自信満々な幼馴染のライバルに旅先で絡まれる話   作:雨ざらしの鷲

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構想はこの回までしかありません。見切り発車。


第2話 トキワシティの攻防

ここはトキワシティ

トキワはみどり えいえんのいろ

 

 

 

 

「うぃー…、そして弱ったところで、ヒック、ボールを投げるんだぁ!」

 

マサラタウンを旅立ち、隣のトキワシティにたどり着いた。

酔っぱらったお爺さんがポケモンの捕まえ方を教えてやると、半ば強引に俺を捕まえ実演してみせる。

……酒臭いのはともかく、駆け出しの俺にとっては貴重な助言だった。酔ってる割にはボールもちゃんと投げてたし、「若い頃は凄腕のトレーナーだった」というのも案外本当なのかもしれない。

 

(………俺もとっ捕まって絡まれたし)

 

「どうだぁ~!捕まえたぞぉ~!」

 

と、まあ、面倒な酔っ払いかと思ったが意外と勉強になったのも事実で頭を下げてお礼を言う。お爺さんも機嫌よくなって解放してくれたし。

 

(………もう夕方か…、今から北の森に入っていくのは危ないし、今日はトキワのポケモンセンターで休むか…)

 

田舎のマサラタウンと違い、トキワにはポケモンの傷を治したり、トレーナーの宿泊所になるポケモンセンターがある。

いずれは野宿を避けられない場面もあるかもしれないが、旅も始まったばかりで無茶をする意味もない。今日のところはポケモンセンターで休むとする。

 

(フレンドリーショップでボールや傷薬も買った。ジムが休業中なのは残念だけど仕方ない…。まずは森を超えてニビシティのジムを目指すか)

 

ポケモントレーナーの最終目標の一つにポケモンリーグへの挑戦がある。

最強のポケモントレーナー・リーグチャンピオンを決めるセキエイ高原のポケモンリーグ。そこに挑戦するにはリーグ公認の8つのジムを廻り、ジムリーダーに認められないといけない。

いずれは俺も挑戦してみたい。そのためにも焦らずこの冒険で成長しなくては。

旅の決意新たにポケモンセンターを訪れる。ポケモンセンターはたびをするトレーナーを広く受け入れてくれて、俺みたいな駆け出しの子供が旅をする上での心強い味方だ。

 

「ようこそ、いらっしゃいませ!ポケモンの回復と、ご宿泊ですね?」

 

「…………ん」

 

受付のお姉さんの問いかけに頷き、トキワまでの旅路で頑張ってくれたヒトカゲの入ったボールを渡し、お姉さんからは宿泊する部屋の鍵を渡される。これで明日の出発までにヒトカゲも元気になってるだろう。

 

「よかったですね。これが今日最後の空き部屋でしたよ」

 

(危ない、危ない。いきなり野宿なんてシャレにならないところだった)

 

危機一髪をギリ回避して胸をなでおろす。と、まあその瞬間だった。

 

「す、すいません!!一部屋空いてますか!?」

 

聞き覚えのある……というか毎日聞いてる声が後ろから聞こえたのは。

 

「あ、あの~…申し訳ありません。たった今、満室になってしまいまして…」

 

「そ、そんな~……」

 

聞き覚えのある声の持ち主が情けない声で受付カウンターに縋りつく。……非常に残念ながら聞き間違いではなかったらしい。見覚えしかない女の子の姿が横目に見える。

 

「………あっ」

 

宿なしになった少女がこっちに気づく。無性に嫌な予感がする。

 

「レッドぉ~……っ!」

 

ぎゅっ

 

「~~~~っ!!」

 

涙目のリーフが俺の腕に抱き着いてくる。柔らかい感触が押し付けられて、なんか、もう、やばい

 

「………っ、相部屋……できますか…?」

 

理性がゴリゴリ削られていく中で絞り出したセリフに俺はさらに後悔する羽目になる。

 

