本名・
1
十二大戦が行われる範囲は、特に指定されていない。開戦時の集合地点こそ人為的に作られたゴーストタウンの中央ビルとされたが、一度始まってしまえば、そこからどれだけ離れようと、極論海外や別の世界だろうと構わない。事実、過去の優勝者の中には人口の密集している大都会へと戦闘フィールドを移し、膨大な民衆を巻き込みながら戦った。(あまり褒められたやり口では無いけれど、全力を振るえ無いフィールドに誘い込むというのは学ぶ価値のある戦略よね)と、戦士の一人、『指輪』のウィザードは思う。(最も、今回その手はあまり有用とは言えないのだけれど。誰も彼もそれなりに万能なのだから、戦いづらい環境というのが本当に人口密集地隊くらいしかないのよね。フォーゼなら或いは、宇宙まで逃げるってことも出来ないでも無いんだろうけど、性格的にあり得ないわ)だからこそ、乱闘になりかねない序盤の戦闘は血気盛んな若者達に任せ、ウィザードは隠れ潜んでいるわけだ。魔法使いは魔法を使わないほど無際限にアドバンテージを伸ばせるのだから。(魔法は常識の対極であれ。これ、魔法使いが長生きする秘訣よね)見たところ十二大戦の参加者のうち、奇策なしには勝てぬ相手が数名居た。筆頭は間違いなくディケイドだろう。もちろん負ける気はしないが、万能と万能の衝突は基礎身体能力がものを言う。詰まるところ、性別の性能差だ。ウィザードは戦士を名乗ってはいるが、戦士としての訓練は一切したことが無く、いつだって魔法使いとして戦ってきた。今や一介のマジシャンでしかないウィザードには戦士としても魔法使いとしてもプライドなんてものはない。(つまり、私が最強と言うわけね)だからこそ、じっと身を潜める。この誰にも見つからない絶好の隠れ場所に「あっ! ウィザードさんみっけ! おひさー」
2
ウィザードが隠れて居たのは、小学校の体育倉庫。ディケイドの策略によって小学校の鍵の締まった部屋に閉じ込められた彼女は、魔法で抜け出し、最も見つかりにくいと思った体育倉庫の跳び箱の中に身を潜めていたのだ。自身の判断基準では一週間は隠れていられる『隠れ家』だったのだが、実際には腰が痛くなる前に見つかってしまった。体育座りで暗闇に潜んでいたウィザードの視界を、いつの間にか点けられていた電灯が眩ませる。「みっけ!」なんて、かくれんぼしている子供をかくれんぼしていた子供が見つけるかのように見つかってしまったけれど、当然ながら、相手は確かに子供だが戦士だった。今日が初顔合わせと言うわけではないが、関わりはあまりなかった。(まずい!)と、流石に焦るウィザード。(足が痺れて立てなくなっちゃった! たまにあるよね! 急に足が痺れる地獄!)顔色を赤へ青へと変色させまくる魔法を見せられた相手の戦士は、ウィザードを揶揄うように笑いながら、「別に今から戦おうってわけじゃないから安心していいよ、ウィザードのおねいさん」と言った。跳び箱の最上段を縦向きに立て、その上に器用に腰掛けた黒い装いの少女は身動きの取れないウィザードを見下しながら名乗りをあげた。
「『半端』な戦士――『数えて救う』ジョーカー」
十二大戦に置いて、名乗りをあげるとは死闘を申し込まれると同義。ウィザードは年甲斐もなく目を潤ませながら名乗り返す。
「ゆ、『指輪』の戦士――『希望で救う』ウィザード」
(どうか見なかったことにしてここから居なくなって! お願いだからぁ!)ウィザードの心の嘆き虚しく、跳び箱から飛び降りたジョーカーはウィザードに手を差し伸べた。「流石に跳び箱に閉じ込められたおねいさんを襲うほど見境なくはないよ。最近の若者をなんだと思ってるの? 変態? あはっ! 間違ってないね」ウィザードが哀れすぎるあまり、ジョーカーの口調がだんだんと冷たいものになっていることにウィザードは気がついた。足を痺れさせているうちに腰まで痛めたウィザードは、ジョーカーの手に無抵抗に立たされ、あろうことかその辺で拾ったであろう竹刀を杖代わりに手渡された。「おねいさん、竹刀似合うね。本職は剣士さん?」「……いえ、宝石屋よ」ままならない足腰を支える竹刀が、ミョンミョンとしなっている。どこをどう見ても剣士の有り様ではない。(流石に最近インドアすぎたわね……)同性の、それも年下の戦士にとてつもなく情けないところも見られてしまった。戦士としてのプライドも魔法使いとしてのプライドもとうに捨てていたが、大人としてのプライドまで失ってしまう! 「実は手を組もうと思って探してたら、ここで跳び箱に飛び込むおねいさんを見かけたからどうしようかと思ったんだけど、やっぱはずれだったかな〜」と言うジョーカー。その言葉を聞き、ウィザードは「そこから見てたの!? なんで声かけなかったの!?」と叫んだ。「だって、冷静に頭使える便利な人かと思ったらすっごい間抜けなんだもん。ギャップ萌えならぬギャップ萎えだね。見損なったよ、石屋さん」「せめて宝石屋さんにして! 切れやすい若者の噂は聞いていたけどここまで斬れるなんて聞いてない!」
3
