ありふれた始まり方
私は●●●。どうやら死んでしまったらしい。
ひょんなことから死んでしまった私は、何もない白い空間にいた。あたりを見渡してももの一つない不思議な空間だ。方向感覚が怪しく、眺めていると上下すら分からなくなってしまいそう。
死んでしまったから天国に行けると思っていたのに、こんなつまらない空間に送られるなんて散々だと思いながらしばらくぼーっとしていると、突然頭の中に情報が流れ込んできた。
え、?は?え?転生?うそ、え、え、え、え。
頬がどんどん緩んでいく。
いやだってさ、転生だよ?キタ、ミタ、カッタ。
輪廻転生なんてこれっぽちも信じてなかったし、神に祈ったこともほとんどないけど声を大にして叫びたかった。
叫んだ。
二次元にのめり込んだ人なら一度は夢見る転生!そのチャンスが!めぐってきた!ああ神よ!!
あ、目の前に荘厳な扉が!これくぐればいいんですね神さま!
にしてもどこの世界に行くのかな~。そこら辺の説明なかったけど、こういうのって大体自分の思うようになるよね!
私が行きたいのはもちろんあの最高にオサレな世界!かっこいい詠唱と刀の世界!お願い神さまあの世界へ!
おっと、扉に文様が刻まれていく。
うーん、花だな。花弁が八枚…。
何か見たことあるな~。なんだっけ?
あ!もしかしてどこかの隊の隊花かな?
そうだよそうに違いない!てことは成功だ!
よしいこう!こんなぶっ壊れテンションだけど気にしない!いざゆかん新しい世界へ!
視界が白い光で満ちて身体を浮遊感が包んでいって、私は意識を手放した。
☆
私は
私は今自宅の庭で子供らしく両親とボール遊びをしている。精神年齢的にはボール遊びなんて似合わないことこの上ないが意外と童心に還るというのも楽しいものだ。
少なくとも幼児のときの羞恥プレイの数々に比べればはるかにましだ。うん。
それはそうと、私はやっぱり神を信じない。
いやまあなんというか……ね?
どうやら転生に失敗したらしいです。
気づいたのは3歳の時。初めて電車に乗って遠出することになり、私はてくてくと両親と手をつないで歩いていた。今思えば街の風景もどこか近未来的で、私の望んだ世界とは似ても似つかなかったから違和感を覚えるべきだった。
両親に連れられて着いた駅で私が見たのは、私が前世からよく知る電車ではなく、家族3人が乗ってちょうどいいくらいのサイズの乗り物だった。
私は思った。あ、これキャビネットじゃん。某お兄様最強小説にでてくるリニア式小型車両。これに気づいた私はめまいを起こして倒れてしまい、すぐに帰宅したのだけど、その時見たニュースで疑念は確信に変わった。
あ、これ間違いないわ。この世界は……
魔法科高校の劣等生
魔法が体系化された近未来を舞台に、少年少女たちが数多の敵に立ち向かっていくスクールマギクス。しかしその実態はお兄様、つまり主人公司波達也最強小説。
いやそこらへんはどうでもいいのだが、実際のところこの世界には陰謀が渦巻きすぎている。
テロリスト、国際犯罪シンジケートなどは序の口で、各国の思惑が絡み合ってどんどん主人公たちの周りが大変なことになっていくんだよなー……。
ふふ、ふふふふ。
あああああああああ!!
黒棺使えないじゃん!!
いやまあ結局そこに尽きるのだ。あのオサレな世界。BLEACHにおいてラスボスと並ぶ実力者にしてオサレの伝道師である藍染さんが使うオサレな鬼道。
詠唱破棄で隊長格を沈めるという第一印象の鮮烈さと、その詠唱から隠し切れない中二臭さは数多の中二病患者を出してやまない。
一回くらい暗記しようとしたことあるよね?ね?あるにちがいない。
そして当然ながらこの世界に鬼道はない。絶望だよ絶望。神さまコノヤロー。
ん??あれ。作ればよくない?
この世界には当然だがとんでもない数の魔法が存在していて、「
てことはもちろん鬼道に似た魔法もあるはずだし、知識と技術を身に付ければ自分で作ることだってできないことはないはず。
実際原作でお兄様はいくつもの斬新な魔法を作り出していたし……。
そうと分かればやることは決まりだ!
私はこの世界で、『黒棺』の再現を目指す!原作介入は二の次!ほかにもいろんな技をこの世界で再現してやる!
