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8月23日。
フェロー諸島北方海域。
この日は、朝から深い霧に包まれ、周囲を見渡す事すら困難な有様だった。
そんな中を、輸送船団はゆっくりとした速度で航行していた。
フィンランド領からイギリス本土へ向けて、鉱物資源を運んで来た輸送船団である。
船団は22隻の大型輸送船を4つのグループを4つに分けて運行している。それを複数のコルベット艦が護衛していた。
コルベットとは1000トン程度の小型の船体に、護衛に必要な装備を搭載した艦である。
当然、武双は貧弱だが、小型ゆえに機動力はあり、潜水艦相手なら申し分ない性能を持っている。
船団を4つに分ける事で、襲撃のリスクを回避する事を目的としている。
要するに、1つの船団が襲われて全滅しても、残りの輸送船は逃げおおせる、と言う訳だ。
聊か乱暴ともいえる戦法だが、Uボートが使う群狼戦法に対して有効な対抗手段が見出されていない現状、これが取り得る最良の策だった。
しかし、その行程は、とても順調だったとは言い難い。
ただでさえ、Uボートの襲撃に怯えながらの航行である上、既にドイツ本国からは大規模な水上艦隊も出撃したと言う情報まで入ってきている。
今しも、あの霧の中から、鉤十字をはためかせたドイツ艦が、怪物の如く姿を現すのではないかと、気が気ではなかった。
特にノルウェー沖を航行していた時は、全乗組員が生きた心地がしなかったほどである。
今や北海北部はドイツ海軍に制海権を握られている。
襲撃は、いつ行われてもおかしくはない。
その為、船団は襲撃を避けるべく、なるべく大回りの航路を使い、アイスランド沖を通るルートを使ってイギリス本土を目指した。
その甲斐あって、どうやらドイツ艦隊の目を晦ます事が出来たらしい。
ここに至るまで、船団が襲撃を受ける事は無く、全ての船が順調に航行している。
ここまでくれば大丈夫。
まだ安心はできないが、既に行程の3分の2は過ぎ、イギリス本土は間近となっている。
ここからすぐ南にいけば、本国艦隊の本拠地スカパフロー軍港がある、オークニー諸島もある。
つまり、ここはもうイギリス海軍の庭なのだ。
「流石のナチスでも、ここまでは追ってこれないだろうさ」
輸送船の船長は、そう言って笑う。
現在、船団は衝突事故を避けるため、信号灯を点灯して航行している。
本来なら、襲撃を避けるために灯火管制を行うところだが、既に味方が掌握する海域に入っていると言う事もあり、安全よりも効率が重視されていた。
「それに、頼もしい連中も来てくれたしな」
「全くです。後は、港に入るだけ。ここまで緊張を強いられましたが、こうなると楽なものです」
副長もつられて笑みを浮かべる。
そう。
既に彼等の中では、任務は達成されたものとして扱われていた。
後は港に入り、荷下ろしを港の作業員に任せたら、自分達は陸に上がって酒場に繰り出すなり、娼館にしけこむなりする楽しみが待っている。
無論、家族がいる者は、愛する人たちに会いに行ける。
その希望を乗せて、船団は進む。
地獄に向かって。
突如、
白色の霧を突き破り、灼熱した砲弾が船団に落下してきた。
衝撃と共に立ち上る水柱。
海水が瀑布となって、輸送船の甲板を叩く。
「左舷前方より、接近する艦影ありッ ドイツ艦です!!」
見張り員の絶叫が、絶望と共に鳴り響いた。
輸送船団を襲撃したのは、ドイツ海軍の第1、第2偵察隊に所属する、軽巡洋艦2隻、駆逐艦7隻から成る艦隊だった。
