死神の流儀   作:ふーじん

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グランバロア編終わったので、前々から書きたかったPKプレイヤーの話を書きました。
とりあえず切りよく第一章終了まで書き溜めしたので、一時間おきに予約投稿します。


洗礼

 □王都アルテア バラライカ

 

 繁忙期を乗り越え、正月回りの所用を片付けて人心地がついた頃。

 アタシはようやく<Infinite Dendrogram>を遊ぶ余裕を得、サクッとキャラメイクを終えてアルター王国へ降り立った。

 

 <Infinite Dendrogram>。

 今やその名前を知らないゲーマーはいない超有名タイトルだろう。

 半年ほど前に真のVRMMOという触れ込みで発表され、当初はそれまでのVRMMO界隈のアクシデントの数々から半信半疑で迎えられたそれが、時を経るにつれ圧倒的神ゲー――及びクソゲー――との評価を得て、ゲーム業界の台風の目となっているタイトルだ。

 

 その理由はいろいろあるけど……まぁ今更振り返るまでもない。

 一昔前のweb小説界隈で溢れていたようなVRMMOがそのまま現実になったと考えれば大体あってる。

 管理AIだとかいうやたらリアルな挙動の案内役NPCのガイドを受けて、七つあるという初期スタート地点から王国を選んだのには、特にこれといった理由は無い。

 単にゲームといえばファンタジーという安直な考えから、一番それっぽい国を選んだだけだ。

 レジェンダリアとも迷ったが、あっちはファンタジー()()()という点で却下し、程々に中世ファンタジーな王国でとりあえず始めてみようと思った次第である。

 

 結果としてその判断は大正解だったと言える。

 これまでのVRMMOモドキとは比べ物にならない圧倒的五感のリアリティ。

 そこらを行き交う目的別に配置されたわけではない、そのままを生きているNPC――ティアン。

 先んじてこのゲームを遊んでいたプレイヤー達、<マスター>。

 

 まるで異世界トリップだ。

 ログイン前までは謳い文句を大言壮語に思っていたけど、実際に体感してみればこれは()()であると直感できる。

 単なるゲームプレイから一転して異世界旅行となり、これを格安の月額料金だけで体験できるのなら、神ゲーとの評価も納得できるといったところだった。

 

「マジで違和感無いのよねぇ……」

 

 チュートリアル空間でも確認した自分のアバターを再度動作確認して、その違和感の無さに改めて感心する。

 リアルで自分の体を動かすのとなんら遜色無い感覚に満足すると、さてどうしたものかと考えた。

 

 手持ちは猫から配布された初期装備に五〇〇〇リル。

 武器は取り回しが良さそうという理由で選んだ短剣一つ。

 そして事前に調査しておいたこのゲームの仕様を鑑みて、まずはジョブに就くべきだろうと判断する。

 

「となりゃあ……よし。もしもし、そこのお兄さんちょっといい?」

「はっ、いかがしましたか!」

「転職できる施設ってどこにあるか分かるかしら?」

 

 そこでアタシは近くにいた衛兵に声をかけた。

 生憎まだ降り立ったばかりで右も左も分からない身の上だからね、ここはテストがてらティアンに尋ねてみるのがいいはず。

 直立不動で門の警備をしていたティアンは、アタシの左手を見て得心した様子を見せると、キビキビとした動作で一方を指差し、メインメニューのマップ画面を開いて説明した。

 

「こちらの通りに沿って歩き、右手に見える大型の施設になります。基本的なジョブクリスタルはそちらに揃っておりますので、あちらで係の者に問い合わせていただければ分かるはずです」

「そ。ご丁寧にどうもありがと、助かったわ」

「職務ですので。<マスター>殿、王国へようこそ!」

 

 びっくりするほど流暢な反応だ。というよりは、リアルの人間よりもよっぽど人間らしいほどに。

 職務に忠実な人間らしい模範解答を得て、感謝を述べて立ち去ろうとするとそう背中に歓迎の言葉を受ける。

 今のところ、アタシの<Infinite Dendrogram>への好感度は右肩上がりを記録していた。

 

 ◇

 

