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変わらないな。
差し向かいで座る父を見つめながら、エアルは心の中で呟いた。
ウォルフ・アレイザーSS海軍中将。
エアル、クロウ、サイアの父。
現在はアドルフ・ヒトラー総統に直接仕える、親衛隊に所属している。
あのノルウェー沖海戦において、戦力的に劣るドイツ海軍が、優勢のイギリス海軍に快勝できたのは、父が立案し、ヒトラーに奏上した「アレイザー・プラン」がもとになっていると聞く。
ドイツ軍の中枢、その一部を担っているのは、間違いなくエアルの父だった。
一方で、その怜悧な相貌と、長い軍歴の末に培われた重苦しい雰囲気は、慣れない人間が接すると、押しつぶされそうな息苦しさを感じる。
現に、傍らのシャルンホルストは、可愛そうな程に、完全に委縮してしまっていた。
こうしたところは、昔から全く変わっていなかった。
エアルは父から視線を外し、シャルンホルストに向き直った。
「シャル、ここはもう良いよ」
「え?」
いたわるように、エアルは少女に声を掛ける。
萎縮しきったシャルンホルストは、少し怯えた目でエアルに振り返った。
エアルが帰ってくるまで、1人でウォルフの相手をしていたのだ。怯え切るのも無理からぬ話だろう。
「あの、おにーさん・・・・・・でも・・・・・・」
「大丈夫だから、ね。今日は部屋に帰って、ゆっくり休んで。明日から、またお願い」
「う、うん」
微笑む掛けるエアルに、シャルンホルストは、少しためらうように振り返ったが、結局は促されるまま部屋を出て行った。
シャルンホルストには悪い事をしてしまった。この父と長時間一緒にいるなど、初対面の人間からすれば拷問に等しい。後で、何か美味しい物でも作って差し入れしてあげよう。
そう思いながら、エアルは父に向き直った。
「今日は、どうして来なかったの?」
少し、責めるような口調。
しかし、あまりきつくなりすぎないよう、意識して力を抜きながら、エアルは父に尋ねた。
「母さんの命日だったのに」
「優先すべき事が他にある。それだけの事だ」
問いかける息子に、父はそっけなく返す。
あまりにも情が薄いと言わざるを得ない。仮にも、自分の妻の墓参りをすっぽかす、などと。
しかし、エアルも心得た物。父がこう答えるであろう事は予想で来ていたので、それ以上は何も言わない。
代わって、別の話題を口にした。
「クロウも、サイアも来てたよ。2人とも、父さんに会いたがっていたのに」
「そうか」
短く頷く、ウォルフ。だが、それ以上は何も言おうとしない。
ウォルフにも分かっているのだ。
エアルがわざと、嘘をついている事を。
子供たち。
特に次男のクロウは、自分の顔など見たくないであろう事は、ウォルフにも察しがついていた。
現にここ数年、クロウとは親子らしい会話は殆どしていないし、たまに顔を合わせれば、向こうの方が避けてくる始末である。
最早、親子と言う名の他人と言う認識が強くなってしまっていた。
とは言え、エアルにしろウォルフにしろ、その事をこれ以上追及する気は互いに無い。
この件に関しては、いくら話し合っても互いに平行線になる事は判っているからだ。
誰に何を言われようが、ウォルフが子供たちを顧みる気が無いからである。その事をある意味、一番理解しているのがエアルだった。
代わって、エアルは話題を変えた。
「そう言えば、最近、仕事の方はどう? 父さんは今、親衛隊でしょ。総統閣下は、気難しい人だって聞いてるけど? 父さんは苦労してない?」
「総統閣下には、良くして頂いているさ。閣下の下で働けることは、この上ない名誉だ」
尋ねるエアルに、ウォルフは重い口調で答える。
実際、ウォルフが立案したアレイザー・プランをもとに戦い、海軍はノルウェー沖でイギリス海軍を撃破している。
ヒトラーは指揮系統から外れた作戦案であっても、自身が良案と思えば採用する事もある。その事を考えれば、ウォルフがヒトラーから、いかに信頼されているかがうかがえた。
