剣士(無免許)と少女(元死体)と魔術師(竜人)と+1がクリア人数0のダンジョンに挑む話 作:tmtm
テーブル上のコップを持ちつつ体を左右に揺らしながらこっちへ歩いてきた。ポケットがいくつも付いた作業着を身に着けている。足も腕も太くて短い。背は俺の胸の高さ、ヒカリと同じか少し高いくらいに見える。
「あんたらは……」モゾモゾと髭がうごめき、槌を地面に打ちおろしたような声が這い出てくる。
「ガロクさん。こちらが新たに第二階層を突破した方々です。ケイタさん、アニモさん、そして……ヒカリさん」
「おうおう! そうかそうか! 新しい金……客ときたら歓迎しなくちゃなんねえな」
豪快に笑いながらコップの中身を一息に飲み干す。四分の一くらいは髭を伝って床に落ちてるんじゃないか? 一呼吸おいてガマガエルの鳴き声みたいなゲップが続く。
「おっとすまねえ。ちょいとあのつまらん仕事を片付けちまうよ」
そう言うとガロクは水桶に入れられていた長剣を研ぎ始めた。後からついていくと炉から出る熱気がこっちまで伝わってくる。
「こいつはタタラ法か。あんた北の<剣山脈>出身か?」
剣を研いでいた手が止まる。こちらに向けられた毛むくじゃらの中には驚きの表情。
「ほう! 俺達の製鉄法を知ってるたぁ驚きだ! ん? そりゃ刀か。良ければちょいと見せてくれんか」
俺が渡した刀を鞘から引き抜く。その刃を見た瞬間、突然ガロクは立ち上がった。その拍子にさっきまで研いでいた剣が地面に落ちる。
「こいつぁ見事な刃文だ。光の加減が違う。使われてるのはテール鋼か? こんな業物を見られるとはツイてるぜ。ウルカヌスにビールの一杯でも捧げんとな」
「あー、鍛治の神様もいいんだが……大丈夫なのか、そっちの剣」
ガロクの方は刀に夢中のようだ。落ちた剣には見向きもしない。髭からポタポタ垂れるビールだったものが長剣に当り跳ね返っている。
「ん? ああ、このくず鉄か。心配いらん。貴族からの依頼でな、どうせ屋敷に飾られるだけだ」
光に当ててみたり水をかけてみたりしてたガロクだが、少しの間唸った後、刀を返してきた。口髭でいまいちわからないが満足したようだ。
「良い刀だ。俺が言うんだから間違いねぇ。恐らくだがテール鋼に魔鉄が少量使われている」
「そりゃよかったよ。ドワーフの鍛冶師に褒められるなら親父も喜ぶ、形見なんだ」
ガロクばつぶらな瞳をぱちくりさせて軽く咳払いした。そんな鍛治師を見てるとやはり疑問が頭をよぎる。これだけ腕が良けりゃ仕事には困らないハズだが。
疑問の答えが出る前にアニモもこっちに歩み寄ってきた。片手にはダンジョンで採掘した鉱石を持っている。
「ガロク殿といったか、お初にお目にかかる。アニモだ」
魔術師が手を差し出すとガロクは一呼吸遅れてその手を握った。俺もそうだったがリザードマンがこれだけ丁寧な言葉遣いをして驚かない奴は少数だろう。
「この鉱石はダンジョンで採掘したものだ。製錬して武具に変えてもらえないだろうか」
鉱石を渡されるなりドワーフは小さな眼鏡をかけると穴が開くほど見つめ始めた。おもむろに槌を持つと軽く鉱石に打ち付ける。パッと青い火花が散った。
「驚いたな……確かに質は良くない。しかしこいつは紛れもなく魔鉄だ。第二階層でこんなもんが見つかるとはな」
「ケイタ、この魔鉄は吾輩に使わせてくれないか? 作りたいものがあってな」
「そりゃ構わないが」
俺としてもこいつの使い道がイマイチ分からない。こいつを掘ったときアニモは何て言ってたかな。
「ガロク殿、杖を二振り作って欲しい。吾輩と、こっちにいるヒカリにだ」
ガロクは机の上に出された鉱石を眺め大きく頷いた。顔には笑みが浮かんでいる。
「あんた魔術師だったのか! もちろん引き受けるさ! 金になるしお互い損もしない。とびっきりの物を作ってやるよ。確かユグドルの若木があったな」
金、の一言で背筋が凍った。俺は殆ど一文無し、そして我が愛すべきパーティーの面々にしたってお世辞にも重たい財布を持ってるとは思えない。
「あ、いや、ちょっと待ってくれ。金なんだが、今持ち合わせが……」
「え? お金は大丈夫ですよ。武具の作成にかかる費用は全て本部から出されます」
きょとんとした表情でビビが告げた。細い首を傾けるとふわりとした栗色の髪が垂れさがる。
「か、金なしでも良いのか……?」
「ガッハハハハ! そういうことだ! 心配せずに置いておきな。ついでにあんたの刀も研いでおいてやろう。心配すんな! 代金は貴族サマ持ちだからよ!」
鳴る程、俄然やる気をみなぎらせた太腕を見るに、どうも打った本数によってこの鍛冶師の収入も増えるらしい。仕事熱心な鍛冶師は早速次の金になる仕事に取り掛かるべく炉の炎を焚き始めていた。
「なあ、ガロク。一つ聞きたいことがあるんだが……いいか?」
「おう! なんだ?」炉から目を離さずにドワーフが答える。
「あんたどうして<剣山脈>から帝都まで出てきたんだ? その腕があれば故郷でも安泰だろうに」
するとガロクはフイゴから手を放し顔だけをこちらへ向けた。ニヤッと笑うその口からはキラキラと輝く金色の歯が見え隠れしている。
「金だ!! 決まってんだろ! ガッハハハハハ……」
なんともドワーフらしい理由に肩の力が抜ける。この鍛冶師と長時間いっしょにいるとこっちが疲れてきそうだ。
俺はビビに手を引かれ次の仕立て屋へと向かった。