シトリー分家の上級悪魔   作:やまたむ

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 私の呟きにたいし、アジュカ様は何も言わなかった。

 

「まあ、君らにあとは任せるとするよ。あぁ、そういえば、君はこれから病院だったか……それなら、こちらで、送っておこうか?」

「いえ、そこについては大丈夫です。病院に行くとはいえ、あの子の様子と眷属化ですから、待合室で待ってもらえば、そんなに影響はないと思いますし」

「ふむ。そうか。他に何か言いたいことは?」

 

 私は、うーんと悩むふりをして、

 

「ディオドラとの婚約破棄を……」

「純血の上級悪魔の保護のためだ。許してくれ」

 

 訴えようとしたが、ダメだった。

 

「転生悪魔でも純血として維持できるじゃないですか……」

「君みたいな子が上にいると、私も楽だったんだけどね。そういうわけにもいかないのさ。君も使っているだろう? 『下僕』と。どんなに愛情を注いでいようが、仲がよかろうが、『所有物』や『別種』の存在として根強い。ゆえに、転生悪魔との間の子ではなく、純血の上級悪魔との子を産んでほしいんだよ」

「その発言、セクハラに該当しますよ?」

「揚げ足とりをしている段階では、論戦に勝てないということを意味する。そんなに、ディオドラとの婚約が嫌なら、ちゃんと交渉の場においての下準備をしてから、持ちかけることだ」

「……たまに感情で動くくせに」

 

 私は、プイッと四志津さんの方へ向く。

 四志津さんのなにかに、触れていたのか肩を震わせ笑っていた。

 

「あの、どうかしました?」

「いやいや。鬼や土蜘蛛を眷属にしてるって言われとたっから、どんな大男が来るんか思うたら、こげん愛らしい嬢ちゃんが来て、おどろいとったら、婚約破棄要求しとるんやもん。理解できひんかったわ」

「大概失礼ですね。この人」

「人ちゃうで、九尾やで。そんで、嬢ちゃんって強いん?」

「上級悪魔として見たら、弱いと思いますよ?」

「なるほどねぇ。んじゃ、あんさんの元つくんはイヤやわ。実力がないやつの庇護っちゅうんは、ちーぃと不安があるしな」

 

 失礼だな、この九尾。まあ、実際のところ、私の実力的に、攻撃面での実力は低いから、強い弱いというときに、攻撃面だけを見ると、上級悪魔の中では下の下に該当するだろう。

 これを否定するつもりもないし、否定したとしても、嘘だと言われておしまいだろう。

 

「まあ、彼女自身はとても弱いさ。だが、正直なところ、この子の本質は攻めではなく守りで発揮される。少なくとも俺はそう評価するな」

 

 一人称を変えたことから、もうこの人のなかでは、プライベート的なものなのだろう。

 私がそんなことを思っていると、九尾さんも反論し始める。

 

「そんなんいわれても、本人が弱いっていうとるやん」

「なるほど。確かに、そうだな。それも一理ある」

「せやろ、せやろ?」

「だが、実際に見たわけではない。彼女は、自身を過小評価する癖があるからね。実際、俺たち魔王ですら、継承できた魔力は一種類で、彼女のような二つの家からの継承する形で魔力を有するのは珍しい。それに加え……」

「ちょっと、ストップ。待ってください。なんで、魔王様が私のことをそんなに評価してるんですか?」

「弟の許嫁の調査をしただけさ」

 

 い、意外だ……。アジュカ様が、弟の許嫁に関心を持っていたとは……。

 

「というのは嘘でね。セラフォルーからいやというほど聞かされていたんだ。『君に、ディオドラはふさわしくない。もっとふさわしい男……具体的には、サーゼクス以上の存在がいるはずだ』とね。それで少し、興味が湧いて調べたというのが、本当のところさ」

 

 ことの顛末を聞き、セラフォルーお姉ちゃんの私に対する過大評価と、なぜ、アジュカ様が私に興味を抱いたのかがわかった。うん。でも、さ……。

 

「公私混同はしないって言ってたのに……」

「実際、調べてみて、実力的に、悪魔社会に必要ではあるということだけはわかったしな」

「なるほどな。魔王二人が評価する悪魔なんやね。かといって……」

 

 信用できるだけの能力があるようには見えない。

 とでも言いたいかのような、目で私を見てくる。なるほどなるほど。

 

「そういうことなら、軽くゲームでもしようか」

 

 は? 

 

 私と四志津という九尾さんは二人して、『なにいってるのこの人?』みたいな反応をしていた。

 

 

※※※

 

 

 そして、私たちはアジュカ様の計らいにより、アスタロト家のトレーニングルームにお邪魔することとなった。

 

「さて、それじゃあ、簡単なルール説明といこう」

 

 そこから、アジュカ様のルール説明が進んでいく。

 そもそも、なにが原因で、こんな事になったのか定かではない。おそらく、アジュカ様は、この人を預かりたくないなにかがあるのか、それとも、私に預けたいどうしてもという理由を語りたくないのか……。

 うーむ。やっぱりよくわからない。

 

 とりあえず、まとめると、私は四志津さんの攻撃を一時間避けきれればいい。といういたってシンプルなものだった。

 一応、ゲームのため、被弾回数が三回いくと私の負け、一時間たって被弾回数が二回以下だと私の勝ちと言うものらしい。

 

「それで、私が使っていいのは、魔力で四志津さんは自由。大分不利じゃないですか?」

「せやせや。こんなペドッ子がうちの術、受けて無事なわけないやん」

「ペドじゃないです」

「そういうんどうでもええから。で、どないするん? こんな子供相手に本気だせっちゅうんか?」

「こんな子供みたいな見た目でも上級悪魔だ。やってみないとわからないことがある。そうだろう?」

「それもそやね」

 

