出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2 作:SS_TAKERU
今回より暫くの間、特別編パート2
お楽しみ頂ければ、幸いです。
第34.1話:嵐の始まり
タルタロスside
対“個性”最高警備特殊拘置所。通称『タルタロス』。
本土から約5km離れた海上に建造されたこの施設は、国民の安全を著しく脅かした人物を厳重に禁錮し、監視下に置く事を目的としており、その警備の厳重さは世界最高レベルと言われている。
まず、この施設を中心とした半径2km圏内は、原則的に飛行及び航行が禁止されており、無許可で侵入した飛行機及び船舶は
唯一本土と繋がっている4車線の道路も、当然ながら無許可での走行は認められておらず、許可の取得も簡単には行えない。
仮に許可を取れたとしても、敷地内へ入るまでに10を超える検査をクリアする必要があり、関係者以外の侵入は
職員も能力・思想共に高い水準をクリアした精鋭が揃っている上に、万が一の事態に備え、銃火器の携帯と発砲が許可されている。
これだけの厳重な警備を敷いているおかげで、これまでに脱獄を試みた者はおろか、脱獄計画の発覚すら無し。
我々職員からしてみれば、緊張感を保つ必要こそあるが、実に働きやすい職場と言っても―
「っ!?」
夜勤が始まって1時間。私の思考は突然の停電で打ち切られた。すぐさま自家発電
が起動し、暗闇状態はホンの数秒で回復したが…停電など私が知る限り初めての事だ。
「施設全域! いや飛行・航行禁止区域をくまなくチェックしろ!」
「収監されている囚人達のチェックも忘れるな! 場合によっては、緊急システムの発動も許可する!」
すぐさま、部下達へ指示を下し状況確認を急がせる。ホンの数秒とはいえ、収監されている連中が連中だ。何が起きてもおかしくはない。
「主任! 停電の原因がわかりました! 変電所側の人為的ミスによるシステム障害とのことです!」
「主任! この停電によって自家発電に切り替わるまでの2.5秒間、全監視システムが停止しましたが、囚人に動きは見られません」
「主任! 全区域の探査完了。侵入者は発見されませんでした」
停電の原因は
「念には念をだ。最下層…オール・フォー・ワンの独房をチェック! 回線を回せ!」
「オール・フォー・ワン!」
あらん限りの声を張り上げた。
『……何かな? 人が折角眠りについていたというのに…罪人とはいえ、基本的な人権は尊重してほしいものだ』
「極悪人のお前が人権を口にするなど、笑わせるな。大人しくしているならそれで良い」
停電にも気が付いていない様子のオール・フォー・ワンにそう言い放ち、マイクをオフにする。どうやら、気にしすぎだったか…。
「変電所に連絡。今後このような事が起きないよう、対策を強く希望する。とな」
「はい!」
部下に指示を下し、椅子に腰を下ろす。まったく、人騒がせな…。
AFOside
「フフッ…」
苛立たし気に通話を終えた看守の心境を予想しながら、微かに笑みを漏らす。
優秀な彼らの事だ。先程の停電に対して、考えうる限り最善の対応を取ったのだろう。だが―
「常識に囚われているようでは、まだまだだ」
停電によって自家発電が起動するまでの3秒弱。この極短時間で脱獄や反乱のようなアクションを起こす事は極めて困難。
『オール・フォー・ワン、聞こえますか?』
それでも、
「あぁ、よく聞こえているよ」
『お声を聴く事が出来、安堵しております。監視システムの欺瞞は300秒が限界なので、早速ではありますが、ご報告をさせていただきます』
