蒼海のRequiem外伝 ~北天の流星~   作:ファルクラム

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第37話「けじめはけじめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドイツ海軍第1戦闘群撃滅を目指して行われた、イギリス軍によるブレスト強襲。

 

 イギリス国王フレデリックの勅命によって決行された作戦は、しかし、ドイツ軍の予想を超えた反撃によって、完全に頓挫する結果となった。

 

 ブレスト攻撃を行った空軍爆撃隊は、ドイツ空軍の迎撃に遭い、ある程度の戦果は挙げたものの、結果として功は不十分なまま攻撃は終了。目標となった巡洋戦艦「シャルンホルスト」に多少の損傷を負わせたものの、行動不能にするには至らなかった。

 

 「グラーフ・ツェッペリン」「グナイゼナウ」撃沈を目指した海軍による攻撃も、「グナイゼナウ」を損傷させたものの、結局は取り逃がす結果となった。

 

 攻撃は失敗。

 

 それどころか、却って最新鋭戦艦である「キングジョージ5世」がUボートの雷撃を食らって損傷、這う這うの体で退却する醜態を見せる始末。

 

 極めつけは、ドイツ空軍による奇襲的なロンドン空襲である。

 

 これには完全に、イギリス軍は虚を突かれる形となった。

 

 ここ最近、バトル・オブ・ブリテンは下火になっていた為、まさかこのタイミングでドイツ空軍が攻勢に出るとは思っていなかったのだ。

 

 イギリス空軍が必死に防戦を行い、来襲したドイツ軍にも損害を与えたものの、突如とした攻勢はイギリス軍、ひいてはイギリス国民に大きなショックを与えたのは確かだった。

 

 これら一連の戦いにより、イギリス軍はブレスト攻撃を断念せざるを得ない状況に追い込まれてしまった。

 

 イギリス軍を押し返した、ドイツ軍の作戦。

 

 全ては、第1戦闘群司令官ウォルフ・アレイザーの策だった。

 

 強大な敵を前にして防戦を行って時間を稼ぐと同時に、他方面から攻勢をかけて相手の後方を脅かす。

 

 本国を突かれたイギリス軍は、本土防衛のために退却せざるを得ない。

 

 古来からある、他方面同時攻撃の応用である。

 

 これにより、戦略の前提が崩れたイギリス軍、特に攻撃の主軸となる筈だったS部隊が退却。

 

 なし崩し的に包囲網を形成していたR部隊、H部隊も撤退。

 

 ここにブレスト沖海戦は一応、ドイツ軍の勝利と言う形で幕を閉じた。

 

 しかし、

 

 勝利したドイツ軍も、無傷とはいかなかった。

 

 イギリス空軍の攻撃によって、「シャルンホルスト」が中破、更に魚雷を食らった「グナイゼナウ」の損害も深刻で、暫くは作戦行動は不可能と判断されるほどの損害だった。

 

 主力となる巡洋戦艦が、2隻とも損傷で戦線離脱。

 

 皮肉にも、第1戦闘群は開戦以来、最大の損害を被った事になる。

 

 しかし、とは言え、

 

 イギリス軍が本国防衛のために戦力を回さねばならず、ドイツ軍が危機を脱したのは事実である。

 

 双方ともに膠着した状況。

 

 それを受け、ドイツ海軍では先手を打つ形で、次の作戦が実行に移されようとしていた。

 

 

 

 

 

 ゴーテンハーフェン軍港の専用桟橋に停泊した、その艦を見た者は皆、誰もが圧倒されるだろう。

 

 これよりも大きな艦を、人類はまだ、見た事はない。

 

 重厚なフォルム。連装4基の巨大な砲塔。舷側には中小型の砲が無数ににらみを利かせている。

 

 艦橋、煙突、後部艦橋は可能な限りコンパクトにまとめられ、周囲には中小口径の砲門が、所狭しと並べられている。

 

 艦橋トップに備えられたアンテナ群は、この艦がただ「強い」だけじゃなく、次世代的な電子兵装を備えた艦である事を示して居る。

 

 まさに無敵の城塞が、海上に出現した如くだった。

 

 ドイツ海軍第2戦闘群旗艦「ビスマルク」

 

 基準排水量4万1000トン。全長250メートル、全幅36メートル、最高速度30.8ノット。

 

 主砲は47口径38センチ砲連装4基8門。

 

 ドイツ軍が生み出した、ヨーロッパ、

 

 否、

 

 世界最大最強の戦艦である。

 

