瀬呂side
「オラオラオラァ!」
短弓モードのシックルシューターから、光の矢を乱射しつつ、前以てあちこちに用意しておいた岩塊をテープで引き寄せ、投げつける。
城跡へ向かって歩き続ける敵を足止めしようと、攻撃を続けているが…
「………」
敵は顔色一つ変える事無く、光の矢を防ぎ、岩塊を撃墜していく。
「くそっ! 足止めすら出来ねぇのかよっ!」
思わずそう愚痴りながら、エネルギー切れになったシックルシューターのバッテリーを新しい物へと素早く入れ替える。
予備のバッテリーはこれで最後。なんとか本命まで持たせないとな…。
「瀬呂君!」
そこへ聞こえてきた麗日の声。咄嗟に俺がその場から飛び退くと―
「いっけぇぇぇっ!」
俺が攻撃している間に麗日が浮かせていた大量の岩塊を纏めて落としていく。
容赦なく敵へ降り注ぎ、山のように積み上げられた岩塊。その重さは軽く3tはあるだろう。
「はぁっ、はぁっ……あれっ?」
「麗日!」
青褪めた顔でふらついた麗日を咄嗟に支えながら、岩塊の山に視線を送る。
あれだけの質量。いくらあの敵が超一流と呼ばれる類だとしても―
「ッ!?」
ただじゃ済まない。心に芽生えたそんな願望を打ち砕くかのように、岩塊を吹き飛ばして歩みを再開する敵。
「くそっ!」
背筋に冷たいものが走る感覚を味わいながら、俺はシックルシューターを、麗日はデュアルチャクラムを構え―
「レーザースタンアロー! 最大出力!」
「軌道入力。回転数MAX! デュアルチャクラム! シュート!」
同時に攻撃を仕掛ける! 恐らく効果が無いことは百も承知。だけど5秒でも、3秒でも良い。時間を稼げれば!
「無駄な足掻きだ」
次の瞬間、俺達は敵の放った衝撃波によって吹っ飛ばされ、地面へと叩きつけられてしまった。畜生、まるで歯が立たねぇ!
「………」
「くっ!」
間髪入れずに放たれた追撃を、俺はテープの巻取りによる高速移動でなんとか回避。
その後も弾幕のように放たれる攻撃を掻い潜って、麗日を回収すると―
「もうすぐ本命だ。何とかそこまで!」
「う、うん!」
ボロボロの体に鞭打って、本命の罠が仕掛けられた地点へと急ぐ。あと少し…あと少しだ!
麗日side
「瀬呂! 麗日!」
峰田君の声に迎えられ、転がるように着地した私達は―
「峰田!」
「準備出来てるぜっ!」
「よし、麗日! 頼む!」
「うんっ!」
すぐさま本命の罠発動に取り掛かる。と言ってもやることは単純。
ここまで来る間に敵へぶつけた岩塊の全て。それを3倍してもまだ足りない程の大量の岩塊。
それを堰き止める為地面に打ち立てられた大量の丸太全てを、私の“個性”『無重力』で浮かせるだけだ。
正直、許容量はもう限界。この状態で、これほど大量の丸太を浮かせればどうなるか…想像するまでもない。
「それでも…やる!」
私は残る力全てを振り絞りながら、丸太へと触れ―
「うぅぅぅぅぅっ!」
「プルス! ウルトラァァァァァッ!!」
一気に丸太を浮き上がらせて、岩塊を敵へと解き放った!
下手な土砂崩れを軽く上回る勢いで、轟音と共に斜面を転げ落ちていく岩塊は、迎撃を物ともせずに敵を飲み込んでいき―
「行けっ! 峰田!」
「任せろぉっ!」
「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁっ!」
更に瀬呂君の『テープ』を使って宙に舞った峰田君が、頭からの出血も厭わずに投げ続けた『もぎもぎ』によって、一塊になっていく!
「見たか! これが本命だぁ!」
敵を封じ込めた巨大な岩塊を前に、勝利の雄叫びを上げる峰田君。
「よっしゃぁ!」
瀬呂君も小さくガッツポーズを決め、私も安堵の溜息を吐く。あの岩塊の質量は、軽く見積もっても10tはある。
いくら超一流の敵でも、あれから抜け出す事は簡単じゃない…筈。と言うか、そうであってほしい。
「ヘヘッ、閉じ込めて…やったぜ」
頭からダラダラと血を流しながら呟いている峰田君も、そして瀬呂君も私と同じ思いだろう。だけど…
「ッ!?」
一塊になった岩塊。その隙間から光が漏れた次の瞬間、岩塊は爆音と共に木っ端微塵になり、それによって生じた衝撃波で、私達は吹き飛ばされてしまった…。
出久side
「クッ! 本命が防がれた!」
「敵、麗日達に接近!」
障子君と耳郎さんの焦り混じりの声を聞きながら、僕は真幌ちゃんと活真君に一瞬だけ視線を送り、すぐに数百m先の敵へと視線を戻す。
あの本命罠は、今用意出来る最上の物だった。それが通じなかったとなると、残す手段は…直接攻撃による撃破しかない!
