出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2 作:SS_TAKERU
お楽しみ頂ければ、幸いです。
第12.9話:お義父さんがやってきた
梅雨side
部屋で明日の予習をしていると、突然電話がかかってきたわ。相手は…お父さん。こんな時間にどうしたのかしら?
『梅雨か? お父さんだ。元気にしているか?』
「えぇ、私は元気よ。こんな時間にどうしたのかしら?」
『うむ…実はな。来週の火曜に、出張でそちらの方へ行く事になってな。帰りに少し時間が取れそうなんだ。梅雨の都合が良ければだが…顔を見に行っても構わないか?』
「そうね…私の方は大丈夫だから…明日にでも先生に話をして、面会の許可を貰うわ」
『そうしてくれると助かる。あと―』
この後、お父さんの言った言葉が、
雷鳥side
「なんだって!? 梅雨ちゃんのお父さんが、俺に会いたがってる!?」
朝食作りの最中、梅雨ちゃんから聞かされた情報で、俺は柄にもなく動揺し―
「っと…危ない危ない…」
危うく、焼いていたフレンチトーストをひっくり返し損ねるところだった。次の分を焼く前に深呼吸して、動揺を鎮めていく………よし。
「それにしても…梅雨ちゃんのお父さんは何だって、そんな事を?」
動揺を鎮め、フレンチトースト作りを再開しながら、梅雨ちゃんに問う。果たして、お父さんの
「吸阪ちゃんとお付き合いしている事は、夏休みに帰省した時、キチンと話したわ。その時は、特に何も言っていなかった筈よ…むしろ、お母さんの方が色々聞いてきたくらいだもの」
「ふむ……」
「こっちに来る事になったから、顔を見たくなった。案外こんな理由かもしれないわね」
「それなら良いんだけど…」
駄目だ。梅雨ちゃんのお父さんの狙いが読めない。単純に顔を見たいというだけなら良いのだが…
「きっとアレじゃねぇの? 『お前に娘は渡さん!』とか『お前に
取り合えず、調理の手を止めて、戯けた事を抜かしている峰田は、一発ぶん殴っておこう。
「砂藤、1つ頼みたい事があるんだが…」
朝食後、俺は砂藤に声をかけ、ある
梅雨ちゃんのお父さんが、何を考えて俺に会いに来るかはわからないが…平和的にいきたいからな。取れる手段は全て取っておくとしよう。
梅雨side
時間はあっという間に流れ、火曜日の放課後がやって来たわ。
授業を終え、
「吸阪ちゃん…」
吸阪ちゃんも制服から
「制服と迷ったんだけどね。
そう言って笑いながら、談話スペースでお茶の用意を進めていく吸阪ちゃん。そうしている内に―
「失礼します」
お父さんがやってきたわ。
雷鳥side
「お待たせして、申し訳ない」
「いえ、お気になさらず。お仕事、お疲れ様でございました」
予定の時間よりも3分ほど遅れた事を謝罪された梅雨ちゃんのお父さんにそう答え、俺達は着席。さて、どうなる事やら…
「改めましてご挨拶を。梅雨がいつもお世話になっております。父親の
「雄英高校1年、吸阪雷鳥です。梅雨さんとお付き合いをさせていただいております」
互いにそんな挨拶を交わしたところで、タイミング良く八百万がコーヒーを淹れて持ってきてくれた。
ちなみに、他の面々はそれぞれの部屋に行っている事になっているが…あちこちから様子を窺っているのが、丸わかりだ。
「これは…実に良い香りだ」
「蛙吹さんから、お父様がコーヒーがお好きだと聞きましたので、インドネシア産の『コピ・ルアク』をご用意させていただきましたわ」
八百万…
「お父さん、そのケーキも美味しいわよ。甘い物、好きだったでしょう?」
「そうだな。では遠慮なく」
梅雨ちゃんに促され、コーヒーのお供に出されたチョコレートケーキを口に運ぶお父さん。次の瞬間―
「おぉ…こってりと濃厚な味わいで、実に美味い」
実に良い笑顔を見せてくれた。うん、やはり甘い物の持つ力は凄まじいな。