 半年前、キール軍港の桟橋でエアルとシャルンホルストが回航して以来、このゴーテンハーフェン軍港で最終偽装を行い、その後はバルト海で乗組員の訓練にいそしんでいた「ビスマルク」だったが、この程ようやく、海軍に編入される事となった。

 

 そこで、本国防衛の為にベルリン作戦には加わらず待機していた重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」と共に、第2戦闘群を編制したのだ。

 

「素晴らしい。実に素晴らしいな、この艦は」

 

 テーブルに着いた全ての人々を見回しながら、興奮したように告げたのは、ドイツ第三帝国総統、アドルフ・ヒトラーその人だった。

 

 「ビスマルク」の海軍編入に当たり、その祝辞を述べるためにやってきたのだ。

 

 背後には海軍最高司令官のエドワルド・レーダー元帥も控えている。

 

 彼等の前には、第2戦闘群司令官のリンター・リュッチェンス大将、「ビスマルク」艦長のオットー・リンデマン大佐、更には艦娘のビスマルク本人も座っていた。

 

 ベルリン作戦が終了したのち、艦隊をブレストに残して本国に帰還したリュッチェンス。

 

 その後、事例が下りて最新鋭戦艦「ビスマルク」を含む第2戦闘群司令官に就任。同時にドイツ艦隊司令官への就任も行われた。これは事実上、イギリス海軍における本国艦隊司令官に匹敵する地位であり、これにて事実上、リュッチェンスはドイツ海軍実働部隊におけるトップに就いた事を意味している。

 

 フェロー諸島沖海戦、ベルリン作戦におけるリュッチェンスの功績を、海軍、ひいてはヒトラー本人が高く評価したうえでの人事だった。

 

 そんなリュッチェンスを前に、ヒトラーは「ビスマルク」を眺め、上機嫌で言った。

 

「この艦は、正に『鉄の聖堂』だな。何者も侵す事はかなわず、堂々たる姿を海上に浮かべ続ける。この艦が海上に出れば、イギリス海軍如き、鎧袖一触である事は疑いあるまい」

「まさしく、その通りであります、閣下」

 

 追従するレーダー。

 

 海軍総司令官であり、大艦巨砲主義者でもあるレーダーからすれば、ようやく戦力化した最強戦艦の存在に、興奮も押さえきれないと言ったところだろう。

 

 その瞳は、高齢でありながら少年のように輝いているようにも思える。

 

 ある意味、「ビスマルク」の完成を、誰よりも喜んでいるのはレーダーかもしれなかった。

 

「既に、総統閣下に、この船の性能をお見せできる機会は用意してあります」

「それはつまり・・・・・・」

 

 言葉の先を察したように、ヒトラーは目を細めてレーダーを見る。

 

「この艦が出撃する時は近い。そういう事だな、レーダー」

「はい。これを」

 

 差し出された書類。

 

 その表紙には「ライン演習作戦」の表題がある。

 

 それは戦艦「ビスマルク」を主軸とした、大規模通商破壊作戦だった。

 

 度重なるドイツ海軍水上艦艇による襲撃により、多数の艦艇、船舶を失ったイギリス軍は、ここに来て護衛戦力を強化しつつある。

 

 R部隊は殲滅したものの、敵はすぐにでも次の戦力を送り込んでくるだろう。

 

 それ程までに、「世界第2位」の海軍は強大であり、翻ってドイツ海軍がいかに弱体であるかを示して居た。

 

 これまで巡洋戦艦や装甲艦が、単独で襲撃を行い戦果を挙げてきたが、今後は簡単にはいかなくなる可能性もある。

 

 そこで「ビスマルク」の出番と言う訳だ。

 

 通商破壊戦に際し「ビスマルク」が敵の護衛戦力を叩いているうちに、随伴する僚艦が敵船団に突入、殲滅すると言う訳である。

 

 仮に敵が戦艦を護衛につけていたとしても、最強戦艦である「ビスマルク」なら圧倒できるだろう。

 

 布陣としては申し分なかった。

 

「期待しているぞ」

『ハッ』

 

 ヒトラーの言葉に対し、一同は立ち上がって敬礼するのだった。

 

 

 

 

 

 ヒトラーとレーダーが退艦した後、リュッチェンスは艦の首脳陣を集めて、ライン演習作戦における具体的な作戦行動策定に掛かった。

 

 今回は「ビスマルク」と言う最強戦力が加わった事で、これまで以上に大胆な作戦行動が可能となっていた。

 

 とは言え、たとえ「ビスマルク」でも、イギリス海軍から集中攻撃を受ければ無傷とはいかないだろう。

 