両隊は本来、別々に行動し輸送船団を捜索する事が任務だったが、偵察隊が船団を発見する前に、先行したUボートから発見の報が入った為、予定を変更。急ぎ合流し、襲撃を敢行したのだ。
軽巡と駆逐艦だけの軽部隊とは言え、護衛がコルベットしかいない船団にとってはUボート以上の脅威となるのは言うまでもない事だろう。
「ニュルンベルク」「カールスルーエ」が砲撃を行い、Z級駆逐艦が雷撃を行うべく突撃する。
2隻の軽巡洋艦は、射程に入ると同時に合計18門の60口径15センチ砲を撃ち放つ。
砲弾は山なりの弾道を描いて飛翔すると、護衛部隊の頭越しに輸送船を狙う。
たちまち、恐慌状態に陥る輸送船団。
一応、襲われた場合は船団を解き、バラバラの方向に逃げる手はずになっている。
しかし輸送船は目いっぱい機関を焚いても10ノットそこそこ。対してドイツ艦隊は高速艦編成である為、全艦が30ノット発揮可能となっている。
とても逃げ切れるものではない。
たちまち、命中弾を受けて炎上する輸送船が続出する。
輸送船は大型である為、軽巡の主砲では一気に沈めると言う訳にはいかない。
しかし、ダメージは着実に積み重ねられつつあった。
一方、
輸送船団の護衛部隊も、手をこまねいているわけではない。
守るべき主を逃がそうとする忠実な騎士たちの如く、コルベット達は輸送船団の前に躍り出て阻止行動に入る。
どうにかして時間を稼げば、船団が逃げ切る余地も出て来る。
たとえ自分達がぜんめつしても、輸送船さえ逃がす事が出来れば自分達の勝ちである。
だが、
そんなコルベット達の健気な努力をあざ笑うかのように、ドイツ艦隊は洗練された動きで距離を詰める。
突撃するZ級駆逐艦の先頭には、「Z1:レーベレヒトマース」の姿もあった。
「目標、捕捉したよ」
どこか少年めいた双眸は、健気に小型の砲を振り立てて迫ってくるコルベットを睨む。
護衛部隊が健気にも、輸送船の盾になるべく、ドイツ艦隊めがけて向かってくるのが見える。
貧弱な砲を振り立て、どうにか輸送船団を逃がそうとしているのだ。
彼等は既に、自分が生き残る事を勘定に入れていないのは明白だった。
「勇敢だね。こういう事が無ければ、きっとボクは、あなた達を尊敬していたと思う」
低い声で呟くレーベ。
「けど、ごめん」
小さく囁かれる鎮魂の謝罪。
敵である以上、手加減はしない。
小さな少女の瞳が、雄弁に語る。
同時に「Z1」が装備する、単装5門の12.7センチ砲が旋回、向かってくるコルベットを睨む。
「準備は完了。艦長、いつでもいけるよ」
「よし、行くぞッ 取り舵一杯ッ 右砲撃戦!!」
一斉に回頭するドイツ駆逐隊。
次の瞬間、
「撃ち方始め!!」
艦長の号令と共に、主砲を撃ち放つ「Z1」。
同時に、後続する駆逐艦も、一斉に砲撃を開始する。
距離は近い。
放たれた砲弾は、殆ど水平に近い弾道を描いて目標へと向かう。
突き上げられる水柱。
その中で、
1隻のコルベットが、火を吹くのが見えた。
駆逐艦の主砲とは言え、小型のコルベットからすればひとたまりもない事だろう。
たちまち、複数のコルベットが直撃を受ける。
中には搭載している爆雷に砲弾を受け、爆発四散する者もあった。
「Z1」も、1隻のコルベットを補足。
真っ向から主砲を浴びせ、これを撃沈に追い込む。
コルベット達は勇敢だった。
彼等は誰1人として後退することなく、襲ってきたドイツ艦隊に真っ向から挑みかかったのだ。
全ては、輸送船団を守り通すために。
しかし、
運命は、往々にして残酷である。
彼等の献身は、ついに報われる事は無かった。
「Z1」以下の駆逐艦が護衛艦艇を相手取る一方、
