眷属になる。
そのフレーズを聞き、私は耳を疑った。
「いや、なんで!?」
そして、つい、そのことを尋ねると、
「うち、ノリの軽い子ぉが好きやねん。んで、ソーナ・シトリーとギルギザン・バルバトスの二人にも会うたんやけど、二人とも中々の堅物やったんよね。それで、このひとんとこにこれから住むんかぁってなると、なんか踏み切れんくてな。そこで、ソーナ・シトリーの嬢ちゃんがあんさんはどうやぁっていってくれたんよ」
「結果として、君を気に入ってくれたみたいでよかった。俺もようやく『ゲーム』の運営に戻れる。それじゃあ、彼女のことは任せたよ」
そういってアジュカ様は広い訓練室みたいなところから出ていった。
え? あれ? もしかして、ここから、二人で病院までいかないといけないの?
「ほな、うちに『悪魔の駒』ちょうだい」
すごい軽いノリで駒を要求する四志津さん。まあ、私も別に精力的に眷属を集めようって言う訳じゃないから、こうやってさっさと眷属の枠が埋まっていくのは嬉しいんだけど、昨日の今日で渡すって言うのも……。
「一応言うけど、うちは本気やで。八坂さんからも、悪魔になりたいならなったらええっていわれとるし、あの人じゃあ、うちの面倒まではみれへんっちゅうことやねん。じゃけん、あんさんのとこで生活させてや」
「そういわれても……」
「後生や。うちかて不安なんよ。じゃけん、あんさんの実力を知りたかったんよ。天狐クラスになったら独立するから、よろしくたのんます」
四志津さんは私に深々と頭を下げる。
本気であることは確かなようで、今にも断られないか心臓をバクバク言わせ、返事を待っているため、私も心を決して言うべきなのだろう。
「わかりました」
私がそういうと、パァッと表情が明るくなる。動悸こそ変わっていないが、体の震えが消えていることからも、安心しているのが伝わってくる。
「戦車の駒でいいですか?」
「お、ええでええで。にしても、なんで戦車なん? 僧侶とかんがうちにあっとると、思うんやけど」
「僧侶とか騎士だと、足りないんですよ。私の場合」
「ていうと?」
「あの竜巻って、実際の自然現象と比べると相当威力が低いんです。たぶん、四志津さんの足を止める程度の風しか起こせてないんですよ?」
私がそういうと、四志津さんは『はぁ?』みたいな顔をしていった。
「嘘やな。実際うち壁に叩きつけられたし」
「竜巻の外側だったからですよ。内側はそんなに強くありません。酸欠みたいなことも起こせなくはないですけど」
「ほら、あんさん。十分強いやん」
「でも、その程度です。他の上級悪魔は私の竜巻以上の攻撃力の魔力攻撃ができますし、私の魔力程度なら、簡単に弾き返す程度の芸当は、可能です」
「ほなかて、あんさんの竜巻に負けたうちは、あんさん以下ってことにならへんか?」
「それは、正確じゃないです。悪魔社会の力の基準が純粋な筋力や魔力なので、私みたいな『術』の威力が評価されることは珍しい部類です。悪魔の駒もそこに例外はないと思います」
そういうもんなんやなぁ……と、四志津さんは言う。
そういうものなんですよ。まあ、これはアジュカ様から明確に『これが『
「それじゃあ、私たちも転移しましょうか」
「そういや、病院に行く予定やったんよね。すまんな、うちのわがままに付き合わせてもうて」
「いえ、いいですよ。面倒くさくはありましたけど、久しぶりに『魔力だけ』での戦闘ができましたから」
「そんなら、よかった。それで、これから病院なんやろ?」
「はい。ドラゴンと人間のハーフの子を眷属にしに行くんです」
「ドラゴンの? へぇ、面白そうやないの。どんな子なん?」
「かわいい子ですよ。臆病だけど、心を開くとすごく甘えん坊で、母性本能がくすぐられて、成長をすごくみたい子なんです。他にも」
「はい、ストップ。なんとなくやけど、あんさんの感じつかんだわ。やめやめ。あんさん、やっぱシトリーの悪魔やわ」
「マルファスでシトリーですから」
私は胸を張り、そう答える。私にとってマルファスであることと、シトリーであること両方とも誇りだ。
両方の家の魔力の特性が、自身に受け継がれており、また、マルファス家の再興のために貢献できることはすごく嬉しい。
その一歩として、種族関係なしに眷属にしている……あれ? ちょっと、待って。私、眷属悪魔にしている子達って大体追放とかされてなかったっけ? えっと……海樹くんと治奈ちゃんは五大宗家から命を狙われていたところを私が拾って、カリューちゃんは鍛冶の秘伝を持ち出したと言うことで追放された一族の末裔。メイクちゃんは、ドワーフの技術から逸脱した技能を持った、慣例主義的な考え方に嫌気がさし、反発した結果追放されたお父さんがいるため、北欧からの監視で自由に生きられないからと私のもとに売り込んできた子……あれ? あれあれ?
もしかして、私いわく付きの子ぐらいしか眷属にしてない……?
