1
海に明確な境界線はない。
各国はそれぞれ規定を定め「自国の領海」を主張してはいるが、本来なら、海にそのような線引きが出来る者ではない。
海原は静かに、どこまでも広がっているのだ。
しかし、
空気が変わる。
長く航海していると、そう思う瞬間がある。
風が変わる、とでも言うのだろうか?
そんな時はまるで、別世界にでも来たように錯覚するのだった。
遮る物の無い大海原。
その真ん中を今、
鉄十字を掲げ、3隻の艦隊が南を目指して航行していた。
「うん、やっぱこの感覚、久しぶりだねー」
「自分」の防空指揮所の縁に立ちながら、シャルンホルストは吹き抜ける暖かい風を全身に受けて満喫していた。
艦が前進する事によって生じる合成風が、少女の髪を揺らしていく。
確かに。
少女の傍らに立ちながら、エアルも顔に吹き付ける風を感じて、同じ事を思っていた。
昨日に比べて明らかに、空気が変わった瞬間を感じ取る。
そう、
ここはもう北海ではない、大西洋なのだ。
「シャルンホルスト」の前方には、旗艦「グナイゼナウ」の姿が見える。
艦橋から死角になっており、エアル達のいる場所からは見えないが、後方には空母「グラーフ・ツェッペリン」も航行しているはずだった。
大西洋における2度目の通商破壊作戦「ベルリン作戦」を実行すべく、キール軍港を発したドイツ海軍第1戦闘群、並びに第1航空群は、航路偽装の為に一旦、ノルウェーのトロンヘイムへ入港。
補給を受けたのち、進路を西へと向けた。
イギリス軍の警戒網をすり抜けるべく、アイスランドの北方を大きく迂回する形で航行。
デンマーク海峡を突破して大西洋に進出する事に成功したのだ。
目論見は成功。
イギリス海軍もドイツ艦隊の大西洋進出は警戒していたようだが、まさかそんな大迂回路を使うとは思っていなかったのだろう。ドイツ艦隊は大西洋に出るまで、1隻のイギリス所属の船と遭遇する事は無かった。
ここまでは順調だったと言えって良いだろう。
「しかし・・・・・・」
エアルは艦橋の縁に掴まりながら、嘆息するようにつぶやいた。
「まさか、父さんが前線に復帰するとはね」
正直、驚いた。
あの父が指揮官として再び海に出る事もそうだが、まさか自分達と一緒に艦隊を組んで出撃する事になるとは。
「でも、おにーさんのお父さん、昔は艦長だったんでしょ? だったら別に不思議じゃないんじゃない?」
「そうだけど。もう何十年も前の話だよ、それ」
そう。
第1次大戦の折、ウォルフは巡洋戦艦「デアフリンガー」の艦長。
つまり、エアル達の母であるテアを指揮する立場にあった。
しかし、前線に立って戦ったのは、先の大戦時のみ。
戦後も暫くは海上勤務を続けていたが、ここ数年は内勤一本だったはず。事実、今次大戦がはじまった後も、最初にポーランド軍への艦砲射撃を指揮した以外は前線に出ていない筈。
それがここに来て、海上勤務を希望するとは。
それも最新鋭の軍艦を指揮下に置いて、である。
一応の息子と言う立場にある身としては、父の心理について疑念を持たざるを得ない。
「いったい、何を考えてるんだろうね。父さんは」
「直接、聞いてみればいいじゃない。今度、補給の時にでも向こうに行ってさ」
「無駄だよ。素直に答えるとも思えない」
嘆息するエアル。
秘密主義的な父の性格をエアルはよく知っている。直接聞いても頑なに口を閉ざすであろう事は目に見えていた。
まあ、何はともあれ、ここであれこれ考えても仕方がない、と言う考えには完全に同意である。
それに、
今は父の事ばかり考えている場合ではない。
ここは大西洋。
言わば既に敵地なのだ。
出撃前、潜水艦隊司令官のカーク・デーニッツからもたらされた情報。
大西洋に、新たなる敵部隊が出現。展開したUボート部隊に被害が出ていると言う。
開戦から1年半が過ぎ、イギリス軍もドイツ軍に対する対処法が確立されつつある可能性がある。
