蒼海のRequiem外伝 ~北天の流星~   作:ファルクラム

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第24話「炎の嵐」

 

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃を開始するドイツ艦隊。

 

 シャルンホルスト級巡洋戦艦の28.3センチ砲が火を吹き、イギリス海軍期待の最新鋭戦艦を狙い撃つ。

 

 相手はイギリス海軍期待の最新鋭戦艦。

 

 キングジョージ5世級戦艦1番艦「キングジョージ5世」。

 

 相手にとって不足はない。

 

 第1艦隊本隊は巡洋戦艦2隻、装甲艦1隻、重巡洋艦1隻で構成されている。

 

 司令官のリュッチェンスは、これを更に2手に分け旗艦「グナイゼナウ」と「シャルンホルスト」は「キングジョージ5世」へ射撃を集中。「ドイッチュラント」と「プリンツオイゲン」は、機動性を活かして接近。敵軽快部隊を牽制する。

 

 それがドイツ艦隊の作戦だった。

 

「良いんですか?」

 

 旗艦「グナイゼナウ」の艦橋で、艦娘の少女本人が司令官に尋ねる。

 

 その間にも、彼女の9門の28.3センチ砲は、「キングジョージ5世」めがけて撃ち放たれていた。

 

「輸送船を追わなくても? 今なら、まだ追い付けると思いますけど?」

「必要ない」

 

 対して、少女の発言を、リュッチェンスは言下に否定した。

 

 強気な少女の視線は、まっすぐに上官へと向けられている。

 

 しかし、少女の鋭い視線を受けても、リュッチェンスは動じた様子はない。その視線はグナイゼナウを見ようともせず、ただ前方のみを注視していた。

 

 そんなリュッチェンスの態度に苛立ちを覚え、グナイゼナウは前に出る。

 

「提督ッ」

「ゼナ」

 

 激高しかける相棒を引き留めたのは、彼女の相棒だった。

 

 オスカーは、尚も言い足りない様子のグナイゼナウに頷いて見せると、あとは任せろと言った感じにリュッチェンスに向き直った。

 

「提督、ゼナの言う事も一理あります。『ドイッチュラント』と『オイゲン』には、輸送船団を追わせるべきでは?」

 

 ここで輸送船団を取り逃がせば、バトルオブブリテンで空軍と戦っているイギリスが息を吹き返す可能性がある。

 

 何として、イギリス本土に着かせるわけにはいかないのだが。

 

 しかし、

 

 リュッチェンスは変わらず、表情を動かさない。

 

「何度でも言う。必要ない」

 

 取り付く島もない、とはこの事だ。

 

 誰が何を言おうが、考えを変える気はない。お前たちはこっちの指示に従っていればいい。

 

 そんなリュッチェンスの思惑が透けて見えるようだ。

 

 オスカーとグナイゼナウは、互いに顔を見合わせて嘆息するしかなかった。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 突如現れたドイツ艦隊本隊相手に、「キングジョージ5世」は、完全に出遅れた形だった。

 

 視界の先に見えるのは、因縁深いシャルンホルスト級巡洋戦艦。

 

 その優美な姿を見た瞬間、ディランは一瞬で沸点を突く。

 

 ラプラタ沖では小馬鹿にしたような動きで散々に翻弄し、ノルウェー沖では卑怯な戦術で自分に煮え湯を飲ませた相手。

 

 まさに、薄汚いナチスと言う存在を象徴したような戦艦だった。

 

 勿論、そう思っているのはディランだけであり、彼の歪んだ精神構造が、大きなフィルターとなっているのは間違いないだろう。

 

 しかしディランは、そんな事お構いなしに口汚く「シャルンホルスト」を罵る。

 

「おのれッ 卑怯者のナチ野郎がッ こちらの隙を突くなど、軍人の風上にも置けぬクズ共ッ!!」

 

 艦橋で地団太を踏むディラン。

 

