出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2 作:SS_TAKERU
お楽しみ頂ければ、幸いです。
なお、今回の短編を製作するにあたり、幾つかのグルメ漫画やレシピ本を参考にしました。
雷鳥side
さて、八百万の提案から3日が経ち、旅行の当日。
俺と出久を含む1-Aの19人は、待ち合わせ場所である雄英高校の最寄り駅に集まった訳だが…。
「待ち合わせの時間まで5分…あとは八百万だけか」
「彼女に限って遅刻という事は無い筈だが…」
そう、集合時間*1の5分前になっても八百万がまだ来ていないのだ。どういう事かと、出久や飯田と首を傾げていると―
「なぁ、なんかデカくて豪華そうなバスが来たぜ…」
聞こえてきた切島の声。その若干困惑した声色に視線を送ってみると、たしかに1台の大型バスがこちらへ向かって来ている。
やがてバスはゆっくりと俺達の前に停車。その車体に描かれていたのは『YAOYOROZU KANKOH』の文字。
「吸阪君、まさかとは思うが…」
「まさかも何も…見たとおりだろ」
飯田の問いにそう返した直後、バスのドアが開き―
「皆さん! おはようございます!」
ハイテンションでプリプリした八百万が姿を現した。
「すっごい豪華!」
「広くて綺麗だよ!」
バスに乗り込んだ直後、葉隠や芦戸の声が響いたが、それも無理はない。
十分なスペース*2を取って配置された座席*3は、全てが総革張り。
大型の冷蔵庫2台にパウダールーム、小規模だがバーカウンターまで備えている超豪華仕様だ。
「父にお願いして、9月から系列の旅行会社で運用予定の大型観光バス、それを1台都合してもらいました。側面のロゴは、今回だけの
うん、八百万…交通手段を用意してくれたのはありがたいけど…高校生の旅行で使って良いレベルじゃないと思うよ。
まぁ、ナチュラルに育ちの違いを見せつけられても厭味に感じないのは、八百万自身の育ちの良さなんだろう…等と考えていたが―
「あとは、
八百万の言葉で、我に返る。そう、今回の旅行に当たり、雄英高校から出された条件は3つ。
1つ目は、行先は日本国内、それも雄英高校から車で2時間以内の距離にする事。
2つ目は、朝と晩、1日2回の定時連絡を欠かさない事。
そして、3つ目は雄英からプロヒーローを1名、護衛兼引率として同行させる事だ。
「お待たせー」
その時、バスの外から声が聞こえ、全員の視線がバスの乗降口に集中する。果たして、誰が引率なのか…。
「おはようございます!」
「ミッドナイト先生!」
現れたのは、いつもの
「今回の旅行、護衛として私が同行させてもらうわ。よろしくね♪」
こうして、1-Aと
出久side
出発から2時間弱。バス旅行はすこぶる快適なまま進んでいた。
シートの座り心地は最高だし、朝食として八百万さんが用意してくれたお弁当*4の味はまさに極上。
皆それぞれお喋りやゲームを楽しんで、文字通り最高の時間だ。
そういえば、ミッドナ…旅行中は香山先生と呼ぶように言われたんだった。香山先生と雷鳥兄ちゃんが、お弁当の容器に印刷されたロゴを見て、帝国ホテル…と呟いていたけど…うん、聞かなかった事にしよう。閑話休題。
「皆さん、間もなく目的地に到着しますわ」
そんな事を考えている間に、目的地の近くまで来たみたいだ。目的地は一体どんな所なんだろう?
バスから降り、荷物を持って歩くこと5分。僕達は今回の旅行の目的地へと到着した。
「うわぁ、凄い…」
広大な敷地に建つ何件ものコテージ。50mも歩けば白い砂浜と青い海が広がっている。
「八百万さん、ここは?」
「はい、父の系列会社、その1つが運営しているグランピング施設です」
「グランピング…設備や用具、食料品などが予め用意されているキャンプ、そういう解釈でよかったわよね?」
「はい、今日から3日間は、私達の貸し切りになっています」
香山先生と八百万さんの会話を聞きながら、もう一度周囲を見回す。こんな広い施設が貸し切り…スケールが違いすぎて、ピンと来ない。
それは周りの皆も同じみたいだったけど…
「まぁ、八百万がここまで用立ててくれたんだ。皆、ありがたく使わせてもらおう」
雷鳥兄ちゃんの言葉で皆我に返り、動き出す。うん、ここは切り替えて、思いっきり楽しもう!
