蒼海のRequiem外伝 ~北天の流星~   作:ファルクラム

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第35話「たとえ這ってでも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 普段は羽のように軽い体が、今日は思った以上に、体が重い。

 

 手足がきしむ。

 

 息が上がる。

 

 心臓が、思うように動いてくれない。

 

 まるで関節と言う関節がさび付いてしまったかのようだ。

 

 1歩歩くだけで、体に半端じゃない負荷がかかる。

 

 正直、今すぐにでも座り込んでしまいたいくらいだ。

 

 けど、それは出来なかった。

 

「い、行かないと・・・・・・・・・・・・」

 

 渾身の力を込めて、前に進む。

 

 体を押しつぶす、圧倒的な倦怠感。

 

 足がもつれる。

 

 息が上がる。

 

 見上げる先にある艦橋は、いつも以上に高く感じられる。

 

 だが、上らなくてはならない。

 

「待ってて・・・・・・おにーさん・・・・・・」

 

 しかし、

 

 言葉とは裏腹に、足からは力が抜ける。

 

 そのまま壁に背を預け、ズルズルと座り込む。

 

 もう、これ以上は、行けない。

 

 そう思った時だった。

 

「シャルッ!?」

 

 名前を呼ばれて、シャルンホルストは顔を上げた。

 

 

 

 

 

 1941年4月6日。

 

 イギリス海軍は、大西洋上において大規模な軍事行動を起こした。

 

 目的は、先のベルリン作戦以後、フランス、ブレスト軍港に逃げ込んだ、ドイツ海軍第1戦闘群の捕捉、撃滅。

 

 その為に必要な戦力を、方々からかき集めた。

 

 以下が、その編成となる。

 

 

 

 

 

〇 本国艦隊S部隊

戦艦「キングジョージ5世」「ウォースパイト」

航空母艦「ヴィクトリアス」

軽巡洋艦「ベルファスト」「シェフィールド」「マンチェスター」

駆逐艦14隻

 

〇 R部隊(残存戦力)

航空母艦「アークロイヤル」

駆逐艦2隻

 

〇 H部隊

巡洋戦艦「フッド」

航空母艦「イラストリアス」

軽巡洋艦「アリシューザ」「エメラルド」「エンタープライズ」

駆逐艦8隻。

 

 

 

 

 

 H部隊とは、イタリアとの開戦に伴い新設された部隊で、ジブラルタルを母港とし、主に西地中海を監視する役割を担っている部隊である。

 

 「部隊」と言う名称を与えられてはいるものの、その戦力は1個艦隊に匹敵する。

 

 戦艦2隻、巡洋戦艦1隻、航空母艦3隻、軽巡洋艦6隻、駆逐艦24隻から成る大艦隊。

 

 これが3隊に分かれ、ブレストを包囲するように進軍してきている。

 

 大西洋方面でこの時期、イギリス海軍が投入可能な全戦力がブレスト方面に投入されている事になる。

 

 ブレストの北側にS部隊、西側にR部隊、南にH部隊が展開し、ブレストを完全に包囲する態勢を取っていた。

 

 これほどの大艦隊を、イギリス海軍がこの時期に編成した大きな理由としてはやはり、先のベルリン作戦、そしてニューファンランド島沖海戦の影響が大きかったと言えよう。

 

 イギリス海軍の一部隊が全滅に近い損害を蒙り、更に王族が4人も戦死した事で、イギリスの権威は地に落ちていた。

 

 この事を激怒した国王フレデリックは、海軍首脳部を呼びつけ、その怒りを叩きつけた。

 

 国王の怒りに触れたイギリス海軍は、慌てて使える艦艇を総ざらいして、ブレスト強襲作戦を敢行したわけである。

 

 全体指揮はスカパフロー軍港から、本国艦隊司令官のジャン・トーヴィ大将が執る事になっている。

 

 とは言え、トーヴィ達本国艦隊司令部は、この作戦には反対だった。

 

 理由としては、あまりにも作戦通達から実行までの期間が短すぎて、作戦遂行に必要な情報や準備期間が殆ど無かった事。

 

 本来、これ程の大部隊を動かすなら、相応の準備期間が必要になるが、軍令部は殆ど作戦要綱も纏めないまま、艦隊の出撃を命じてきたのだ。

 

 その為、作戦に参加する3個艦隊は、殆ど連絡すら取らないまま、作戦海域に到達しようとしていた。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 イギリス艦隊接近の報を受けたドイツ海軍第1戦闘群。

 

 司令官のウォルフ・アレイザー中将は決断を迫られていた。

 

 現在、第1戦闘群はブレスト軍港に帰港中である。

 

 当然、重要拠点である港の防空力は高い。その上、近隣の飛行場には空軍部隊が展開しており、既に応援要請を出している。

 

 普通に考えれば、軍港に立てこもって防空戦闘を行うのが得策である。

 

 しかし、

 

