十二ライダー大戦   作:那由多 ユラ

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『列車』の戦士――『みんなで救う』電王
本名・時流(ときながれ)淘汰郎(とうたろう)。二月二日生まれ。身長168センチ、体重62キロ。時間からのあらゆる干渉を受けない特性、特異点を持つ、元一般人。上がり下りが激しい運に悩まされ(あたりのアイスの棒が爆散したり、パンクした自転車がわらしべ現象によりフェラーリになったり)、不特定多数の人間から蔑み、妬み、恨みを買うような生活を送っていた。成人後、就職することもなく(できるわけもなく)のんびり慌ただしい暮らしをしていると、幸か不幸か電王にならなければならない事態に遭い、以来仮面ライダー電王として戦う。身体能力の低さや打たれ弱さは四人のイマジンを憑依させて補う。


第一戦 鬼の目に金棒

1

 

 

 

そのゴーストタウンの中心近くにそびえ立つ廃ビルに這入る、電王は、(随分真新しい廃ビルだな)と思う。それもそのはずで、この廃ビルが廃ビルになったのはつい最近のことで、このゴーストタウンがゴーストタウンになったのも同じくつい最近のことなのだ。このたび、十二大戦を開催するがためだけに、本当にただそれだけの為に、大会主催者は人口五十万人規模の大都市群を一夜にして滅ぼしたのだ。(救うが為のライダーが戦う為に街を滅ぼすなんて……)などと、ありもしない怒りに火を近づけながら、電王はビルの中を堂々と歩く。『招待状』に書かれていた集合時刻はとっくに過ぎているのだけれど、電王はそれに気が付く事はない。時の運行を守る為に頻繁に時間移動する彼の腕時計は現在時刻を五分ほど過ぎた時間を示しており、彼本人は五分前行動をしているつもりなのだ。(珍しく何事もなく五分前行動ができたからには、何事もなく終わって欲しいものだけれど、まぁどうせそんな上手くいかないんだろうなぁ)そう思い、変身するためのアイテム、ライダーパスを、覚悟を込めて――諦めを込めて、握りしめる。大切なものは常に持ち歩けという教育を受けてきた電王は、しかしてその教育方針を独自に曲解した。大切なものとはいつ必要になるかわからないもので、ならばいつでも使えるように、使うものを全て身につけている。変身ツールであるデンオウベルトとライダーパス。列車型標準携帯武器、デンガッシャー。赤い携帯電話型ツール、ケータロス。いつ来るか分からない必要な時に備え、電王は常に武器をもっている。だから別段、十二大戦の為に武装しているのではなく、フル武装は入浴時以外の標準装備なのだ。あるいは、入浴時であろうともである。(とはいえ、十二大戦にわざわざ出るようなライダーなんて誰も彼も似たようなものか?)電王は基本的に流されやすくもマイペースを貫く人間で、およそ見た目通りのノーマルな人物像だが、決して馬鹿でも愚かでもない。災難に慣れ過ぎている彼の人生には原動機に身を任せる選択肢はなく、上下移動にはクライミングか階段の二択しか無い。百五十階まで続く階段を昇る最中も、一段の段差にすら警戒を忘れない。

「あれ、もうみんないるんだ。もしかして五分前行動ってもう死語だったりするのかな」

最上階の一室、遥かなる高みから夜景を見下ろすための展望スペースとして設計されたと思われるその大部屋に電王は這入った。しかし、遥かなる高みというワードに男であり男子であった電王の中二心が揺るがないでは無かったが、明かりの一つも無いゴーストタウンを見下ろしたところで何も面白いものはない。それよりも、予想外に、既に勢ぞろいしていた、これから殺しあう十一人の戦士達にこそ目を向けるべきだった。だだっ広い部屋の中、寄り添う事なく、バラバラに立つ彼ら彼女らにこそ。電王は(知っている顔も割といるもんだな)と思う。(ディケイドに――Wの二人か。彼女らも一人で戦うのか?――ディエンドは居ないのか? 景品的に居てもおかしくない、というか揃った直後に皆殺しにしても良さそうなものだけれど)揃った面々に首を傾げ、しかしなぜ誰も誰も会話しないのかと判断しかねていると、

 

「ようこそ、戦士達」

 

