出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。
お楽しみいただければ幸いです。




第34.2話:父の仕事

イレイザーヘッド(相澤消太)side

 

 2時間に及ぶ警察からの事情聴取。それを終えた俺はマイクと連絡を取り―

 

「待たせたな、イレイザー!」

 

 夜、雄英高校から程近い居酒屋で合流した。

 

「とりあえず、生中2つと枝豆。あと串焼きの盛り合わせね」

 

 予約しておいた個室に入ると、慣れた様子でマイクが注文を行い、暫くすると酒と料理が運ばれてくる。

 

「んじゃまぁ、とりあえずは…Cheers!!(乾杯)

 

 いつも通りにテンションが高いマイクに苦笑しつつ、少しだけジョッキを掲げて、ビールに口をつける。

 ………昼前から何も口にしていなかったせいか、いつもよりビールが染み渡る気がするな。

 

 

「…それで? 墓地でお前を襲った犯人、目星はついてるのか?」

 

 酒とツマミをある程度胃に収め、落ち着いたところで…マイクが本題に入ってきた。

 

「…俺を襲ったのは、猛崎…猛崎琥珀だ」

What did you say(何だって)!? Are you serious(マジかよ)?」

「あぁ、あの声…忘れようがない」

「だとすると、動機は…その……」

「弟…猛崎理央が死んだ件だ。その事で、彼女は俺を恨んでいる」

「でもよ、イレイザー。猛崎理央(アイツ)が死んだのは、お前のせいじゃない。不幸な事故のせいだ。飲酒運転のトラックが信号無視で突っ込んできた。これの何処にお前が関与したっていうんだよ?」

「彼女にしてみれば、俺が弟を除籍にしなければ、弟は事故が起きた時間帯に現場へ行く事は無かった。現場へ行かなければ事故にあう事もなかった。という理屈が成り立つ」

「それに()()()()の事でも、俺を恨むには十分すぎる」

「umm…」

 

 腕を組んだまま黙り込むマイク。俺は僅かに残っていたビールを飲み干し―

 

「10日、いや1週間で片を付ける。幸い、有休は溜まりに溜まっているからな」

 

 そう宣言する。

 

「おい待てよイレイザー。1人で動く気か? そいつは幾ら何でも無謀ってもんだ。俺も手を貸すし、事情を知ってるミッドナイトさんも力を―」

「これは俺の問題だ。俺がケジメをつける必要がある」

 

 俺の様子に、説得は困難と判断したのだろう。マイクはお手上げと言わんばかりに両手を上げ―

 

「OKOK、わかったよ。取りあえずはお前の好きにやんな。ただ…明日は出勤しろよ。()()()()()()()()()()()()からな」

 

 とりあえずは俺の単独行動を黙認してくれた。それにしても、お偉いさんか…面倒な事になりそうだ。

 

 

ドクターside

 

「ふむ、数値は前回検査した時とそう変わってはおらぬな」

 

 全ての検査が終了し、モニターに次々と映し出される数値。その内容はある意味予想通りであり、出来る事なら外れてほしいものでもあった。

 

「やはり変化無しですか」

 

 その予想は()()にとっても同じであったのじゃろう。検査カプセルから出てくると、表情を変える事もなく、そう呟いておった。

 それはそれとして…

 

「その件に関しては、ゆっくり話し合うとして…まずは服を着なさい。年頃の娘が下着姿で人前に立つもんじゃない」

「……失礼しました」

 

 まったく、自分に無頓着なのも結構じゃが、恥じらいまでは忘れてほしくないもんじゃな。

 

 

「それで、他に気になる事はあるかね?」

 

 服を着た彼女にアイスティーを薦めつつ、儂は問診を開始する。

 数値以外の面で何かしらの変化が起きておる可能性を探る為にも、これは欠かす事が出来ない訳じゃが…

 

「……最近、薬の効きが鈍くなってきました」

 

 彼女が口にしたのは、最悪と言って良い類のもの。想定はしていたが、あまりに早過ぎる。

 