「打って出るぞ」

 

 「グラーフ・ツェッペリン」の艦橋に集まった幕僚たちを前にして、ウォルフは迷いなく告げた。

 

 既にイギリス艦隊は迫りつつある。もう間もなく、空からの攻撃が開始される事だろう。

 

 そんな中でのウォルフの言葉に、誰もが耳を疑った。

 

「しかしウォルフ」

 

 参謀長を務めるシュレスが口を開いた。

 

「打って出ると言っても、戦力差は圧倒的すぎる。袋叩きにされるぞ」

 

 現在、第1戦闘群は巡洋戦艦2隻、航空母艦1隻に加え、ブレストに停泊していたZ級駆逐艦8隻を指揮下に収めている。

 

 しかしその内、主力である「シャルンホルスト」は動かす事が出来ない。その為、実働戦力は10隻のみ。イギリス海軍の3分の1以下でしかない。

 

「だが、留まればタラントの二の舞になる。それだけは何としても避けたい」

 

 ウォルフの言葉に、誰もが沈黙する。

 

 イタリア海軍主力が停泊中に、イギリス海軍の艦載機部隊に奇襲され、戦艦3隻を撃沈された事は記憶に新しい。

 

 しかも今回、航空戦力も最低限倍近い数の投入が確認されている。

 

 もし空軍の防空網を突破されれば、港内で身動きが取れない第1戦闘群はひとたまりもない。

 

「それよりも、港外に出て運動の自由を確保したうえで戦う。幸い、本艦は空母だ。自前の艦載機を飛ばす事も出来る。勝算は十分にあるはずだ」

 

 言ってから、傍らのツェッペリンを見やる。

 

「できるな」

「勿論」

 

 躊躇う事無く、瞬時に頷きを返すツェッペリン。

 

 艦娘の彼女からすれば、港に停泊したまま嬲り者にされるよりも、外海に出て反撃した方が良いのだ。

 

 無論、リスクは大きい。

 

 外海に出れば防空は艦毎の対空砲頼みとなるし、空軍の支援も受けにくくなる。

 

 しかし、ウォルフの考えも一利あるのは確かだった。

 

「時間が無い。在泊全艦艇に、直ちに出港準備を命じろ」

「判った」

 

 頷くシュレス。

 

 完全に納得がいったわけではないが、それでもウォルフの考えには一理ある。

 

 逡巡している時間はない。ここは従う以外になかった。

 

 出港準備が始められる中、ウォルフは外線に繋がっている電話を手に取る。

 

 相手が出ると、手早く要件を伝えた。

 

「第1戦闘群司令官のアレイザーだ。ベルリンへ繋いでくれ」

「ウォルフ、何をする気だ?」

 

 首をかしげるシュレス。

 

 対して、ウォルフは振り返って告げる。

 

「うまくいくかはわからん。だが、あらゆる手を打っておく事は悪い事ではないからな」

 

 

 

 

 

 第1戦闘群の各艦が出撃準備を進める一方、

 

 巡洋戦艦「シャルンホルスト」でも、着々と戦闘準備が進められていた。

 

 しかし、

 

「艦長」

 

 ヴァルター・リード副長の険しい表情を見て、エアル・アレイザー大佐は事情を察する。

 

 先のベルリン作戦からの帰還後、これまでの功績を考慮され、昇進を果たしたエアル。

 

 しかし今は、その事を素直に喜ぶ事は出来ない。

 

 残念な事に、エアルの予想は悪い意味で当たっていた。

 

「やっぱり、ダメですか?」

「ええ。ボイラーは大半が使用不能。辛うじて電力確保に必要な分は稼働していますので対空戦闘自体は出来ますが、本隊と行動を共にするのは不可能と考えざるを得ません」

 

 報告を聞いて、エアルも慨嘆する。

 

 現在、「シャルンホルスト」はベルリン作戦の影響により機関が故障。大規模なオーバーホールを必要としている。

 

 その為、ブレスト軍港の大型ドックに入渠している状態だった。

 

 一応、対空戦闘だけなら、入渠状態でも行う事が出来る。

 

 しかし、持ち味の高速性を封じられているのは痛かった。

 

 加えて、

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 エアルはチラッと、艦長隻の隣にある椅子を見る。

 

 主不在のその席は、艦娘専用の席だ。

 

 艦娘であるシャルンホルストも、今は不在である。その為、艦の稼働率は更に落ちている状態だ。

 

 しかし最早、背に腹は代えられない。

 

「不幸中の幸いは、ドック内にいれば雷撃を食らう事は無いと言う事くらいか。けど、動けない状態じゃ、嬲り殺しにされかねない」

 

 対空戦闘と空軍の支援に期待するしか、今のエアルにできる事は無かった。

 

 その時だった。

 

「に、兄さん・・・・・・」

 

 不意に、背後から妹の声が聞こえてきた。

 

 サイアは今、機関部の調整で艦内にいるはず。

 

 なぜ、艦橋に上がってきているのか?