 一方的に罵り声を上げる。

 

 最早一国の王子としてどうかと思う姿だが、ここに彼に逆らえる人間はいない為、その行為について指摘する者も存在しなかった。

 

 つい先刻まで、自分がたった1隻の駆逐艦相手に最新鋭戦艦の巨砲を振りかざし、一方的になぶっていたことなど、記憶の埒外である。

 

 「正義の味方である自分を邪魔する、邪悪なナチス」と言う構図が、勝手にディランの頭の中では出来上がり、「正義の自分達が、悪のナチスを倒す事は、正義以外の何物でもない」と言う思考回路が完成していた。

 

 だからこそ、自分達に奇襲をかけた「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」の「ルール違反」を、激しく詰っていた。

 

 そもそも、戦場にルールなどない。あるとすれば「いかに自分が生き残るか」「いかに相手に勝つか」「いかに味方を守るか」それだけだ。

 

 故に卑怯だの何だの、言う方がそもそもおかしいのだが。

 

 しかし、ディランには、そんなもの知った事ではなかった。

 

 ただ、「弱い物を一方的になぶる快楽(絶対的正義)を邪魔した憎い相手」に、一方的な憎悪を募らせる。

 

 しかも、それがラプラタ沖、ノルウェー沖で自分に煮え湯を飲ませたシャルンホルスト級巡洋戦艦とくれば、タガが外れるのも無理からぬことだった。

 

「目標変更ッ あの目障りなナチの戦艦に、正義の裁きを下してやれ!!」

 

 そうだ。

 

 卑劣な奇襲攻撃に多少は驚いたが、それだけの事。

 

 奴等にできるのは、せいぜい無力な輸送船を狩ったり、こちらの足元を掬う程度。

 

 自分が乗っている最新鋭戦艦「キングジョージ5世」をもってすれば、奴等の卑怯な企みなど、跡形もなく粉砕して見せるぜ。

 

 だが

 

「ダメですッ 砲撃再開まで暫くかかります!!」

「何だとッ!? どういう事だ!?」

 

 報告を聞き、激高するディラン。

 

 一体何事かッ!?

 

 そう思っていると、更なる報告が入る。

 

「砲塔旋回まで、もうしばらくかかる模様です!!」

 

 先ほどまで「Z1」に対して砲撃を行って居た「キングジョージ5世」は、砲塔を右舷側に向けている。

 

 しかし、新手のドイツ艦隊は、「キングジョージ5世」の左舷側から現れた。

 

 つまり、右舷側に向いている主砲を旋回させて左舷側に向け直さない限り、「キングジョージ5世」は砲撃を行えない事になる。

 

「だったらとっととやれよッ 使えない奴等だな!!」

 

 喚きながら、報告した兵士を蹴り飛ばすディラン。

 

 兵士はそのまま地面に倒れ、肩を強くぶつける。

 

「お前らがグズグズしてるから、ナチの豚野郎が調子づいているんだろうがッ これで最新鋭戦艦である、この『キングジョージ5世』が傷ついたりしたら、どう責任取るつもりだよッ!!」

 

 そもそも、ディランが「Z1」に固執しすぎた事が原因なのだが、そんな事はお構いなしに、喚き散らすディラン。

 

 彼にとって、自分に不都合な事実など、知った事ではなかった。

 

「殿下、ひとまず両用砲で反撃されたは如何でしょう? どのみち、主砲発射態勢が整うまでは今暫く間があります。その間、両用砲にて相手の照準を擾乱し時間を稼ぐのです」

 

 冷静に進言するアルヴァン。

 

 今は使えない主砲に拘るよりも、速射の利く両用砲を使うべきだと考えた。

 

 忠実な副官の言には一理あると感じたのだろう。ディランも舌打ちしつつ振り返る。

 

「オラッ 聞いてただろうがッ いつまで寝てやがるッ さっさと行けよ!!」

 