開戦以来、ドイツ軍の通称破壊部隊はイギリスの通商路で暴れまくった。
もし、その新たに出現した部隊が、それらの戦訓を元に編成された部隊だとすれば。
「強敵だね」
今回は、一筋縄ではいかないかもしれない。
エアルは、そう思わずにはいられなかった。
と、
先ほどからシャルンホルストが黙っている事に気付き、振り返るエアル。
見れば、巡戦少女はなぜか、ジッとこちらを見つめている。
「どうかした、シャル?」
「あ、え、べ、別にッ」
慌てて顔を逸らすシャルンホルスト。
実のところ、少女は今回の作戦に集中できているか、と問われれば、自分でもかなり微妙である事は自覚していた。
理由は、
出撃前に、妹のグナイゼナウと、その艦長であるオスカー・バニッシュ中佐の密会現場を偶然目撃してしまった事。
まさか、妹のあんな姿を見てしまうとは。
それに、
どうしても、2人の姿を重ねてしまうのだ。
自分と、
そしてエアルに。
自分とエアルも、いつかあんな風に・・・・・・・・・・・・
『イヤイヤイヤイヤイヤイヤ』
何を考えているが。
自分とエアルは、恋人でも何でもないと言うのに。
それに、今は大事な作戦の最中。
余計な事を考えている暇などない。
しかし、
一度始まってしまった妄想は、止め処無く溢れて来る。
更に、少女の想像力は、さらに「次の次元」にまで達する。
人間と艦娘の婚姻は、ドイツにおいても法的に認められている。
もし、このまま自分とエアルが・・・・・・・・・・・・
「シャル?」
「ッッッ!?」
怪訝そうに投げかけられたエアルの声に、慌てて意識を現実に引き戻すシャルンホルスト。
一体、自分は何を考えているのか。大事な作戦中だと言うのに。
「シャル、具合悪いんだったら、医務室にでも・・・・・・」
「何でもない、何でもないったら!!」
そう言って、エアルから距離を置こうとする。
エアルの優しさに軽い罪悪感を覚える。
と、
次の瞬間、
タイミング悪く、ひときわ大きな波に揺らされた「シャルンホルスト」の艦体は一瞬持ち上げられ、次いで波のうねりに従い垂直に降下。
基準排水量3万1000トンの華奢な巨体がうねる。
同時に、
「キャァッ!?」
バランスを崩したシャルンホルストが、その場でしりもちをついてしまった。
「イタタタ・・・・・・」
「シャル、大丈夫ッ!?」
慌てて助け起こそうと、手を伸ばすエアル。
しかし、
そこでふと、動きを止めるエアル。
そんなエアルの様子に、不審そうに顔を上げるシャルンホルスト。
「おにーさん、どうかした?」
「えっと・・・・・・シャル、その、ね・・・・・・」
実に言いにくそうに、声をどもらせるエアル。
と、
そこで、シャルンホルストはエアルの視線を辿り、ある事に気付く。
しりもちをついた拍子に、シャルンホルストは両足を大きく広げる形で防空指揮所に座り込んでしまっている。
更にスカートもあられもなくめくれてしまっている。
つまり、
正面に立つエアルには今、シャルンホルストのパンツが丸見えになっているのだ。
白と青のストライプ柄が、何とも健康的で可愛らしいパンツ。エアルの位置からは見えないが、お尻にはネコのバックプリントも入っている。
「あ・・・・・・あ・・・・・・」
事態を悟り、みるみる顔を真っ赤にするシャルンホルスト。
次の瞬間、
巡戦少女の悲鳴が、大西洋の大海原に響き渡った。
などと、
一部場違いな空気を保ちながら、ドイツ艦隊は大西洋を南下していくのだった。
2
イギリス王城ウィンザーは、数あるイギリス王室所有の公邸の一つである。
本来なら、王室とその関係者以外は入る事が出来ない筈のこの場所に今、アルヴァン・グラムセル英海軍中佐はいた。
年齢を感じさせない、律動的な歩調で歩くアルヴァン。
本来なら、一海軍士官に過ぎないアルヴァンが、このような場所に来ることは許されない。
