出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2 作:SS_TAKERU
お楽しみ頂ければ、幸いです。
出久side
耳郎さんが走り去った後、僕は海を見つめながらこれまでの事を思い返していた訳だけど…
-あのさ、緑谷…助けてくれたのは嬉しいんだけど…降ろしてくれない?-
-…あぁ! ご、ごご、ごめんなさい!-
-うん、全力で頑張るよ。耳郎さんの為にも-
-う、うん…期待、しているから-
-2人とも! そんな事を言ったら、耳郎さんに失礼だよ!-
-耳郎さん、僕は凄く似合っていると思うよ。耳郎さんのクールなイメージにピッタリだと思う!-
-あ、ありがと…-
「………僕は、僕は馬鹿か!」
己の察しの悪さ、鈍感さに心底腹が立つ。耳郎さんはずっと僕に好意を抱いていてくれたのに…全く気が付かなかったなんて!
「僕は、耳郎さんの気持ちにどう答えればいいんだろう…」
海を見つめても答えは出てこない。僕は溜息を一つ付き、コテージへ戻る為、歩き出した。
耳郎side
緑谷に思いを伝えたウチは、答えを聞く事もなく逃げるようにコテージへ戻った訳だけど…
「おかえりなさい。耳郎さん」
そこでは、香山先生や芦戸達が手ぐすね引いて待ち構えていた。ウチはアッサリと捕まり―
「ふーん、なるほどねぇ…」
「………」
「耳郎さん」
「はいっ!」
ただ名前を呼ばれただけなのに、飛び上がりたくなる程驚いてしまう。何時に無く真面目な顔をした香山先生の視線が怖い…。
「耳郎さんの気持ちは、良くわかったわ…」
「はい…」
「恋心を封じ込めての日々。さぞ辛かったでしょうね!」
「へっ!? わぶっ!」
予想外の言葉に変な声を出した直後、香山先生は私を思いっきり抱きしめた。その豊かな胸に顔が埋もれて…息が、息が出来ない!
「でも、もう大丈夫! 私達が力になるわ!」
そう宣言して、窒息寸前の私を開放する香山先生。それにしても力になるって…
「ちょ、ちょっと待ってください。ウチは…別に、緑谷と今以上の関係を…望んでいる…訳じゃ…」
「嘘はあかんよ」
思わず口にした、取り繕うような言葉。徐々に小さくなっていく
「それは…響香ちゃんの本心なん?」
「ほ、本心に決まってるじゃない。もう、緑谷は麗日と恋人関係な訳で、それを引き裂くような真似はしたくない…」
真っ直ぐにウチを見つめながら問いかける麗日から目を逸らし、少し早口で言い訳を重ねていると―
「響香ちゃん!」
麗日がバン! とテーブルを叩いて立ち上がり、一気に近づいてきたかと思ったら、鼻先がぶつかりそうになるくらいまで顔を寄せてきた。
「響香ちゃん! 緑谷君の事、好きなんでしょう!? その気持ちに嘘ついたらアカン!!」
眉を吊り上げ、ガツン! と思いをぶつけてくる麗日に、ウチはただただ目を丸くするばかり…。そして―
「それを何?