 

「サイア、もうすぐ戦闘が始まるのに、何やって・・・・・・・・・・・・」

 

 咎めようとして振り返る。

 

 そこで、

 

 絶句した。

 

 振り返ったエアル。

 

 そこには、妹よりももっとあり得ない人物が立っていたからだ。

 

「シャルッ!?」

 

 エアルの声に、ヴァルター達も驚いて振り返る。

 

 サイアに肩を貸されて艦橋に入ってきたのは、見間違えるはずも無い、今は病院のベッドの上にいるはずの巡戦少女だった。

 

「何か、甲板に座って苦しそうにしてた。病院に戻している暇もなかったから連れてきた」

「そう、分かった、ありがとう」

 

 妹の肩を優しく叩くと、エアルはシャルンホルストに向き直る。

 

 しかし、

 

 その目は、いつになく厳しい物だった。

 

「どうして来たの?」

 

 少しきつい口調で、巡戦少女に問いかける。

 

 シャルンホルストは絶対安静を伝えられている。

 

 にもかかわらず、病院を抜け出して戦場にやって来るとは。

 

 エアルとしては、少女の無謀さを叱らなくてはならなかった。

 

 対して、

 

 シャルンホルストは、少しエアルの様子に気圧されながらも答える。

 

「だって、ボクがいないと、この艦は全力を発揮できないでしょ」

 

 悪びれた様子もなく、笑顔で答えるシャルンホルスト。

 

 艦体は艦娘がいて、初めて全力発揮できる。それは確かにその通りである。

 

 しかし、

 

「何かあったらどうするつもりなのッ!?」

 

 声を荒げるエアル。

 

 流石に、シャルンホルストも肩を震わせる。

 

 自分が来れば喜んでくれる。

 

 とまでは、流石のシャルンホルストも思っていなかった。

 

 しかし、エアルがここまで怒る事も想定していなかったのだ。

 

「お、おにーさん?」

 

 あまりの事に、思わずエアルを見上げるシャルンホルスト。

 

 青年艦長の目は、あふれだす感情を押し留めるかのように、唇を噛みしめ、険しい眼差しで巡戦少女を見ていた。

 

 無論、エアルとてシャルンホルストが来てくれたことはうれしい。

 

 彼女がいてくれれば、少なくとも艦は想定の戦力を発揮できる。襲来する敵にも、充分な迎撃態勢を取れるだろう。

 

 否、そんな事ではない。

 

 単純に、彼女が傍にいてくれる事が、エアルにはうれしい事だった。

 

 だがそれでも、無理をしてこの場に来たシャルンホルストを、エアルは叱らなくてはならなかった。

 

 見かねたように、歩み寄ったのはヴァルター副長だった。

 

「艦長、今はそれくらいで。もう、あまり時間もありませんので」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ヴァルターの言う通りだ。

 

 既に敵はこのブレストに向かってきている。怒ったところで今更、シャルンホルストを病院に戻す時間的余裕もない。

 

「おにーさん・・・・・・」

 

 流石に、自分がしている事の重大さに気付いたのか、少し委縮した調子のシャルンホルスト。

 

 しかし少女は、視線をまっすぐにエアルに向けて告げる。

 

「一緒に、戦いたい。おにーさんの役に立ちたいの」

 

 見上げるシャルンホルスト。

 

 その姿を見て、

 

 エアルは嘆息した。

 

「・・・・・・あとで、お仕置きだからね。覚悟しておいて」

「う・・・・・・・・・・・・」

 

 苦笑しながら告げるエアルに、シャルンホルストは少し首を竦めて笑う。

 

 そのまま、前方に向き直るエアル。

 

「沿岸部レーダー基地より入電ッ 《敵大編隊、ぶれすとニ向ケテ進行中。大型爆撃機多数。警戒サレタシ》」

 

 どうやら敵は艦隊だけでなく、空軍の部隊まで繰り出して来たらしい。

 

 眦を上げるエアル。

 

 状況は絶望的。

 

 しかし、負ける気は全くしなかった。

 

 なぜなら、

 

「・・・・・・」

 

 チラッと、視線を背後の巡戦少女へと向ける。

 

 彼女の前で、無様な戦いは出来なかった。

 

 

 

 

 

 出撃命令が下り、クロウ・アレイザーはパイロットの待機所へと走る。

 

 イギリス軍のブレスト強襲を前に、「グラーフ・ツェッペリン」航空隊にも出撃命令が下っていた。

 

 今回、敵はまず空から来ると予想されている。

 

 ならば、クロウ達戦闘機隊こそが、今回の戦いにおける主役と言える。

 

 と、

 

 待機所へと向かう途中、

 

 クロウは、こちらを待つようにたたずむ少女がいる事に気が付いた。

 

「ツェッペリン・・・・・・・・・・・・」

 