しかしアルヴァンは、場所柄に遠慮する事もなく、まっすぐに歩き続ける。
やがて、目的の場所まで来ると、扉の前に立ってノックをする。
「入れ」
「失礼いたします」
入った部屋の中で待っていた人物。
その正体を知れば、大抵の人間は腰を抜かす事だろう。
「遅れましたかな?」
「いや、まったくもって時間通りだ。相変わらず、律儀な奴だよ、お前は」
笑いながらアルヴァンを出迎える人物。
「待っていたぞ、わが友よ」
現イギリス国王フレデリック3世は、そう言って、長年の友を労った。
フレデリックとアルヴァン。
イギリス国王と一介の海軍士官など、どう見ても接点がありそうには思えない。
しかしその実、この2人の付き合いは長い。
とは言え、多くの者達は、2人の関係についてはほとんど知らない。
ただ、フレデリックが、アルヴァンに対し絶大な信頼を置いているのは間違いない。
だからこそ、
その証拠に、アルヴァンはフレデリックに勧められるまま、特に気負った様子もなくソファーに腰掛けた。
そして、この場には2人以外にもう1人の人物がいた。
「お待ちしておりましたぞ、グラムセル中佐」
葉巻を口に咥えた、恰幅のいい男性。
どこか柔和な印象を持ちながら、その瞳の奥底には言い知れぬ怪異を宿したような印象のある男だ。
ウェリントン・チャーチル。
現イギリス首相であり、激化するドイツとの戦いにおいて国民を叱咤し続けている男である。
3人は再会を祝して杯を空けると、早速とばかりに本題に入った。
「それでチャーチルよ。戦況はどのような塩梅だ? ドイツ人共を押し留める事は出来そうか?」
「まあ、年内は問題ありますまい」
グラスを傾けながら、チャーチルはフレデリックの質問に答える。
「ドーバーの戦況も奴等、初めの内こそ激しく攻め立てきよりましたが、今では当初の勢いはなく、完全に士気が下がっている事は目に見えております」
当初、圧倒的戦力でイギリス上空へと侵攻したドイツ空軍だったが、イギリス空軍の鉄壁ともいえる防空ライン。そして自軍のいくつかの戦略ミスが重なり、無駄に犠牲を積み重ねる結果となった。
バトル・オブ・ブリテン開始から3カ月が経過した現在、ドイツ空軍の攻撃は完全に下火となり、今となっては時折、思い出したようにドーバーを越えて襲来する程度にまで、攻撃の頻度は落ち込んでいた。
「奴等は背後により、大きな敵を背負っておりますからな。そうそう、我らにばかり構ってもいられない、と言ったところでしょう」
「ソ連か。確かにな。ヒトラーからすれば、気が気ではあるまい」
チャーチルの言葉に、ニヤリと笑うフレデリック。
ドイツとソ連は、現在でこそ不可侵条約を結び、相互不干渉の立場を取っている。
しかし実際には不倶戴天と言っても良いほどに険悪な間柄である事は周知の事実だ。
ドイツ側からすれば、イギリス相手に戦力を消耗しすぎて、ソ連への対抗が難しくなることを懸念しているはず。
そう考えれば、ドイツ側が厭戦気分に陥る事は目に見えていた。
「恐らくは年内。時期的な物を考えれば、半年以内には、ドイツはソ連に宣戦布告する事でしょうよ」
「ヒトラーの節操無しからすれば、充分考えられる事だな。奴なら我々と戦いながらでも、ソ連に勝てると考えるだろう。度し難いほどの愚か者よ」
そう言って、敵国の元首を嘲笑いながら酒を傾ける。
もし、チャーチルの言う通り、ドイツがソ連に開戦すれば、それだけイギリス側の負担は大幅に減る事となる。
つまり。それまでの間、戦線を支え続ければいいと言う事だ。
「如何なる犠牲を払ってでも、成し遂げなければならん。我が偉大なる大英帝国が、伍長上がりの卑しい独裁者率いる成り上がり国家に負けるなどあってはならない事だ」
その為なら、前線でどれだけの兵士が犠牲になろうが構わないし、民間人がいくら死のうが知った事ではない。
要は最終的に、イギリスが勝てばそれで良いのだ。