 罵りながら、先ほど蹴り倒した兵士に、再度蹴りを入れる。

 

 兵士は足をもつれさせながらも、どうにか立ち上がって走り出す。

 

 その様子を舌打ち交じりに睨むディラン。

 

「チッ 使えねえ」

 

 吐き捨てるように言った。

 

 その時、

 

 「シャルンホルスト」の主砲が閃光を放つ。

 

 既に照準修正を終えた「シャルンホルスト」。

 

 放たれた28.3センチ砲弾は、

 

 「キングジョージ5世」の甲板を直撃し、爆炎を躍らせた。

 

 

 

 

 

 エアルは双眼鏡を下ろし、自分達が上げた戦果を確認する。

 

 「キングジョージ5世」の甲板では、直撃弾を示す黒煙が上がっているのが見えた。

 

 まずは先制攻撃。

 

 相手が立ち上がり切る前に、命中弾を得たのは大きい。

 

 とは言え、

 

 「それだけ」だった。

 

「・・・・・・・・・・・・聞きしに勝る、か」

 

 舌を巻く思いで、エアルは呟いた。

 

 仮にも戦艦の砲弾を直撃されたにもかかわらず、「キングジョージ5世」は、何事もなかったかのように航行を続けている。

 

 続けて放った砲撃も命中。

 

 更には旗艦「グナイゼナウ」の砲撃も直撃しているのが、それすらはじき返している様子が見えた。

 

 直撃を受けた個所は微かに黒煙を発してはいるが、それすらすぐに消えつつあった。

 

 「シャルンホルスト」達の砲撃など、まるで意に介していなかった。

 

 無論、シャルンホルスト級巡洋戦艦の砲撃力が低い事も理由だろうが、それにしても、ここまでけんもほろろにはじき返されるとは。

 

 同じ戦艦なのに、これほどとは。

 

 視界の中で「キングジョージ5世」が、右舷側に備えた50口径13.3センチ連装両用砲を「グナイゼナウ」めがけて放っている様子が見えた。

 

 どうやら主砲発射態勢が整うまで、両用砲で時間を稼ぐ期のようだ。

 

「強い、ですな」

 

 副長のヴァルターが、呻くように言った。

 

 こちらの攻撃を受けても平然としている「キングジョージ5世」に、戦慄を禁じ得ない様子だ。

 

 明らかに、これまで戦ってきた巡洋艦や旧式戦艦とは違う手ごたえ。

 

 イギリスが威信をかけて建造しただけの事はある。

 

 だが、

 

「やりようは、あるさ」

 

 口元に笑みを浮かべるとエアルは、傍らで艦の制御に集中しているシャルンホルストを見やりながらマイクを手に取る。

 

 呼び出したのは機関室。

 

 そこでは彼の妹が、気難しいワグナー高圧缶の出力を安定させるために奮闘しているところだった。

 

「サイア、エンジンの調子は?」

 

 程なく、返事が来る。

 

《とりあえず良好。全力で回しても、今なら安定させられると思う》

 

 妹の言葉に、頷きを返すと、マイクを置いた。

 

 シャルンホルスト級の武器は、その良好な機動性にある。

 

 敵艦の防御力が硬いなら、自分達の主砲でもダメージを与えられる距離まで詰めるのみだった。

 

 サイアの言葉を聞き、決断を下す。

 

「機関全速、取り舵一杯!!」

 

 命じるエアル。

 

 その視線は、尚も砲撃体勢を整えるべく、主砲を旋回させている「キングジョージ5世」を睨む。

 

「敵戦艦に砲撃を加えつつ、艦尾側に回り込む!!」

 

 エアルの命令は直ちに実行された。

 

 機関が唸りを上げ、速力を上げる「シャルンホルスト」。

 

 同時に、航跡は大きく弧を描き、3万1000トンの細い艦体は左へと旋回する。

 

「戻せッ 舵中央!!」

「主砲、右砲戦用意!!」

 