それぞれ割り当てられたコテージに荷物を置いた僕達は、すぐに外へと飛び出した。目の前にこんな綺麗な海が広がっているんだ。泳がない選択肢はないよ!
「雲一つない快晴。絶好の海水浴日和ってか」
手早く水着に着替えた僕達が、瀬呂君の呟きに頷きながら準備運動をしていると―
「お待たせー!」
水着に着替え終えた女性陣がやってきた。皆それぞれに魅力的だ。けど…
「うっひょぉー! 眼福、眼福だぜぇ……」
発情した動物のように荒い息をしている峰田君を見ていると…
「峰田くーん。悪いけど、サンオイル塗ってくれないかしら?」
香山先生の声が響いたのはその時だ。黒いハイレグの水着を着た香山先生が、サンオイル片手にウインクすると―
「よ、よ、喜んでーっ!!」
目を♡にした峰田君は物凄い勢いで走っていき…あと数十cmのところで意識を失い、崩れ落ちた。
「フフッ、目の前の色欲に負けて、私の“個性”を忘れるようじゃ、まだまだね」
そうか! 香山先生は自らの“個性”『眠り香』で、峰田君を無力化したのか!
「この子はこっちで見ておくから、皆は泳いでくると良いわ」
そう言うと香山先生は峰田君を掴んで、近くのビーチチェアに移動。うつ伏せにした峰田君を
………あれは、良いのかな?
「……良いではないかー、良いではないかー…ウヘヘェ…」
…大丈夫みたいだね。
轟side
「ひゃっほー!!」
俺が“個性”で作った氷の滑り台を、切島や瀬呂が滑り、海へ飛び込んでいく。
この宿泊施設から半径2km四方は社有地で、“個性”の使用も自由だと聞いてやってみたが…ここまで好評だと、嬉しいもんだ。
そんな事を考えていると―
「轟さん、凄く良い笑顔ですね」
八百万が声をかけてきた。
「いや、俺の“個性”で誰かを楽しませる事が出来たのが、こう、嬉しくて…な」
「その気持ち、よく解りますわ。私も、“個性”で皆さんに何かを
いつも教室で何かしら創造している八百万とは比べ物にならないが…それでも同意してくれるのは、正直…嬉しいもんだ。
雷鳥side
「さて、そろそろ昼の準備に取り掛かるか」
海で遊び始めて1時間と少し。日も大分高くなったところで、俺は昼食作りに取り掛かった。
「手伝うわ、吸阪ちゃん」
「悪いね、梅雨ちゃん」
手伝いを買って出てくれた梅雨ちゃんを伴い、まずは食材のチェックだ。
「いやはや…こいつは凄い」
八百万から、今日の早朝に食材は搬入されていると聞いたが…これは予想以上だ。
「これだけ良い材料が揃っていると…腕の振るい甲斐があるねぇ」
さぁ、美味い飯を作るとするか!
「ごめん、雷鳥兄ちゃん! 気が付かなくて!」
調理を始めて約15分後、出久と麗日、耳郎が慌てて駆け込んできた。
「なんだ、まだ遊んでてよかったんだぞ」
「2人だけにお昼の用意任せるなんて、悪いよ!」
「今更だけど、手伝うよ。何でも言って」
3人とも律儀だねぇ…。
「よし、それなら…主菜はこんな物を作ろうと考えている」
俺は出久達に、今から作ろうとしている物を教え―
「3人には、こいつに合ったメニューを1品ずつ作ってもらおうか。テーマは自由だ、副菜でもデザートでも、好きにやってくれ」
その他のメニューを任せることにした。3人はそれぞれ何を作るか話し合い…調理を開始。瞬く間に時間は経過し…。
「昼食、出来たぞーっ!」
「早く来ないと冷めちゃうよーっ!」
昼食を完成させた俺達は、皆にそう呼びかけた。
吸阪君達の声に呼ばれた私は、水着の上からパーカーを羽織り、食事スペースに足を踏み入れた訳だけど―
「これは…凄いわね!」
3組の7人掛けのテーブルにそれぞれ用意されていたのは、一風変わったすき焼きをはじめとする4品。どれも実に美味しそうだわ。
「一応、メニューの説明を。俺が作ったのは、トマトすき焼き」
「僕は生春巻きを作りました。具材はサーモンとアボカド、茹で海老と胡瓜、生ハムと大葉の3種類です」
「私が作ったのは、アサリの酒蒸しです!」
「ウチは、夏野菜の揚げ浸しを作ったよ。結構上手く出来たと思う」
「4人とも凄いわ! 早速いただきましょう! 飯田君!」
「それでは、いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
クラス委員長である飯田君の号令で、始まる昼食。私も女子達と同じテーブルで、早速食べ始めるわ。
「実は、楽しみにしていたのよ。吸阪君の料理」
ここ数日、ゼリー飲料以外の物を口にする相澤君の姿が目撃されて、職員の間では衝撃が走っていたのだけど…その切っ掛けになったのが、林間合宿で吸阪君が作った料理。
相澤君の先輩として、どれ程のものか確かめさせてもらうわね!
