剣士(無免許)と少女(元死体)と魔術師(竜人)と+1がクリア人数0のダンジョンに挑む話   作:tmtm

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帝都迷宮対策本部

 長廊下を通り抜け冒険者がごった返す酒場じみた場所まで戻ってきた。俺達がドアから入るなり時間を凍らせたみたいに音が消える。

  

 ボードゲームで賭けをしている人間、弓を磨いているエルフ、鬣を自慢している獣人。みんな幽霊でも見たかのように目ん玉をひん剥いてた。

  

 唯一時の流れに従っているのはカウンターのドワーフが注いでいるエールだけだ。コップから泡を立てて溢れてやがる、もったいない。

  

 それらの視線から逃れるようにコウが開けたカウンター内部のドアに俺たちは駆け込んだ。

  

 ドアが閉まるなりアニモが両ひざに手をつく。どうしたんだ?

  

「コウ殿、不躾だが魔法薬を譲ってもらえないか? かなり疲弊していてな。私とこっちの……」

  

 アニモはヒカリの方を見て言葉を濁す。そうだった、まだ名前のことを話してなかったな。

 言葉を受けて小さな少女は得意げな表情を浮かべた。どこか自慢げだ。

  

「ヒカリ」

「え?」魔術師の声が一段高くなった。

「あー、アニモ。そいつの名前はヒカリだ……というかそうなった。ダンジョンから帰る途中、その、色々あって」

  

 しばし鼻の穴と口を洞窟みたいに広げていたアニモだったが、俺とヒカリを何度も交互に見やってから喉を上下に動かした。

  

 どうにかこの状況を飲み込んだようだ。

  

「こ、この件は後で聞こう。で、だ。コウ殿、どうか我らに分けてもらえないだろうか? 少々歩くのがつらくなってきた」

  

 よく見ると額に脂汗が滲んでいる。どうもマナが極端に減ると体力にもかなり悪影響を与えるようだ。

  

 同じくヒカリを見て目を丸くしていたコウだったがすぐに表情を微笑みへと変えた。

  

「もちろんです。少々お待ち……」

「はい! どうぞ。アニモさん」

  

 聞き覚えのある声と共に青い瓶が眼下から生えてくる。手の主は……ビビだ。腕には杖などの魔道具が詰め込まれた袋をぶら下げている。

  

「恩に着る!」

「ビビ、お前の魔道具には世話になった。おかげで生きて帰れたよ」

「ケイタさん! そ、そんな……えへへ」

  

 礼もほどほどにアニモは魔法薬を一気に飲み干した。いつの間にかビビから魔法薬を受け取っていたヒカリもそれに続く。

  

「ありがとう、おいしかった」

「ビビ殿、助かったぞ。味は……人それぞれだな」

  

 そう言うとアニモは尻尾で床を軽く叩いた。二人とも心なしか目に輝きが戻ったように思える。ビビは小走りでコウの隣まで行くと伏し目がちにほほ笑んだ。

  

 それから俺達はまず体の汚れを落とすため、右手にある洗い場へと案内された(かなり控えめな表現でコウに体の臭い等について諭された)。

  

 驚いたことに個室で洗い場があるらしい。しかも脱衣所までだ!

  

 肌と同化するほどにまで馴染んだ布切れを脱ぎ捨て石張りの洗い場へ入る。中は俺が両手を広げて余るくらいの広さだった。

  

 しかし、水がない。

  

 首をひねっていると突如“雨が降ってきた”。

  

「え?」

  

 見上げれば天井には水色の四角い石が浮かんでいる。どうもここからこの水は落ちているようだ。しかも温かいしハーブの様に良い匂いもする。試しに体を擦ってみると見る見るうちに血や泥が落ちていった。落ちた汚れが角の排水溝まで黒い線を作っている。特殊な水なのか目に入っても痛みはなかった。

  

 体中の汚れを落として脱衣所へのドアを開けると目に飛び込んできたのは緑色の丸い物体。

  

 触ってみると水を貯めたヤギの胃袋みたいな感触。少し遅れて緑が赤に変わると熱風が噴き出してきた。あっという間に全身が乾いていく。

  

 信じられん……こんなものまであるのか。

  

 髪に手を当てても濡れなくなった頃、風が収まり胃袋モドキは天井にまでふわふわと上がっていった。

  

 部屋の隅に用意されていた紺色の簡素な服と靴を身に着ける。良質な麻布の感触が肌になじみ、仄かにリズの花の香りがした。

  

 脱衣所から出ると俺と同じような服が目に入る。二人共既に準備を終えたようだ。

  

「おお、見違えたぞ。ダンジョンにいる時は酷いありさまだったからな」

  

 アニモが来ているのは濃い赤の服だった。例の水で汚れが落ちたのか鱗が光沢を出していた。

  

「あの雨を降らせる石は初めて見た」

  

 ヒカリは黒。白い肌と銀髪が良く映えている。俺が口を開くよりも先にコウとビビがやってきた。ビビは荷物を運び終えたのか手ぶらになっている。

  

「では皆さんこちらへ……」

「あれ? そういやあの小さな魔法石はいいのか? あれで確かめるとか言ってたような……」

  

 口に出して思い出した。あの魔石は確か布切れの内ポケットに……まさか捨てられたか?内心焦っている俺の前でコウは手のひらを上に向けた。乗っているのは三つの魔石。

  

 色は紫へと変わっている。

  

「回収させていただきました。これは第二階層最深部にあるポータルに触れると色が変わる仕組みなんです」

  

 アニモが短く感嘆の声を上げた。表情を見るにどうも魔術的に卓越した作りらしい。ヒカリの方は気の抜けた表情でボケっとしていた。多分俺と同じような気持ちだろう、興味なさそうだ。

  

「改めて皆さんを登録所……いえ、帝都迷宮対策本部へご案内します。こちらは第二階層突破者のみが訪れることのできる場所です」

  

 体温が一段上がったような高揚。いよいよここからがダンジョン攻略の本番ってところか。ただ、“入門編”であのハーピーが出て来るってのはルーキーにはキツ過ぎるシゴキだったが。

  

 コウが紫の魔石をかざすと部屋の中央にポータルが現れた。こんな仕掛けが……アニモはいよいよ子供のように目を輝かせている。

  

 コウがポータルを起動させるとすぐ、視界は光で覆われていった。

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