蒼海のRequiem外伝 ~北天の流星~   作:ファルクラム

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第83話「海燕乱舞」

 

 

 

 

 

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 戦火は風に煽られ、燎原を焼き尽くさんと燃え広がる。

 

 留まることなく燃え盛り、全てを飲み込み焼き尽くすまで止まる事を知らない地獄の業火。

 

 突如、西部全戦線において攻勢に転じたドイツ軍。

 

 それに対し、虚を突かれた連合軍は各戦線で大混乱に陥った。

 

 攻めていると思っていた自分達が、まさかいつの間にか包囲されているなど、誰が予想しえただろう?

 

 最前線の部隊は、訳が分からないうちに瓦解の憂き目にあう。

 

 ほとんど抵抗できないうちに壊滅状態に陥る連合軍。

 

 図らずも、ヒトラーが意図した奇襲が功を奏していた。

 

 順調に推移するドイツ軍の作戦。

 

 陸軍が大攻勢に打って出る一方、海軍もまた動き出していた。

 

 主力艦隊が密かにキール軍港を出港。北からアントワープを目指す。

 

 それに対し、船団護衛の為に出撃して来たイギリス本国艦隊は、ドイツ艦隊接近を察知すると、護衛任務に就いていた全部隊を北方へと差し向けた。

 

 後の世に「ヒトラー最後の賭け」とも言われるバルジ攻勢が大々的に行われる中、海上でも、独英両艦隊の雌雄を決するべく、両艦隊の砲門が開かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 ホワイトエンサインを掲げた艦隊は、進路を北に向けている。

 

 戦艦5隻、空母3隻、軽巡洋艦8隻、駆逐艦26隻から成る大艦隊。

 

 彼等は猟犬の如く、血走った眼で自らの獲物を追い立てるべく、北へと疾走する。

 

 ドイツ艦隊への攻撃。

 

 その第一撃は、空から行われる事になった。

 

 長い金髪に、波打つような軽いカールが連続した髪型をした女性が、その穏やかな眼差しで、自身の飛行甲板から飛び立っていく航空機を見守っている。

 

 「ヴィクトリアス」「フォーミダブル「インドミタブル」の3空母を飛び立った航空機が、艦隊上空で集合し、編隊を組む。

 

 シーファイア、シーハリケーンの戦闘機隊に続いて、バラクーダ攻撃機、更に少数ながらソードフィッシュ攻撃機が続く。

 

 北へ進路を向けて飛び立っていく航空機。

 

 その様子をフレデリックは、グラスを片手に旗艦「ライオン」の艦橋で眺める。

 

「ふむ、航空機と言うのも、あれはあれで悪くはないではないか。もっとも、あんな蚊トンボに何ほどの期待ができるのか、疑問ではあるがな」

「我が『プリンス・オブ・ウェールズ』や『レパルス』も、航空機によって沈められております。油断は出来ぬかと」

「ふん、あれは大方、乗組員全員が居眠りでもしてたのだろうさ。そうでもなければ、極東の低俗な猿共に、我が偉大なる大英帝国の戦艦が沈められるはずも無い」

 

 そう言うとフレデリックは、自棄になったように、乱暴にグラスの中の酒を煽る。

 

 「洋上行動中の戦艦が航空攻撃のみで撃沈された世界初の例」であるマレー沖海戦の屈辱を指摘され、不機嫌になるフレデリック。

 

 対して、アルヴァンもそれ以上は言わない。

 

 虎の尾を、わざわざ踏む愚は犯したくはない物だ。

 

「それはそうと、艦隊速力を上げますか?」

「無論だ。航空機共には期待しておらんが、ある程度傷付ける事くらいはできよう。ナチス共が弱ったところで、我が指揮する戦艦部隊が前進しトドメを刺す。どうだ、完璧だろう」

 

 自画自賛するフレデリック。

 

 要するに、自分が目立つための舞台を整えようというのだ。

 

「機関全速、各艦は我に続け!!」

 

 意気揚々と命じるフレデリック。

 

 それに答えるように、「ライオン」は唸りを上げて増速する。

 

「さあ、ナチスの豚共、今日こそ貴様らの最後の日となるだろう!! この儂の栄光の礎になれる事を喜んで沈むが良いわ!!」

 

 そう言い放つとフレデリックは、口元を歪めて笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スケガラック海峡を抜けた後、ドイツ艦隊は進路を西にとって航行していた。

 

 空母を中心とした第2艦隊が先行し、「ティルピッツ」を含む第1艦隊が後続する。

 

 その第2艦隊に所属する2隻の空母「グラーフ・ツェッペリン」と「ペーター・シュトラッサー」では、甲板に並べられた航空機が、一斉にプロペラを回転させていた。

 