弔も存在を知らない子飼いの部下から、外部の情報を仕入れていく。国内及び国外の情勢や、弔達の活動内容。そして警察やヒーローの動き…黒霧が捕らわれたのは少々痛手だが…十分許容範囲内だ。それにしても―
「弔は良くやっているね。流石は私の後継者だ」
『はい、ヒーローと警察を利用して、
「機会があれば、君も弔と接触すると良い。次代の魔王、会って損はない」
『時が参りましたら、必ず。それと、これが最後の報告事項となりますが…『アンバー』が本日帰国します』
「ほぉ、それは吉報だ。ドクターに連絡して、歓迎の用意を整えてくれたまえ」
『畏まりました』
「ここは休息を取るにはもってこいだ。暑さ寒さを凌げるし、食事は決められた時間に、食べやすいムース食でキチンと提供される。味が少々薄味なのが玉に瑕だけどね…そして何よりも
「そういう訳だから、もう暫くゆっくりとしている。またニュースを頼むよ」
『畏まりました。また別の方法でご報告させていただきます。それでは…』
欺瞞の限界まで15秒を残して、部下の報告は終了。同時に独房に静寂が戻った。さて、もうひと眠りするとしよう…。
連絡を受け、病院の霊安室へ駆け込むと…そこに横たわっていたのは、数時間前まで元気な姿を見せていた俺の教え子。
50年に1人の逸材と呼ばれるほどの才能を持ちながら、それを鼻にかける事もなく、努力を厭わない男だった。
クラス委員長にこそならなかったが、曲者揃いのクラスの中心人物として、毎日を全力で過ごし…そんな奴に引っ張られる形で、他の生徒達も加速度的に実力を高めていた。
まさに太陽のような、人を惹きつけて止まない好漢だった。そんな奴がどうして?
「猛崎…」
教え子…猛崎の名を呟きながら、その亡骸に近づこうとしたその時―
「近づかないで! 弟に…弟に触れないで!」
悲鳴混じりの拒絶が響き、俺目掛けて花瓶が投げつけられた。俺は敢えてそれを避けず、無言のまま顔面で受ける。
床に落ちた花瓶が砕け、入れられていた生花と水が床に散乱する中、俺は額から流れる血に構わず、花瓶を投げつけた相手…猛崎の姉に頭を下げる。
「今更…今更何をしに来たんですか! 貴方が…貴方が弟を除籍にしたんでしょう! 何の落ち度もない弟を一方的に!」
彼女は泣き腫らした目で俺を睨みながら、近くにある物を手当たり次第に俺へと投げつける。俺は投げつけられる物全てを体で受けながら―
「仰る通り、猛崎には何の落ち度もありません。敢えてどん底に落とし、そこから這い上がらせる事で、更なる成長を促す…猛崎なら必ず乗り越えられると信じて、私は心を鬼に―」
除籍にした真意は、最後まで語られる事なく平手打ちで中断された。
「ふざけないで…そんな、そんな理由で…弟は……返して! 弟を返してよ!!」
泣き喚きながら、彼女は俺を何度も殴る。異変に気付いた病院のスタッフが強制的に引き剥がすまで、それは続いた。
それから暫くして、
「私を助けて、弟を殺した罪滅ぼしのつもりですか?」
彼女はすっかり変わっていた。
「私は赦さない…いつの日か必ず、貴方に報いを受けさせてやる」
警察に保護され、パトカーに乗り込む彼女の眼は、憎悪の炎に彩られていて…
「………夢か」
いつもより1時間半も早く、最悪の目覚めを迎えた俺は、寝ぐせだらけの髪をかき上げながら…
「もうすぐ3年…か」
カレンダーの日付を確認して、静かに呟いた。
雷鳥side
朝、チャイムと共に教室へ入って来る先生を無言で迎えた俺達は―
「おはようございます!」
入って来たのが相澤先生ではなく、ミッドナイト先生であった事に、少なからず驚きを覚えていた。
「相澤君が
そこへ投げ込まれるミッドナイト先生の爆弾発言。相澤先生が…有休を取った…だと?