「早速、トマトすき焼きを…」
具材は、牛肉に玉葱、トマト、それにバジル。すき焼きらしからぬ洋風な具材の組み合わせに、少々驚きながらも…一口。
「これは…美味しいわ!」
すき焼きと言えば、割り下を使った甘辛い味付け。それはたしかに美味しいけど、和牛の様な霜降り肉だと味が強くなりすぎて、3切れも食べたらくどく感じてしまう。
だけど、このトマトすき焼きは違う。トマトの酸味とバジルのフレッシュな風味、そして玉葱のシャキシャキとした食感で、和牛がさっぱりと食べられるわ!
「他のメニューはどうかしら? 緑谷君の生春巻きは……うん! バラエティ豊かな具材と、ラー油や砕いたナッツを加えたオーロラソースが抜群ね!」
「耳郎さんの揚げ浸しは、優しい味わいで夏野菜が幾らでも食べられる。そして、麗日さんの酒蒸しは……バターとニンニクがよく効いたパンチのある味ね! これは…」
思わずビール! と叫びたくなるのを必死で堪える。駄目、駄目よ。私はヒーロー・ミッドナイト。生徒達の護衛として同行しているのだから、ビールなんて以ての―
「え?」
その瞬間、目の前に置かれたグラスと瓶に、思わず目が丸くなる。これって…
「ノンアルコールビールで申し訳ないですが…」
「十分よ!」
吸阪君! 今の私には、貴方が天使に見えるわ!
瓶の栓を抜き、急いでグラスに中身を注いでいく。くぅ…キンキンに冷えているわ!
「あぁ…」
思わず恍惚の表情を浮かべながら、私はグラスに注がれた黄金色の液体を口に運び…一気に飲み干す。
「くぁぁぁっ、たまらないわ!」
美味しい料理にビール! 最高の組み合わせね!
芦戸side
吸阪達の作ってくれたお昼、すっごく美味しいんだけど…
「ねぇねぇ、吸阪。なんで、すき焼きを作ったの?」
私には、吸阪がお昼にすき焼きを作った理由がわからなくて…思い切って聞いてみた。すると―
「まぁ、極上の肉があったからそいつを使って料理をしたかった。だが、海でバーベキューなんて、在り来たり過ぎて面白くない。だからちょっと変化球にしてみた…ってところかな」
そう言って笑う吸阪。要するに、吸阪なりのこだわりって事だね!
そんな事を考えながら食事を進めていくと、料理はどんどん減っていき―
「あ…」
とうとう鍋に残っているのはお汁だけ……無くなっちゃった。もう少し食べたかったなぁ。
そんな私達の心の声を察知したのか―
「頃合いだな。そろそろシメにするか」
吸阪はやってくれた! いつの間にか茹でていたパスタを鍋に投入し、追加で加えるのはたっぷりのチーズ!
「す、吸阪! それ、やべぇよ! マジでやべぇよ!」
切島の叫びは、その場にいた全員の叫びだと思う。そして出来上がったシメのパスタは…チーズが蕩ける和風トマト味で、すっごく美味しかった!
「一休みしたら、また海で遊ばないと……」
すっかり満腹になったお腹を摩りながら、私はそんな事を呟く。何故って? お昼がこれだけ美味しかったんだから、夕ご飯も最高に決まってる。
夕ご飯を美味しく食べる為にもお腹をバッチリ減らさないといけないからだよ!
ハハッ、私達…すっかり吸阪に胃袋握られているね!!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。