「すまないな、梅雨。高い買い物だっただろう?」
「いいえ。そのケーキ、
「なんと!? このケーキを…君が?」
「はい、クラスメートにお菓子作りの名人がおりまして、彼から指導を受けて猛特訓しました」
梅雨ちゃんからのネタバレが、相当強烈だったのだろう。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている父さんからの質問に、笑顔で答える。
まぁ、人様に出せるレベルになったのは昨日の夜なんだが、これは黙っておいていいだろう。ザッハトルテ、なかなかの強敵だった。
「そうか…梅雨から料理上手と聞いていたが、予想以上だ」
「お褒めに預かり、光栄です」
そんな会話を交わしながら、暫しの間コーヒーとザッハトルテを味わっていると―
「吸阪君」
「はい」
不意にお父さんの雰囲気が変わった。俺も改めて背筋を伸ばし、それに答える。
「
「それは…ご愁傷さまでございます」
「うむ…働き盛りで梅雨と同い年の子どももいた。さぞ無念だったと思う」
「そして、葬儀の帰り道…もしも梅雨が私よりも先に死ぬような事があったらどうなるんだろう…等と考えてしまってね」
「すまんな梅雨。縁起でもない事を考えて…だが、ヒーローを目指す以上、ありえない事じゃないだろう?」
「……そうね。その覚悟をしておく必要は、あると思うわ」
「もしも、梅雨が亡くなったら…恐らく私が喪主になってお葬式をする訳だが…その時に、吸阪君と我々家族が何の面識も無かったとしたら、下手をすれば吸阪君は、梅雨の友人としてしか、梅雨を見送る事が出来なくなってしまう」
「梅雨から聞いた話や今日の様子から見ても、吸阪君は梅雨の事をとても大切にしてくれている。だが、私達にとっても、梅雨は大事な娘であり、家族なんだ」
「だからこうやって、一度しっかりと顔を合わせておけば、梅雨に何かあった時も安心だと思ったんだよ…本当にただそれだけだ」
「今日は本当に会えて良かった。これからも梅雨の事をよろしくお願いいたします」
「はい! こちらこそ、これからもどうぞよろしくお願いいたします」
お父さんの言葉にそう答え、俺も深々と頭を下げる。
俺の前世は、嫁も子どももいなかったし、早逝した両親以外家族や親類もいなかったが…お父さんの気持ちはなんとなくわかる気がするな。
「で、
ん? なんだ?
「吸阪君、私と
…そう来たか。
梅雨side
お父さんから吸阪ちゃんへの、一方的な勝負の申し込み。訳が分からずにいる間に、2人は中庭へと移動。
「こう見えても、私は学生時代相撲に打ち込んでいてね…学生横綱になった事もある」
「それはまた…」
「吸阪君、相撲の経験は?」
「子どもの頃にやったくらいですかね」
「そうか…」
そんな事を話しながら上着を脱ぎ、準備を進めているわ。
「え? え? 吸阪と梅雨ちゃんのお父さんが勝負?」
「だから、言っただろ! あれだよ、『娘は渡さん!』的な奴だって!」
皆は完全に観戦モードだし―
「それでは僭越ながら、この勝負の審判を務めさせていただきます!」
いつの間にかやって来たミッドナイト先生は、審判に名乗りを上げている。もう、何が何やら…だわ。
「不安なようだね。蛙吹少女」
そんな私の不安を察したのか、声をかけてくれるオールマイト。
「ケロ…お父さんはどうしてこんな事を…吸阪ちゃんの事を認めていたのに…」
「大丈夫。私も上手くは言えないが…吸阪少年と、君のお父さんを信じたまえ」
オールマイトの言葉に、私は黙って頷く。そうね…2人を信じるしかないわ。
雷鳥side
「今回の勝負、一般的な相撲と同じルールで行います。ただし、吸阪君は“個性”の使用を禁止します」
「了解です」
ミッドナイト先生の言葉にそう答え、俺は頑馬さんの見様見真似で四股を踏む。
“個性”使用禁止の上、相撲は文字通り相手の土俵だが…やるしかないか!