☆☆
そうして決心したものの幼子の身ではできることも少なく、両親に怪しまれたくもなかったので、おとなしく小学校に上がるまで待ってから行動を開始した。
幸いにして夢咲家は魔法師の家系だったし、ぽろっと母親が漏らしたところによると、なんと「
もともとは「
なんにせよ自分の魔法適性が高いというのはありがたいもので、まずは家の書斎にある専門書を読み漁ることから始めた。
前世では大学で物理学を専攻していたので、事象の理解も割と早く進んだと思う。といっても中には魔法大学で専攻するような分厚い本もあったので、そういうのは両親の目を盗んで自室でじっくり読んだ。
二度目の人生だけど、今世での両親もとてもいい人たちで、数字落ちの負い目なんて気にせず生きていた。
父親は魔法大学で教授をしていて、分からないことは快く教えてくれた。母は専業主婦だったけど、私のやりたいことは何でもやらせてくれた。
この二人でなければ私が小さい頃からこんなに知識を得ることもなかっただろう。
二人ともとても温和な性格で、私自身も自然と二人に似通った性格になっていった。まあ前世もあわせれば余裕で二十代だし、落ち着きが出てくるのも当たり前ではあるけどね。もう前みたいに心の中であっても叫びまわったりしないのだ。うん。
私は知識を蓄える傍ら魔法の実技の修行にも励み、小学校高学年になる頃には魔法科高校に入学できるくらいの腕前になった。
両親は驚いていたが同時にとても喜んでくれた。なんでも私は特に事象干渉力が飛びぬけているらしい。
研究の方では幸運なことがあった。父親の職場、つまり魔法大学の研究室についていったときに、ふらふらと歩きまわって研究設備をいじって考えていた起動式を入力していたら、研究室の人たちに大層驚かれた。
周りから天才少女だと持ち上げられて、それを見ていた専門の教授さんから起動式の作成に必要な設備を使う許可をもらえたのだ。とりあえずめちゃくちゃ喜んでめちゃくちゃお礼を言った。
それ以来週に何回も研究室に通い、ほんとに少しづつだが自分の目標に向かって動き始めている。
これが、私が12歳になるまでにあった出来事だ。
☆☆☆
「奏ちゃん、紅茶でもいかが?」
「あ、ありがとうございます響子さん。」
「ふふ、いいのよ。今日も頑張ってるわね」
私はソーサーに載ったカップを差し出しながら小さな研究者を眺める。
肩まで伸ばされた亜麻色の髪と山吹色に輝く瞳が特徴的な美しい少女。幼いながらに整った顔立ちは将来絶世の美女になることが容易に想像できる。今日はシンプルな白のワンピースという清楚な格好をしている。魔法師は顔立ちが左右対称であるほど優秀だとされているので、優秀な魔法師の卵であることは間違いない。
彼女は夢咲奏。
半年ほど前からこの研究室の設備を使っているまだ12歳の少女。お父さんが学内で教授をしている縁でその才能を見出されて起動式の作成に励んでいる。
「奏ちゃん、今はなにをしていたの?」
「あ、これはですね。この前スピードシューティング部の人に頼まれた起動式の調整です」
「……奏ちゃん、何度も言ってるけど断ってもいいのよ?もうあなたのこと結構評判になっちゃってるみたいだし、そのうち収拾付かなくなっちゃうわ」
「いいんですよ。息抜きにもなりますし、何よりこれ自体が技術の向上につながりますから。本当に大変なときはちゃんと断りますけど……まさか断ったからって小学生に文句言う人はいないでしょう?」
「ふふ、それもそうね」
ちょっとお茶目に返された言葉に思わず笑みがこぼれる。この子はこうやって学内の人の依頼を受けて魔法式をいじっていることがしばしばある。
なんでも、彼女は細かい注文にも素直に応えているらしくて、依頼者からの評価は軒並み高い。実際にその人たちが実績を出したりもしているので、どんどん依頼者は増えていて私はちょっと心配している。
その上彼女は自分でオリジナルの魔法を作成しているのだから驚きだ。
「この前作っていた魔法はどうなったの?」
「ああ、『黒棺』ですか?まだまだ先は長そうです……。超重力は加重系でなんとかなるんですけど、ただの加重系というのも芸がないですし。それにちゃんと黒い箱で覆い隠したいし。いやどうせなら他にも仕掛けを…」
「随分とその魔法にはこだわっているわね」
「あ、はい。私にとってこの魔法は特別なんです。だから納得の行くまで突き詰めますよ」
当たり前かもしれないけれど、奏ちゃんは自分用に作る魔法にはたいそうこだわる。試作した魔法式を試させてもらうことも多いのだけれど、それを見ると彼女はだいたい「こうじゃない。もっとオサレだった…」と唸っている。…オサレってなんなのかしら?