 矢継ぎ早に飛ばす命令。

 

 同時に、回頭後の照準が修正される。

 

「撃てェッ!!」

 

 鋭い命令。

 

 エアルの命令を受け、主砲を撃ち放つ「シャルンホルスト」。

 

 撃ち放たれた28.3センチ砲弾は、まっすぐに飛翔して「キングジョージ5世」を捉える。

 

 吹き上がる爆炎。

 

 「シャルンホルスト」の主砲弾9発の内、3発が「キングジョージ5世」の後部甲板に着弾し、複数の対空砲を吹き飛ばした。

 

 その頃になって、ようやく態勢を立て直したらしい「キングジョージ5世」が、主砲を「シャルンホルスト」へ向けて来るのが見えた。

 

 4連装2基、連装1基、合計10門と言う変則的な主砲が、ドイツ巡戦を睨む。

 

 来るッ

 

 そう思った次の瞬間、

 

 「キングジョージ5世」が、一斉に主砲を撃ち放った。

 

 唸りを上げて飛来する、重量800キロの砲弾。

 

 砲弾重量からして、シャルンホルスト級の倍以上。

 

 砲弾の重さは、そのまま攻撃力に直結する事を考えれば、それがドイツ巡戦にとっていかに脅威となり得るか、想像に難くないだろう。

 

 着弾。

 

 吹き荒れる、水柱の嵐。

 

 直撃弾はない。

 

 「キングジョージ5世」が放った砲弾は全て、「シャルンホルスト」の左舷側に落下。近弾となって水柱を突き上げるだけに留まる。

 

 しかし、

 

「至近弾で、これかッ!?」

 

 艦橋の窓枠に捕まりながら、エアルは舌打ちする。

 

 たかだか艦のすぐわきに落下しただけの砲弾で、すさまじい衝撃が襲ってくる。

 

 基準排水量で3万トンになる巡洋戦艦が、激震に見舞われたようだ。

 

 艦橋にいた何人かの兵士が、床に転がるのが見えた。

 

 それ程までに「キングジョージ5世」の砲撃は凄まじかったのだ。

 

 緊張が走る「シャルンホルスト」の艦橋。

 

 だが、

 

「恐れるなッ!!」

 

 叫ぶエアル。

 

 その鬼気迫る様子に、ヴァルター達が思わず振り返ったほどだった。

 

「お、おにーさん?」

 

 シャルンホルストも又、思わず目を開けてエアルを見る。

 

 そんな中、

 

 エアルは鋭く双眸を細め、「キングジョージ5世」を睨む。

 

「敵が強力なら、こちらが有利な状況を作り出せばいいだけの事ッ 何も難しい事じゃない!!」

 

 言っている間に、「シャルンホルスト」の主砲が、再装填を完了する。

 

「撃てッ!!」

 

 エアルの命令と共に放たれる砲弾。

 

 54.5口径と言う長砲身砲から放たれた315キロの砲弾9発。

 

 内、3発が「キングジョージ5世」に命中し、甲板上に備えられた機銃数基を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

「右舷機銃ッ 2基損傷!!」

「後部甲板にて火災発生!!」

「本艦の砲撃、目標に着弾せず!!」

「艦首、非装甲部に貫通弾あり!!」

 

 次々に入ってくる損害報告に、ディランの苛立ちは募り始める。

 

 現在、「キングジョージ5世」は右舷側に「グナイゼナウ」、後方に「シャルンホルスト」を見ながら砲戦を行っている。

 

 言わばシャルンホルスト級2隻から、十字砲火(クロスファイア)を食らわされている状態だ。28.3センチ砲弾の低い威力では、砲塔やバイタルパートと言った重要区画を撃ち抜く事は出来ない。

 

 依然、「キングジョージ5世」は、戦闘、航行に支障がない状態である。

 

 しかし、甲板の対空砲やセンサー類には徐々にダメージが蓄積しつつある。

 