2隻の軽巡洋艦、「ケルン」と「ニュルンベルク」は、輸送船団に追いすがり、次々と砲撃を浴びせていく。
砲弾は輸送船の薄い舷側を易々と突き破り、内部で炸裂。炎上させていく。
輸送船は必死になって逃げようとするが、鈍足の輸送船では逃れるすべもなく、降り注ぐ砲弾の前に、次々と餌食になっていった。
砲戦開始からわずか数分。
イギリス側の輸送船団は、壊滅状態に陥りつつあった。
海に浮かんでいる輸送船とコルベットの数は、砲戦開始前に比べて3分の1以下にまで減っている。
他は全て、海面下に没していた。
砲撃で轟沈できれば、まだ幸せだったかもしれない。
中には炎上しながら、尚も航行を続けている船まである。まるで断末魔を挙げながらのたうち回っているようだ。
いずれにせよ、僅かな時間で船団一つを壊滅させたのは大きかった。
「旗艦より信号ッ!!」
「レーベレヒトマース」の見張り員が声を上げる。
「《我ニ続ケ》!!」
どうやら偵察隊の司令官は、更なる戦果拡大を狙い、もう一つの船団も仕留めるつもりらしい。
当初の予定では、本隊の到着を待って攻撃を仕掛ける手はずだったのだが。
しかし予想外の戦果に気を良くし、そのまま攻撃続行を選択してしまったのだ。
イギリス海軍が、輸送船団を複数に分けて運行している事は、ドイツ艦隊も事前の偵察で把握していた。
この際だから、他の船団も襲って、戦果の拡大を図ろうと言うのである。
だが、
その選択肢がもたらす結果は、すぐに表れる事になる。
深い霧の中、輸送船団がいる海面に向かって侵攻するドイツ艦隊。
間も無く会敵と言う地点まで差し掛かった時だった。
突如、
先頭を行く「カールスルーエ」を、巨大な水柱が取り囲んだ。
「なッ!?」
「新手ッ!?」
絶句する、レーベと艦長。
これまで見た事も無いような巨大な水柱が、ドイツ軽巡洋艦特有の華奢な艦体を押し包む。
ややあって、崩れ落ちる瀑布。
「カールスルーエ」は健在。変わらずに、その姿を洋上に留めている。
しかし、
先ほどの衝撃、
そして巨大な水柱。
最悪の創造が、脳裏によぎる。
「まさか・・・・・・・・・・・・」
レーベが震える唇で呟く中、
その視界の先で、
巨大な砲塔を備えた影が、霧の中から湧き出るように、姿を現した。
「クハハハハハハッ 見たかッ 卑怯卑劣なナチの豚共がッ 貴様ら低能極まりない動きなど、こっちは先刻お見通しよ!!」
砲撃によって炎上するドイツ軽巡を見ながら、ディランは高笑いを浮かべる。
哄笑を伴った視線の先では、散を乱すドイツ艦隊の姿がある。
その姿に、ディランの笑いはと回らない。
圧倒的な力を持つ自分を恐れ、泡を食って逃げ回るドイツ艦隊の姿は、無様に尽きる。
この姿を見られただけでも、これまでの溜飲が下がる思いだ。
輸送船団の1つや2つ壊滅し、数百名にも上る死者を出したようだが、そんな事はディランの知った事ではない。こっちの護衛が到着する前に死んでしまうやつが悪いのだから。
そんな些末な事よりも、自分の活躍によって憎たらしいドイツ艦隊が逃げ惑っている姿を見れた事の方が、ディランにとってはよほど重要だった。
「見ろッ あの滑稽な様をッ 奴等、我が威光の前に、ただ慌てる事しかできないでいるぞ!!」
「まことにッ!!」
「流石でございます、殿下!!」
ディランに追従する取り巻き達。相変わらず、ディランの言葉を全肯定し持ち上げている。
いつになく、強気な彼等。
それも無理からぬことだった。
原因は、彼らが乗っている艦。
真新しいペンキの匂いも漂わせるその戦艦は、イギリス特有の箱型艦橋を中央に置き、前部に2基、後部に1基の主砲塔を備えている。
ただし、