「ま、いっか。みんな私の大事な子だし」
「なんや? 何かあったんか?」
「私って複雑怪奇な事情を抱えた子を眷属にしやすいんだなって」
「そうなん? まさかやけど、うちもその一人にはいっとらんよね?」
「ふふ。さぁ、どうでしょうね」
「教えぇや、アヤさん!」
「自分の胸に聞いてみてください」
「自慢の胸しかないで?」
「そんな堕性の塊のなにがいいんだぁ!!」
「あ、ちょっ、アヤさん!?」
胸をつきだし自慢してきた四志津さんの胸を、私は鷲掴みにしもみし抱く。
おらおらおらぁ! ここかぁ? ここがええんかぁ?
そんな邪な感情をぶつけ、じゃれ合っていると、時間が迫っていることに気がつく。
「流石に時間をかけすぎました。いきますよ」
「せやったせやった。元々はドラゴンと人間のハーフって子のとこに行くんやったな」
「そうですよ。それじゃあ、お手をはいしゃく。はい、じゃーんぷ」
私は四志津さんの手を取り、ぴょんっと飛び跳ねる。
「はい、とーちゃく」
「うわ、はや。ってか、なんや? 魔方陣やら通った記憶ないんやけど、どうやったんや?」
「ちょっとした裏技みたいなものです。それより、目的の病室に向かいますよ」
「せやった、せやった。そっちが優先やったわ。にしても、ドラゴンかぁ……うちかすまへんか?」
「かすみますよ。同時期に、ドラゴンのハーフと九尾の狐。この時点で結構な話題を生みますから。それに……」
「それに?」
「ドラゴン系の神器所有者が二人、うちの学校に通ってますしね。その時点でお察しです」
うおぅっふ、と変な声を上げる四志津さん。一応女の子なんですから、そんなはしたない声を上げないの。そんなことを思いながら、私はその子の病室の扉を開け放つ。
「万結ちゃーん。きたよー」
「アヤナちゃん。待ってたよ。でも、ディオドラさんとのお茶会、よかったの?」
「いいのいいの。そんなことより、はいこれ。約束の
私は魔法陣を展開して
「こんなに!? いいの? 私よりもすごい人とかに使った方が……」
「いいの。それに、万結ちゃんを治す代わりに眷属にするって約束したじゃん」
「でも……」
「でも?」
「レーティングゲームとか、多分私じゃ役に立てないと思うし」
あ、なるほど。そういうことか……いきなり『やっぱり眷属入りはなしに……』なんていいだしたから、何事かと思ってたけど。そういう事……
「ねぇ、万結ちゃん。私、レーティングゲームで勝つために眷属集めをしてるわけじゃないんだよ?」
「そうなんか?」
「そもそもの話、レーティングゲームは政治的な目的で行うことの方が多いの。上級悪魔同士の婚約もレーティングゲームで決めることなんて一般的だし、それこそ、商談で利用することだってある」
「お、おう……それが、勝つための眷属集めをしない理由になるんか?」
「いえ。そもそも論の話です。要は、私は、私が『この子欲しい。海樹君ハーレムの一員になれるかも!』って素質の子位くらいしか眷属にする予定はないの」
フンスとない胸を張りどや顔を決める。
「お、おう……」
「あの、アヤナちゃん?」
「なに?」
「さっきから気になってたんだけど、その人は?」
「あれ? 言ってなかったっけ?
「
「ええんちゃうん? うちからしてみりゃ、アヤさんがこんなほしがる人材がどんなんか気になるし」
「わ、私は……別に……」
「わーっとるわーっとる。あんさんもアヤさんみたいな感じで、なんかすごい力あんねやろ? 神器の影響で入院し取るみたいやし。それが治りさえすれば、相当な実力が……」
「ないですよ? 私、10歳からずっとここに入院していたので……」
「でも、万結ちゃん、ドラゴンの中でも龍王クラスは確実にあるんじゃないかな?」
今のところは。正直、神器を使いこなせて禁手化したら、もっと強くなるんじゃないかな?
「ほへぇ……やっぱ、そうなんやな」
「アヤナちゃんは過大評価するから……」
「でも、私の駒八個分の価値は絶対あると思うよ?」
「なんや。もう答えでとるやん。むしろ、そこを否定したらアヤさんの目ぇが信用できん言うとるんもんやで?」
「そ、そんな……私、別に……」
「なら、受け取ったらええやん。アヤさんの眷属になるんは嫌やないんやろ?」
「そうですけど……」
「なら、躊躇う必要なんてないんやない?」
おぉ……これは、四志津さんに任せれば丸く収まるやつなのでは?
「なあ、アヤさんもまゆゆんが眷属入りすれば、戦力的にも十分なるんやろ?」
「え? あー。そうですね……正直、戦力とかは、考えてないですけど、万結ちゃんが外で自由に生きたいって思うなら眷属入りして欲しいかなって。今日の退院の話だってもともとは、私の眷属になることで成立する話だったわけだし」
「なんや、決定事項やったんか?」
「そうですよ。万結ちゃんもそれでいいってことで話を進めていたので、私もちょっと困惑してるとこです」
「だ、だってぇ……」
「まゆゆんも、ええんやろ? なら、受けとりぃや。というか、はよまとめんと病院側に迷惑ちゃうんか?」
「そ、そうですよね……この駒の数の価値に見合うかは分からないですけど、がんばります」
最後に四志津さんからの後押しもあり、万結ちゃんは私の兵士の駒を受け取ってくれた。