『半端』な戦士・ジョーカーは、周知の事実として、同じく『半端」な戦士・サイクロンと二人で一人の戦士だ。一人前の半人前が二人合わさり一人前の一人前。二心同体にして二者択一。故に、十二大戦参加者十人が、十二大戦を十二人で行うことに疑問を持っていた。明らかに、パワーバランスが乱れている。ライダー数居れど、ライダー最賢と称されるサイクロンはまだいい。問題はジョーカーだ。彼女は何も持っていない。バロンで言うところの『怪物遊戯』も、ウィザードで言うところの『魔法』に当たるものも、一切持っていない。異能らしいものを一切持っていない、徒手空拳だけで戦うシンプルな戦士らしい戦士なのだ。カタログスペックに勝ち目がなさすぎる。しかしだからこそ、ジョーカーの手を組もうと言う言葉に、ウィザードが疑念を抱く隙はなかった。互いが互いに見下しあう二人組が結成した。「優勝目指して頑張ろうねっ! おねいさん!」そこまで一緒に頑張るつもりはウィザードにはなかったが、もっと言えばとっとと捨て駒にするつもりだったが、しかしドジっ子魔法使い(27歳)でも流石にみなまでは言わなかった。「それじゃあ改めて自己紹介しよう!」と、朗らかに握手を求めてくるジョーカー。
「『半端』な戦士――『数えて救う』ジョーカー」
「『指輪』の戦士――『希望で救う』ウィザード」
差し出された華奢な手を握りながら、さてこれからどうしたものかとウィザードは冷静に計略を練っていると、ジョーカーは語り出した。「この戦いじゃ強すぎる相手がいる。特に『バナナ』と『破壊』だね。だから、まぁ、おねいさんにどんな願いがあったのか知らないけど、優勝は諦めた方がいいよ」「諦めろ、と?」きょとんと聞くウィザードを睨み付けるようにして言った。「そんなわけないじゃん。二極化された脳味噌に価値はないよ。割ってあげようか?」「それは遠慮するけれど、じゃあ私たちは手を組んでまで何をすると言うの」「消去法」「……は?」ウィザードはジョーカーのシンプルな答えに困惑する。「わかりにくかったなら、ちょっと付け足して『物理的消去法』」「……余計よく分からなくなったんだけど」ジョーカーは、大戦開始前に十二人が取り込んだガイアメモリと似て非なる黒いメモリを手の上で弄びながら言う。「要するに、優勝させちゃいけない人を優先的に倒して、優勝させて問題ない人を優勝に導く」ジョーカーは決して諦めてなんていなかったし、諦めさせる気もなかった。「とりあえず絶対駄目なのは『代わり』と『不滅』、『バナナ』だね。絶対ろくなことにならない」「そ、そう……」ウィザードにしてみれば、その三人の何がどういけないのか、分からなかった。「おねいさん! 大変大変! 校庭にディケイドが来た!」「え!?」ジョーカーが窓の方を指差し、ウィザードも目を向けると、確かにディケイドの変身者が校庭からこちらをじっと見ていた。
4
「『破壊』の戦士――『壊して救う』ディケイド」
「『指輪』の戦士――『希望で救う』ウィザード」
KAMEN RIDE DECADE !
フレイム、プリーズ ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!
作戦は至ってシンプルであった。手札の多いウィザードがディケイドを翻弄し、隙を突いてジョーカーが叩く。手札の少ない、切り札を名乗るジョーカーらしい戦略だと、ウィザードは快く引き受けた。どうせ一人で戦っても勝てる相手ではないのは理解していたため、それが微弱であれど共闘に躊躇いはなかった。奇しくも、互いに得物は銃剣一体型の変形武器。
ATTACK RIDE BRAST!
ラッシュ、プリーズ
ディケイドのライドブッカーから放たれるエネルギー弾と、ウィザードのウィザーソードガンから放たれる銀の弾丸が相殺しあう。次いで互いに武器を変形させ、剣同士で鍔ぜり合う。「あなたと戦う気はないのだけれど?」「なら何故降参しない! 全員殺してでも叶えたい願いが無いのなら、今すぐ降参しろ!」「うるさい!」
コピー、プリーズ
ウィザーソードガンを複製し二刀流となったウィザード。「やるべきことはあの子が定めてくれた。私は実行するだけ!!」連撃をディケイドは対処仕切れず、幾らかダメージを負った。防ぎきれないと察したディケイドは回避に専念し、距離をとった。そして――
「『列車』の戦士――『みんなで救う』電王!」
KAMEN RIDE DEN-O
『列車』の戦士へと変身した。「おらおらおらっ!」数の優位を物ともしない荒々しい剣舞。触れる物全てが悲鳴を上げる。「あーもー!!」「終わらせる!」
FINAL ATTCK RIDE DE-DE-DE DEN-O!
ディフェンド、プリーズ
デンガッシャーの剣先が分離しウィザードに襲いかかる。すかさずウィザードも炎の壁を作り出し防ごうとするがしかし――
トリガー マキシマムドライブ!
「……ハニーキャンプデストロイ」壁の反対側から、無数の凶弾がウィザードを蜂の巣にした。「なん、で……」背後から攻撃した青いライダーは背を向け、去りながらに言う。「言わなかったけど、あなたも優勝させちゃいけない戦士の一人なんだよ。引退したライダーの願いなんて、危ういにもほどがある」
十二大戦 マキシマムドライブ!
ウィザードの変身が解けると、中身は無傷だが気を失っている。排出されたメモリをディケイドが手に取り、変身を解いたジョーカーを呼び止めた。「おい待てよ! ウィザードを倒したのはお前だろジョーカー!」ジョーカーは振り返らずに、「言わなきゃ分からないほどあなたは馬鹿じゃ無いでしょ、ディケイド」と言い、小学校から去っていった。
(◯半端―指輪●)
(第二戦――終)