 衛兵さんの案内通りに城下町を歩いて、合間に屋台飯を買い食いなどしているうちに、目当ての施設が見えてきた。

 リアルでいう役所みたいな雰囲気だけど、デザインは王都の街並みに合わせた西洋風のそれだ。

 そこにスタンダードなやつから突飛なやつまで、いろんな装備を着込んだ人間が出入りしていて、見ているだけでちょっと面白い。

 そんな中初期装備丸出しの自分はなかなか物珍しいようで、特に先発<マスター>の見守るような眼差しに若干眉をハの字にしながら受付まで歩いた。

 

「ご用件をどうぞ」

「こいつを活かせるようなジョブあるかしら? おすすめあるなら聞いときたいわ」

 

 と、装備している短剣を見せながら尋ねたところ、すぐに返答があった。

 どうやら【短剣士(ショート・ソードマン)】とかいうのが短剣スキルに長けたジョブらしい。

 転職に特別な条件を必要としないありふれた下級職の一つで、状態異常攻撃が得意なようだ。

 

「転職をご希望でしたらあちらのジョブクリスタルに手を触れてください。表示されたメニュー画面のジョブ一覧から選択すれば転職可能です」

「ありがと。んじゃ早速就いてくるわね」

 

 淀みないガイドに熟練を感じつつ、案内通りにサクッと転職。

 ステータス一覧に【短剣士】のジョブ名が表記され、晴れて初就職達成というわけだ。

 そーいや就職するのはリアル含めて初めてねぇ。こちとら自侭な自営業で雇う側だから新鮮だわ。

 

 ログイン前に見てたwikiで紹介されてたけど、この【短剣士】から条件を満たして上級職の【牙剣士(ファング・ソードマン)】に転職できるみたいだし、<エンブリオ>も孵化してない今はそれを目指して活動するのが当面の目標としていいかしらね。

 孵化した<エンブリオ>の性能次第では方針転換もやむなしだけど、こればっかりはランダムだからねぇ。

 

 ま、さっきも言ったけど月額料金で異世界旅行できるならそれだけで元は取れてるわ。

 仕事の合間に息抜きする程度なら十分すぎるでしょ、気にせずいこいこ。

 

 ◇

 

「おっ、新顔だな? 初心者には東西南北最寄りのフィールドがおすすめだぜ。東は平原、西は海道、南は山道、北は森林さ」

「ご丁寧にどうも。趣味?」

「まぁな。こうしてニュービーにアドバイスするのが好きなんだ、頑張れよ!」

「ういうい」

「っとあぶねぇ、南門近くの<旧レーヴ果樹園>はやめときな。ありゃあ詐欺だからよ」

「あらそうなの。そりゃ危ないわね、ありがと」

「いいってことよ。じゃあな!」

 

 役所から出たところ、そうアドバイスをくれた物好きな先輩<マスター>に礼を述べながら、今しがた教えられた四つのうちどこへ向かおうか考える。

 と言っても名前以外に判断材料が無いし、どこも同程度の狩場っぽいので、ここは一つ運頼みで決めてみようか。

 

 というわけで短剣の切っ先を地面に立てて倒れた方角を確認したところ、柄は東を向いていた。

 <イースター平原>か……どんな相手がいるかはわかんないけど、初心者向けってことならどうにかなるでしょ。

 ヤバくなったら逃げりゃいいし臆せず進めー。

 

 ◇

 

 そうして訪れた<イースター平原>で、アタシは何度目かの戦闘を繰り広げていた。

 相手は【リトルゴブリン】とかいう雑魚モンスターの定番が一匹。

 ジョブレベル一のアタシでも互角に戦える相手ということは、ここら一帯では一番弱いモンスターの一種だろう。

 

 ギイギイと耳障りな雄叫びを上げて、当たるを幸いに武器を振り回す姿は拙いものだ。

 けどVRMMO特有のリアルな主観視点で見たそれは、普通にゲームを遊ぶよりもずっとプレッシャーが伸し掛かる。

 まぁコントローラーぽちぽちのコマンド選択とは違うわけだからね、マジもんの殴り合いなんて縁遠い一般人からすれば如何に可能だからと言っても怖いだろう。

 安全とわかっててもジェットコースターやお化け屋敷を怖がるようなものだ。幸いアタシはそのへん図太いからヘーキだけど。

 

