二夜廻   作:甲乙

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12:朝闇(くらやみ)

 長い夜が、明けようとしていた。

 

 一人の少女はその命を失い、一人の少女はその片腕を失った。

 

 失ったものはあまりに多く、得たものは果たして何だったのか。

 

 ただ確かに、夜は明けようとしていた。

 

 明けない夜は無いのだから。

 

 

 

 だが、少女たちは知らなかった。

 

 

 夜が明けるその瞬間(とき)こそ、もっとも空が暗くなるのだと。

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 光も死ぬような陰鬱な洞窟の奥、ガラガラと瓦礫(がれき)が降るその中で、ユイは目が覚めた。

 

『――あれ、わたし』

 

 たしか、自分がどうして死んだのか確かめたくて、山に行って、……お父さんの死体を見つけて。それから、それから、

 

『どうしたんだっけ……』

 

 幽霊になってから、どうしようもなく記憶が曖昧だ。

 辺りを見回すと、どこか見覚えのあるような無いような光景が広がっていた。

 何か大きなモノが暴れでもしたみたいな、割れた岩の破片。

 何かが大量に降ってきたのか、赤い染みがそこら中にこびりついていた。

 来たことがあるのか無いのか、どちらにせよ、あまり長居したい場所ではない。

 

 ほんのわずかに明るい方向に向かって歩くと、右手に何かが絡みついていた。

 糸だ。赤い糸。

 すこし前にも見えていた糸だが、なんとなく張りが無くなっているように見えた。まるで、切られてしまったみたいに。

 進む当ても無かったユイは、その糸を辿ることにした。

 触れられない糸を辿って、歩いて、その先はすぐに見つかった。

 

『うっ……』

 

 白くて細い、小さな腕が落ちていた。

 糸は、その左腕につながっていたのだ。その指に、手首に、何重にも雁字搦めに絡みついている。二の腕の半ばで断ち切られた断面からは、まだ鮮血が流れていた。

 恐る恐る触れてみると、触れたその場所から、白い肌が一気に黒ずんでいく。

 

『ひっ』

 

 思わず尻もちをついて見ている間に、その腕は腐り落ちて、骨だけになって、その骨も塵になって消えてしまった。

 そこに繋がっていた糸も、端から透明になって消えていく。その消滅がユイの右手にまで達した時、ユイの中で、何か大事なものが消えてしまった気がした。

 

『なんなの……』

 

 ひどく胸が苦しくなった。何か、何か、絶対に失くしちゃいけないものが……。

 結局なにもわからなくて、仕方なく立ち上がると、今度は何歩か先に、鮮やかな赤が見えた。

 その辺の赤い染みとは違う、とても鮮やかな、つい今しがたできたような、血痕。

 血痕を、辿る。辿って、歩いて、そして……。

 

 

『――――ハル!』

 

 

 どうして、こんなに大事な親友のことを忘れていたのか。駆け寄って、無事を確かめようとして、絶句した。

 ハルは、左腕が無かった。さっき落ちていた腕と無関係なはずもない。

 

『ハル! ハル! しっかりして!』

 

 倒れていたハルを抱き起す。今度はちゃんと触れることができて、心底安心した。

 だけど体勢が変わったせいか、ハルの腕からボタボタと血が落ちてきて、ユイは青ざめる。

 血を止めないと。でも(ひも)なんて落ちていなくて、しかたなくハルの三つ編みを勝手にほどいて、髪ゴムを歯で噛みちぎった。

 なんとかハルの肩口をきつく縛ると、肩をかして歩きだす。

 その時、ハルの口がすこしだけ動いた。

 

『……ごめんね……ユイ』

 

 いつも通りのハルで、ユイはすこし安心した。

 ハルは、すぐに謝る。ユイが何かしてあげるとすぐに「ごめん」と言ってしまう。そういう時は、他に言うことがあるといつも言っているのに。

 とにかく、ハルを安全な場所に運ぼうとして、

 

 ――あれ、前にも、こんなことが。

 

 すぐ目の前に現れた、灰色の残像(ユイ)に重なった瞬間、ユイはすべてを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 お父さんの遺書。

 お父さんの死体。

 お父さんは死んじゃって。

 お母さんは壊れてしまって。

 わたしも幽霊になって。

 わたしがなにをしたの。

 どうして、わたし達ばかり、こんな地獄を味わうの。

 ハル。

 ねえ、ハル。

 ずっと一緒だって、言ったよね。

 ずっと友達だって、言ったじゃない。

 なのに、どうして引っ越すなんて言うの?

 ハルまで、わたしをおいていくの? うらぎるの?