 エアルは北海に出た後、一定時間毎に偵察機を南に放っていた。

 

 敵上の把握は、本作戦における最重要のカギとなる。

 

 その内の1機が、接近するイギリス軍攻撃隊を捉えたのだ。

 

 報告を受けたエアルは、直ちに行動を起こした。

 

 艦隊の陣形を、まずは輪形陣へと移行させる。

 

 旗艦「シャルンホルスト」と重巡洋艦「プリンツ・オイゲン」を並走させ、それぞれの後方に「グラーフ・ツェッペリン」「ペーター・シュトラッサー」の2空母を配置。対空防御の高い2隻で、空母を守る形である。

 

 「エムデン」と駆逐艦は、4隻を囲むように円を描いて配置。

 

 輪形陣が完成したところで、2空母に直掩隊の発艦を命じた。

 

 命令を受け、「グラーフ・ツェッペリン」と「ペーター・シュトラッサー」から、メッサーシュミットやフォッケウルフの戦闘機が発艦していく。

 

「偵察機より再度入電!! 《敵戦爆連合、包囲1-9-0より北上中》との事!!」

 

 通信室からの報告を受け、エアルは次の行動に出る。

 

「全艦、対空戦闘用意、ウルツブルク・レーダー、探知始め!!」

 

 「シャルンホルスト」に3基搭載されている対空用ウルツブルク・レーダーが作動、電測室のモニターに灯が入る。

 

 航空機の速度、進路、高度、規模を精密に測距でき、射撃管制にも使用できる、対空戦闘の切り札である。

 

 やがて、

 

 レーダーは南方から接近する多数の航空機を捉える。

 

「対空戦闘、用意良し!!」

「主砲左砲戦ッ アントン、ブルーノ、ツェーザル、1番、2番、全門、タイプ・ドライ装填!!」

 

 エアルの命令を受け、主砲を左舷側に向ける「シャルンホルスト」。

 

 同時に機関出力が上がり、基準排水量3万4000トンの巨体を加速させる。

 

「敵編隊接近ッ 左90度、高角60度!!」

「主砲、発射準備良し!!」

「目標、本艦の軸線上に乗りました!!」

 

 報告を受け、

 

 エアルは帽子を目深にかぶる。

 

 次の瞬間、

 

「タイプ・ドライ、撃ち方始め!!」

 

 命令を受け、射撃指揮所では射手が引き金を引く。

 

 轟音と共に放たれる、6門の47口径40センチ砲。

 

 向かってくるイギリス軍攻撃隊に向けて、重量1トンの砲弾が飛翔する。

 

 イギリス軍のパイロット達も、すぐに事態に気付き散開を掛ける。

 

 しかし、音速を越えて襲い掛かってくる砲弾を相手に、無意味な行動でしかない。

 

 炸裂する「シャルンホルスト」の砲弾。

 

 蒼空に踊る爆炎。

 

 巻き込まれた機体が、炎に巻かれて海面へと落下していく。

 

「撃墜、10機確認!!」

「よし、敵の陣形は崩れたッ 直掩隊に命令、《攻撃開始》!!」

「了解、直掩隊に送ります!!」

 

 対空用砲弾「タイプ・ドライ」。

 

 同盟国日本から提供され、量産した主砲用対空砲弾「3式弾」。

 

 圧倒的火力で空中を薙ぎ払う事を目的とした砲弾は、密集隊形を取っていたイギリス軍攻撃隊を飲み込む形で炸裂。

 

 残った敵機も、陣形を完全に乱しているのが見える。

 

 そこへ、高空で待機していたドイツ軍直掩隊が襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 愛機であるメッサーシュミットBf109の操縦桿を握りながら、クロウは機体を急降下させる。

 

 乗り慣れた愛機の翼が、心地よい加速を齎す。

 

「全機、俺に続けッ 1機たりとも艦隊に近付けさせるな!!」

 

 フルスロットルで急降下。

 

 クロウの駆るメッサーシュミットは、猛禽の如く舞い降りる。

 

 タイプ・ドライの炸裂から、未だに立ち直れないでいるイギリス軍のバラクーダに目を付け、一気に襲い掛かった。

 

 背後に回り込むと同時に、機首プロペラ軸に装備した30ミリ・モーターカノンを発射する。

 

 イギリス軍パイロットは、クロウの接近にすら気付いていなかった。

 

 砕け散るバラクーダ。

 

 そのまま、クロウは一気に駆け去る。

 

 直線速度に優れるメッサーシュミットは、正に一撃離脱に特化した戦いこそが相応しい。

 