 少女の方も、クロウの姿を見つめると、どこかためらう様にして近づいてくる。

 

 見つめ合う2人、

 

 ややあって、

 

「中尉、この間は・・・・・・」

「この間は、ごめんッ」

 

 ツェッペリンが告げる前に、クロウの方から頭を下げてきた。

 

 ポカンとするツェッペリンをよそに、顔を上げるクロウ。

 

「何かさ、俺もガキくさかったって言うか、親父の事となると、妙にイラついてしまう事があるんだよ。それを、お前にぶつけちまった。ほんと、ごめん」

 

 どうやら、ツェッペリンがもやもやした物を抱えていたのと同様、クロウも又、ずっと気にしていたらしい。

 

 クスッと笑うツェッペリン。

 

「なら、これは『お互い様』だな」

「へ?」

 

 間抜けな声を上げるクロウに、ツェッペリンは笑いかけると、そっと手を差し出す。

 

 握り返すクロウ。

 

「頼むぞ、中尉」

「ああ、任せてくれ」

 

 そう言うと、互いに笑みを交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翼を連ねて飛ぶ編隊。

 

 ユニオンジャックを背に飛ぶ彼等は、祖国の仇敵を滅する死の天使と化す。

 

 目標はブレスト軍港に立てこもる、ドイツ艦隊の撃滅。

 

 奴等は先日まで大西洋上で暴れまわり、多数の輸送船と、そこに乗り組む同胞を殺戮した悪魔たちである。

 

 そればかりか、事もあろうにR部隊を壊滅に追いやり、事もあろうにアンドリウス王子達を死に追いやった憎むべき相手だ。

 

 アンドリウス王子は英雄であり、勇者だった。

 

 彼こそが、偉大なるフレデリック王の後を継ぐにふさわしい人物。

 

 彼がいれば、全ての国民が安心して暮らせる世を必ずや作ってくれた事だろう。

 

 無論、

 

 このように考える者達は、アンドリウスが作戦上の都合を理由に輸送船団を囮にして全滅に追いやった事など知る由もなかった。

 

 まさしく「知らぬが花」と言ったところだろう。

 

 しかし、そのような理由があるからこそ、彼等の指揮は高かった。

 

 何としてもドイツ艦隊は撃滅する。

 

 その一念で、ブレストを目指す。

 

 あと少し、

 

 目の前の雲を抜ければ、陸地が見えるはず。その先がブレストだ。

 

 そう思った。

 

 次の瞬間、

 

 突如、

 

 彼等の行く手を遮るように、無数の閃光が撃ち上げられ、一斉にさく裂した。

 

「いかんッ 対空砲火だッ!! 総員、回避行動を・・・・・・」

 

 通信機に向かって命令を発しかけた隊長の声が、途中で途切れる。

 

 その瞬間、彼の駆るアルバコア雷撃機は、眼下からの対空砲をもろに直撃されて火球に変じたのだった。

 

 

 

 

 

 イギリス編隊が混乱を来す様は、海上からも確認する事が出来た。

 

 洋上を航行する、優美な外観の巡洋戦艦。

 

 マストに誇らしく靡く鉄十字の紋章。

 

 巡洋戦艦「グナイゼナウ」の艦橋に立ち、艦長のオスカー・バニッシュ大佐は、手にした双眼鏡を下ろした。

 

 エアル同様に、ベルリン作戦後に昇進を果たしたオスカー。

 

 今回は「相棒」を欠いた状態での出撃となったが、それでもブレストを守る為、彼の手腕には期待が寄せられていた。

 

「まずは先制に成功したな。後は、敵が混乱している間に、どれだけ時間を稼げるかが問題だ」

 

 15基30門の10・5センチ高角砲が火を吹き、更に37ミリ、20ミリの各機銃が続く。

 

 どうやらイギリス軍は、ドイツ艦隊が外海に出てきているとは予想外だったらしい。そのままブレストに直行するつもりだったようだ。

 

 無理もない。まさか圧倒的劣勢の状況下で、敢えて打って出るとは誰も思いはしない事だろう。

 

 もっとも、第1戦闘群が、ブレストへ向かう彼等の通過する真下を航行していたのは、ただの偶然だったのだが。

 

 しかし、おかげで奇襲に成功した。

 

 現在、第1戦闘群は航空母艦「グラーフ・ツェッペリン」を主力とする部隊を後方に置き、巡洋戦艦「グナイゼナウ」を中心とした部隊が先行する形となっている。

 

 とは言え、これだけの戦力差で艦隊戦を挑めるとは、流石に思っていない。

 

 無理に近づけば、圧倒的な火力差に押し包まれるであろう事は目に見えている。

 

 となれば、可能な限り敵を混乱させ、疲弊させてやるしかなかった。

 

 「グナイゼナウ」の奇襲により、混乱していたイギリス軍。

 

 しかし、彼等もプロの兵士達。

 