 いかに最強戦艦とは言え、好んで敵の真っただ中に突っ込んでいくのは無謀を通り越して阿呆と言う物。

 

 たとえ「ビスマルク」と言えど、慎重な行動を求められるところだった。

 

「基本は、先のベルリン作戦と同様で良いと考えます」

 

 リンデマン艦長が、リュッチェンスを見ながら言った。

 

「我々はゴーテンハーフェン出港後、ノルウェーのベルゲンへ移動。そこで最終補給を受けます。出港後は北海を西進しアイスランド北方を通り、デンマーク海峡を突破して大西洋に進出します」

 

 先の作戦で「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」「グラーフ・ツェッペリン」が通ったコースである。

 

 イギリス海軍の警戒網を大きく迂回する作戦である。

 

 敵はまだ、「ビスマルク」の出撃準備が整ったことを知らない。

 

 イギリス軍の警戒網が完成する前に、大西洋に進出してしまおうと言う訳だ。

 

「問題はない。ノルウェーにおける補給船の手配は?」

「既に完了しております。現地に入り次第、すぐにでも作業を始められる予定です」

 

 リンデマンの答に、リュッチェンスは満足そうに頷きを返した。

 

 いつもの事だが、通商破壊戦は時間との勝負である。

 

 劣勢のドイツ海軍は、イギリス海軍との真っ向勝負はなるべく避けなければならない。

 

 敵の警戒網が完成してしまえば最悪、作戦その物を中止せざるを得ない場合もある。

 

 だからこそ、急ぐ必要があった。

 

「一つ、宜しいか」

 

 挙手したのはビスマルクだった。

 

「今回は、第1戦闘群は参加しないのか?」

「ああ」

 

 尋ねるビスマルクに、リュッチェンスは苦い表情で答える。

 

 彼も元第1戦闘群司令官であり、ベルリン作戦を成功に導いた立役者でもある。思い入れは人一倍ある。

 

 かつて共に戦った仲間たちが参戦してくれれば頼もしい事この上ないのだが。

 

「『シャルンホルスト』も『グナイゼナウ』もドッグ入りを余儀なくされている。作戦参加に間に合わせるのは難しいだろう」

 

 「シャルンホルスト」は機関の故障に加えて、先のブレスト空襲において受けた爆撃の損傷修理もあった。

 

 幸い、修理自体は順調との事だが、完全に修理が完了するのは7月頃の見通しとの事だった。

 

 「グナイゼナウ」も、ブレスト沖海戦で魚雷を受け、水密区画にまで浸水する大損害を被ってしまった。状況はある意味、「シャルンホルスト」より深刻である。

 

 そのような事情の為、現在、第1戦闘群で出撃可能な主力艦は旗艦「グラーフ・ツェッペリン」のみ。

 

 そのような事情である為、第1戦闘群の戦闘参加は見送られる方針だった。

 

「問題はないだろう」

 

 リュッチェンスは事も無げに言い放つ。

 

「第1戦闘群の脱落は確かに痛いが、お前(ビスマルク)の戦闘力なら、あの2隻を上回っている。戦力としては十分、申し分ない筈だ」

「・・・・・・それは、そうだな」

 

 躊躇う様に言葉を濁しながらも、ビスマルクはリュッチェンスの頷きを返す。

 

 しかし、

 

 その脳裏には、かつてキール軍港で一度だけ会った、エアルとシャルンホルストの事が思い浮かべられていた。

 

 今回、彼等と共に戦えるであろうと、期待をしていただけに、当てが外れた事への落胆も大きかった。

 

 しかし、損傷修理とあっては如何ともしがたい。ましてか向こうは、大作戦を終えたばかり。仕方のない事である。

 

 大丈夫。

 

 心の中で、そう言い聞かせる。

 

 また、次の機会がある。

 

 この作戦が終わり、大西洋上で合流できれば、「シャルンホルスト」と共に艦隊を組んで戦う事になるだろう。

 

 その時こそ、共に砲門を並べる事が出来る。

 

 ビスマルクは、そう確信していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 軍港の被害が思ったより少なかったのは幸いだった。

 

 港の中を歩きながら、エアル・アレイザー海軍大佐はそう思った。

 

 イギリス軍の重爆撃機に襲撃された割に、ブレスト軍港の損害は軽微だった。

 

 これについては、ドイツ空軍(ルフトバッフェ)の的確な迎撃と、「シャルンホルスト」を初め、対空砲火の必死の防空戦闘があったればこそである。

 

 とは言え、

 