 

 つらかった。

 さみしかった。

 いっしょにいたかった。

 いっしょにきてほしかった。

 ひとりにしないでほしかった。

 

 だから、

 

 だから、

 

 ハルを、ころそうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 ざわざわと、視界の端に黒い触手が蠢いていた。

 これは、自分のものだ。見下ろした自分の手は、真っ黒に染まっていた。

 自分は、お化けになっていた。

 

 ユイは、すべてを理解した。

 孤独に、苦痛に、ハルとの別れに、クロの死に心を弱らせた自分は、あの「声」を聞いてしまい、自殺した。

 幽霊になって、記憶を失くして、町をさまよって、お父さんの死体を見つけて、絶望して、お化けになった。

 お化けになって、ハルを、道連れにしようとした。

 だからハルは、自分との縁をコトワリさまに切ってもらったのだ。その左腕と引き換えに。

 

『――――ッ!』

 

 ユイは叫ぼうとした。

 でも、ハルをこれ以上苦しめたくなくて、……この姿を見られたくなくて、叫びを抑え込んだ。

 歩きながら、なんとか心を落ち着ける。なんとか、元の姿に戻れた。

 

 ……元の姿?

 ……こんな、親友を殺そうとした「悪いお化け(わたし)」の元の姿とは?

 

 自虐と呼ぶにはあまりに凄惨な考えを振り払い、洞窟を出る。ほどかれたハルの薄い色の髪が、光に照らされて輝いていた。

 夜が、明けようとしていた。

 自分の手が朝日に透けているのを見て、ユイは足を速める。名残を惜しんでいる間は無かった。

 

 ――ごめんね……ハル

 

 ハルと山道を下りながら、ユイは泣いていた。泣きながら、ハルに謝り続けた。

 

 ――いっぱい怖がらせて、ごめんなさい。

 ――道連れにしようとして、ごめんなさい。

 ――わたしのせいで手を失くしてしまって、ごめんなさい。

 ――こんな。こんなお別れになって、ごめんなさい。

 

 

 

 

 山道の入り口に、チャコが待っていた。

 ピンク色の舌を覗かせながら、大きなしっぽをぶんぶんと振っている。

 自分の姿が見えているのかどうかは、もう分からなかった。

 ここが終わり。

 手を、はなさないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やだ。

 やだ。

 やだ!

 こんなのやだ。ひどい。あんまりだ。なんでわたしが。どうしてわたしばかり。

 ハル。ハル。ハルと別れたくない。いっシょがイイ。このマまいっシょニキテホシイ

 

 

“わんッ!”

 

 

 チャコの鋭い鳴き声に、ハルに絡みつこうとしていた触手の動きが止まった。

 また自分がやろうとしていたことに気付き、思わずその手を離した。

 どさり、と。道路にハルが倒れる。チャコが、その頬をペロペロと舐めていた。

 

『――ダメだなぁ。わたしって』

 

 ユイは絶望した。

 絶望しすぎて、かえって清々しい気分ですらあった。

 

『本当に、ダメな……悪いお化け』

 

 こんなお化け、縁を切られて当然だ。

 もう、ハルと関わるべきじゃないんだ。

 これで、よかったんだ。

 

 その内に、完全に夜が明けて、朝が来る。

 通りがかった車から人が降りてきて、すぐに救急車が来た。

 ハルが、車の中に消えて、サイレンといっしょに、遠ざかっていく。

 

『さよなら……ハル』

 

 ――こんな、悪いお化けで、ごめんなさい。

 

 あとは、自分が消えるのを待つだけ。ふらふらと、意味もなく山の中をさまよった。

 

 

 だけど、いつまでたっても、ユイは消えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしようもなくなって、ユイは山を下りた。

 そして結局は、ハルの家に来た。

 でも、ハルはいなかった。

 夜になっても窓は真っ暗で、ハルのお父さんもお母さんも帰ってきていないみたいだった。

 家の前でハルを待って、待ちくたびれたら町をさまよう。それに疲れたら、またハルの家に戻る。

 そんなことを何度か繰り返している内に、自分がひどく希薄な存在なんだと気付いた。

 他のお化けも、自分のことはまったく見えていないみたいだった。たまに夜道を歩いている人と出くわしても、何の反応も無かった。

 元々こういうものなのか、それともコトワリさまに縁を切られたせいなのか。

 どちらにせよ、もうどうでもいいことだった。

 ハルの家で待ち、町をさまよい、ハルの家に戻り、そしてある日の夕方、ハルが帰ってきた。

 でも、帰ってきたハルは、もうユイの知っているハルじゃなかった。

 

 

 ハルの体は傷だらけだった。夜の町をあちこち走り回っていたんだから当然だ。

 おでこに、自分とまったく同じような包帯が巻かれていて、ひどく胸が苦しくなる。

 当然、その左腕は無いまま。中身のない袖が、むなしく揺れていた。

 そして何よりも、その目が。

 暗い、夜のように真っ暗な、闇色の目がそこにあった。

 ハルの、泣いたり笑ったり、また泣いたりしていたあのキラキラした目は、どこにも無かった。

 