「はいはい、皆驚くのはわかるけど、
そんな俺達の反応は、予想の範疇だったのだろう。ミッドナイト先生は思わずスマホを手に取りかけた何人かに、そう釘を刺してから朝の連絡事項を伝えていく。
ふむ…どんな理由かは知らないが、この有休。先生方は事情を知っているみたいだな。
その日、有休を取った俺は髭を剃り、髪を束ねた上で、ダークスーツに身を包み、3年前に事故で死んだ教え子、
「…最近、誰かが来ていたか……」
墓に備えられていた花。その萎れ具合から、この数日の間に誰かが手を合わせに来ていた事を察しつつ、俺は墓を綺麗に掃除。
「こんな物しか無いが……許せよ」
見繕ってきた菓子や缶コーヒーを備えていく。社会人だったら、酒や煙草を備えるんだろうが…
そして、線香に火を点け…静かに手を合わせようとしたその時―
『貴方なんかに手を合わされるのは…迷惑です』
「ッ!?」
思わずゾッとするほど冷たい声が周囲に響き、同時に俺の
「狙撃かっ!」
転がるように近くの墓石へ身を隠し、体勢を立て直す。その間も乾いた音が連続で響き、周りの墓石へ次々と銃弾が撃ち込まれていく。
「…得物は
俺は敵の得物に当たりをつけつつ、
「まったく…墓参りで襲われるなんて、非合理的にも程があるな」
墓石から墓石へ跳び込む様にして、狙撃手へと近づいていく。向こうも接近に気付いたのだろう。それを阻もうと発砲してくるが、スナイプの様に銃弾を曲げてくるならまだしも、直線にしか飛ばない銃弾に当たるほど俺はノロマじゃない。
そうしている内に、弾が尽きたのだろう。銃撃がストップした。
「もらった!」
俺は一気に距離を詰め、狙撃ポイントと思われる茂みに跳び込んだ。
「なっ…」
だが、そこには狙撃手の姿は無く、代わりに存在したのはカメラや
『流石ですね、相澤先生。こちらの予想より1分以上早く接近されてしまいました』
さっき聞いたのと同じ冷たい声を伝えてくる小型無線機。なるほど、前以て
「どういうつもりだ。猛崎…
『お忘れですか? 貴方に報いを受けさせるつもりですよ!』
「………」
無線機越しでも判る程の激しい憎悪に、俺は息を呑む。あの時から彼女の俺への恨み、憎悪は何も変わっていない。
『今回はホンのご挨拶代わり。これからが本番です。必ず…必ず貴方を…殺してやる! イレイザーヘッド!!』
そんな叫びで彼女の声は打ち切られ、同時に激しく点滅を始める無線機。
「ちぃっ!」
咄嗟にその場を飛び退いた直後、無線機は爆発し、周囲数mを吹っ飛ばした。
「高性能爆薬を仕込んでいたか…」
スーツにかかった泥を払いつつ、立ち上がって周囲を確認すると、誰かが通報したのだろう。パトカーが数台、サイレンを鳴らしながら、こちらに近づいてくるのが見えた。
状況的に見て、俺が説明しなくてはならないだろう。まったく…
「因果…か」
?side
「久しぶりの日本。1年半ぶりですねぇ」
予定時刻ちょうどに空港へ着陸するイギリスからの直行便。約13時間のフライトを終え、1年半ぶりに日本に降り立った男は、一般客とは異なる…所謂VIPルートを通り―
「お待ちしておりました」
「お出迎え、ご苦労様です」
男の到着を迎える為に待機していた背広の男達と合流していた。
「長時間のフライトでお疲れでしょうが、公安委員長がお待ちです。このままヒーロー公安委員会へ直行します」
「えぇ、仕事が最優先です。ただし、やる事やったら帰宅させてもらいますよ。愛しの引子さんや出久君と、早く会いたいですからね」
そんな会話を交わしながら、黒塗りの4WDに乗り込む男。その名は緑谷久という。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
相澤先生の過去、および緑谷久氏の設定に関しては、本作の完全オリジナルとなっております。