「お前の方も活躍だそうじゃないか。『シャルンホルスト』の活躍は、総統閣下のお耳にも入っているぞ。特にノルウェー沖海戦の後、総統閣下は特にお喜びだった」
言ってから、ウォルフは付け加えるように言った。
「父として、私も誇らしく思う」
嘘だな。
聞いたエアルは、瞬時にそう思った。
ウォルフはエアル達の事など何とも思っていない筈。言い換えれば、眼中にすら無いはずだ。
その証拠に、ここ数年、会って話をするどころか、連絡の一つもよこさなかった。
エアルの方は近況報告がてら、何度か手紙を送っていたのだが、その返事すらない有様である。
だからこそ、父の言葉は単なる社交辞令と捉えていた。
今日来たのも、わざわざ息子に会いに来たから、ではない。きっと何か、別の目的があっての事だ。
そんな事を考えていると、ウォルフはカバンの中から小さな箱を取り出してきた。
「今日、ここに来たのは、これを総統閣下より預かってきたからだ。本来なら正式な授与式を執り行うところだが、今回は閣下の命により、私が直接、お前に手渡す事になった」
そう言って、箱を開けるウォルフ。
中には、赤、白、黒の帯に付随した鉄十字の徽章が収められていた。
漆黒の十字架が、鋭い輝きを放つ。
目を見開くエアル。
「これは、騎士鉄十字章?」
騎士鉄十字章とは、ドイツ軍で制定されている勲章であり、特に功績大とされた者にのみ送られる名誉ある勲章である。
元々はプロイセン王国時代に制定された鉄十字章を、ヒトラー自ら改定した物である。
騎士鉄十字章は、何段階かに分かれており、功績が上がるにつれてより上位の勲章が授与される。
ただ、騎士鉄十字章を授与される事自体が、ドイツ軍人にとって最高の名誉である。
つまり、この騎士鉄十字章を授与される事自体、すなわち最高権力者である、総統アドルフ・ヒトラーに認められたことを意味していた。
「お前にだ」
「俺に?」
「ラプラタ沖、ノルウェー沖、テムズ沖。3つの戦いにおいて、最も活躍したのは、間違いなく『シャルンホルスト』だ。その艦長であるお前には、騎士鉄十字章を受ける資格が十分にある。これは、総統閣下もお認めになった」
「総統閣下が、これを・・・・・・・・・・・・」
名誉な事だった。
ドイツ国内において、ヒトラーの覚えがめでたくなる以上に素晴らしい事は無い。
エアルは父の手にある騎士鉄十字章を見ながら呟いた。
「・・・・・・俺1人の成果じゃないよ」
ウォルフは何も語らず、ただ息子をじっと見つめている。
「今までの勝利は全部、俺1人でできたわけじゃない。マルシャル提督や、リード副長、バニッシュ中佐にグナイゼナウ、勿論、『シャルンホルスト』の全乗組員たち・・・・・・」
皆の顔を思い浮かべながら告げるエアル。
「そして何より、シャルンホルスト・・・・・・あの娘の助けがあったから勝てたんだ」
シャルンホルスト。
その名を口にした時だけ、エアルはほんの少し、言葉に力を込めた。
彼女がいたから勝てた。
彼女と共に戦えなければ、あり得ない勝利だった。
今やエアルの中で、シャルンホルストの存在が大きくなりつつあるのは間違いなかった。
そんなエアルの心情をくみ取るかのように、ウォルフは頷いて見せる。
「艦娘と絆を深める事は悪い事じゃない。艦娘もまた人である以上、モチベーションの在り方が戦力の増減にも関わるからな」
あくまで戦力として、艦娘を評価する父。
分かってはいた事だが、そんなウォルフに、エアルは不快感を隠せなかった。
だが、エアルが何か言う前に、ウォルフは騎士鉄十字章を差し出す。
「なら、猶更、お前はこれを受け取るべきだ」
「どういう事?」
首をかしげるエアル。
「今回の騎士鉄十字章はお前だけではなく、『グナイゼナウ』のバニッシュ中佐や、グナイゼナウ本人、そしてもちろん、シャルンホルストも対象になっているからだよ」
4人同時に受勲。
その事に驚きを隠せないエアルに、父はさらに続ける。
「それに、お前を鉄十字章に推薦したのは、お前の前の上官だからだよ」
前の上官、と言われてエアルが思い浮かぶのは1人しかいない。
それは、先に海軍上層部の意向により左遷の憂き目にあった、ラインハルト・マルシャル大将だった。
マルシャルが?