 

――――――

―――

 

 

「……………」

 

『~♪』

 

「………………」

 

(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け)

 

冒険初日の夜にして既に最大級の危機が俺を襲う。具体的にはシャワーの音とかだ。

リーフの無自覚な猛攻に会いながら発したセリフは俺の取った部屋にリーフも泊めるというものだった。

 

(女の子……、それも幼馴染を見捨てるわけにはいかないんだから俺がやったことは正しいはずだ……!…………たぶん)

 

普段は満室になることなんてそうそうないらしいトキワのポケモンセンターなのだが、なんでもトキワのジムが急遽休業になったせいで立ち往生するトレーナーがいるらしく部屋数がギリギリだったということだ。

さすがにスタッフの方々も鬼ではないのでリーフみたいな女の子を野宿させたりはせず、スタッフ用の部屋を臨時で貸し出すとか緊急の対応もあったらしいが、幼馴染の俺がいたこともありこれが最良の方法となったわけだ。

 

(……………ほんとにこれ最良?……………というか俺が持たない気がする)

 

本来シングルの部屋に無理やり二人泊まってるんだからまずいことに既になってる。

 

(例えばリーフがシャワーを浴びてる音とか…!)

 

『ん…、あ……、気持ちいい……♪』

 

「っ!!!!」

 

一人用だもん。宿泊室内の中の防音なんて想定されてない。寝室にまで浴室の音がしっかり聞こえてくる。

シャワーがリーフの肌を打つ音も、気持ちよさそうな声も全部聞こえてる。このままだと最悪リーフに軽蔑される未来が待っている。一見天国のようでこれは地獄の拷問だ。

 

キュッ……キュッ……

 

『…ふぅ』

 

シュル……ぱさ……

 

シャワーの音が止まって衣擦れの音が聞こえる。判決を読み上げられる犯罪者の気持ちが今はよくわかる。

 

「お風呂、先に貰ったよ」

 

「………!!」

 

タオルで長い髪の水気を拭きながら湯上りのリーフが浴室から出てくる。火照って赤らんだ顔に少し大きめのパジャマ姿。リーフの完全に気を許してる姿に胸が早鳴る。

 

「ごめんね、レッド。部屋に泊めてもらった上にシャワーまで…」

 

(うわぁぁぁぁぁっ!!シャンプーの匂い!!距離近い!!)

 

「…………入ってくる」

 

「あ、うん」

 

これ以上、一緒にいたらやばい。風呂に入ると理由をつけてこの寝室を速攻で後にする。

 

「あっ!洗濯物、あとで頂戴ね。さすがに洗濯くらいはやらないと申し訳ないからさ」

 

「…………ん」

 

極限まで無関心を装って浴室へと逃げ込む。ドアを閉じ寝室に聞こえないように息を殺してしゃがみ込み、

 

「ふぅ~~……!!」

 

思いっきりいろんなものが混じったため息を吐いた。もう無理だ限界だ。

 

(なんであんな無防備なんだ…!!もっと警戒しろよ!!男だぞ、俺!!なんで相部屋に喜んでんだよ!!危機感!!もっと持てよ!!)

 

言えないけど言いたいことは山ほどある。異性との距離感とか、あのめちゃくちゃ可愛いパジャマ姿とか、動き回るのに向いて無いスカートとか、バッグのかけ方とか。

 

(おまけに洗濯って…!いや、俺があいつのも洗うよりいいけど…!)

 

冒険してるトレーナーのために個室ごとに洗濯機も設置してある。もちろん洗濯機は一台なので一緒に洗わないといけないのだが、このタイミングで言われるとどうしても意識してしまう。

 

(………落ち着こう。シャワー浴びて気持ちをリセットしよう…、うん)

 

汗も煩悩もまとめて洗い流してしまいたい。服を脱ぎ浴槽でシャワーを浴びようとして俺は気づいてしまう。

 

(……さっきまでここ、リーフが使ってたんだよな?………………!?)