という声がした。ドアを開ける音も、足音もなく、まるで最初からその場に居たかのように、部屋の窓際に、塗り潰したような夜景を背景にして、シルクハットを被った老人が立っていた。全員の視線がそちらへ向く。「皆様お揃いのようですので、それではこれより、第千二百十二回十二大戦を始めさせていただきます。エヴリバディ・クラップ・ユア・ハンズ!」そう言って老人は高らかに手を打ったが、無論、それに追随する戦士は居ない。それを気にした様子もなく、冷ややかな『エヴリバディ』に向けて、「私は本対戦の審判を務めさせていただきます、ドゥデキャプルと申すものです。以後お見知りおきを」と、恭しい態度でドゥデキャプルは深々と一礼する。(ドゥ、ドゥデ何さんって言った? 名前暗記大戦なら優勝候補間違いないね)などと電王は思っているが、無論そのような大戦は存在しない。それはただの合コンである。老人は「早速ではございますが、これよりルール説明に入らせて頂こうと思います。後ろのテーブルをご覧ください」と言う。見れば、料理は並んでおらず、その代わり、十二本のUSBメモリのようなものがテーブルの上に置かれていた。この場のライダーの大半が一度は目撃している、ガイアメモリと呼ばれるものだった。どれも外見は同じでどす黒く、明朝体のフォントで『十二』と書かれている。同じ大きさで、同じ形状で、個体差は無いようだが、十二個という数はこの場合意味深だった。「おのおの、おひとつづつお取りください」そう言われて、十二人は様子見をしながら恐る恐るガイアメモリを手に取った。全員の手に渡ったのを確認した審判員ドゥデキャプルは「では皆様、そのメモリを、どこでもいいので自身の素肌に押し当ててください。――必要であれば更衣室にご案内いたしますので」と言う。ガイアメモリがどういうものなのか多かれ少なかれ知る戦士達は皆躊躇い、それを専門とする戦士は「そんなことを言われてもね、審判さん。ガイアメモリがどれだけ危険なものなのか、用意しているんだから知らないはずがないよね?」と物申す。聞き入れた審判ドゥデキャプルは「ご安心ください。今回用意させていただいたものは従来のガイアメモリとは違い、毒素や中毒性を持たず、ドーパント化もしないものになっています」と。穏やかに答える。「その言葉を信用できると思う?」「信じていただくほかありません。何なら実験体を用意してもいいのですが」「…………わかった。嘘だったらタダじゃ置かないよ」「ええ。構いませんとも」そんな問答の後、審判に物申した少女が押し当てたのを皮切りに逐次ガイアウィスパーを鳴り響かせるのを、尻込みして見ている訳にもいかない。準備段階とはいえ、既に戦いは始まっているのだ。あるいは電王にしてみれば日常が危険地帯そのものであるのだが。

 

十二大戦!

 

「ご一同、お取り込みなさいましたね? では明かさせていただきますが、今ご一同に取り込んでいただいたものは、通称『十二大戦ガイアメモリ』、十二大戦の為にとある財団が開発したものにございます。効能は緊急事態時のみ働く最高治療。使用者が死に繋がりかねない事態になると、あらゆる怪我を治療する優れものにございます」その告白を受けて、しかし、戦士達は一人として鵜呑みにする事はなかった。ガイアメモリというものが外道の産物であるからして、それにどんな効能があろうと迂闊に信じる事はできないのだ。「一度体内に取り込んでしまいますと、戦闘不能時か大戦終了時にしか取り出せませんので何卒悪しからず。準びが整いましたので、具体的なルール説明に入らせていただきます。一度しか申し上げませんので、どうかお聞き逃しの内容にお願いいたします」と、ドゥデキャプル。

 

「今、配らせていただいた十二大戦ガイアメモリを十二本集めた戦士の優勝です――優勝となった戦士は、どんな願いでも一つだけ、叶えることができる次第でございます」

 