 すぐさま混乱から回復すると、攻撃態勢に入る。

 

 何しろ、相手は「グナイゼナウ」。

 

 ドイツ海軍最強の巡洋戦艦であり、「シャルンホルスト」と共に、「英雄」アンドリウス王子を初め、多くの同胞たちを殺した下手人。

 

 言わば、イギリス海軍にとって最大の敵ともいえる。

 

 3機のアルバコア雷撃機が低空まで舞い降り、「グナイゼナウ」の左舷側から接近。魚雷の発射態勢に入る。

 

 横隊を組むアルバコア雷撃機を見据え、オスカーが叫ぶ。

 

「取り舵一杯ッ 左舷、対空火力強化!!」

 

 突撃してくるアルバコアを見据え、指示を飛ばす。

 

 直進を続ける「グナイゼナウ」。

 

 その間に対空砲火が唸りを上げて撃ち出され、接近してきたアルバコア1機を撃墜する。

 

 残り2機が更に接近してきたところで、回頭を始める「グナイゼナウ」。

 

 30ノットで海上を駆けながら、急速に左へと旋回する。

 

 一度回頭を始めてしまえば、後は早かった。

 

 対空砲を撃ち上げながら旋回する「グナイゼナウ」。

 

 太い航跡が弧を描き、対空砲は盛んに空中へと打ち上げられる。

 

 アルバコアはとっさに魚雷を投下するが、既に遅い。

 

 投下された魚雷は、高速の巡洋戦艦を捉える事は出来ず、左舷後方へと流れていく。

 

「戻せッ 舵中央!!」

 

 オスカーの命令に従い、直進へと戻る「グナイゼナウ」。

 

 その艦に、態勢を立て直したほかのイギリス軍部隊も、「グナイゼナウ」上空に群がり始めていた。

 

 

 

 

 

 海面すれすれまで降下した、アルバコア雷撃隊。

 

 目指す先には、ドイツ巡戦の優美な姿がある。

 

 「グナイゼナウ」は第一波の攻撃を回避した直後で、まだ次の回避運動を取れないでいる。

 

 そのタイミングで攻撃を仕掛けるべき、6機のアルバコアが迫る。

 

 横一列に並んで迫る複葉の雷撃機。

 

 魚雷を一斉攻撃すれば、いかに戦艦としては高機動のシャルンホルスト級と言えど、回避は厳しい。

 

 対空砲火で1機のアルバコアが、煽りを受けて海面に突っ込む。

 

 しかし、残り5機のアルバコアが「グナイゼナウ」の右舷から迫った。

 

 雷撃態勢に入るアルバコア。

 

 次の瞬間、

 

 編隊の内、3機が一瞬にして火球へと変じた。

 

 残り2機は、とっさに魚雷を投下して回避行動に入る。

 

 しかし、射点までは遠すぎる。このままでは「グナイゼナウ」に容易に回避されてしまうであろう事は目に見えていた。

 

 そして、

 

 退避に掛かった2機のアルバコアに、鉄十字の翼が背後から迫る。

 

 放たれる閃光が、逃げようとするアルバコアを一瞬で粉砕した。

 

「よっしゃ、どんなもんだッ!!」

 

 コックピットの中でガッツポーズを決めるクロウ。

 

 見れば、鉄十字を翼に描いたメッサーシュミットが、次々とイギリス軍機に襲い掛かっている様子が見えている。

 

 敵機襲来を見越して、ウォルフは「グラーフ・ツェッペリン」航空隊を発艦。

 

 その先遣隊が「グナイゼナウ」上空に到着し、戦闘に加入したのだ。

 

「さて、次だ!!」

 

 翼を翻すクロウ。

 

 眼下では対空砲を撃ち上げて奮闘する「グナイゼナウ」の姿がある。

 

 奮闘するドイツ艦隊。

 

 しかし、次なる脅威は彼等の頭上を飛び越え、遥か北から迫りつつあった。

 

 

 

 

 

3

 

 

 

 

 

 フレデリック王の号令に端を発する、今回のイギリス軍によるブレスト大攻勢。

 

 その目的は、大西洋で通商破壊戦を行ったドイツ海軍第1戦闘群の撃破にある。

 

 しかし、

 

 イギリス海軍にしろイギリス空軍にしろ、今回の作戦を必ずしも歓迎している訳ではなかった。

 

 空軍は当然、ドーバー海峡を越えて攻撃を仕掛けてくるドイツ空軍への対応で、常に緊張を強いられている。

 

 一時期に比べて下火になったとは言え、未だに散発的な攻撃は続いている。その対応に忙しい所に来て、今回の出撃命令である。作戦参加部隊の調整だけでも一苦労だった。

 

 海軍も事情は同じである。

 

 現状のイギリス海軍は、R部隊壊滅の影響により、でただでさえ艦艇が足りていない。更に、ニューファンランド島沖海戦以後、ドイツ軍のUボートも活動を活発化させている。それらに対応すべく、船団に護衛を付けなければならないところへ、今回の作戦である。