これこそが、イギリス海軍が威信をかけて建造した最新鋭戦艦。
キングジョージ5世級戦艦の1番艦「キングジョージ5世」に他ならなかった。
基準排水量3万8000トン、全長227メートル、全幅31メートル、最高速度28ノット。
主砲は45口径36センチ砲4連装2基、連装1基、合計10門装備。この主砲配置は、防御力向上によって生じた重量を軽減する為に採られた措置である。
その性能が、いかに画期的であるか。
現状、イギリス海軍が保有する戦艦はどれも、速力か防御力、どちらかを犠牲にしたアンバランスな設計の物が多い。
そこに来てキングジョージ5世級戦艦は、攻防走の3拍子が揃った、正に理想的な高速戦艦だった。
「おいおいディラン」
そのキングジョージ5世の艦橋では、艦娘の女性が肩をすくめて、逃げ惑うドイツ艦隊を見やっていた。
「この私の記念すべき初戦果が、あんな小物だと? お前、まさかこの私をたばかったわけではあるまいな?」
既に軽巡洋艦「カールスルーエ」は、彼女の砲撃によって粉砕され、傾斜した状態で海上に停止している。見るまでもなく、沈没は時間の問題だろう。
もう1隻の巡洋艦「ニュルンベルク」は果敢にも主砲を振り上げて反撃してきているが、それがいかに蟷螂之斧かは語るまでもない。
既に目標を変更した「キングジョージ5世」の主砲が、ドイツ軽巡相手に開かれている。
程なく、2隻目の戦果が挙げられる事だろう。
しかし、この新たに大英帝国海軍に加わった艦娘にとって、この状況は不満でしかないらしい。
大物狙いで出てきてみれば、目の前には軽巡と駆逐艦ばかり。
退屈する事、この上なかった。
「慌てるなよ、ジョージ」
そんな艦娘をたしなめるように、ディランは笑みを含ませていった。
「奴等は撒き餌だ。適当に痛めつけて、後から間抜けな面でやって来る大物を釣る為の、な」
「成程な」
ディランの言葉の意味を察し、ニヤリと笑うジョージ。
まずは目の前の連中を嬲り者にする。
そうすれば、いかに卑怯者のドイツ艦隊と言えど、後ろで偉そうにふんぞり返っているわけにはいかなくなる。必ず、援護の為にノコノコとやって来ることだろう。
そこを、この「キングジョージ5世」が叩き伏せるのだ。
「成程な。ならば、せいぜい派手に沈めて、後ろにいる連中を引きずり出してやろうじゃないか」
「おお、良いぞ。その通りだ。連中は馬鹿で卑怯で臆病なクズどもだからな。俺達の手で、正義とは何たるか、教えてやろうじゃないか」
上機嫌に言い放つディラン。
その間にも、前進しながら主砲を撃ち放つ「キングジョージ5世」。
その両舷の海面を、
破壊された輸送船やコルベットの残骸、
そして、勇敢に戦った兵士たちの遺体が流れていく。
それらはやがて、誰にも顧みられることなく、波間へと沈んでいくのだった。
2
「何でこうなったんだッ」
苛立ちを隠せず、エアルは唇を噛みしめる。
偵察隊の戦闘開始と、予想より早かったイギリス艦隊来襲。
その2つの要素により、戦場は混乱しつつあった。
予定外の攻撃を仕掛けた偵察隊。
そして、予想よりも早く駆け付けたイギリス軍の主力隊。
これらの要素により、ドイツ海軍の予定は狂い始めていた。
「まずいね」
電文を受け取ったエアルは、臍を噛む想いで呟いた。
現在、ドイツ海軍第1艦隊本隊は、全速力で戦場となっているフェロー諸島北方海域に向かっている。
しかし、当初の予定では、偵察隊の攻撃は限定的な物に留め、本隊の到着を待って攻撃を仕掛ける手はずだった。
しかし、偵察隊の独断専行で、その前提が崩れてしまった。
恐らく手柄に逸ったか、あるいは予定外に会敵が早まったのか?