 何より、自分の乗る艦が撃たれっぱなしでいる事に、気の短いディランが耐えられるはずも無く。

 

「こっちの攻撃はどうなっているッ!?」

「ハッ ただいま、照準を修正中です!!」

「さっさと当てろよッ このへたくそ共がッ!!」

 

 報告した士官に罵声を浴びせた、その瞬間、

 

 「シャルンホルスト」が放った砲弾が「キングジョージ5世」の後部に命中。

 

 何かが派手に壊れる音が聞こえてきた。

 

 程なく、報告が上げられた。

 

「後部艦橋に直撃弾ッ 艦橋全損!!」

「クソがァッ!!」

 

 その報告に、ディランは地団太を踏む。

 

 これで「キングジョージ5世」は、後方監視の目を失ったことになる。

 

「クソッ クソッ クソォがァッ なぜ、こうなるッ!? なぜなんだッ!?」

 

 問うたところで答など出るはずも無いと言うのに、意味もない質問を喚き続けるディラン。

 

 そもそも「Z1」1隻に拘らなければ、

 

 もっと早い段階で、態勢を整えるように指示を出していれば、

 

 このような事態は防げたはずなのだが。

 

 全て、ではないにしろ、この無様な苦戦の大部分は間違いなく、ディランの責任だった。

 

 周りの取り巻き達も、流石に声を掛ける事も出来ず、艦橋の隅で固まって押し黙っている事しかできないでいる。

 

 その間にも「シャルンホルスト」と「グナイゼナウ」からの砲撃は続き、「キングジョージ5世」の艦体を破壊し続けている。

 

「だいたい、味方は何をやっているのだッ さっさと来て、本艦を援護するように言え!!」

「そ、それが・・・・・・・・・・・・」

 

 理不尽な癇癪を向けられ、通信担当は委縮した調子で答えた。

 

 

 

 

 

 向かってくる駆逐艦。

 

 30ノット以上の速力を発揮して、海面を切り裂くようにして突き進む。

 

 その眼前に立ちふさがる、細く、大きな艦体。

 

 アトランティックバウの鋭角的な艦首を持ち、重厚ながら均整の取れた艦橋構造物。

 

 連装4基8門の主砲が、騎士の振るう剣の如く勇ましく映る。

 

「目標、敵1番艦!!」

 

 艦長の命令と共に、少女は艦の制御に集中する。

 

 既に連装4基8門の主砲は旋回を終え、向かってくる敵艦を睨んでいる。

 

「撃てッ!!」

 

 命令と同時に、放たれる20.3センチ砲。

 

 砲弾はたちまち水柱を作り出し、駆逐艦の小型な艦体を押し包む。

 

 ドイツ海軍最新鋭重巡洋艦「プリンツオイゲン」。

 

 その戦艦に迫る重装甲と、重巡洋艦特有の高速性能を駆使して、イギリス海軍の中、小型艦艇を翻弄しつつ、主砲を撃ち放つ。

 

 どうにか「プリンツオイゲン」に追いすがり、魚雷を放とうとする駆逐艦。

 

 だが、

 

「捉えましたッ」

 

 凛として言い放つオイゲン。

 

 その幼さの残る可憐な双眸が、自身の標的を真っ向から捉える。

 

 次の瞬間、

 

「撃てッ!!」

 

 艦長の鋭い命令と共に、8門の20.3センチ砲が放たれる。

 

 魚雷発射の為に転舵行動を取っていた駆逐艦は、ひとたまりもない。

 

 直撃を受けた駆逐艦は艦体の奥深くまで砲弾が食い込み、そこで爆発。

 

 機関室を破壊されたのか、一気に速度を低下させる。

 

 あの駆逐艦は、もはや脅威にはならないだろう。

 

 ドイツ海軍期待の重巡洋艦は、その圧倒的な砲撃力でイギリス海軍の小型艦艇が、巡洋戦艦に近づくのを防ぎ続けていた。

 