 

 正直、海軍にしろ空軍にしろ、拒否できるものなら拒否したいと言うのが本音だった。

 

 しかし、それはできない。

 

 国王直々の命令である以上、軍として拒否は許されなかった。

 

 そこで、

 

 海軍は今回の作戦に際し、最も積極的に参加の意思を示した人物に指揮を委ねた。

 

 その人物が今、旗艦艦上において叱咤の声を上げていた。

 

「ええいッ まだるっこしい!! まだ戦果は上がらんのかッ!?」

「そ、それが、敵の防空網が思ったよりも厚く、手間取っている様子で・・・・・・」

 

 側近の言い訳めいた言葉を、ディランはいら立ちを隠そうともしないで舌打ちする。

 

 今回、ディランは本国艦隊から抽出された艦艇によって編成された「S部隊」を編制。その指揮を任されていた。

 

 これまでの数々の「功績」により大佐に昇進したディラン。

 

 その彼が、今回のブレスト攻撃に名乗り出た理由。

 

 それはとりもなおさず、功名心以外の何物でもなかった。

 

 R部隊壊滅。

 

 この事実を、イギリス国内で誰よりも歓迎しているのは、間違いなくディランであろう。

 

 一つ下の弟で、次期国王の最有力なライバルだったアンドリウスが死んでくれたことで、ディランの時期王位継承は、より強固な形になりつつあった。

 

 その拍付けを兼ねての出撃である。

 

 完全に戦争を私物化しているディランだが、だからこそ、ここは攻撃成功を大々的にアピールしておきたい所なのだが。

 

 しかし満を持して行った航空攻撃は不発に終わり、更にドイツ艦隊の一部は、ディランたちがいる海域とは逆の南側に退避していると言う。

 

 ディランは完全に、肩透かしを食らった形だった。

 

「クソッ そんなに俺と戦うのが恐ろしいかッ 逃げる事しか能のない、卑怯者のナチス野郎共がッ」

 

 口汚く罵りながら、いらだたしそうに足踏みをする。

 

 一気に片を付けるべく、空軍と共同で艦載機部隊に全力出撃を命じたものの、ブレスト攻撃は失敗に終わり、ドイツ艦隊攻撃に向かったH部隊、R部隊も芳しい戦果を挙げるには至っていない。

 

 これほどの圧倒的な戦力を有しながら、弱小のドイツ艦隊を撃滅する事すらできないでいる自分。

 

 その状況を作り出しているドイツ軍に対する憎しみが、秒ごとに増していくのが分かる。

 

「おのれッ 許さんぞ、ドイツ人共!!」

 

 ブレストには、空軍が反復攻撃を仕掛ける手はずになっている。

 

 ならば、自分達は南に逃げた敵を叩くべきだった。

 

「この俺から逃げられると思うなよッ ナチの豚が!!」

 

 血走った眼を、上げるディラン。

 

 こうなったらもう、誰にも止められない。

 

 幕僚たちはおろか、取り巻きですら口出しせずに、成り行きを見守っている。

 

「進路1―6―0ッ!! これより我が艦隊は、ドイツ艦隊と決戦に向けて南下するッ!!」

 

 勇壮に声を張り上げるディラン。

 

 しかし、

 

 それがいかに悪手であるか、気付いていないのはディランだけであった。

 

 

 

 

 

 一方、

 

 同じくS部隊を構成する艦の中に、軽巡洋艦「ベルファスト」の姿もあった。

 

 フェロー諸島沖海戦で「シャルンホルスト」から受けた損傷は回復し、吹き飛ばされたA砲塔も元通りになっている。

 

 本国艦隊に復帰し、新規の乗組員の訓練も仕上がりつつある頃、リオンは本国艦隊司令官のジャン・トーヴィ大将より、S部隊に参加するように命令を受けた。

 

 フレデリック王からの命令とは言え、この時期での全力出撃。

 

 しかも、作戦指揮官はディラン王子とあって、トーヴィも聊か以上に気を揉んでいる様子だった。

 

 政治的な理由で英雄に祭り上げられているディランが、実際の実力的には大した事が無い事を、本国艦隊司令部なら誰でも知っている事。

 

 できれば出撃などしないでほしい。

 

 部隊を率いるなどもってのほか。

 

 「英雄」なら「英雄」らしく、港でふんぞり返ってくれていた方がありがたいくらいだ。

 

 しかし、世間はそうは思っていない。

 

 ディランは英雄であり、戦えば大英帝国に偉大なる勝利をもたらし、困難な状況ですら見方を叱咤して戦い続ける。

 

 そんなイメージが、まるで感染症のように英国全土に蔓延してしまっているのだ。

 

 そして何より始末に負えない事は、

 