驚くエアル。
第1戦闘群司令官を解任され、首都へ送還されたマルシャルが、解任前に推薦してくれていたとは。
これまで多くの戦いを勝ち抜いてきたのは事実。
しかし、それは皆に支えられての事。
故に、勲章を受け取る事にも抵抗はある。
だが、それでも、
多くの人と共に戦い、勝ち抜いた証でもある。
「さあ、エアル」
「・・・・・・うん」
言われて、頷くエアル。
延ばされた手は、
父の手にある勲章を、しっかりと握りしめた。
2
少女は着替える気にもなれず、軍服のジャケットを脱いだだけのラフな格好でベッドの上であおむけになっていた。
淹れておいたお茶を少しだけ飲み、ひと心地ついてもまだ、先ほどの感覚が薄れる事は無かった。
エアルの父親の来訪。
その事実に最も驚いたのは、シャルンホルストだった。
会ってみた印象は正直、ちょっと・・・・・・
いや、かなり似てない。
と言うか、怖かった。いやマジで。
エアルと、ウォルフ
どちらも優男風の風貌と言うイメージでは、似通った部分もある。
しかし、どちらかと言えば天然気味で、どこか軍人らしからぬほんわかした雰囲気のあるエアル。
対するウォルフはと言えば、一言で言えば冷たい印象がある。
冷たく、鋭く、
まるで血の通っていない刃のような印象だ。
子供とかの好かれそうなイメージがあるエアルに対し、ウォルフは刑務所の看守でもやってそうなイメージがあった。
それに、
エアルとウォルフ。
2人の印象がどうにも、シャルンホルストには、どこかぎこちない感じがしたのだ。
「そう言えば・・・・・・・・・・・・」
ふと、思い出す。
今までエアルは、シャルンホルストと会話をしていて、弟や妹の事は話した事はある。
クロウとサイア。
この2人の事を話す時、エアルは実に嬉しそうに弾んだ声で話してくれる。おかげでシャルンホルストも、会った事が無いエアルの弟妹達を、まるで古くからの友人のように感じる事が出来るほどだった。
しかし、
エアルが父親の事を話した事は無かった気がする。
そこに一体、何があるのだろうか?
「おにーさん・・・・・・お父さんの事、嫌いなのかな?」
エアルとウォルフ。
その2人の間にある物。
それは、シャルンホルストには、推し量る事の出来ないものなのかもしれなかった。
その時だった。
部屋のドアがノックされたのは。
「シャル、まだ起きてる?」
「え、お、おにーさんッ!?」
跳ね起きるシャルンホルスト。
ドアが開かれるのは、ほぼ同時だった。
「ごめんね、もう寝るところだった?」
「ううん。何か寝付けなくて。どうかしたの?」
首をかしげるシャルンホルスト。
と、クスッと笑う。
「もしかして、夜這い?」
「ち、違うよ」
何を言っているのか、このトンチキ巡戦は。
そんなエアルの反応に、シャルンホルストはおかしそうに笑う。
「だよね。ボクみたいなちんちくりんじゃ、夜這いする意味ないしね」
「・・・・・・・・・・・・」
まあ、その意見に関する回答は、避けておくことにする。
代わって、エアルは手にした勲章入りの箱をシャルンホルストに騎士鉄十字章の入った箱を差し出す。
先ほど、父から預かってきたものだった。
因みに、ウォルフは既に艦を去っている。
遅い時間だし、部屋を用意するから泊っていくように勧めたのだが、ウォルフの方でそれを誇示していた。
差し出された騎士鉄十字章を見て、シャルンホルストは目を輝かせた。
「わッ きれい。何、これ?」
「騎士鉄十字章だよ。総統閣下から、シャルにって。父さんは、これを渡すために来たんだ」
エアルの手から勲章を受け取るシャルンホルスト。
明りに向かってかざしてみるとキラキラと輝き、巡戦少女はうっとりと目を細めた。
「ボク、勲章なんて初めてもらったよ」
「そりゃ、ね。そう頻繁にもらえるもんじゃないし。まあこれでも俺たちは活躍している方だとは思うから、総統閣下としては渡すタイミングを見てたんじゃないかな」
ラプラタ沖ではイギリス海軍G部隊を撃破、ノルウェー沖では戦艦「ラミリーズ」と空母「グローリアス」を撃沈、そして先日のテムズ沖では敵船団を壊滅。