「ドーバーの方はそれで良いとして、問題は大西洋の方です」
口を開いたのは、それまで2人の話を黙って聞いていたアルヴァンだった。
「つい先日、情報部の方から報告が上がってきました。ドイツ海軍の巡洋戦艦2隻、更には空母と思われる艦が、デンマーク海峡を抜けて大西洋に入ったと」
「情報部の怠慢だな。敵が警戒網を突破するまで、察知できなかったとは。不甲斐ないにも程があるわ」
苛立ち交じりに吐き捨てるフレデリック。
既に進出しているであろう多数のUボートに加え、有力な水上艦隊の出現は、流石に座視できないものがあった。
「なに、心配は無用ではないですかな陛下」
少し酔ったように赤い顔をしながら、チャーチルが言った。
「既にアンドリウス殿下が部隊を率いて出撃したとか。殿下にお任せすれば、少数のドイツ艦隊如き、鎧袖一触は間違いありますまい」
「確かにな。アンドリウスなら、やってくれよう」
第3王子の名を聞き、顔を綻ばせるフレデリック。
実際、アンドリウスはこれまで、大西洋上において対潜部隊の指揮も取り、多数のUボートを仕留めている。
フレデリック等の信頼が厚いのも頷ける。
「アンドリウスは良い。あ奴こそ、我が血を最も強く受け継いだと言って良い。国を率いるならば、あ奴のようなものでなくては。軟弱なアルフレッドや、無能のディランには任せる事は出来んからな」
現在のフレデリックの中では、第1、第2王子を差し置き、第3王子の評価が鰻登りとなっている。
巷間の噂においては、アルフレッド、ディラン両王子を差し置いて、アンドリウスが次期国王の座に就くのではないかと言う噂まで飛び交っている。
そして、
フレデリックの上機嫌ぶりを見るに、その噂は決して誇張ではありえない事をうかがわせた。
「全てはアンドリウスに任せておけばいい」
新たに酒を注いだグラスを手に、フレデリックは自信に満ちた声で告げる。
「あ奴ならば必ず、ドイツ艦隊を撃滅して凱旋してくれるだろうさ」
そう言うと、グラスの中身を一気に煽った。
3
カナダのモントリオールを発した輸送船団は一路、イギリス本国に向けて航行していた。
イギリス領であるカナダは広大な土地を有し、豊富な地下資源も有している。
圧倒的な戦力で攻め寄せるドイツ軍相手に苦戦を強いられるイギリス軍にとって、カナダは貴重な後方補給拠点である。
世界中に植民地を持ち、豊富な資源を保有するイギリスだが、やはり最も頼りとなるのはカナダからの物資である。それ故、連日のように輸送船が本国との間を行き来していた。
勿論、護衛にも厳重な気が配られる。
今回の船団にしてもそうだ。
大型の輸送船10隻を中央に置き、その周囲を多数のコルベットやフリゲートが固めている。
ドイツ海軍の主戦力はUボートであるから、仮に複数の潜水艦が集まって群狼戦術を仕掛けてきたとしても、充分に撃退出来るだろうと期待されていた。
だが、
刺客は、彼等の予想だにしない方向からやってきた。
突如、
空に響き渡る、低い唸り。
複数の重低音が折り重なり、徐々に接近してくる。
誰かが叫んだ。
「ナチだッ!!」
見上げて指差す先。
そこには、鉄十字を描いた機体が複数、まっすぐに向かってくる様子が見て取れた。
ユンカースJu87スツーカ
ポーランド電撃侵攻やフランス攻略戦に投入され、連合軍を恐怖のどん底に陥れた機体だ。
護衛のフリゲートやコルベットが、すぐさま対空砲火を放って威嚇する。
しかし、これらの艦は対潜戦闘を想定した艦であって、対空戦闘は完全に想定外である。
対空砲にしても、申し訳程度の機銃が1基、良くでも2~4基程度搭載されているに過ぎない。
言うまでもなくそれらは、気休め以上の物ではない。
想定外と言えば、こんな洋上のど真ん中にドイツ軍機が現れた事自体、彼等には想定外すぎた。
いったいなぜ、こんな海上の真ん中に、ドイツ軍機が出現したのか?