 ディラン本人が、その「感染症」に最も重度にかかってしまっている事だった。

 

 自分の実力を忘れ、醜態を忘れ、世間に流布された嘘の活躍を信じて自分を英雄視する。

 

 「英雄」ならば活躍するのは当然であり、「英雄」であるならば、全軍の先頭に立って戦うのは当然と考え、実行しているディラン。

 

 正直、周りからすれば厄介この上なかった。

 

 トーヴィとしては、そんなディランのブレーキ役として、リオンとベルファストを派遣したのだ。

 

 しかし、あの兄が自分の言葉を聞き入れるはずがない事を、誰よりもリオン自身が良く分かっている。

 

 正直、荷が重いと言わざるを得なかった。

 

 そして、

 

 まさに「案の定」な事態が起こっていた。

 

「旗艦より入電。《全艦、左一斉回頭。進路1―6―0》!!」

「うわァ・・・・・・・・・・・・」

 

 見張り員からの報告に、うんざりした声を上げたのはベルファストだった。

 

 やれやれとばかりに視線を巡らして、リオンを見やる。

 

「どうするの? バカ兄貴が、またおかしな事やり始めたわよ」

 

 現在、イギリス軍は北と南からブレストを包囲する態勢を整えている。

 

 このまま狭い海域にドイツ艦隊を押し込め、一気に圧し潰そうと言う作戦だ。

 

 しかし、本国艦隊が南へ移動してしまうと包囲網が崩れてしまう。

 

「旗艦に通信。《命令ノ撤回ヲ求ム。現状維持ガ至当ト認ム》!!」

 

 リオンは通信士に命じる。

 

 無駄だと言う事は判っている。

 

 だが、ここは言わずにはいられなかった。

 

 しかしやはりと言うべきか、「キングジョージ5世」から返信は無く、完全に無視を決め込まれている。

 

 ディランがリオンの言葉など、歯牙にもかけていないであろう事は火を見るよりも明らかだった。

 

「クソッ」

 

 舌打ちするリオン。

 

 あの兄には、作戦を成功させようとする意志も無ければ、味方と連携しようと言う頭すらない。

 

 ただひたすら、自分の功名心しか見えていない。

 

 転舵する「キングジョージ5世」。

 

 他の艦も、追随して続行する。

 

 リオンも嘆息すると、旗艦に続くように命令する以外なかった。

 

 

 

 

 

 ブレスト軍港に鳴り響くサイレン。

 

 その不気味な音が、この港に敵軍が迫っている事を示して居た。

 

 「シャルンホルスト」艦橋に立つエアルの耳にも、その音は聞こえてきていた。

 

「さて・・・・・・どうするかな」

 

 口元に浮かべた苦笑を隠そうともせず、エアルは双眼鏡を下ろす。

 

 現在、「シャルンホルスト」はドックに入渠した状態であり、身動きが取れない。

 

 当然だが、今からドックに注水して出渠作業をする時間もない。

 

 この状態でも対空戦闘は出来るが、シャルンホルスト級巡洋戦艦最大の武器である高速性能は完全に封じられている。事実上、今の「シャルンホルスト」は陸の構造物と同じ状態だった。

 

 一応、艦上部には迷彩を施し、上空からは発見しづらいようにしてあるが、それも焼け石に水でしかない。

 

 発見され、集中攻撃を受けるのは時間の問題だった。

 

 しかし、それでも戦うしかない。

 

 背後に目をやるエアル。

 

 艦娘専用席には、ぐったりとして座るシャルンホルストの姿がある。

 

 サイアに連れてこられた時に比べれば幾分、表情は和らいだようにも見える。

 

 しかし相変わらず顔色は悪く、荒い呼吸を繰り返している。

 

 今すぐにでも休ませてやりたいが、既に敵は指呼の間まで迫っている。

 

 口惜しいが、今は彼女に頼る以外に、生き残る術はない。

 

「敵機、さらに接近!!」

 

 見張り員の報告に、エアルは前を向き直る。

 

 シャルンホルストの事は心配だが、今は彼女ばかりに気にかけている暇はない。

 

 何としても、ここを乗り切らないと。

 

 やがて、イヤでも聞こえてくる重低音の唸り。

 

 視界の中で、巨大な翼が迫ってくる。

 

 角張った胴体に大ぶりな翼。エンジンは2つ装備しプロペラが回転している。

 

 ソードフィッシュやアルバコアとは、明らかに一線を画する巨大な機影。

 

 ヴィッカース・ウェリントン。

 

 全長19.2メートル、全幅25.2メートル、最高速度372キロを誇り、搭載爆弾は最大で2トンにまで達する。

 

 イギリス空軍が正式採用している、双発の重爆撃機である。

 

 更にもう1種類。

 

 こちらは更に巨大な機影だ。

 

 ハンドレページ・ハリファックス。

 