まさに「八面六臂」と言っても過言ではない活躍をしている「シャルンホルスト」。
確かに、とっくに勲章をもらっていても良い立場ではある。
「まあ、総統閣下としても都合よかったんじゃない? 父さんが親衛隊やっているから、直接ベルリンまで呼び出す手間が省けてさ」
そう言って、肩をすくめるエアル。
そこでふと、シャルンホルストは、気になっている事をエアルに尋ねてみた。
「ねえ、おにーさん。ボクの勘違いだったら、ごめんだけどさ・・・・・・」
「うん、何?」
躊躇うように尋ねるシャルンホルスト。
対して、エアルは先を促す。
ややあって、巡戦少女は口を開いた。
「もしかしてだけど、お父さんと、仲悪いの?」
「・・・・・・・・・・・・え?」
一瞬、ギョッとした表情をするエアル。
突然、そんな事を言われて、驚かない筈はない。
否、
それ以前に、
初見でいきなり、シャルンホルストに、その事を言い当てられた事に、エアルは驚いていた。
「・・・・・・・・・・・・父さんは、さ」
椅子を引いて座りながら、エアルは語り始める。
別段、話すような事でもないのだが、何となく、目の前の少女に対しては話しておきたい。そんな気分だった。
「父さんは、未だに、母さんが死んだ事を受け入れられていないんだと思う」
「おにーさんのお母さんって、あの、写真の?」
以前、艦長室に入った時に、エアルの机の上に飾られている写真を見た事がある。
軍服を着た男性と、同じく軍服姿の女性。
それぞれの腕には赤ん坊が抱かれ、真ん中に3~4歳くらいの男の子が立っていた。
きれいな女の人だな、と思ってみていた覚えがある。
頷くエアル。
次いで、言った。
「俺の母さんはね、艦娘だったんだ」
「えッ!?」
今度はシャルンホルストが驚く。
艦娘。
つまり、自分と同じ存在。
と言う事は、つまり。
「じゃあ、おにーさんって・・・・・・」
「うん。人間と艦娘のハーフって事になるのかな? まあ、どっちも身体構造的には全く変わらない事は証明されているわけだから、分ける意味なんてないんだけどね」
笑って肩をすくめると、エアルは続けた。
「巡洋戦艦『デアフリンガー』。それが、俺の母さん」
巡洋戦艦「デアフリンガー」。
第1次世界大戦時に活躍したデアフリンガー級巡洋戦艦の1番艦。
あのユトランド沖海戦にはヒッパー提督率いる第1偵察艦隊の1隻として出撃。巡洋戦艦2隻を含む多数の艦艇を撃沈し、ドイツ艦隊の戦術的勝利に大きく貢献した。
しかし、ドイツの敗戦が決まり、主力艦艇は全て協商国に引き渡される事が決定した。
そして、
「デアフリンガー」を含むドイツ艦隊は、抑留先のイギリスで、ほぼ全艦が自沈して果てた。
「父さんは結局、未だに母さんが死んだ事を受け入れていない。だから、墓参りとかも来た事なんてないんだ」
「そう、なんだ・・・・・・・・・・・・」
「シャルは、俺と父さんの仲が悪いんじゃないかって言っていたけど、それはちょっと違うかな。別に仲は悪くないよ。少なくとも俺は、父さんの事を嫌ってはいない」
ただ、
お互いに、もうどうでもいいと思っているだけ。
特に、ウォルフはエアル達の事など、全くと言って良いほど気にかけていない。
それは子供の頃から変わらなかった。
だからこそ、エアルは必死に勉強して海軍の幼年学校に入学。戦艦の艦長になるまでに昇進したのだ。
「そう、だったんだ」
話を聞き終えたシャルンホルストは、目を伏せて声のトーンを落とす。
エアルが歩んできた人生の、壮絶さに、声も出せないでいる。
そんなシャルンホルストの様子を見ながら、エアルはクスッと笑う。
「そんな落ち込まないで。俺には弟も妹もいた。別に、1人でここまで来たわけじゃないんだ」
言いながら、遠い目をするエアル。
「クロウにサイア、その他にもたくさんの人がいて、俺達を支えてくれた。だから、俺は今こうしていられる。それに・・・・・・」
「それに?」
問いかけるシャルンホルストに、目を向けながら笑いかける。
「シャルもいてくれる。一緒に戦ってくれる。でしょ」
「う、うん。それは、まあ、そうだね」
言われて、シャルンホルストは頷きを返す。