いずれにしても現在、ドイツ艦隊は各個撃破の危機にある。
加えて、
「・・・・・・・・・・・・」
エアルは電文の最後に目をやる。
《敵艦隊ハ戦艦1隻ヲ伴ウ。尚、戦艦ハ新型ト認ム》
イギリス海軍の新型戦艦。
その存在は、予想してしかるべきだった。
ドイツ海軍がビスマルク級戦艦を建造したように、イギリス海軍も開戦前から新造戦艦の建造を行っていると言う情報は掴んでいた。
艦名はキングジョージ5世級。
その最新鋭戦艦がついに、海上に姿を現したのだ。
「おにーさん、急ごう。早く行かないとみんなが負けちゃう」
言い募るシャルンホルスト。
その瞳に、焦慮の色が浮かぶ。
戦艦と言うのは一種の戦略兵器だ。1隻いるだけで、その海域を支配する事が出来る。
巡洋艦と駆逐艦しかいない偵察隊では、太刀打ちできない事は明白だった。
「判っているよ、シャル」
言いながら、笑いかけるエアル。
その脳裏には、既に敵戦艦との対決プランが、練り上げられようとしていた。
2
降り注ぐ、重量800キロの砲弾は、小型鑑定にとってはそれだけで天災に匹敵する。
果敢に挑んだ各艦は、英新鋭戦艦の圧倒的な砲撃力を前に、その数を撃ち減らされつつあった。
既に「カールスルーエ」「ニュルンベルク」の2軽巡は、その姿を海上に留めておらず、7隻いたZ級駆逐艦も、4隻が血祭の祭壇に上がっていた。
そんな絶望的な状況の中にあって、「Z1」は、未だに健在だった。
降り注ぐ多数の砲弾が、駆逐艦の小さな艦体を捉えるべく唸りを上げる。
突き上げられる水柱。
踊る瀑布が、少女の頬を叩く。
しかし、当たらない。
艦長の的確な指揮の下、Z級駆逐艦の長女たる少女は、不屈に戦い続ける。
クルリクルリと、舞い踊る様に海上に円を描く駆逐艦。
吹き上げる水柱が、彼女の舞踏を激しく彩る。
「取り舵一杯ッ!!」
「主砲、左砲戦!!」
「目標、敵1番艦!!」
艦長が目まぐるしく指示を飛ばす。
飛来する36センチ砲弾。
吹き上げる水柱が、小柄な駆逐艦を容赦なく叩く。
至近弾だからと言ってバカには出来ない。
そもそも、駆逐艦の装甲など紙以下でしかない。
水中に落ちた砲弾がそこで炸裂し、衝撃が艦体にダメージを与えるのだ。
ダメージが蓄積すれば艦腹の装甲が歪み、それによって発生した水の抵抗から速力が低下する事もある。何より、衝撃によって機関が低下する可能性すらあるのだ。
駆逐艦の最大の武器は、その足にある。
機関が損傷し、速力が低下すれば、駆逐艦に生き残る術はない。
故にこそ、生き残るためにあらゆる手段を尽くす。
「右、雷撃戦用意!!」
「右、雷撃戦用意!!」
艦長の命令を、レーベが復唱。
同時に、旋回した「Z1」が、狙いを「キングジョージ5世」に定める。
実際に魚雷を撃たなくてもいい。
「魚雷を撃つ」と言う態勢を取るだけで、相手は危機感を覚え回避行動に入る。
案の定と言うべきか、「キングジョージ5世」は、「Z1」が放った「架空の魚雷」を警戒し、面舵を切って退避行動に入るのが見える。
その瞬間を、艦長は見逃さない。
「今だッ 取り舵一杯ッ 現海域を離脱する!!」
駆逐艦と違い、戦艦は転舵に時間がかかる。
旋回中の「キングジョージ5世」が舵を戻し、照準を修正して再び砲撃体制を整えるまでは、もうしばらく間がある筈。
その間に有効射程外に退避できれば、レーベ達の勝ちである。
「よしッ 機関全速!!」
指示を飛ばす艦長。
「キングジョージ5世」が態勢を立て直す前に、逃げ切る算段だ。
だが次の瞬間、
突如、予期せぬ方向から飛来した複数の砲弾が、退避に掛かった「Z1」を取り囲むように落下した。
翻弄される、小型の艦体。
「本艦より、右舷70度に、新手の敵艦隊!!」
巡洋艦を中心とした、複数の艦隊。
「キングジョージ5世」と合わせて、「Z1」完全に包囲される形になっていた。
「・・・・・・・・・・・・ここまで」
レーベが、絶望に滲ませた呟きを漏らした。
「キングジョージ5世」の艦橋で、ディランが狂喜の笑いを上げる。
その視線の先では、これまでさんざん、自分たちの砲撃をかわしてくれた小癪な駆逐艦がいる。
「良いぞッ これでもう、奴は卑怯にも逃げ回る事は出来ないッ 散々コケにしてくれたが、神はやはり、我々に味方したな!!」
主砲を旋回させ、それでも尚、退避しようと努力を続ける「Z1」を見据える。
その姿に、嘲笑を向ける。
「見ろッ あれほど無様な奴らがこの世にいるか!? 我が威容を前に、ナチの豚共は逃げ回る事しかできないでいるぞ!!」
ディランの声に、追従の笑いを上げる取り巻き達。
中には、逃げ回る「Z1」を露骨に指差して笑っているものまでいる。
「全く持って見るに堪えん奴等よッ そらッ トドメを刺してやれッ 豚共には過ぎたる慈悲だがな!!」
振り上げられるディランの腕。
その腕が、まっすぐに振り下ろされた。
次の瞬間、
多数の水柱が「キングジョージ5世」を取り囲んで吹き上げられた。
「なッ!? なッ!? なッ!?」
驚いて、腰を抜かしそうになるディランを、とっさにアルヴァンが支える。
一体、何が起きたのか?