確かにシンプルだった。いつものイマジンとの戦いより、よっぽどシンプルだ。しかし疑問の余地がないとも言えない。それを自ら確認したものかどうか、電王は呑気に迷う。「質問」と切り出したのは、電王ではなく、ガイアメモリの使用に物申したWの片割れの少女でもなく、大きな宝石のようなものがついた指輪をつけた女性だった。ここに集まった女性は豪傑が多いのだろうか。「メモリの説明を聞いた感じ、私たちライダーの命は最低限保証されているもの、という認識でいいのかしら? ドゥデキャプル」多分正しく呼べている。彼女がかつてドゥデキャプルに引けを取らないほどに呼びにくい名の敵と戦っていたことを、電王は知らない。「もちろんでございます。木っ端微塵になろうと、怪物になろうと、敗北者と見做された皆様の肉体及び精神は大戦開始時と同等まで治療致しますので、どうかご心配なく」つまり、相手を殺そうと自分が死のうと、この殺し合いに死者は出ない。その説明には戦士達も少なからず困惑をあらわにする。指輪の女性は続けて質問した。「メモリを集めろという事だったけれど、それはいわゆる致命傷を負わせ、メモリが治療を終わらせると、メモリが排出される。それを集める。つまりはそういうことね?」「その通りでございます。一つ加えると、降参を我々運営に宣言することでも排出されます。しかしこの場合治療はされませんので、お忘れなく」勝利条件は致命傷を負わせるか、降参へと追い込むか。しかし降参はないものと思った方がいいだろう。この面子に拷問趣味のライダーでもいれば話は別だが。「ねー。あたしもしつもーん」と、割り込むように、Wのもう一人の片割れが口を開いた。黒い装いの少女。彼女達Wには電王にも面識があった。「あたし達の攻撃にはメモリブレイクが標準搭載されてるんだけど、集めるメモリは壊れててもいーの?」手の内を明かすことに躊躇いなく、大戦の安全装置の破壊を匂わせる、――質問を装って他の戦士を威圧する、バカだがえげつなく賢い彼女の彼女らしい手口だった。(相変わらずだな、あの子は。出来れば関わりたくないんだけど……)「ご安心ください。十二大戦ガイアメモリは安全性にこそ重点を置いた逸品。エターナルのマキシマムドライブにも、ダークキバのキングスワールドエンドにも、オーマジオウの逢魔時王必殺撃にも耐えうる最高品質にございますので、遠慮なく健闘なさってください」「……マジ?」「超マジでございます」片割れの少女はあっさりと引いた。目的と思われる威圧も、何だかよく分からないが明らかに存在してはいけなさそうな名前のインパクトには敵わなかった。戦士達も今日一番の驚愕をあらわにした。「では、最後の質問なのだけど」と、指輪の女性が舵を取り直す。「もし仮に、私たちライダーが怪物と成り果てた場合、敗北扱いになるのかしら?」全員がガイアメモリを取り込んでいる現状、最重要事項であった。「当然、その質問の答えはノーでございます。そのような場合も、討伐してメモリの獲得を目指していただきます」

 

 

2

 

 

「なあ、この中に降参したいってやつはいるか?」

 

と、言ったのはディケイドだ。十二大戦審判員ドゥデキャプルが、「それでは世界が世界に誇るべき、英雄たる戦士達のご健闘をお祈りします」と、慇懃無礼に頭を下げ、最初からその場にいなかったかの如く、ふっと姿を消したその直後のことである。どうすればなるべく安全に勝ち残れるか電王が悩んでいた隙を突かれたようなタイミングだった――事実、この時ディケイドは他の戦士達の虚を突き、動きや思考を停止させたのだ、容易くも。これでざわめかないはずもなかった。ドゥデキャプルが話していた時より混沌とした空気の中、彼は場にそぐわぬ、嫌なくらい爽やかな笑顔で言った。「どうせオレが優勝するんだ。無駄な戦いはしたくない。嫌々参加してる奴は怪我する前に降参しろ」不愉快極まりない台詞だが、ディケイドの性格を知る者には『こんなめんどくさいことさっさと終わらせて、みんなで飯食い行こうぜ。金なら願いで幾らでももらえるから心配すんな』と、訳される。生意気なだけで根は優しい奴なのだ。「何だ、居ないのか? ったく、めんどくせぇなぁ」電王はそうでもないが、景品目当てで参加した者がほとんどなのだ。ディケイドの話も悪くはないのだが、ライダー同士の団欒より優先したいことがあるのは当然のことなのだ。「あー、そーかよクソ野郎ども――

 

 

「『破壊』の戦士――『壊して救う』ディケイド」

 

KAMEN RIDE DECADE !