「ふぅ。やっぱり響子さんの淹れる紅茶は美味しいです。いつもありがとうございます」
「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ。私も今年で卒業だし今のうちに奏ちゃんとたくさんお話したいのよ」
「卒業、ですか…。」
奏ちゃんの表情がくもる。魔法大学の卒業式は半月後に迫っていて、私は今年卒業する。そうなればこのかわいい天才ともお別れだ。この数ヶ月で随分と奏ちゃんは私になついてくれた。
「そんな顔しないで奏ちゃん。私も寂しいけれど、別にずっと会えないわけじゃないんだから」
せっかく楽しくお話してたのに、空気を悪くしちゃったかしら、と少し後悔しながらそう声をかける。私の言葉を聞いてもなお浮かない表情をしていた奏ちゃんだが、ふと何かを思い出したかのように顔を上げた。
「あ!響子さんちょっとCAD貸してください!」
「もちろんいいけど、どうしたの?」
「ふふっ、あとでのお楽しみです!」
私のCADを受け取った奏ちゃんはパタパタと奥に走っていった。
CAD。正式名称は「術式補助演算機(Casting Assistant Device)」魔法を発動するための起動式が記録された、魔法発動を簡略化・高速化するデバイスだ。
汎用型と特化型の2種類あり、私のは汎用型だ。8つある系統魔法をどれでも入れることができる。
10分ほどして奏ちゃんが帰ってきた。
「おまたせしました響子さん!」
「大丈夫よ。でも紅茶は冷めちゃったかもしれないわね」
「あ、それはたいへんです!」
普段は落ち着いていておしとやかな彼女だが、今みたいに年相応な無邪気さを出すことがある。このギャップがとても可愛いのだ。年が離れているから、つい妹のように思ってしまう。
「ふふ、また淹れてあげるわよ。それよりどうしたの?私のCADなんて持っていって」
「えっと、新しい起動式を入れておきました。つい先日できたばかりの魔法なんですけど、ちょっと扱いは難しいかもしれません」
「あら、そうなの。テスターになればいいのね」
彼女の魔法を一番に試せるというのは実はすごいことではないかと最近は思っている。なにせ、彼女の開発者としての腕前は魔法大学内でも突出しているのだから。それに、私を頼ってくれているようで嬉しい。
「あ、いえ違うんです!」
と思ってたら手をわたわたと振りながら否定された。
「あら?じゃあ起動式なんて入れてどうしたの?」
そう聞くと彼女はちょっと俯いて頬を恥ずかしそうに染めてたどたどしく口を開いた。
「えっと、その……そ、卒業のプレゼントです!響子さんにはとてもお世話になりましたし、この魔法があれば私のことを忘れないでくれるかなって……」
早口でそう言った彼女の姿に胸がいっぱいになる。ちょっと涙が出そうだ。私は立ち上がってそっと奏ちゃんを抱きしめた。
「奏ちゃん…ありがとう。とっても嬉しいわ」
「えへへ。喜んでいただけたなら良かったです。それにこの魔法響子さんにぴったりだと思うんです。紅茶を飲んだら、ちょっと演習室に行きましょう!」
「分かったわ。楽しみにしてるわね。なんて名前の魔法なの?」
「えっと、『
「あら、それは楽しみね」
私達は座り直して紅茶を入れ直してしばらくの間他愛もない話をした。妹のような子と過ごすだけのこの時間が、私にとってはささやかな毎日の楽しみだった。
読んでいただきありがとうございました。時系列などに矛盾がないよう気をつけていますが、何かあれば指摘していただけると嬉しいです。
もともとこの作品は別の魔法科ssの練習として書いたものです。なのでこっちを更新しなくても新しいものを投稿するかもしれませんが、ご了承ください。
12/20追記
アニメでのエクストラの情報解禁に伴い、主人公の名字を詩宮から夢咲(元は三宮→三咲)に変更しました。
1/4追記
不運なことに、アニメにおいて三咲家のエクストラが「みさき」であることが判明しましたが、再びの設定変更は控えたいと思います。また、今後アニメに登場した「みさきひろし」が本作で出てくることはありません。アニオリと矛盾してしまいますがご了承ください。