 

 

――――――

―――

 

 

「………」

 

「あ、お帰り。洗濯物もらうね。……?どうしたの、疲れた顔してるけど?」

 

「………」

 

………無心になって脱いだシャツやズボンをリーフに渡す。冒険と言うのは大変だということが初日から分かった。というか旅に出る前までは毎日遊んでた幼馴染が途端に牙を剥くなんて誰が読めるというのか。

疲れた体で椅子に沈み込む。

 

「いけるかな~って思ってポケモンリーグの方に行ってみたけど見張りの人が通してくれなくてさ、なんとか通り抜ける方法考えないとね」

 

「………ん」

 

「でもまあ、遠回りしたおかげで早速ポケモンゲットできたし、順調かな!レッドはもうポケモン捕まえた?」

 

「…………」

 

「うっ…、わかってるよぉ…夢中になったせいで宿取り逃したのは…、反省してるよ~」

 

どうやらリーフはさっそく新しいポケモンを捕まえたらしい。そのせいでこんな目に合ってると思うとジト目で睨むくらいは許されると思う。まあリーフらしいといえばリーフらしいけど。

自信満々でせっかちな割に抜けてるところがあって、でもそのおかげもあって俺の知らないところへ先に行ってる凄い奴だと思う。

 

「それよりさ!レッドのポケモンは強くなった?」

 

「!?」

 

「図鑑ちょっと見せてみてよ!ほら~っ」

 

パジャマ姿のリーフが椅子に座る俺の背後から詰め寄り、図鑑を見せろと肩を掴んで揺すってくる。リーフの顔が俺の顔のすぐ横に近づき、髪の毛の甘い香りがする。少し視線を横に向ければまだ赤らんでるリーフの顔がすぐ傍にある。

 

「隠さなくてもいいじゃん~!見せてよ~」

 

「………!!」

 

とにかく離れて欲しくて首を縦に振りまくる。せっかく滅した動揺が即蘇生させられた。

 

「へぇ~…ポッポに…コラッタ、ビードルかぁ…。私の方が見つけた数も多い!ふふ~んっ」

 

リーフは得意げになってドヤ顔で胸を張る。薄手のパジャマで胸を張られると成長途中の胸部が強調されて、ほんともう勘弁してください。

 

「どうやら図鑑完成も私がいれば十分?レッドの出番はないかもね!」

 

「……………宿取れなかった癖に……」

 

「うっ!悪かったって~…ぷぅ」

 

「…………」

 

「ぽぇっ、…ってまたやったな~!」

 

またむくれたリーフの頬をつついてやると、膨れたほっぺが萎んで変な声が出る。これくらいの仕返しは許されるだろ。

 

「………ふわぁ」

 

「あ、レッドも眠い?私も…ちょっと疲れたし、眠いかも…、ふぁ…」

 

汗も流したし、なんだか眠くなってきた。明日は森を抜けなきゃいけないし早めに休むか…。

 

「………おやすみ…」

 

上着を羽織ってこのまま座って目を閉じる。まったく……疲れる一日目だった……。

 

「ってこら!椅子で寝ないの!!ちゃんとベッドで寝なさい!」

 

………人が寝ようとしてるのに揺すり起こされる。

ベッドが一つしかないのに何を言ってるのか。いくら俺でも女の子を椅子で寝させるほど外道ではない。ベッドくらい譲ってやる。そんな感じの心の声を乗せた視線をリーフにぶん投げてやる。

 

「う……、レッドが取った部屋なのに私だけベッドで寝るなんてできるわけないじゃん……。だ、だからね、ほらっ!」

 

リーフがシングルベッドをバンバンと叩き何かを訴える。

 

 

「だ、だからぁ…!そ、そのね、……二人で…ベッドで寝ればいいじゃん……」

 

…………………

………………………

顔を赤くして視線を逸らしながらリーフが難しいお言葉をおっしゃられる。

……チョットナニイッテルカワカラナイ。

整理して考えると、さっきのベッドバンバンはこっちに来いという意味なのかもしれない。俺が椅子で寝ようとするのをリーフとしては許容できない的なことをもしかしたら言ったのかもしれない。だからといってリーフを椅子で寝かせるなんて断固拒否、という俺の意向をさすがの幼馴染は感じ取ってくれたのだろう。

で、以上を踏まえた上でリーフさんの先ほどのセリフを下品な下心を一切排除して都合よく解釈せずに考察すると?