 

名乗りをあげて、変身した。マゼンタのボディにバーコードの柄の戦士、仮面ライダーディケイド。戦闘かと、十一人がベルトを取り出してすぐ、場に異変が生じる。「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」「!」突如目の前に、オーロラのような壁が現れ、十二人全員がその場から消滅した。破壊の戦士ディケイドはひとまず。全敵の作戦を破壊し尽くした。これが、第千二百十二回十二大戦の幕開けだった。

 

 

 

3

 

 

 

電王が着地したのは、先ほどまでのとは別の廃ビルの屋上だった。偶然なのか、ディケイドの、もしくは目の前の男の目論見なのか、この場には二人しかいない。迷いのない、ライダーらしからぬ殺意を無差別にばら撒く男は、Wの黒い方の少女と同じく逢いたくなかった戦士だ。生憎と面識は無い。男はベルトと錠前のようなものを取り出し――

 

「『バナナ』の戦士――『強さで率いて救う』バロン」

 

バナナアームズ! ナイトオブスピア!

 

名乗りをあげて変身した。「え、バナナ? バナナって、あの甘いフルーツの?」殺意にも戦士にもライダーにも似つかわしく無い名乗りに、誰もが思わず口にすることを例に漏れず電王も言った。「バロンだ!!」当然怒りをあらわにし、バナナのような槍――バナスピアーで切り掛かった。「槍って刺すものじゃないの!? ってうわー!」電王は逃げ惑いながら――

 

「『列車』の戦士――『みんなで救う』電王」

 

Sword Form

 

同じく名乗りをあげ、変身した。「俺、参上!」先ほどまでのマイペースだったり慌ただしい様子とは打って変わって、強気な口調と雰囲気だ。バロンの槍を、デンガッシャー・ソードモードで力任せに弾き飛ばした。「何!?」「いくぜいくぜいくぜー!!」バナスピナーは屋上から落下し、無防備となったバロンを電王は滅多斬りにする。バロンはなす術なく数度斬られ、柵まで追い詰められた。電王は止めを刺そうとライダーパスを取り出す。その隙を突き、バロンは別の錠前に付け替えた。

 

マンゴーアームズ! ファイトオブハンマー!

 

マンゴーを形どったアームズが電王を一度襲った後バロンに装着された。バロン・マンゴーアームズ。誰もが口にするバナナ要素は完全に消え去ったバロンは、マンゴー型メイス、マンゴパニッシャーを電王に振り下ろすが、動きが重く、電王に軽く躱される。「んなのあたんねーよ! バーカ!」怒りに身を任せるバロンと、小馬鹿にしながら妙にコミカルな動きで躱す電王。「ならば当てればいい!」マンゴパニッシャーを真上に振り上げての渾身の攻撃。フリの大き過ぎる攻撃に、有り余るほどの隙を突こうと電王は斬りかかろうとするが、(!?!?)電王の両腕が何者かに掴まれ、身動きが取れない。(誰も居なかったはずだろ!?)「クソッ! 離しやがれ!!」電王の抵抗虚しく、果実を切るような音が三度流れた。

 

マンゴースパーキング!

 

どうせ負けるならあとで邪魔した奴に仕返ししようと背後を見て驚く。ライダーでは無い。どころか、人ですらなかった。これこそ、仮面ライダーバロンの持つ異能、『怪物遊戯(インベスゲーム)』である。(気配が無いんじゃなくて、そもそも居なかったってのかよ、チクショウ!)切られたマンゴーは無慈悲に電王の頭部を地面にめり込ませ、石榴のように爆散させた。

 

十二大戦 マキシマムドライブ!

 

変身が解け、イマジンの憑依が解けた電王が最後に聞こえたのは、電王も納得せざるを得ない強い言葉だった。「強くなる気のない、場の空気に流されてばかりの貴様に、俺は決して負けない」

 

 

 

4

 

 

 

こうして、十二大戦開始直後に、最も意欲的でなかった電王は脱落した。あるいは、脱落にこそ電王は意欲的であったかもしれない。電王が敵とし恐れるのは敗北ではなく不幸なのだ。

 

 

(●列車―バナナ◯)

(第一戦――終)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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