 チラッと、周囲を見やる。

 

 いくつかの施設は、爆弾の直撃を受けて瓦礫と化しているのが見える。

 

 やはり戦争をしている以上、無傷と言う訳にはいかない。

 

 それに、

 

 エアルはうすら寒い物を感じていた。

 

 フランスは、つい先日までイギリスと共に連合軍を形成していた。

 

 それが降伏し、ヴィシー・フランスとして枢軸側に加わった途端、イギリスは容赦なく攻撃を仕掛けてきた。

 

 たとえ第1戦闘群が逃げ込んだ事を込みと考えても、聊か以上に強引すぎる印象を拭えなかった。

 

 たとえ昨日の味方でも、敵に回れば容赦しない。

 

 イギリスの厳格な姿勢が、垣間見えた気がしたのだ。

 

 そうしているうちに、エアルは病院の前へと到着した。

 

 戦闘の後、シャルンホルストは再びここに収容されていた。今日は、そのお見舞いである。

 

 受付で記帳を済ませ、そのまま勝手知ったる病室へと向かう。

 

 そこはシャルンホルスト1人だけが入院している個室である。

 

 相手が艦娘と言う事もあり、病院側で融通してくれたらしい。

 

「気分はどう? あ、これお土産。あとで食べてね」

「うん、まあ、ボチボチかな。わっ ケーキだ。ありがとう、おにーさん」

 

 ベッドの上のシャルンホルストは、そう言って笑と、受け取ったケーキの箱を脇のテーブルに乗せる。

 

 戦闘の後、疲労と体調不良で今度こそ完全に動けなくなったシャルンホルストは、半ば強引に艦から降ろされ、病院に強制連行されたのだった。

 

 検査の後、当然、そのまま病室へ逆戻り。

 

 今度こそ、絶対に逃げ出せないよう、病院側も目を光らせていた。

 

 そうそう、患者に脱走されていたら、病院側としてもメンツにかかわると言う物だった。

 

 エアルはと言えば、戦闘後も事後処理や修理計画の再検討、更には交渉関係者との折衝に追われた為、シャルンホルストの見舞いに来たのは今日が初めてだった。

 

「艦の修理の方は順調だよ。けど、やっぱり7月くらいまでは掛かるみたいだね」

「そっか、まあ、仕方ないね」

 

 元々、機関に不調を抱えていた「シャルンホルスト」。加えて空襲による損傷も修理しなくてはならない。

 

 修理期間の延長もやむを得ない所だろう。

 

 むしろ、来襲したイギリス空軍の規模から考えれば、艦体が修復不能なほどの大損害を被っていた可能性もある。

 

 ここは運が良かったと言っておくべきだろう。

 

 「グナイゼナウ」もドッグ入りをしているが、艦娘本人は軽傷で済んだ事もあり、1日で退院し、今はもう軍務に復帰していた。

 

「まあ、シャル自身は元気そうだし。良かったよ、本当に」

「あはは、まあね」

 

 そう言って笑うシャルンホルスト。

 

 そんな少女の笑顔を見ながら、

 

「だよねー」

 

 エアルも笑顔で言う。

 

 そして、

 

 

 

 

 

「だって、元気じゃなかったら、叱る事も出来ないしね」

 

 

 

 

 

 

 かなり、物騒な事を言った。

 

「・・・・・・・・・・・・へ?」

 

 背中に寒い物を感じながら、動きを止めるシャルンホルスト。

 

 顔を上げる少女の視線に映る、青年艦長の顔。

 

 笑顔を浮かべるエアル。

 

 しかし、

 

 その目は全く笑っていなかった。

 

「あ、あの。おにーさん? 叱るって?」

「あれ? 覚えてない? 俺が戦闘開始前、シャルに何って言ったか?」

 

 言われて、シャルンホルストは、あの時の事を思い出す。

 

 確か、あの時・・・・・・

 

 サイアの手助けで艦橋にやってきたシャルンホルストに、エアルが言った言葉。

 

 

 

 

 

『後で、お仕置きだからね。覚悟しておいて』

 

 

 

 

 

 顔を強張らせるシャルンホルスト。

 

 確かに、エアルはそんな事を言っていた、気がする。

 

「えっと、冗談、だよね?」

 

 問いかけるシャルンホルストに、

 

 ニッコリと笑いかけるエアル。

 

「冗談言っているように聞こえる?」

 

 怖い。

 

 出会ってから初めて、シャルンホルストは目の前の「おにーさん」に恐怖を感じた。

 

 割と本気で、エアルが怒っている事が伝わってくる。

 