 フォッケウルフのタンク技師は、メッサーシュミットを「ひ弱なサラブレット」と称した。

 

 その評価は確かに正しい。

 

 だが、

 

 クロウに言わせれば、乗り手次第で化けるのが馬と言う物。要は、そいつの性能を、パイロットが引き出せるかどうかが重要なのだ。

 

 新たな目標を発見し、狙いを定めるクロウ。

 

 だが、その背後から、クロウを仕留めるべく、猛禽の翼が迫る。

 

 追いすがってくるシーファイアが、メッサーシュミットの背後に回り込んだ。

 

 イギリス軍の主力戦闘機スピットファイアの艦載機型。

 

 クロウにとっては何度も対峙したライバルのような機体。

 

 操縦桿を軽く倒しながら、相手の様子を確認するクロウ。

 

 シーファイアは、その特徴である高い旋回性能を駆使して、クロウのメッサーシュミットに追いすがってくる。

 

「機動性はお前の方が上だって事は判ってんだよ。だからッ」

 

 叫びながらクロウは、メッサーシュミットのスロットルを全開まで押し上げる。

 

 迸る機銃弾が空を切る。

 

 攻撃態勢に入っていたシーファイアだったが、パイロットはクロウが掛けた急加速を読み切れず、攻撃が空ぶったのだ。

 

 その間にクロウは機体を急旋回させ、照準器の中にシーファイアを捉えた。

 

 シーファイアのパイロットは、慌てて操縦桿を引き、急旋回で回避に移ろうとする。

 

 しかし、

 

「遅いッ」

 

 モーターカノンを1連射。

 

 直撃を受けたシーファイアは、翼を叩き折られ、スパイラルダウンしながら落下していった。

 

 

 

 

 

 空戦の様子を、エアルは「シャルンホルスト」の艦橋から眺める。

 

 直掩隊が奮戦してくれているおかげで、今のところ第2艦隊に接近する敵機はいない。

 

 第一波はどうやら、やり過ごせそうだ。

 

 しかし、油断はできない。

 

「今日中に、あと何回、攻撃を受けるかな…………」

 

 何度も攻撃を受ければ、乗組員やパイロットの疲労も増す事になる。

 

 疲労困憊の所に攻撃を受ければ、損害は避けられないだろう。

 

 チラッと、背後に目をやる。

 

 リクライニング付きの艦娘席に座ったシャルンホルストは、ジッと目を閉じて艦の制御に集中している。

 

 なるべく、身重の彼女に負担を掛けたくは無いのだが、戦闘が本格化すれば、そうも言ってられないだろう。

 

 可能なら変わってやりたいくらいだが、こればかりはそうもいかない。

 

 エアルとしてはせめて、シャルンホルストの負担が軽くなるように努めるしかなかった。

 

「敵攻撃隊、撤退します!!」

 

 報告を受け、歓声が上がる。

 

 見れば確かに、

 

 直掩隊に追い立てられた敵の攻撃隊が、次々と機首を翻し、南へと飛び去って行くのが見えた。

 

 第2艦隊各艦への損害は無し。

 

 イギリス軍の第1次攻撃隊は、完全にドイツ軍によって完封された形だった。

 

 

 

 

 

 第2艦隊交戦開始。

 

 この報告は、ドイツ艦隊総旗艦「ティルピッツ」へも、直ちに伝えられた。

 

 ウォルフは「ティルピッツ」の艦橋に佇み、報告を聞き入る。

 

 身じろぎしないウォルフ。

 

 だが、傍らのシュレスだけは、その微妙な表情の変化に気付いていた。

 

「心配か?」

「…………」

 

 答えないウォルフ。

 

 しかし、その沈黙が何より雄弁に事実を語っている。

 

 苦笑するシュレス。

 

「素直じゃない奴」

「そんな事より集中しろ。間も無く作戦開始時刻だぞ」

 

 言ってから、ウォルフは視線を外して背を向ける。

 

「信じて任せたんだ。あとはこちらが使命を果たすだけだ」

「はいはい、分かった分かった」

 

 肩を竦めるシュレス。

 

 ウォルフのその言葉に、何よりも息子たちに対しる信頼が見て取れた。

 

 今回、海軍に求められている任務は、アントワープ港への突入と、同行に停泊している艦艇の殲滅、及び港湾機能の破壊だ。

 

 ヒトラーはアントワープを破壊する事で、連合軍の補給に負担を掛ける事を目指している。

 

 しかし、その前にどうしても、突破しなくてはならない相手がいる。

 

 イギリス本国艦隊主力だ。

 

 事前情報では、複数の戦艦を含む水上砲戦部隊が展開されているという。

 