ウチに怒声を叩き付ける麗日の方が、何故か目に涙を浮かべていた。
「お茶子ちゃん、その位にしておいた方がいいわ」
「梅雨ちゃん…うん、ごめんね…響香ちゃん、偉そうな事言って」
「ううん、麗日の言っている事が正しいから…」
梅雨ちゃんが間に入った事で、ウチと麗日は互いに謝りながら席に着く。
それぞれ飲み物を口にして、落ち着いたところで香山先生が口を開いた。
「それじゃあ、改めて聞かせてもらうわね。耳郎さんはどうしたいの?」
「ウチは…」
香山先生の問いかけに、ウチは暫し沈黙し…。
「緑谷と一緒になりたい。でも、それで麗日が傷つく事になるのは…嫌、です」
自分の本心を曝け出す。うん、緑谷と恋人になりたいけど、麗日は傷つけたくない。なんて矛盾した内容。きっと皆も呆れて…
「わかったわ。じゃあ、その方向で上手くいくように考えましょう」
「え!?」
香山先生の言葉に、思わず声が出る。こんな矛盾した思い、実現なんてする訳…。
「『三人寄れば文殊の知恵』。凡人でも集まって相談すれば、思いがけない良い知恵が生まれるものよ」
「で、でも…」
「耳郎、大丈夫だって! 私、頭はあんまり良くないけど、全力で考えるから!」
「ここには女子が7人だから、3人より…2.33倍良い知恵が生まれるよね!」
香山先生の言葉を聞いても不安を隠せないウチに、芦戸と葉隠がそう声をかけ―
「耳郎さん! 私も全力でサポートさせていただきますわ!」
ヤオモモもプリプリした笑顔で、そう言ってきた。麗日と梅雨ちゃんは…言うまでもない。
「皆…ありがとう」
ここまでやってくれる皆に、ウチは泣きながら頭を下げ、
雷鳥side
「ほら、まずはこれでも飲んで落ち着け」
コテージに戻ってくるなり、俺と轟に頭を下げ、アドバイスを求めてきた出久に、俺はアイスティーの入ったグラスを手渡しながらそう告げる。
まったく、海岸で何があったのか予測はつくが…少し落ち着け。
「う、うん、ごめん…」
出久自身にも突然過ぎたという自覚はあったのだろう。一言謝るとアイスティーに口をつけ―
「実は…」
ポツリポツリと話し始めた。
「なるほどな…」
「そうか、耳郎から…か」
相談の内容は予測通りだったが、轟には驚きだったようだ。滅多に無いレベルで表情が変化している。
「僕は如何すれば良いのか…」
「出久…お前は難しく考え過ぎなんだよ。耳郎の事、嫌いじゃないんだろう?」
「うん…」
「だったら、答えはシンプルだ。好意へ真摯に応えればいい」
難しい顔で呟く出久に、俺は敢えて軽い調子でそう告げる。
「で、でも! それは凄く
「………まぁ、麗日と耳郎、どちらかと
「たしかに…緑谷が恋人を大切にする男だって事は、色事に疎い俺でもわかる」
俺と轟の言葉に沈黙し、考え込む出久。仕方ない、もう一押しといくか。
「出久。強さとはなんだ?」
「強さ、それは…」
「昔、ある高名な空手家が言っていたそうだ。『強さとは、己の意を通す力。ぶっちゃけ、ワガママを貫く力ってことさ』とな」
「ワガママを貫く力…」
「お前はもう少し、ワガママになって良い…俺はそう思うぜ」
さて、俺から言えるのはこのくらい。あとは…出久自身で決める事だ。
出久side
雷鳥兄ちゃんと轟君が寝室へ向かった後も、僕はリビングに1人残り―
「…よし」
備え付けのノートとボールペンを使って、自己分析を行っていた。
「僕の欠点…他者*1と比較する事による自己評価の低さ。謙虚な姿勢は裏を返せば自信の無さとも言える。それから、異性に対する鈍感さ、察しの悪さ……」
ブツブツと呟きながら、ペンを走らせていく。欠点の次は、自身の長所を思いつく限り書き連ね、その次は…こんな僕を好きになってくれた麗日さんと耳郎さんについて。その次は…、
時間の経過も忘れて、分析と筆記を続け…気が付くと―
「2時…か」
分析を開始して4時間が経過していた。流石にそろそろ寝ないと朝からの活動に支障を来す。僕は2人を起こさないよう静かに寝室へ入り、ベッドへ潜り込む。
「おやすみなさい」
耳郎さんの気持ちにどう応えるか。自分の中では見つける事が出来た。あとは…それがどんな結果を招くかだ。
梅雨side
時刻は朝6時。朝食作りの為に早起きした私とお茶子ちゃんは、調理スペースに向かった訳だけど―
「おはよう、お2人さん」
「おはよう、麗日さん、梅雨ちゃん」
既に吸阪ちゃんと緑谷ちゃんが準備を始めていたわ。2人はいつ起きたのかしら?