 

 

 

 

 「キングジョージ5世」は、完全に進退窮まりつつあった。

 

 「グナイゼナウ」「シャルンホルスト」の2巡戦から集中攻撃を受けた事で、艦上の構造物が破壊しつくされ、各所で火災も起きている。

 

 右舷側の高角砲や機銃はあらかた破壊しつくされ、マストも折れている。

 

 2本ある垂直煙突の内、後部の1本が倒壊して甲板に倒れ、煤煙が後部甲板を覆っている。

 

 命中した多数の28.3センチ砲弾によって、甲板の至る所がささくれ立っている。

 

 流石に新鋭戦艦だけあり、主砲や機関は無事ではある。

 

 しかし、「シャルンホルスト」の主砲弾1発を受け、後部X砲塔の砲身が2本、吹き飛ばされていた。

 

 「キングジョージ5世」も、反撃によって「グナイゼナウ」に砲撃を浴びせ、数発の命中弾を得ている。

 

 しかし、ドイツ戦艦は伝統的に重防御を特徴としている。

 

  シャルンホルスト級も又、高い防御性能を誇る装甲を持っている。その為「グナイゼナウ」は、至近距離から放たれた35.6センチ砲弾をはじき返し、僅かに副砲1基と機銃3基が破壊されたのみだった。

 

「クソッ クソッ クソがッ!!」

 

 最早、手の付けようもなく、当たり散らすディラン。

 

 うっかり近づこうものなら、だれかれ構わず殴りつけそうな勢いである。

 

「あのクソナチ共がッ さっさと沈めば良い物をッ どいつもこいつも、俺の邪魔ばかりしやがって!!」

 

 「自分の思い通りに沈まない敵」に苛立ちをぶつけるディラン。

 

 喚くディランに、誰も声を掛けられないでいる。

 

 そんな中、

 

「殿下」

 

 静かに声を掛けたのは、アルヴァンだった。

 

「こうなっては致し方ありません。どうか、撤退のご決断を」

「撤退だとッ!?」

 

 アルヴァンの言葉に、ディランは弾かれたように振り返った。

 

 憎々しげに、忠実な副官を睨みつけるディラン。

 

 他の者なら委縮して、平身低頭するところだろうが、アルヴァンは臆することなく、冷静に主を見続ける。

 

「この俺にッ 尻尾を巻いて逃げろと言うのか!? ナチの豚共に背を向けてッ!?」

「既に大勢は決しつつあります」

 

 「キングジョージ5世」は幸いにして、未だに戦闘力を保っている。

 

 しかしだからこそ、戦闘力が維持できているうちに撤退する必要がある。これ以上の損害が積み重なれば、そもそも撤退自体が難しくなる。

 

「ふざけるなッ!!」

 

 しかしディランは、忠実な副官の意見に怒声を返す。

 

 その腕が、アルヴァンの首元に掴みかかった。

 

「この俺にッ 次期国王である、このディランに、あんな豚共に、またしても負ける屈辱を味わえと言うのかッ!? 貴様、それでも俺の副官かッ!?」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 無言のアルヴァン。

 

 互いににらみ合う両者。

 

 どれくらい、そうしていただろう。

 

 ふと、艦橋の誰かが気づく。

 

 いつの間にか砲声が止み、周囲が静かになっている事に。

 

「敵の砲撃が、やんだ?」

 

 誰もが呆然とする中、

 

「方位1―9―0に艦影ありッ 味方です!!」

「何ッ!?」

 

 見張り員の報告に、ディランは思わずアルヴァンを離し、双眼鏡を向けなおす。

 

 そこには、マストに誇らしげにホワイトエンサインを掲げた、イギリス本国艦隊の堂々たる姿があった。

 

 

 

 

 

第24話「炎の嵐」      終わり

 




長くなったの、いったん切ります。
1万4000文字を越えてしまった(笑
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