 しかも、その中には最新鋭のライオン級も含まれている。

 

「まともな戦いでは、ドイツ艦隊に勝ち目はないのは間違いない」

 

 深刻な表情で呟くウォルフ。

 

「まあ、いつもの事なんだがな」

「その通りだ」

 

 軽口をたたくウォルフに、シュレスは頷きを返す。

 

 大戦が始まり、数多の戦火を潜り抜けて来たドイツ艦隊。

 

 その中で、初めから有利だった戦いなど1つもない。全て、不利な状況から、策を用いて逆転して来たのだ。

 

 つまり、この追い詰められた状況ですら、ウォルフ達にとってはいつも通りの事に過ぎなかった。

 

 絶望の海を突き進む「ティルピッツ」。

 

 しかし、そこに乗り込む将兵、艦娘に、絶望を感じている者は1人としていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドイツ海軍第2艦隊に対する第2次攻撃隊は、第1次攻撃隊が去ってから、約1時間後に襲来した。

 

 「シャルンホルスト」のウルツブルク・レーダーが敵影を捉えると同時に、直ちに戦闘配置が成される。

 

 機関出力を上げる「シャルンホルスト」。

 

 同時に、3基の主砲を左舷側に向ける。

 

 装填されているのは当然、対空用のタイプ・ドライ。

 

 しかし、

 

「…………厄介な」

 

 双眼鏡を下ろしたエアルは吐き捨てるように言った。

 

 先のタイプ・ドライによる先制攻撃で懲りたのか、イギリス軍攻撃隊は各機の間隔を空けて接近してくる様子が見える。

 

 あれではタイプ・ドライを撃ったとしても、効果はたかが知れている。最悪、砲弾を無駄にするだけで終わる可能性もあった。

 

 恐らく攻撃直前に陣形を組みなおす気なのだろう。

 

 先の戦訓を活かしたらしい。

 

 状況に合わせて戦術を変更してくるあたりは、流石はロイヤル・ネイヴィーと言ったところか。その懐の深さには、計り知れない物を感じざるを得ない。

 

 だが、

 

「まあ、それならそれで、手は考えてあるんだけどね」

 

 ニヤリと笑うエアル。

 

 こうなる事を、こっちも想定済み。それに対応する為の戦術も汲んである。

 

「航空隊に命令、《ただちに攻撃開始せよ》!!」

「了解!!」

 

 敵がそう来ることは織り込み済み。

 

 ならばこちらは、手順を入れ替えるまでの事だった。

 

 

 

 

 

 命令を受け、クロウのメッサーシュミットを先頭に、イギリス軍攻撃隊に襲い掛かるドイツ軍直掩隊。

 

 クロウは機体をフルスロットルで突進させると、1機のバラクーダに目を付けた。

 

 ドイツ軍接近に気付いたイギリス軍も、防御砲火を撃ち上げて対抗しようとする。

 

 だが、

 

「ビビッて間隔を空けたのが仇になったな、ライミー共が!!」

 

 降下と同時に。機銃を1連射。

 

 コックピットに撃ち込まれた弾丸が、パイロットを殺傷し、バラクーダは力を失ったように高度を落とす。

 

 クロウの攻撃を皮切りに、後続のメッサーシュミットが、フォッケウルフが攻撃を開始する。

 

 対して、「シャルンホルスト」からの先制攻撃を警戒していたイギリス軍攻撃隊は、虚を突かれた。

 

 彼等はドイツ艦隊が、今度も戦艦の主砲斉射で、自分達の陣形を崩してから戦闘機を繰り出してくると思っていたのだ。

 

 奇襲に成功するクロウ達直掩隊。

 

 高空から襲い掛かったドイツ軍に対し、イギリス軍は対応が遅れ、たちまち撃墜する機体が相次ぐ。

 

 陣形を組む暇もなく、逃げ惑う機体が続出する。

 

 それをクロウ達は、追いかけまわして撃墜していく。

 

 それでも一部の機体は突破に成功。第2艦隊上空へ、果敢に切り込んでくる。

 

 対して、

 

 自身に迫る凶鳥を、エアルは真っ向から睨み据える。

 

「右舷、対空戦闘…………」

 

 右手を掲げる。

 

 迫るイギリス機。

 

「撃ち方始め!!」

 

 腕を勢いよく振り下ろした。

 

 「シャルンホルスト」の右舷に備えられた5基、更に後部艦橋後方に備えられた1基、合計6基12門の60口径12.7センチ高角砲が火を吹く。

 

 ウルツブルク・レーダーの精密測距により得られたデータを元に、各砲が最適な包囲、角度、距離にて射撃を開始した。

 