「なぁに、ホンの5分前さ。アイスミルクティー、飲むかい?」
「いただくわ」
「私も!」
吸阪ちゃんの淹れてくれたアイスミルクティーを飲みながら、朝食について打ち合わせをしていると―
「おはよう」
耳郎ちゃんも起きてきたわ。緑谷ちゃんと目が合って一瞬だけ俯いたけど―
「おはよう、耳郎さん」
「…おはよう」
緑谷ちゃんからの挨拶にはちゃんと答えているし、大丈夫ね。それにしても…緑谷ちゃんのあの表情、きっと答えを見つけたのね。
「あ、あの! 耳郎さん!」
「ッ!」
「昨日の事で、僕なりに答えを出しました。聞いて…くれますか? 麗日さんも」
「…うん」
「いつでもいいよ、緑谷君」
2人の返事を聞き、静かに深呼吸する事2回。遂にその時がやってきたわ。
「まず、耳郎さんの気持ちに長い間気づかなかった鈍感さをお詫びします。ごめんなさい」
「いいよ…ハッキリしなかったウチも悪いんだし……」
「そして、僕に好意を抱いてくれた事。凄く嬉しかったです。でも、僕にはもう麗日さんという恋人が―」
「うん、そうだよね。わかってる。麗日と別れて、ウチとくっつくなんて、そんな最低な事―」
「違います! そうじゃ…そうじゃないんです! 僕は……麗日さんも、耳郎さんも、大切にしたい!」
「………え?」
「2人の事、全力で大切にしたいんです! ワガママなのは百も承知。でも、僕はこのワガママを貫きたい!」
「どうか、お願いします!」
そう言って深々と頭を下げる緑谷ちゃん。何と言うか…不器用な告白ね。だけど―
「もぅ、緑谷君はワガママやなぁ…そこまで堂々と言われたら、断れないやん」
「ホント、ワガママだよね。でも…そんな緑谷も格好良いよ」
お茶子ちゃんも響香ちゃんも、そんな緑谷ちゃんを笑って受け入れたわ。
「これにて、一件落着…だな。さぁ、朝食作りといきますか」
そんな3人を見届けて、そう宣言する吸阪ちゃん。5人で美味しい朝ご飯を作りましょう。
轟side
「それでは、いただきます!」
「「「「「いただきます!」」」」」
飯田の号令で、始まる朝食。メニューは―
・そば粉のガレット*2
・夏野菜のホットサラダ*3
・ヴィシソワーズ*4
・フルーツヨーグルト*5
以上4品だ。家では基本和食中心だから、こういう洋風の朝食は珍しいが…その中でもガレット…蕎麦粉で作ったクレープは、初めて食べるな。
俺は早速ナイフとフォークを手に取り、ガレットを食べ始めた。
「……美味いな」
ほのかに蕎麦の香りが漂う生地と、中の具材が良く合っている。蕎麦は蕎麦として食うのが一番だと思っていたが…こういうのも悪くない。
「それにしても…」
緑谷と麗日、そして耳郎から漂ってくる雰囲気。色事に疎い俺でもわかる。むしろ―
「麗日に続いて耳郎もかよ…緑谷の奴……」
「峰田、そんだけ
「畜生…」
あの峰田の様子を見たら、気が付かない方がおかしいレベルだ。
「良かったですわね。耳郎さん」
近くに座っている八百万もこんな感じだし…俺も少しは、色事に詳しくならないといけないな…。
よく冷えたヴィシソワーズを飲みながら、俺はそんな事を考えるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
なお、コテージの振り分けはこのような風になっております。
男子(4棟使用)
雷鳥、出久、轟
飯田、尾白、切島、常闇
口田、砂藤、障子、心操
青山、瀬呂、峰田
女子(2棟使用)
蛙吹、麗日、八百万、香山
芦戸、耳郎、葉隠
今回が今年最後の更新になると思います。
今年1年、拙作をお読みいただき、ありがとうございました。
来年も更新を頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
読者の皆様。良いお年をお迎えください。