女性。怪盗。以下、素性不明。
1
賢く無いけど小賢しく、巧く無いけど食い喰らい、無力であれども武力を振るう。生誕から変わることなくそんなスタイルで戦乱を生きてきた生粋の戦士・ジョーカーにとって彼我の戦力差や、敵の個性なんてものはさほど気にならない要素である。敵が強ければすごいと思うことはあれど、そんなものにさしたる意味はない。暴風か台風かの違いでしかない。一億トンの怪物だろうと、一億体の怪物であろうと、変わりはない。であれば個性的がすぎたウィザードなんて取るに足らない相手であったし、多様的すぎるディケイドや電王はあまり相手をしたくない相手であった。それは並んで万能である姉の担当だ。しかし決して相手ができないというわけではないし、万能ではないけれども決して無能でもないのだ。そこまで考えてディケイドの相手をウィザードに押し付けたわけでも、ディケイドとの死闘を誤魔化したわけでもないのだけれど。ジョーカーは今後のことを考える。(優勝させて問題ないのはお姉ちゃん、ディケイド、フォーゼ)ルパン、ゲンム、ポッピーはそもそも誰が誰だか分からないが、その分からない人たちの誰も真っ当な人間とは思えなかった。なら真っ当な人間に大戦中に作り変えるのもまぁやぶさかではないのだけれど、――「やぁ、君はジョーカーだね?」と、声を掛けられた。ウィザードを裏から喰い破った小学校からかなり離れた、スーパーの惣菜売り場でのことだ。別に空腹というわけではないが、消耗した体力を手っ取り早く取り戻すが為に腹ごしらえしようと思ったのだ。食事にこだわるライダーは多いが、ジョーカーは大概のものは美味しくいただけるタイプの人間だ。幸い、売れ残ったであろう食品は豊富で好き嫌いの激しい者でも食いつなぐことはできるだろう。ジョーカーも、エネルギー効率が良さそうな揚げ物を食べ歩きながら物色していると、みれば、そこに居たのは十二対戦が初対面である金髪の女性であった。白いドレスには煌びやかな装飾が施されていて、惣菜売り場にいるのはとてつもない違和感だ。「っ!!」と、とっさにガイアメモリを抜くジョーカー。服装のせいで体格がわかりにくい。能力がライダーとしての性能任せな戦士なら生身でも首を食いちぎれるか? せめて情報を得る為に雑談に肥料を撒いてみるか? 「よしたまえよ、美少女。食事中に戦うつもりはないんだ」と、気取った調子で女性は言った。食べかけのうまい棒を持った両手を挙げて、降参のポーズまで取る。「……どーしてあたしの居場所がわかったの?」「わかっていないな、美少女。私も食事をしにたまたま来ていただけなのだよ」ただのバッティングだと女性は言う。偶然といえば、偶然なのだろう。会おうと思って会うのと、意図せずして逢うのにどれだけの差異があるのか。「ふむ、しかし偶然とはいえこれも縁。お互い名乗ろうではないか」と、女性は言った。
「『代わり』の戦士――『盗んで救う』ルパン」
「……『半端』な戦士――『数えて救う』ジョーカー」
2
(最悪の展開だ。なんの備えもなく逢うなんてっ)ジョーカーから見て暫定悪人の一人、ルパンである。というかルパンという名前の時点で善性である可能性は限りなく低い。「しかし、日本の菓子というのはなかなかどうして質がいいな、美少女よ。この技術だけでどれだけの価値があるかはかり知れんな」豪奢な装いを全て台無しにする、両手のうまい棒と惣菜売り場。せめて人知れず盗んでいて欲しかった。「誰でもいいから他のライダーに尋ねたかったのだけれどね、美少女。君たちはどんな願いを持って十二大戦に参加したんだい?」ルパンはうまい棒をもそもそと食べ終えてジョーカーに尋ねた。「さあね。あたしは誰にも願いを叶えさせたくないが為に参加してるんだけど、泥棒さんは?」「私か? 私の願いなんて大したことのないものさ、美少女よ。君たちライダーの持っているものが私も欲しい、というだけの些細な願いさ」ルパンはジョーカーが食べていたものと同じコロッケを開けて頬張る。「せっかくだから美少女よ、聞いておきたいのだけれど、日本人というのはどうも無用心がすぎないかね?」と、いいながらルパンの手には黒いメモリが握られていた。「ウソッ! いつの間に!? 返してそれ!」「美少女にそう言われては仕方ない。私は快くこのメモリを返そうではないか」潔く、ルパンはジョーカーにメモリを握らせた。「イッタイ!?」受け取ったジョーカーは、弾かれたかのようにメモリを投げ捨てて飛び退いた。「ハッハッハッハ! それは別の店でいただいた『ビリビリUSBメモリモドキ』だよ、美少女。そも、私は君から何一つとして盗んでいないさ」よく見れば、ジョーカーの投げ捨てたそれは一回りも二回りも小さいもので、本物はずっともう片手に握られていた。「やはり無用心だね、美少女よ。これからは見知らぬ者から物を受け取らぬよう気をつけるのだな」「……絶対泣かす」
「『半端』な戦士――『数えて救う』ジョーカー」
ジョーカー!