なぜ、自分達を攻撃しているのか?
尽きない疑問に、しかし誰かが答えを出す暇すら与えられない。
やがて、甲高い唸りを上げて急降下を開始するスツーカ。
ポーランドやフランスにおいて連合軍兵士に恐怖を植え付けた「ジェリコの喇叭」が、大西洋上において鳴り響く。。
兵士たちの間でおののきが広がる中、次々と爆弾が投下される。
炎を上げるコルベット。
爆炎を上げるフリゲート。
たちまち、海上は炎の地獄と化す。
やがて、攻撃が終わり、ドイツ軍機は東の空へと去っていく。
海には、破壊された艦艇の残骸と、タンクから漏れ出た油、そしてそれらに引火した炎と、海上に投げ出された乗組員だけが残されていた。
護衛についていたコルベットとフリゲートはほぼ全滅。
不幸中の幸いだったのは、輸送船への被害がほとんど見られなかった事だろう。
わずかに2隻の輸送船が直撃弾を受けたのみ。起こった火災もすぐに沈下され、乗組員にも積載している物資にも被害は出なかった。
どうやらドイツ軍は、戦闘艦艇を全滅させたことで満足し、そのまま退却したらしかった。
ただちに救助作業に入る輸送船団。
海上に取り残された兵士たちにロープを投げ、甲板に引き上げていく。
悲劇は、救出作業の最中に起こった。
突如、沸き起こる巨大な水柱。
誰もが青ざめる中、
波間を蹴って、まっすぐに向かってくる、2隻のシャルンホルスト級巡洋戦艦の姿があった。
ドイツ艦隊の作戦は巧妙だった。
彼等は機動力の高い「グラーフ・ツェッペリン」航空隊があらかじめ先行する形で敵輸送船団にとりつき、護衛部隊を中心に攻撃を仕掛ける。
その間に「グナイゼナウ」「シャルンホルスト」の2隻が「グラーフ・ツェッペリン」よりも先行して輸送船団を目指す。
航空攻撃によって護衛が全滅したところで、巡洋戦艦2隻が突入し、一気に船団を殲滅する。と言うのが作戦の全体像である。
この高度な連携戦術に、イギリス側は全く対応できなかった。
「た、退避ィィィィィィ!!」
悲鳴じみた絶叫が響き渡る。
しかし、
30ノットで迫りくる高速巡洋戦艦相手に、鈍足の輸送船が逃げられる道理はなかった。
報告を受けた時、イギリス王室第3王子アンドリウスは驚きもしなかった。
渡された電文を淡々とした調子で読み上げると、淡白に頷く。
「ほう、輸送船団が全滅か」
襲撃された船団は大規模な物であり、犠牲者もかなりの数に上るのだとか。
しかし、そうした被害数字には目もくれず、アンドリウスの目は、一点に向けられていた。
「《敵は巡洋戦艦2隻を含む》か」
ニヤリ、と笑みを浮かべる。
「待っていたぞ。それでこそ、わざわざ出て来た甲斐があったと言う物よ」
不敵な笑み。
これまでのような潜水艦狩りには飽きてきたところ。
ここで噂のドイツ巡戦が出てきてくれたのは、正に彼にとって僥倖だった。
「面白くなってきたではないか」
言いながら、配下の艦体を見渡すアンドリウス。
戦艦2隻、航空母艦1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦9隻から成る大艦隊。
正式名称「R部隊」の名を冠したアンドリウス麾下の艦隊は、自らの獲物を求めて大西洋の波頭を切り裂く驀進を開始していた。
第29話「ベルリン作戦」 終わり