 

 無言で車から降りてきたハルは、隠れることも忘れていたユイをすり抜けて、ただいまも言わず玄関に入っていく。

 一緒に帰ってきたハルの両親は、それをつらそうな顔で見ていた。

 ユイの視界の端で、また黒い触手が蠢いていた。

 

 

 

 

 どれぐらい、そうしていただろう。

 ハルの家の前で、抱えた膝に頭を埋めていたユイは、玄関の扉が開いた音に顔を上げた。

 玄関から出てきた小さな影は、モタモタと右手の懐中電灯を持ち直して、スイッチを入れる。

 小さな影――ハルは、当然ながらユイには目もくれず、夜の町へと進んでいった。

 

『ハル? どこに行くの。もう夜だよ』

 

 声は届かないと分かっていても、声をかけずにいられなかった。もう触れることはできないから、ただ後をつけることしかできなかった。

 やがて、ハルの前にお化けたちが現れる。

 ハルは何か投げようとしたみたいだけど、手が懐中電灯でふさがっていることに気付いたのか、表情を歪めた。そのまま、お化けの間をすり抜けて走っていく。

 

『危ないよ。帰ろうよ』

 

 逃げ切ったハルは息を切らせながら、傷が痛むのか左腕を押さえる。まるで、無くなった左手を探すように、右手が宙を掻いていた。

 そんな状態で、いったいどこへ向かおうとしているんだろう。

 ユイが途方に暮れた頃、チャカチャカと爪がアスファルトを叩く音が近づいてくる。

 

『……チャコ』

 

 久しぶりに、ハルの声を聞いた。

 夜道を駆けてきた茶色の子犬――チャコも、久しぶりに会うハルに嬉しそうな様子だった。大きな尻尾を振りながら、ハルの足に頭をすりつけている。

 茶色の毛並みを撫でていたハルの顔にも、すこしだけ笑みの影がかすめた。

 

『チャコも、いっしょに探してくれる?』

 

 チャコは、その言葉を分かっているのかいないのか、クゥーンと鳴くのみだ。またハルは歩きだし、その後を、チャコとユイがついていく。

 お化けから逃げ回りながら、ハルは町中を徘徊した。

 田んぼ、神社、図書館……。目についた所にそのまま向かうように、ハルは進んでいく。懐中電灯をぐるぐると巡らせ、自販機の裏をのぞき込み、茂みの中をガサガサと探る。

 いったい、何を探しているのか。

 

 そのまま、ハルは空が白み始めるまで歩き続けた。

 もともと色白な顔は真っ白になって、暗い目の下に濃い隈ができていた。ずっとついてきたチャコも、どこか元気がない。

 最後に、ハルはあの場所に向かった。

 

 

 夜が明ける直前の空が見せる、ひときわ暗い青。

 その下に、ポツポツと明かりが目立ち始めた町並みが広がっている。

 この町を見渡せる、あの山の、あの木の下に、ハル達はいた。

 大振りの枝――ユイが首を吊ったあの枝を、じっと見上げていたハルは、木の下に何かを置く。

 ちぎれた、赤い組み紐(ミサンガ)

 ついさっき、ハルが町で拾ったものだった。

 

『――ユイ』

 

 思わずハルを見るが、ハルの視線はこちらには向いていない。ただ、その木を見つめていた。

 まるで、そこにユイがいるとでもいうように。

 

『赤い色が好きだって、言ってたよね』

 

 もう一度、置かれた赤い組み紐を見る。まさか、これを探していたのだろうか。

 だがそれは、ユイの物ではない。

 眠くなってきたのか、目を細めていたチャコを撫でると、ハルは木に背を向けた。

 

 

『明日は、()()()()()()()()()()()

 

 

 当たり前のように、ハルはチャコに言って。ユイは、凍りついたように足を止めた。チャコは、困ったように首をかしげる。

 ふらふらとお化けみたいに山を下りるハルを、ユイは不揃いな両目で見つめていた。

 きっと聞き間違いだと、自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ユイ、今日も見つからなかったね』

 

 次の夜も、その次の夜も、その後の夜も、まったく同じように夜廻りをしたハルは、またチャコにそう言いながら山を下りていた。

 昼の内は家からまったく出ず、夜になると家を抜け出して、チャコをつれて町中を探索する。

 拾い集めた赤いガラクタを持って、明け方に山に登り、あの木に供える。

 ハルは、ずっとそれを繰り返していた。

 

『どこに行ったんだろうね』

『また、きれいな赤が見つかったよ。ユイ』

『ここにもいなかったね。明日はきっと見つかるよね』

『すごいでしょこのスカーフ。高そう』

 

