっぽかったので、僕は黙って姉の話を聞くことにした。
「それさ、バズったわけよ」
「バズ?」
「人気になったのよ」
「うん、なんで?」
「切り取りがバズって急上昇に乗ったから」
「切り取りってなに?」
「Vtuberの生配信の一部を切り取って動画にしたものよ」
「Vtuberってなに?」
コメント
『ミウちゃんが質問攻めされてんの草』
『ミウ弟ばりばりこっちの世界の初心者ムーブカマしてるな』
『今回ミウ弟への質問会のはずだよね…?』
『ミウが質問攻めされてる珍しい光景てぇてぇ』
「…姉貴、てぇてぇって何?」
「……うん、もういいよ。とりあえずマシュマ〇に質問募集したから答えて」
「マシュマ〇…」
僕は混乱をしながらも、もう質問しても無駄だと理解し、質問をのみこんで姉の話を聞くことにした。
「まず一つ。『好きな食べ物は何ですか?』」
「……カレーです。ほかにも甘いものが好きです」
僕は当たりさわりのない返事をする。
「?でもあんた、普通にカレー辛口食べるわよね?甘口のほうが好き?」
「……姉貴が辛口のほうが好きだから、いつも辛口作ってる」
「どやぁ……」
コメント
『てぇてぇな~…^^』
『あ~、兄妹癒されるんじゃ~』
『おれもこんな弟か姉ほしかった』
『てかミウちゃんがいつも以上に楽しそうなの草生えるんだがw』
僕は少しだけ照れた。
仲がいいとはよく言われるが、こんな大勢の人から言われるのはもちろん初めてなので、少し恥ずかしい。
「うちの弟はかわいいのよ。いいだろ戦友共」
「戦友?」
「私は『戦場の歌姫』なの。あんたはその弟」
「なら、僕の死因はさしずめ『歌姫の弟、見せしめにより死亡』だね」
「嫌よそんなの!!」
「だろうね、僕も嫌だ」
僕は少し微笑みを浮かべながら、マシュマ〇?の質問を見る。
「えっと……『姉がVtuberってどんな気持ち?』姉がVtuberなんだなって気持ち」
「え、そんだけ」
「? それ以外なんかいる?」
僕はうーんと、腕を組んで唸る。
実際それ以上になんといえ良いのだろう。よくわからない。
コメント
『だぁぁぁもぉ!!うらやましい!!』
『ミウたんと一緒に屋根の下で寝れるとかマジでさぁ!!』
『おいお前らやめろ!みじめにしか見えないぞ!』
『あ~、ミウちゃんと屋根の下で暮らしたいんじゃ~』
「………」
僕はいつの間にか恐ろしくさげすんだ目でコメントを見ていた。
もしかしてこの人たち、変態さん?
「ちょっっ!弟が私のリスナーをごみを見るような目で見てる!」
「姉貴、妙にテンション高いね」
いつもはあんまりしゃべらず、クールな印象を持たれがちなのだが、ここまで楽しそうな姉を、僕自身も久々に見る。
「えっと……、弟といっても、姉がここまで騒いでるのは…皆さんのおかげです。どうかうちの姉貴と仲良くしてくれたらうれしいです」
「むっ、騒いでるとは失礼な」
デスクワークしてるにも関わらず、妙に楽しそうな声が聞こえる理由が今日やっとわかった。
僕はすこしだけ、視聴している人たちに嫉妬しているのかもしれない。
「そういえば、ここで僕の話とかしたことある?」
「うん、普通にあるよ?」
どうやら普通にあるらしい、どんな話をしているのかは知らないが、自分の姉が僕の話をしていると思うと、少し顔が赤くなるのを感じる。
「弟がかわいい事とね、ぎゅってしたら抱き心地良い事に。髪がきれいなことに、背が小っちゃくて可愛いことに」
「……ブラコンって言われても知らないよ?」
「もう手遅れよ」
どうしてそんなことを恥ずかしげもなく言えるんだ。
その清々しさに、呆れを通り越してすこし笑えてくる。
コメント
『おや?弟も重度のシスコンだとお聞きしましたが?』
『ミウちゃん、『うちの弟がシスコンでー』って毎回言ってるんですがそれは……』
『今まで聞いてきた「初めての塩おにぎり」とか、色々根掘り葉掘り聞こうぜ』
『それ。「弟が耳かきしてほしいって初めてねだった話」の続きも聞きたい!』
「あ、それいいわね。その辺も掘り返しましょう」
「まてまて!」
今とても思い出したくない思い出がぼんぼんと湯水のように出てきた。
このくそ姉貴…!どれだけ僕の黒歴史を暴露したんだ?!
「ねえね…ぁっ…。姉貴!!」
「あ、一瞬戻った」
コメント
『一瞬素に戻ったっぽいな。てかねえねってやらせじゃなかったのか』
『やっべ、普通にかわいくね?』
『Vtuberのおねーさん系の誰かとコラボしてくんねぇかな…(願望)』
『とりま、黒歴史の詳細はよ、てぇてぇ、はよ』
そんなコメントが次々に流れてきて、僕はほほを朱色で染めた。
姉は妙にニヤニヤしている。
「っ!揚げ足をとるな!」
「ま、その話はいつかするとして。次の質問ね」
姉は僕の頭を撫でながら、質問を見る。
『弟さん!ミウ姉さんを俺にくだ…』
「死ね」
ぶちっ!!!
体が勝手に動いていた。気が付くと僕は、PCの電源のコンセントを力づくで引っ張っていた。
「……僕、お皿洗いしてくる」
「あ……うん」
そのまま、僕は姉の部屋を去った。
『おっ!ライブ再開した』
『きたああああぁ!!!!』
『弟君は何処へ?』
『切れた瞬間マジで恐怖感じたわ。ヤンデレって怖い』
「どう、うちの弟は、ガチでかわいいでしょ???」
『草』
『草』
『草』
『草』
『草』
『wwww』
『かわいかったけどwwww』
『ある意味怖えわミウたんwwww』