 たちまち、空中に砲弾炸裂の黒煙が咲く。

 

 更に、そこへ各機銃座からの攻撃も加わり、対空砲火を形成する。

 

 既に直掩隊の迎撃によって、陣形が乱されているイギリス軍攻撃隊は、個々バラバラに突入せざるを得ない。

 

 航空機の攻撃と言うのは、適正な陣形を組んで行ってこそ真価を発揮する。

 

 如何に高機動を誇る航空機と言えど、各個撃破が可能な状況では脆い。

 

 陣形を組まずに突入を図ったバラクーダ2機が、外周のを固める駆逐艦の対空砲によって撃墜される。

 

 更に、3機が輪形陣の突破を図ったが、待ち構えていた「シャルンホルスト」「プリンツ・オイゲン」が砲火を浴びせる。

 

 たちまち、十字砲火に晒されたバラクーダ2機が火球に変じる。

 

 残った1機が魚雷投下に成功するも、直後に「シャルンホルスト」からの砲撃によって撃墜。

 

 放った魚雷も、回避行動を行った「シャルンホルスト」を捉えるには至らず、迷走して沈んでいった。

 

 結局、

 

 イギリス軍第2次攻撃隊も直掩隊と対空砲火によって撃退された。

 

 一部の機体は第2艦隊への攻撃に成功したが、戦果は挙げられず、這う這うの体で引き上げていくのだった。

 

 

 

 

 

 報告を聞き、「ライオン」艦上のフレデリックは、苛立ちを募らせていた。

 

 待てど暮らせど、入ってくる報告は味方の損害報告ばかり。

 

 朝から始まったドイツ海軍第2艦隊に対する航空攻撃は、予想を遥かに越える敵直掩隊の奮戦と対空砲火によって、未だに碌な戦果も挙げられず、損害ばかりが積み重なっている。

 

 座興のつもりで始めた「ナチス狩り」が、逆に味方を窮地に立たせていた。

 

「ええいッ いつまで待てば良いのだッ」

 

 苛立ちを堪えようともせず、当たり散らすフレデリックに、幕僚達はうんざりした調子で遠巻きに眺める。

 

 「自称次期国王」のディランがいなくなって、誰もが清々したと思っていた矢先に、今度は上位互換が土足で乗り込んできたのだから堪った物ではないだろう。

 

「たるんでおるッ どいつもこいつもたるんでおるッ 航空隊に伝えよッ あと1時間以内に戦果の報告が無ければ、全員2階級、いや、3階級降格だとな!!」

「は」

 

 傍らに控えているアルヴァンが、恭しく頭を下げる。

 

 フレデリックは苛立ち紛れに、傍らのボトルを掴むと、中身のワインをグラスに空けて一気に煽る。

 

 更に、もう一杯注ごうとしてボトルを傾けるも、注ぎ口からは1滴だけ、タラリと赤い液体が零れ落ちるのみだった。

 

「おいッ 酒がないぞ酒がッ とっとと持ってこんかッ!!」

 

 赤ら顔で叫ぶフレデリックには、司令官としてのプライドも、国王としての威厳も無い。

 

 ただの醜悪な酔っ払いが、玉座に汚い尻を乗せているようにしか見えなかった。

 

「まったく、どいつもこいつも、たるんでおるわッ 少しは大英帝国の為に、命を賭して働こうとは思わんのかッ この不忠者どもがッ」

 

 喚き散らすフレデリック。

 

 無言で軽蔑する幕僚達。

 

 人はどこまで醜悪になれるのか?

 

 そして、その醜悪な存在に、人はどこまで耐えられるのか?

 

 その実験が、「ライオン」の艦橋で行われていた。

 

 だが、事態は程なくして動いた。

 

 それも、イギリス側が全く予想してなかった方向に。

 

 駆け込んでくる足音。

 

 通信士官が電文をもって、艦橋に上がって来た。

 

「大変です!!」

「うるさいぞッ 静かにせんか!!」

 

 怒鳴り散らすフレデリック。

 

 しかし、艦長は構わず、視線で読むように促す。

 

 通信士官は頷くと、緊張した面持ちで口を開いた。

 

「アントワープ港在泊の艦艇より緊急信ですッ 《我、ドイツ艦隊の襲撃を受く。至急、救援を乞う》!!」

 

 一同がざわめく中、更に続ける。

 

「《尚、敵艦隊の中に『ティルピッツ』を認む》!!」

 

 戦慄する一同。

 

 今、ドイツ海軍の真の意味での作戦が、切って落とされたのだった。

 

 

 

 

 

第83話「海燕乱舞」   終わり

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