 なにやら、二人の間で話がまとまったっぽい。

 

「そんじゃ、合図任せんで。このペドッ子の実力。見せてもらおうやないの」

「ペドじゃないです!! せめてロリですぅ!!!!」

 

 私の反論後、アジュカ様が合図を出し、ゲーム開始となった。

 

 

※※※

 

 

「そんじゃ、手始めに……」

 

 四志津の手に青白い炎が灯り、大きく振りかぶると、アヤナに向かって投げた。

 

「あぁ、なるほど」

 

 アヤナが呟きながら、手を伸ばしその炎を払い落とすような動作をすると、青白い炎は、消えてしまった。

 それをみて、ニヤリとなにか面白そうなものをみたといわんばかりの笑みを浮かべる四志津。

 彼女は、次々と炎を出して放つという動作を繰り返す。

 

 アヤナはその一つ一つに両手をつかい、払っていくが、最終的に量に対し追い付けなくなったのか、サイドステップや側転などを使いながらかわしていく。

 所謂弾幕シューティングゲームみたいな状況になっているのだ。

 

「へぇ、やるやないの」

「ありがとうございます」

「あんさん、手ぇ振らんと魔力の扱いできんのちゃうか? その手が追いつかんくなってから、一発も払ってへんで」

「あなたこそ、炎の弾の射出に腕を振ってるじゃないですか」

「言うなぁ。ま、ええわ」

 

 そう言いながら、先程と変わらず青白い炎を作り出す四志津。何回か放ったあと、両手を胸のまえに持ってくると、炎の塊を作り大きくしていく。

 

「うわぁ。これは……」

 

 アヤナは自身の目の前に、水の魔力で集めた空気の塊渦巻かせはじめ、炎の塊に向け、対抗しようとする。

 

「普段なら結界で封じ込めるか、威力を削ぐんだけど、ルールで魔力だけだから」

 

 炎の塊が、四志津の全身を隠すくらい大きくなり、放たれる。だが、アヤナの用意していた竜巻の規模は段々と大きくなり、炎の塊を呑み込んでしまう。

 消しきれなかった炎は竜巻の一部となり、四志津を襲おうとする。

 

「やば……」

 

 アヤナ瞬間的に、水の魔力で作り出していた空気の動きを止める。

 が、すでに放たれているのは、自身のコントロール下にない『物理現象』だけ。段々と弱くなっていくとはいえ、炎が当たるまえに、消せられるのかと言われれば、否だ。

 

「あとは任せたまえ」

 

 手元の魔法陣を操り、アジュカが竜巻を乗っとり、進路を大きく変更した。

 結果として、アヤナの魔力によってひきおこされた竜巻は、四志津を襲うことはなく、静かに消え去った。

 

「な、なんやの、あれ……」

 

 四志津は恐怖からか、瞳に涙を浮かべながら、ペタンと床に腰を落としてしまう。

 

「あの、大丈夫ですか? 怪我とかは……」

「あ、あぁ。だいじょぶ。それより、なんなん、あれ? あんさん弱いんとちゃうかったんか?」

「それは、事実ですよ。リアスさんとか、サイラオーグさん、シーグヴァイラさんと比べると私なんてめちゃくちゃ弱いですから」

「ほーん。んで、魔王さんからみたこの三人ってアヤさんと比べるとどれくらい強いん?」

「ふむ。なかなか、難しい質問をしてくれる……そうだな。アヤナ・マルファス・シトリーと比べると、パッと見の派手さならリアス・グレモリーが、バランス面ではサイラオーグ・バアルが、特異性ならシーグヴァイラ・アガレスが上に出るだろうな。それに加え、リアス・グレモリーに関しては滅びの魔力がある。破壊力だけで見ると、アヤナ・マルファス・シトリーの何倍もあるといっても過言ではない」

 

 アジュカは主観を交えながらではあったが、できるだけ中立的な評価を下した。少なくとも、アヤナと四志津はそう感じ、疑問を抱いていない。

 

「だが、この三人は、防衛戦に重要な『情報収集能力』に欠けるきらいがある。なにかが起きるまえに潰すという点において、ソーナ・シトリーとアヤナ・マルファス・シトリー、そして、ギルギザン・バルバトスの三人を越えるような若手の上級悪魔はいないだろうな」

「あの、私、攻めの能力は……」

 

アジュカの評価にたいし、アヤナは異義を唱えようとした。だが、それは、四志津によって阻まれてしまった。

 

「竜巻引き起こしといてなにゆーとんねん」

「いや、あれ、実際は水の魔力で小さな渦を作って、風の魔力で、周りから風を集めただけなんですよ。破壊力も、この一連のゲームでどこも破壊できていないことから、そんなにないってことの証明になっていますよね?」

「なるほどなぁ。確かに破壊力っちゅーより、防御力の方が大きいようには感じたわ。見た目はごっつ派手やったんに」

「いえ、さっきもいった通り、『水の魔力』で作った小さい渦なんで、それが周囲の空気に干渉して、ひとつの竜巻を作っていたんです。そうなってくると、残りの規模とか破壊力とかは、竜巻の干渉力に左右されるんですけど、私のは結構低いんです。せいぜい、外側からの攻撃の排除とかにしか使えません」

「一応、本気の彼女はフェニックス家の三男をぼこぼこにする程度の実力はある」

「あれは、初見殺しですから!! 二度と使いませんからね!!」

「まあ、んなこたぁ、どうでもええねん。それより、うち決めたで」

 

 四志津の言葉に、疑問を抱くアヤナと、「やっとか」と安堵のため息をつくアジュカ。

 そして、その言葉に続いたのは、

 

「うち、この嬢ちゃんの眷属になったる」

 

 アヤナの驚きの声が、空間を支配した。


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