ジョーカーは漆黒の戦士に変身した。「このような素敵な地を血で汚すのは流儀に反するのだが、致し方ないか」ルパンも拳銃型変身ガジェット、ルパンガンナーを抜いた。
「『代わり』の戦士――『盗んで救う』ルパン」
ルゥパ〜ン!
黒いマントを羽織った、装飾過多な赤い戦士にルパンも変身した。ルパンガンナーのブレードでジョーカーに斬りかかるが、ジョーカーは新体操のような動きで背後に跳んで躱し――
ジョーカー マキシマムドライブ!
「先手必勝! ライダーキック!」黒いオーラを纏ったヤクザキック。「甘い。綿菓子のごとく甘いぞ、美少女よ」ルパンは何をするでもなく棒立ちで、しかし命中する直前に宝石のようなバリアを張り防いだ。「何それズル!」「大人とは皆ズルい物なのだよ、美少女」仕返しと言わんばかりにルパンはジョーカーの鳩尾に蹴りを放った。深々と突き刺さり、思わずジョーカーは腰を床に落としてしまう。「悪いな、美少女。しかし私も負けるわけにはいかないのでな」
アルティメット! ルパン・ストラッシュ!
刃にエネルギーが溜まり、ジョーカーを切りつける。――が、
「『宇宙』の戦士! ――『押して救う』フォーゼ!」
ロケット! リミット・ブレイク!
どこからともなく現れた、白い宇宙服のような姿のライダーが、ロケットでルパンを殴り飛ばした。「仮面ライダーフォーゼ! タイマン張らせてもらうぜ!」商品棚を強引に突破してきたのか、店内は大惨事となっていた。特に調味料が混ざり合った悪臭が酷い。「グッ、……そうか、十二大戦はバトルロイヤル、乱入者は付き物だったね、美青年」全身を汚したルパンは悪態をつく。「うっせぇ! オレのダチにひでぇことしやがって!」フォーゼはジョーカーに手を差し伸べ、立ち上がらせた。「ありがとー、フォーゼ。だいぶ助かったよ。おねいさんとは大違い」「お、おう? 何言ってんだか知らねぇけど、まぁいいや! とっととあいつ倒しちまおうぜ!」「……よくはないのだがね、美青年。女同士の戦いに横槍を入れていいわけがないと、君もそう思わないかね? ――美少女達よ」ルパンがジョーカー達に背を向け言った。「生憎と、全くもってそんなことは思わないけどね」ルパンの見据える先には、一人の生身の美少女がいた。「だって私達は、二人で一人のライダーなんだから」ルパンを尋常でない殺意、一人分とは思えない、二人前の殺意が身を突き刺す。
「『半端』な戦士――『数えて救う』サイクロン」
バイオレンス!
少女はジョーカーと同じベルトで、異形の戦士に変身した。ジョーカーを赤く染めたような体に、鉄板のようなものが至る所に刺さっている。「人の妹傷つけたんだから、死ぬくらいの覚悟、できてるよね?」サイクロンは拳を構える。彼女の攻撃を見て、「やっぱお前のねーちゃん、おっかねぇな」フォーゼがそう言うのも仕方なく、殺気に怯んだルパンを全身の鉄板で切り刻むかのように滅多打ちにしている。「生かす価値なし。歪んで狂って拗れて死ね」「うわぁぁあああ!!」
バイラス マキシマムドライブ!
それは触れた物を問答無用で即死ウイルスに感染させる必殺の一撃。それを何度も撃ち込まれ、ルパンの尽くを蝕み死に至らせた。「…………」
十二大戦 マキシマムドライブ!
メモリを回収したサイクロンは、ジョーカーの無事を確認すると変身を解き、一目散に抱きついた。「やっと、会えた」「うん。ありがとね、お姉ちゃん」
やりすぎた姉妹愛に気まずくなったフォーゼはメンチカツを頬張った。
(◯半端―代わり●)
(第三線――終)