 全長29.5メートル、全幅31.5メートル、最高速度454キロ、爆弾搭載量5.8トン。搭載しているエンジンは両翼に2基ずつの4発。

 

 アメリカ軍が正式採用しているボーイングB17フライングフォートレス重爆撃機に匹敵する巨大爆撃機である。

 

 イギリス空軍は今回のブレスト襲撃に、ウェリントン22機、ハリファックス16機を投入していた。

 

 連日のようにドーバー海峡を越えてドイツ空軍と死闘を繰り広げているイギリス空軍からすれば、割ける限りの最大限の数字である。しかしそれでも、ブレストを火の海にするには十分な戦力だった。

 

 迫る巨大爆撃機。

 

 冷や汗を、一筋流すエアル。

 

 イギリス軍は本気だ。

 

 本気で、自分達を潰しにかかってきている。

 

「今回は、流石に・・・・・・・・・・・・」

 

 言いかけて、

 

 再びシャルンホルストに目をやる。

 

 今度は、目が合った。

 

 苦し気に息を吐きながらも、

 

 しかし、ニコッと笑って見せる少女。

 

 その姿を見て、

 

 青年も頷きを返す。

 

 この少女を前にして、無様は見せられない。

 

 何としても、この場を切り抜けて見せる。

 

「対空戦闘、左30度!!」

 

 鋭く命令を下す。

 

 左舷側に指向可能な、8基16門の10.5センチ高角砲が旋回し天を睨む。

 

 更に37ミリ、20ミリの各機銃も続く。

 

 緊張する一瞬。

 

 イギリス軍の爆撃機隊が爆弾倉を開き、爆撃態勢に入った。

 

 次の瞬間、

 

「右舷前方ッ 接近する機影あり!!」

 

 叫ぶ見張り員の声。

 

 その声が、歓喜に染まる。

 

「味方ですッ 空軍(ルフトバッフェ)が来援しました!!」

 

 見張り員の言う通りだった。

 

 翼を連ねて上空に来援する、鉄十字の翼。

 

 メッサーシュミットBf109の力強いエンジン音が頼もしく響く。

 

 これは、ウォルフの手配だった。

 

 事態が容易ならざる物であると判断したウォルフは、自身の名前で近隣の空軍基地へブレスト上空の救援を要請したのだ。

 

 その援軍が、ギリギリで間に合ったのだ。

 

 直ちに攻撃を開始するドイツ空軍。

 

 既に攻撃態勢に入っていたイギリス空軍は、混乱をきたした。

 

 敵機がいないうちに攻撃をしてしまおうと考えていた彼等は、突然のドイツ空軍出現に、攻撃を中止して退避行動に移ろうとする。

 

 しかし、速力において勝るメッサーシュミットは、逃げようとする爆撃に追いすがる。

 

 イギリス軍の重爆撃機部隊は、命中率を上げるために高度を落としてブレスト上空に侵入しようとしていたが、完全にそれが仇となっていた。

 

 エアル達の目の前で、巨大な機影が次々と炎を上げて空中に散っていく。

 

 それでも、空軍も急場の出撃だった事もあり、全ての敵機進行を阻止するには至らない。

 

 3機のウェリントン爆撃機が、メッサーシュミットの防空網を抜けてドックの方へと迫ってくる。

 

 港内の対空砲も阻止の為、砲火を上げるが、爆撃機はそれらを掻い潜り、ドック内の「シャルンホルスト」に爆弾を叩きこむべく突撃する。

 

「対空戦闘・・・・・・・・・・・・」

 

 右手を軽く、振り上げるエアル。

 

 双発の爆撃機が、目前まで迫った。

 

 既に胴体下部の爆弾倉が開き、攻撃態勢に入っている。

 

 次の瞬間、

 

「撃ち方始めッ!!」

 

 鋭く腕を振り下ろす。

 

 同時に、

 

 「シャルンホルスト」に搭載されている対空砲が、一斉に撃ち上げられた。

 

 たちまち、空が真っ赤に染め上げられる。

 

 たとえ全力を発揮できなくとも、

 

 たとえ身動きが取れなくても、

 

 ドイツ最強の巡洋戦艦は伊達ではない。

 

 まさかドック内から反撃を食らうとは思っていなかった3機のウェリントン爆撃機は、ひとたまりもなく火球へと変じる。

 

 1機、

 

 また1機

 

 最後の1機は、それでも諦めずに「シャルンホルスト」へ爆弾を叩きこむべく迫る。

 

「・・・・・・最後まであきらめず、退かない、か。そういうの、嫌いじゃないよ」

 

 眦を上げるエアル。

 

「けどね」

 

 左舷側の対空砲火が、更に激しさを増してウェリントンを刺し貫く。

 

 空中で爆発、四散するウェリントン。

 

「悪いけど、ここは譲れない」

 

 爆炎に照らし出される横顔は、不敵に輝いていた。

 

 

 

 

 

第35話「たとえ這ってでも」      終わり

 

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