「前に出る! 真幌ちゃんと活真君をお願い!」
麗日さん達に迫る敵を青山君と八百万さんが牽制し、雷鳥兄ちゃんがケラウノスで斬りかかって行く中、僕も全速力で飛び出していく。
ここで必ず、守り抜いてみせる!
雷鳥side
「はぁぁぁっ!」
青山の『ネビルレーザー』と八百万が創造した軽機関銃の援護を受けながら、俺は刀身に電撃を纏わせたケラウノスで、敵へ斬りかかる。
「………」
残念ながらこの攻撃は、敵の展開した空気の壁によって防がれてしまうが…
「あれから半日と経たずにここまで動けるとは…痛めつけ方が足りなかったか?」
「生憎お前と違って、日頃の行いが良いもんでね」
敵の注意をこちらへ向ける事が出来た。
「VECTOR! スマッシュ!」
更に出久も拳を振るって放つ衝撃波で敵を牽制しながらこちらへ合流。
「ここは俺と出久で食い止める!」
「青山君達は、麗日さん達と一緒に一時後退! 態勢を立て直して!」
そう叫びながら、俺と出久は敵へと向かっていく。
「ここから先は!」
「僕達が通さない!」
常闇side
「ハハハッ! そらそらっ!」
光無き鍾乳洞の中で、耳障りな金属音と共に女敵の声が響き渡る。
「くっ…」
矢継ぎ早に繰り出される攻撃は、深淵闇躯を発動している俺であっても、防御に専念しなければ危険だと感じるほどに凄まじいものだ。
「何が俺の世界よ! 威勢の良い事言って!」
「ちぃっ!」
その猛攻にこちらの防御が僅かに緩んだ隙を突いて、女敵が繰り出したのは―
「この程度!」
踵落とし! 爆発音にも似た轟音が響き、俺は後方へと大きく吹き飛ばされてしまう。
「常闇!」
それを見た芦戸が援護に動くが―
「引っ込んでな! 小娘!」
女敵は硬質化した髪の毛を針のように飛ばし、芦戸を牽制。その場へ釘付けにしてしまう。
「哀れね。ヒーロー気取りのガキども」
勝ち誇った顔で俺達を嘲る女敵。たしかに、ここまでの戦況は俺達の圧倒的不利。奴は己の勝利を微塵も疑っていないのだろう。
だが、だからこそ付け入る隙が出来る。
「まだ、勝負はついていない…ここからは、俺のターンだ!」
「アンタのターンなんて、無いんだよ!」
そう叫んだ俺に対し、そう叫び返した女敵。再度発動した“個性”で髪の毛を刃に変えながら向かってきた。
落ち着け。この手が使えるのは1回限り。全てはタイミングの勝負だ!
「黒影…」
奴の攻撃。そのリーチと攻撃速度はこれまでの攻防で把握している。そして攻撃パターンもだ!
「死ぃぃねぇぇ!」
「漆黒双翼!」
叫びと共に深淵闇躯を解除した俺は、そのまま漆黒双翼を発動。漆黒の翼を羽搏かせて跳び上がることで、攻撃を回避!
「目覚めよ! ノワール! シュバルツ!」
更に2枚のディスクを投げ、指を鳴らすことで我が使い魔、ノワールとシュバルツを起動すると―
「攻撃!」
女敵へと差し向けた! 俺の命令に従い、矢のようなスピードで女敵へ向かっていくノワールとシュバルツ。
「ハン! 何かと思えば、そんな玩具の鳥が何になる!」
「鳥ではない! 烏だ!」
「知ったことかぁぁぁっ!」
俺の声をそう切り捨て、ノワールとシュバルツを叩き落そうと待ち構える女敵。そう来ると思っていたぞ!
次の瞬間、ノワールとシュバルツ両方の嘴が開き、仕込まれていた小型閃光弾が炸裂!
「あぁぁぁっ! 目が! 目がぁぁぁっ!」
放たれた強烈な閃光によって焼かれた両目を手で覆い、苦悶の叫び声を上げる女敵。好機到来!
「芦戸!」
「待ってました!」
俺の声を聞くや否や、岩陰から飛び出してくる芦戸。手にした万能噴霧器の弾倉型カートリッジを素早く入れ替え―
「集中噴射!」
化学接着剤を噴射! 女敵の髪を接着剤まみれにして固めてしまった!