 言っている事もやっている事も滅茶苦茶だ。

 ユイを探すと言いながら、あの木の下にユイが眠っているかのように赤い物を供える。赤い物はすべて、ユイの物だとでもいうように。

 

 ハルの首には、改造された懐中電灯がぶら下がっていた。

 片手を失くしたハルにあんな工作ができるわけがない。きっと、夜廻りを止めないハルを見かねて、ハルのお父さんが作ったんだろう。ハルの心を守るためにはそれが必要だと。

 ハルに甘いあの人は、どんな気持ちであれを作ったんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、ユイを知らない?』

 

 何回目かの夜から、ハルはお化けに話しかけるようになった。

 昼間、玄関をすり抜けてハルの家に忍び込んだ時に知ったのは、あれ以来、ハルが誰とも口をきいていないということだった。

 あの夜にいったい何があったのか、どうして左腕を失ったのか、警察の人にも、お医者さんにも、両親にも、一言も話さなかったと。

 退院してからもそれは変わらなくて、昼はずっと部屋で寝て、夜になると外に抜け出す。そんなハルに、ハルの両親は頭を抱えながら、泣いていた。

 

『あなたたち、わたしの友達を知らない?』

 

 ハルが口をきくのは、チャコと、木の下のユイと、お化けだけ。

 話しかけられたお化けはそれに答えるわけもなく、ただハルにその手を伸ばす。答える様子がないと見たのか、ハルは紙飛行機を投げてから、別のお化けに向かう。

 

『ユイを見なかった? 赤いリボンをしている女の子なの』

『あっち行ってよ! ハルに近づかないでっ!』

 

『あなたは知らない?』

『来ないでよ! 来ないでったら!』

 

 ハルは知り合いにでも話しかけるみたいに、無防備にお化けに近づいてしまう。

 ユイは必死にお化けを追い払おうとするが、その手はハルにもお化けにも触れられない。

 どんなに止めようとしても、ハルは自分から死に近付いていく。

 あまりのもどかしさに、ユイは頭がおかしくなりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『見てよユイ。やっと完成したよ』

 

 暗い空の下、あの木の前で、ハルは大きな画用紙を広げた。

 それは、この町の地図だった。あの夜より前、ユイと二人で作りはじめた手描きの地図。

 ハルの家、ユイの家、田んぼ、神社、図書館……。二人で遊んだ場所が記され、その周りには二人の落書きが散らばっている。

 たしか、半分ほど出来た後で、あの夜が来た。ユイも、地図のことは忘れてしまっていた。

 ハルは、それを一人で完成させたのだ。

 

『この町ぜんぶ、まわっちゃった』

 

 ハルの真っ暗な目は、ただあの木と、山積みされた赤いガラクタしか見ていなかった。

 ユイも、チャコも、ただそれを見ていることしかできない。

 やがて、カサカサと地図が震えはじめる。それを持つハルの右手が震えているからだ。

 

『――――っ!』

 

 ハルが、何かを叫んだ。

 何を叫んだのかは聞き取れなかった、もしかしたら、言葉ですらなかったのかもしれない。

 グシャリと右手で地図を握りつぶし、左手のかわりに口で地図を噛んで、破り捨てていく。

 紙クズになったそれを、手で叩いて、叩いて、足で踏んで、次は赤いガラクタも蹴り飛ばす。

 虫の声すらしない山の中で、ただハルが暴れる音と、荒い息遣いだけが響いた。

 チャコは怯えたように草むらに隠れてしまった。

 ユイは、ただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が顔を出す頃、散乱した紙クズとガラクタの中で、ハルはうずくまっていた。

 死んだように動かないハルの右手は、暴れた時に切ったのか、血が滲んでいる。それを、草むらから出てきたチャコが小さな舌で舐めた。

 ハルが、顔を上げる。

 

『はげましてくれるの?』

 

 真っ暗な目で、ハルは笑った。お化けみたいな笑顔だった。

 

『がんばらないとね。ユイを探さなくちゃ』

 

 赤い残骸を踏みつぶしながら、ハルは山を下りていく。チャコは尻尾を下げながら、それを追った。

 ユイは、ざわざわと黒い触手を蠢かせながら、黒い両手で顔を覆っていた。

 ユイは、ただ見ていることしかできない。狂気に、心の夜にのまれていく親友の姿を、ただ見ていることしか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰か。

 誰か、助けて。

 神さま、誰でもいい。お化けでもいい。

 助けて。

 わたしは、もうどうなってもいいから。

 ずっとひとりぼっちでもいいから。

 だから、だから。

 

 ハルを、たすけてあげて。

 

 だれか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あぶないよ』

 

 ハルが、ついに隣町まで夜廻りに行った夜、その子は現れた。

 

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