程なく、見張り員の絶叫が響いた。
「方位1―3―5に新たなる敵艦隊接近!!」
尚も、呆然と報告を聞いているディラン。
その視線の先で、鉄十字を掲げたドイツ艦隊が、真一文字に向かってくるのが見えていた。
双眼鏡を下ろすエアル。
既に「シャルンホルスト」の機関は最大まで高められ、基準排水量3万1000トンの巡洋戦艦は、全速力で疾走を始めている。
その視界の先では、英新鋭戦艦の姿が徐々に大きくなっていくのが分かった。
「あれが、キングジョージ5世級戦艦か・・・・・・」
イギリス海軍が、ロンドン軍縮条約から逸脱しない形で最新鋭戦艦の建造を行って居る事は、ドイツ海軍も掴んでいた。
それがまさか、この戦いから出て来る事になるとは。
「4連装砲塔って、なんかすごいね」
「同じようなのなら、フランス海軍のダンケルク級とかがあるけど、確かにちょっと迫力あるかもね」
4連装砲塔は確かに3連装や連装の砲塔と比べて大きく、威圧感も強い。
たとえるなら、巨大な大剣を振りかざした剣士にも似ている。
しかし、
「怖がることはないよ」
シャルンホルストに、優しい口調で声を掛けるエアル。
「主砲の口径は向こうが上かもしれない。けど、発射速度はこっちの方が上なはずだからね。うまく戦えば勝機は十分にある」
「だよね」
笑顔で、シャルンホルストが頷く。
そう。
砲撃力こそ劣っているかもしれないが、それが即座に戦力の差になるとは思っていない。
何より、自分達には敵にはない大きな「経験」がある。
これまで、参加した全ての戦いに勝利した自信がある。
その自分達が、新鋭艦だろうが何だろうが、
「ポッと出の奴に負ける気はしないね」
「同感だよ」
笑みを浮かべる、エアルとシャルンホルスト。
その時、
「旗艦より信号!!」
見張り員の報告に、エアルとシャルンホルストは振り返る。
「《各艦、順次射撃開始セヨ》!!」
どうやら「グナイゼナウ」に座乗するリュッチェンスは、自分があれこれ指示を出すよりも、各艦が自由に射撃をした方が有利と考えたらしい。
この場合、大きく隊列を乱しさえしなければ、各艦は自分が狙いやすい目標を狙い撃つ事が出来る。
正直、エアルとしてもその方がありがたい。上からあれこれ指示されて戦うなど、かえって自分達の持ち味をそぐことにもなりかねないと思っていたところである。
「目標、敵キングジョージ5世級戦艦!! 左砲戦用意!!」
エアルは眦を上げて指示を飛ばす。
言っても、相手は英軍期待の新鋭戦艦。攻防性能に勝る敵艦を相手に油断はできない。
「アントン、ブルーノ、ツェーザル、全門徹甲弾装填!!」
3連装3基の28センチ砲が、獲物を求めて旋回する。
敵は英国最新鋭戦艦。
これまでのような旧式戦艦や巡洋艦とは違う。
紛う事無き強敵である。
次の瞬間
「撃ち方始め!!」
エアルの号令と共に、「シャルンホルスト」の主砲が、一斉に唸りを上げた。
第23話「最新鋭戦艦」 終わり
やばい。
「シャルンホルスト」で「キングジョージ5世」に勝つシーンが、いまいち想像できない(汗
北岬沖ではかなり粘ったし、あれ自体、伝説的な戦いではあると思っているけど、「シャルンホルスト」側からすれば「逃げ」一択だったのは確かだしね。
WOWSでは割と勝てるんだが、はてさて、どうした物か(苦笑