「それでは! はっけよい! のこった!」
その声と共に、俺と頑馬さんは正面からぶつかり合うが…
「ゲロォォォッ!」
「ぬぅぅぅぅぅっ!」
体格と馬力の差は如何ともし難く、俺は土俵際まで一気に押され―
「ぬぅん!」
「のわっ!」
そのまま派手に投げ飛ばされてしまった。やはり、相撲勝負だと分が悪いな。だが―
「これで終わりかな?」
頑馬さんの発した言葉は、ある意味で
「いいえ、もう一番お願いします!」
「結構! かかってきたまえ!」
「それではもう一番! はっけよい! のこった!」
オールマイトside
「もう一番お願いします!」
そう言って、蛙吹少女のお父さんに向かっていく吸阪少年。次で8番目だ。
「もうやめて、お父さん……ただでさえ“個性”抜きのアンフェアな勝負なのに…これじゃあ、
自分の父親が、自らの恋人を容赦無く投げ飛ばす光景に、涙を流す蛙吹少女。気持ちはわからないでもないが、弱い者いじめと決めつけるのは早計だよ。
「蛙吹少女、吸阪少年が何の意味も無く。投げ続けられているように見えるかな?」
「…ケロ?」
「
私の勘による一言を告げた次の瞬間―
「はっけよい! のこった!」
9番目が始まった。前回までと同じように、2人が正面からぶつかり、吸阪少年が土俵際に押し込まれていく。だが、ここからの流れは違っていた。
「今だぁ!」
上手を取られた吸阪少年は、咄嗟に腰を落としながら体を反り―
「だぁらっしゃぁ!」
そのまま右に大きく捻る事で、蛙吹少女のお父さんを土俵の外へと投げ飛ばした!
うむ、見事な
雷鳥side
「やった、勝てた…」
8番目でようやく掴んだ勝利。俺は呼吸を必死で整えながら、静かに勝利を噛みしめる。すると―
「まさか、10番かからずに私を投げ飛ばすとは…流石だね」
満足気な顔で、頑馬さんが声をかけてきた。
「はい、お付き合いいただき、ありがとうございました。それで…俺は…」
「うむ、君の強さを直に感じる事が出来た。合格だよ。これからも梅雨の事をよろしく頼む」
「はい!」
そう、この勝負は頑馬さんが、俺の力を直に感じたいという思いから申し出たもの。
俺だけ“個性”を使用禁止で、相撲勝負というアンフェアな条件も、悪条件の全てを克服するであろうという、頑馬さんからの一種の信頼だったのだ。その後―
「吸阪君、君が成人したら…一緒に飲もうじゃないか。最高の日本酒をご馳走するよ」
「わかりました。4年後を楽しみにしています!」
4年後、俺と酒を酌み交わす約束をして、頑馬さんは帰っていった。
出久side
こうして、雷鳥兄ちゃんと梅雨ちゃんの交際は、晴れて
「あ…緑谷君。実はね。週末お父ちゃんがこっちに来る事になったんやけど…」
「緑谷…父さんが、週末仕事でこっちの方に来るみたいなんだけど…」
夕食後の自由時間。麗日さんと耳郎さんが同時にこんな事を言ってきた…。なんだ、ものすごく嫌な予感が…。
「夕方、緑谷君と会いたいって…お父ちゃんが」
「緑谷と一度話がしたいって、父さんが言ってるんだけど…」
「え? 2人のお父さんと同時に!?」
そんな! 1人ずつならまだしも、2人のお父さんを同時に!?
「出久…頑張れ」
雷鳥兄ちゃんは生暖かい笑顔で、僕の肩を叩いてくるし、皆何とも言えない視線を送ってきた。これは…今までで最大のピンチかもしれない!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
なお、梅雨ちゃんのお父さん、頑馬さんに関する情報は全て本作オリジナルとなっております。