 

「……………」

 

「さ、さすがに…狭いね…?あ、あはは…っ」

 

…………今の状況を整理しよう。

狭いシングルベッドに二人並んで横になってる。

誰が?

……俺とリーフが。

話しかけてくるリーフの声が近い。息遣いまで感じられて良い匂いがする。

………俺、顔真っ赤じゃないか?灯り消してるから気づかれてないと信じたい。

リーフは平気なのか?…………今はとてもリーフの顔を直視できそうもない。

 

「………なんだか久しぶりだね?レッドと一緒に寝るの……、小さい頃はよく一緒に寝たよね」

 

「………ん」

 

「……ごめんね、レッド。私のせいで」

 

「………ん」

 

「……うん、ありがと」

 

今更気にすんな、ってニュアンスを長年の付き合いでリーフはちゃんとわかってくれる。

 

「ん……、でも……ほんとに……レッドがいて…むにゃ……よかった……。レッドなら…あんしん………」

 

(……安心って、やっぱ俺って異性として見られてない…?)

 

嬉しいような妙に虚しいような……。

さすがに疲労が勝って意識が眠りに落ちていく…。

 

(………おやすみ、リーフ)

 

 

――――――

―――

 

 

(…………朝からもう疲れた……)

 

ポケモンセンターで一夜を明かし、目を覚ました俺に待ち構えていたのは新たな試練だった。

目が覚めるとリーフがなぜか俺の腕に抱き着いたまま寝てて、離れようにも起こすわけにもいかず、リーフが離れるまで身動き一つ取れなかった。

………すごい柔らかかった。

しかも寝言で俺の名前を呟くし、男を勘違いさせるプロとしか思えないこの幼馴染。

そんな朝の拷問をなんとかリーフに気取られずに脱出し、リーフが起きる前にさっさと着替えてしまおうと夜のうちに乾燥まで終えてくれた洗濯機を開けた俺はバカだった。

俺のシャツと一緒に出てきたのはリーフの……

 

(~~~!!!)

 

はい、忘れた!1、2のポカンで綺麗に忘れた!俺は何も見てない!

 

とまあ何事もなく、リーフも目を覚まして、俺達はポケモンセンターを出発して別れた。

別に何もなかったけど、気持ちを切り替えるべく道中のポケモンと戦ったり捕まえたりして、昼には無事トキワの森の入り口にたどり着いた。何もなかったけど!

 

で、これから俺はこのトキワの森を抜けてニビシティまで向かう。カントーでも最大級の規模のトキワの森は大きい木々が立ち並んで昼でも薄暗いがここを超えなくてはいけない。

 

「………行くか」

 

これこそ俺が憧れてた冒険だ。気合を入れて入り口ゲートのドアを開ける。

 

「ほら遅いよ!早く先に進まないと日が暮れちゃうよ!」

 

「……………」

 

ゲートに入ったとたんに聞こえたのは、とてもよく聞きなれた声。

顔を上げれば案の定、見慣れた幼馴染。

 

「あっ、ちょ、ちょっと待ってよ~!無視するなぁ~!」

 

薄暗くて一人じゃ怖いから一緒に行ってくれる奴を待ってた、と推測される幼馴染をスルーして森に入ろうとしたら若干涙声で腕にしがみ付かれた。

冒険二日目にして早くも先行きが不安になってきた。

 


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