「わ、私の…か、髪が!」
ガチガチに固められた状態では“個性”も働かないのか、未だ視力の戻らない目を抑えるのも忘れて狼狽する女敵。悪いが…勝負を決めさせてもらう!
俺は、漆黒の翼を羽搏かせて奴との間合いを一気に詰めると、奴の両肩を掴んで再度上昇。空中で体勢を入れ替えて肩車のように担ぎ上げると―
「必殺! 堕天使の生贄!」
上下逆さまとなり、そのまま自由落下。地面へと叩きつけた!
「ガハッ…」
吐血すると同時に白目を剥いて気絶する女敵。本来の威力ならば、その命を刈り取ることも出来たが…
「ギリギリでブレーキをかけておいた。命を奪うつもりはない」
土壇場で翼を羽搏かせ、威力を僅かに弱めておいた。如何に凶悪敵とはいえ、法の裁きを受けさせない訳にはいかないからな。
「常闇!」
「こいつの拘束が済み次第、他の救援に向かうぞ。残る敵はどちらもこいつ以上の使い手。戦力が必要な筈だ」
「うん!」
轟side
「はぁぁぁっ!」
両肩と背面の推進装置を使った縦横無尽な動きで、敵を翻弄しながら、適格に蹴りを打ち込んでいく飯田。
「烈怒頑斗裂屠!」
そんな飯田とは対照的に、最短距離を一直線に駆け抜けて必殺の拳を叩き込む切島。
敵の左腕は、火炎瓶の直撃で炎に包まれた結果重大な支障を来しているし、吸阪特製ブレンドを浴びせられた事で、右目と鼻が利かなくなっている。
だから、飯田の動きには付いて行けなくなっているし、切島の攻撃。特に左側への攻撃には、防御が間に合わず何発も直撃を許している。
「痒いな!」
だが、その圧倒的なパワーとタフネスは健在。反撃として振り回される右腕を一発でも食らえば、それで終わりだ。だからこそ―
「ケロッ!」
俺や蛙吹の援護が重要になってくる。蛙吹は保護色で姿を隠しながら、舌を使って敵の動きを阻害。
「発射」
そして俺は、背中に装着したサポートアイテムを利用して、空から援護射撃だ。
メリッサさんの作ったサポートアイテムは通常、俺に飛行・滞空能力を与えるフライングユニットとして機能するが、状況に応じてユニットの一部が銃…2挺のライフルに変形した銃撃形態を取る事も出来る。
銃撃形態では飛行速度と滞空能力が低下する代わりに、俺の“個性”と連動させることで、右側のライフルからは冷凍光線。左側のライフルからは熱線を発射出来るようになる。
威力に関しては、直接放った方が高いが…殆ど負担を考えずに遠距離攻撃出来るのは、ありがたい限りだ。そして―
「てめえら…無駄だと言って―」
苛立ち混じりの咆哮を上げようとした敵の動きが鈍くなったのはその時だ。ようやく効いてきたか。
「な、なんだ…か、体が…」
「ただ我武者羅にお前を攻撃していた訳じゃないってことだ」
「俺の足、そして切島君の手には、蛙吹君の作った毒性の粘液が塗られていた」
「私の舌からも分泌させていたわ。でも、普通の敵なら10人は動けなく出来る量を使って、ようやく動きが鈍くなるなんて、とんでもないタフさだわ」
「観念しろよ! オッサン!」
動きの鈍った敵を仕留める為、一斉攻撃の態勢に入る飯田と切島、そして蛙吹。
俺も砲撃形態を解除し、“個性”による直接攻撃の態勢に入る。これで勝負を―
「小賢しい真似しやがって…」
「この程度の毒で…俺が…」
「俺が仕留められるかぁぁぁっ!!」
咆哮と共に、昨日海岸で見せた“個性”を全力で発動した姿へと変わっていく敵。いや、違う!
「見せてやるよ! 俺が化け物だと呼ばれる理由をっ!」
「巨大化!?」
「あの姿…天喰先輩かよっ!」
5mを超える程に巨大化した敵を前に、数秒前まで感じていた勝利の予感はどこかへ吹っ飛んだ。
「ふぅぅぅ……」
「攻撃、来るぞ!」
「霜巨人の大盾!」
そして飯田の声に、俺が全力で氷壁を展開した直後!
「グワォォォッ!」
敵は口から熱線を発射。氷壁で受け止めるが…
「くそっ!」
「退避だ! 蛙吹君!」
「ケロッ!」
俺達が回避する時間を数秒稼いだところで、熱線は氷壁を貫通。
「グォォォッ!」
そのまま敵は、熱線で周囲を薙ぎ払い…周りの森を火の海へと変えてしまった。
「くそっ、なんて奴だ…」
思わず口から出た言葉は、その場にいた全員に共通した思いだろう。現状の戦力であいつを止められるとしたら…やはり、切り札を切るしかないか。