「あっと、じゃあ、ボクはこれで・・・・・・」

「入院中の人が何言ってんの?」

 

 逃げようとするシャルンホルストの首根っこを捕まえるエアル。

 

 そして、エアルはベッドに腰掛けると、シャルンホルストの腕を引っ張り、自分の膝の上にうつ伏せにしてしまった。

 

「お、おにーさん、何をッ」

 

 驚くシャルンホルスト。

 

 だが、エアルは構わず、少女のパジャマのズボンに手をかけると、そのまま引き下ろした。

 

 ネコさんパンツに包まれた少女のお尻が、エアルの前に晒される。

 

「ちょッ!?」

 

 驚くシャルンホルスト。

 

 だがエアルは構わず、パンツに手を掛けるとグイっと脱がせてしまった。

 

「お、おにーさんッ!?」

 

 そこで、ようやく事態に気付いて顔を赤くするシャルンホルスト。自分がいかに恥ずかしい格好をさせられているか気が付いたのだ。

 

 だが、

 

「無茶したお仕置きだよ。しっかり反省してね」

「ちょっ 待っ・・・・・・」

 

 少女が言い終わる前にエアルは右手をスッと高く掲げると、シャルンホルストの丸出しのお尻に平手を振り下ろした。

 

 パァンッ

 

「キャッ!?」

 

 悲鳴を上げるシャルンホルスト。

 

 エアルは、そんなシャルンホルストのお尻を叩き続ける。

 

「お、おにーさん、やめッ ひゃんッ」

 

 悲鳴を上げるシャルンホルストに、エアルは厳しい口調で言う。

 

「全く、あんな無茶して。君にもしもの事があったら、どうするつもりなの?」

「だ、だって・・・・・・」

「『だって』じゃないでしょ」

 

 パシンッ

 

「あうッ でもでもッ ボクがいないと、みんなが戦えないじゃないッ」

「だとしても、それで君が死んじゃったりしたら、元も子もないでしょうがッ」

 

 パァンッ

 

「ひんッ」

 

 ひと際強く、お尻を叩かれる。

 

「おにーさんッ ボク、一応病人なのにッ!!」

「病人は大砲担いで戦場に来たりしないよ」

 

 パシンッ

 

「キャァ!?」

 

 好きな人に、丸出しのお尻をペンペンされる。

 

 恥ずかしさと、お尻の痛みで、顔を真っ赤にするシャルンホルスト。

 

 目には涙を一杯溜めている。

 

 しかし、エアルも容赦はしなかった。

 

 無茶と無謀は違う。

 

 シャルンホルストがやった事は、艦長としても、エアル個人としても容認は出来なかった。

 

 ここで甘い顔をして、今後もしまた、同じことを繰り返しでもしたら。

 

 今回は助かったから良かったものの、次も助かると言う保証はない。

 

 だからこそ今、しっかりと叱っておかなくてはならなかった。

 

 合計で30回叩かれ、「お尻ペンペン」は終わった。

 

 真っ赤になったお尻をしまう事も出来ず、スンスンと鼻を鳴らしている少女。

 

 そんなシャルンホルストを、エアルは優しく抱きしめる。

 

「あ・・・・・・・・・・・・」

「もう、無茶はしないで」

 

 優しく、語り掛ける。

 

「君は確かに、俺たちにとって貴重な戦力だ。君がいないと、俺達は困る。けど、だからこそ、無茶をして君にもしもの事があったら、取り返しがつかないじゃないか」

「おにーさん・・・・・・・・・・・・」

「それに」

 

 シャルンホルストを抱く腕に、力を籠めるエアル。

 

 まるで、目の前の少女が、どこかに行ってしまうのを恐れているかのように、しっかりと抱きしめる。

 

「俺は君を失いたくない。これは、ドイツ軍人としてじゃなく、俺個人としての気持ちだ」

「・・・・・・うん、ごめんなさい、おにーさん」

 

 そう言うと、泣きながらシャルンホルストも、エアルの背中に手を回す。

 

 そんな少女を、抱きしめるエアル。

 

 青年の温もりが、シャルンホルストを優しく包み込む。

 

 エアルは自分が憎いから叩いたのではない。

 

 愛おしいから、

 

 愛しているから、

 

 だからこそ、厳しく接したのだ。

 

 おにーさん、ありがとう・・・・・・ごめんなさい

 

 心の中で呟きながら、少女は青年に身をゆだねるように、体を寄せるのだった。

 

 

 

 

 

第37話「けじめはけじめ」      終わり

 

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