 動きそのものは余裕で対処できても、殺意を持って武器を振るわれることそのものが一種の壁。

 だけどアタシはお構いなしに棍棒を振り上げた右腕を蹴り上げ得物をスっぽ抜かせると、ガラ空きになった腋を初期装備の短剣で斬りつけた。

 バトルでの刃物の扱いなんざ知るわけないけど、とりあえず刃を立てるようにして振り抜いたところ、派手に鮮血を噴き上げて【リトルゴブリン】が絶叫した。

 

 腋下に太い血管が伸びているのは【リトルゴブリン】も同じらしい。

 人体で言えば間違いなく致命傷の一撃はこのモンスターにも適用され、出血に合わせて見る見るうちに弱っていく。

 このゲームの仕様上敵のHPやバステといったステータスを把握するにはスキルが必要だが、それで確認するまでもなく【リトルゴブリン】は死にかけている。

 失血と共に動きは緩慢となり、手放した棍棒を取り戻すこともできずもがき苦しみ、やがて弱々しく倒れ伏して息の根を止める。

 そうして間違いなく死んだと確信できた瞬間、死体は光の塵となって消え失せ、如何にもゲームらしくドロップアイテムが遺された。

 

 ふーむ……色々と見えたことがあるわね。

 このゲームの戦闘って、リアルとフィクションの間の子って感じみたい。

 HPは存在するし、殴られれば減って、〇になれば当然死ぬ。

 けど刃物で攻撃すれば相手には裂傷が刻まれて、リアルで切りつけられたのと同様に血を流して、流し続ければ死ぬ。

 HPの全損による死と、外的要因による死の両方がありえるって感じかしらね。

 相手のステータスが見えないから確証は持てないけど……ああそっか、自分で試してみれば――

 

「っ……」

 

 そう考えたところで、不意に背中を強烈な違和感が貫いた。

 簡易ステータスに表示されたアタシのHPがみるみるうちに減っていき、その傍らには【出血】の状態異常表示が。

 ちょうどアタシが【リトルゴブリン】へしたのと同じように、今度はアタシがその傷を負って死にかけている。

 

新世界(ニューワールド)へようこそぉ、ニュービー。オレのサプライズは気に入ってくれたかな?」

「…………」

 

 脱力感に膝をついたアタシの前に、そうねっとりとした声音を囁き一つの影が現れた。

 アタシよりは幾分かマシな装備を身に着けた、ニタニタとした笑みの男。

 見た目は二十代かそこら、如何にも悪役といったモヒカンヘアーで、右手には奇抜な意匠のクロスボウを握っている。

 左手には『舌を伸ばした奇怪な異形』の紋章――<マスター>だ。となるとクロスボウがそいつの<エンブリオ>ということか。

 察するにそのクロスボウのボルトでアタシの背中を射抜いたらしい。

 

「ダメージで満足に声も出ねぇか。生憎だが背中のボルトはアンタのステじゃ抜けないぜ。流石に孵化もしてねぇジョブレベル一桁に抜けるような代物じゃねーよ、オレの【チュパカブラ】はな」

「…………」

 

 自慢げに、舌舐めずりするように固有名詞を吐くそいつ。

 成程、こいつの<エンブリオ>は【チュパカブラ】というのか。

 血を啜るUMAとして有名だけど、ボルトが刺さった背中からの出血の勢いが強い……つまりはそういう能力らしい。

 

「どうして、って顔してそーだから教えてやるけどよ。オレがアンタを狙ったのに大した理由はねーぜ。単に手頃なカモがいたから狙っただけだからな。孵化もしてねぇ<マスター>は逆にレアだから、いっちょトロフィー代わりに仕留めてやったのさ。なんせこのゲーム、チュートリアル以降運営の関与は無ェらしーからなぁ……BANのリスクも無くPKできるなら、そりゃ狙うっきゃねーべ?」

 

 ああ成程……そういうゲーマーか。

 確かに利用規約にもPK等の行為を処罰する旨の文言は無かったわね。

 FPSでもないのに今どき攻めた姿勢のゲームだとは思ったけど……実際に味わってみると堪らんね。

 とはいえまさか……ガチの初心者相手に粋がってPKするようなお寒い輩と早々に出くわすなんて、流石に想定外だったけど。

 

「ま、洗礼だと思って死んどけや。また三日後に遊びに来な……ヒャハッ。ヒャーッハッハッハァー!!」

 

 そう高笑いしてアタシを見下すそいつの姿を最期に、アタシの意識は一時途絶えた。

 

 

 To be continued

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