実際、シャルンホルストからしても、エアルが艦長として指揮してくれたからこそ、これまで数々の戦いに勝利できたと思っている。
正直、エアルとの相性は、良好と言って差支えは無かった。
と、エアルは思いついたように、騎士鉄十字章を取る。
「シャル、ちょっと動かないでね」
「え、ちょ、おにーさん?」
戸惑うシャルンホルスト。
彼女の首に、勲章を下げる。
首元に光る、十字架の輝きが、少女の顔を照らし出す。
「うん、思った通り。とっても似合ってるよ」
「あ、ありがとう」
そう言うと、シャルンホルストは顔をほんのり赤くする。
停泊した艦の中。
夜の風が少し寒い中、
エアルとシャルンホルストの間にだけ、ほんの少し暖かい風が吹き抜けるようだった。
第20話「鉄十字に込める想い」 終わり
墓の前に立つと、ウォルフは手にした花を供える。
妻の墓前。
「毎年欠かす事無く」行って居る行為を、今年も又、繰り返す。
「テア」
亡き妻に、そっと語り掛けるウォルフ。
その声には、他の人間には決して向ける事にない、優しい響きがあった。
「そっちは寒くないか? 苦労していないか? お前が天から見守ってくれているおかげで、俺も、それに子供たちも何とかやっているよ」
語り掛けるウォルフ。
その脳裏には、子供たち1人1人の顔が思い浮かべられる。
エアル、クロウ、サイア。
3人の事を気にかけていない冷酷非情な父親。
その人物像に間違いはなく、事実としてウォルフはそのように振舞っている。
だがしかし、
それでも、
そんなウォルフの、
背後に立つ女性が、呆れ気味に口を開いた。
「まったく、素直じゃない男だな」
「何がだ?」
シュレスビッヒは、呆れ気味にいながら嘆息する。
ウォルフの友人であり、テアの姉的存在でもあったシュレスビッヒ。
彼女は毎年の墓参りの際には、必ずウォルフに同道していた。
友人の言葉に、訝りながら振りかえるウォルフ。
対して、シュレスビッヒは肩をすくめて告げる。
「子供たちが心配なら、父親のお前がもっと積極的にコミュニケーションを取るべきじゃないのか? エアル当たりなら、受け入れてくれるだろ」
シュレスビッヒの指摘に対し、
しかしウォルフはフッと、自嘲気味に笑って見せた。
「今更、だろ」
「なに?」
「今更、俺があの子たちに媚びを撃ったところで、3人とも、俺を受け入れてはくれんさ」
肩をすくめるウォルフ。
対して。シュレスビッヒは尚も言い募る。
「そんな事は無い。クロウやサイアは、確かに、お前に思うところはあるだろう。だが、エアルなら・・・・・・あの子なら、お前の事も受け入れてくれるはずだ」
テアが死んでから、シュレスビッヒは折を見て、ウォルフの子供たちの面倒も見ている。
その為シュレスビッヒはエアル達の事を、ある意味、自分の孫のようにも思っているのだった。
だが、
そんなシュレスビッヒの言葉に、ウォルフは首を横に振った。
「いや、多分、3人の中で、1番私を嫌っているのはエアルだろう」
「そんな事は・・・・・・」
「あるさ」
シュレスビッヒの言葉を遮るように言ってから、立ち上がるウォルフ。
「俺が家庭を顧みなかったせいで、一番苦労したのは、あの子だからな。間違いなく、エアルは俺の事を恨んでいるだろうさ」
世の中には、互いの想いがすれ違う事は往々にしてある。
互いに思いあっていても、その想いが相手に届かない事はある。
エアル、
そしてウォルフ。
父は息子を、
息子は父を、
共に、相手の事を想っている。
しかし、その想いは、決して交わることなく、互いの横をすれ違っていくのだった。
「俺は、テアの復讐のために子供たちを捨てた男だ。その俺が今更、あの子たちの人生に関わる事などできない」
「ウォルフ・・・・・・」
「テアも、俺の事を許さないだろう。あいつなら、自分の復讐のために、子供を捨てる俺を恨んでいるはずだ」
だが、
たとえ子供たちに憎まれようとも、
たとえ死んだ妻に恨まれようとも、
自らが課した道を、違える事は出来ない。
ただ、
子供たち3人の幸せを願う。
自分に示せる愛情は、ただそれだけ。
そう心の中で呟きながら、
ウォルフは手を伸ばし、妻の墓石を優しく撫でるのだった。