「……成分の比率を変えてみよう。これで少しはマシになる筈じゃ…ただ……」

「わかっています。薬で抑えるのも限界が近い。そういう事ですよね?」

「…左様。これから処方する物が限界ギリギリ。これが効かなくなったら、もう手の打ちようが無いと言って良い」

「ドクター、正直に答えてください。()()()()()()()()()()?」

「………正直な話、予測よりかなり悪い。一切の希望的観測を排除して考えた場合……長くて2ヶ月。短くて半月。もっと短い可能性も十分にある」

「…そうですか。やはり、今帰国して正解でした」

 

 覚悟を決めた顔で立ち上がり、退室していく彼女。

 

「これからどうする気じゃ?」

「仲間と合流します。私の命が尽きる前に、決着をつけなければ」

「そうか…それなら、死柄木弔の力を借りると良い。儂から連絡を入れておこう」

「………感謝します。ドクター」

「薬はいつものルートで受け取りなさい」

「はい…もうお会いする事も無いでしょう。お元気で、ドクター」

「お大事に」

 

 深々と頭を下げ、退室していく彼女を見送ると、儂はデスクへと戻り、腰を下ろす。

 

「猛崎琥珀…またの名を(ヴィラン)アンバー。惜しいのぉ…実に惜しい」

 

 彼女はこれまで儂が出会った()()()()の中でも、トップクラスの希少性を持っておった。

 先生から“個性”を授けられるまで、自分は“無個性”だと思い込んでいた彼女が本来持っていた“個性”。

 あれを上手く活用出来れば、先生の体を完全回復させるどころか、文字通り不滅の肉体にする事も可能なのじゃが…

 

「まぁ、この2年半で蓄積出来たデータがある。彼女亡き後も()()()()()()()()じゃろう」

 

 

雷鳥side

 

「そうか、久義兄(にい)さんが帰ってきたのか」

 

 昼休み、引子姉さんからの連絡を受けた出久から話を聞き、やたらと嬉しそうだった理由を察する。

 1年半ぶりに父親と会う訳だからな。気持ちはわからないでもない。

 

「明日の夕方、面会に来てくれるって」

「そうか、それなら歓迎の準備をしておかないといけないな」

 

 俺としても、1年半ぶりの義兄との再会は楽しみだったりする訳だし…な。

 

「ねえ、緑谷君。明日…緑谷君のお父さんに、ご挨拶しても、良いかな?」

「ウチも、一度ちゃんとご挨拶させてほしい」

「ケロケロ、私も是非ご挨拶させてほしいわ」

 

 そこに麗日、耳郎、梅雨ちゃんが会話に加わり、久義兄さんに関する話題で盛り上がっていく。

 

「緑谷ちゃんのお父さんは、どんなお仕事をしているのかしら? 海外赴任中だと聞いた事はあったけど」

()()()()()だって、聞いた事があるよ。仕事の内容は()()()()だからって教えてくれなかったけど」

()()()()である事は確かみたいだ。今はイギリスを中心にヨーロッパ中を飛び回っているらしい」

「え、もしかして…緑谷のお父さんって、かなりのエリート?」

「うーん、どうなんだろう…何度か()()()()()()()()()()()()事があったけど」

「それって、()()()って事やん!」

 

 出久の発言に驚きを隠せない麗日。うん、気持ちは解らないでもないが、落ち着け。

 

「大丈夫だよ、麗日さん。父さんはいつも笑顔を絶やさない優しい人だから」 

「う、うん…」

 

 出久にそういわれ、落ち着きを取り戻す麗日。さて、明日はどうなる事やら…。

 

 

イレイザーヘッド(相澤消太)side

 

 さて、翌日の昼休み。マイクの言っていた()()()()()がやって来た訳だが…

 

「ヒーロー公安委員会より参りました。外事第四課課長の緑谷久です。雄英高校には、息子と義弟がお世話になっております」

 

 まさか、緑谷の父親で吸阪の義兄にあたる人物が、ヒーロー公安委員会のお偉いさんだったとは…流石に予想外だ。

 

「久しぶりだね! ()()()()()! まさか君が緑谷少年の御父上だったとは! 流石の私もビックリだよ!」

「お久しぶりです、オールマイト。引退のニュースを知った時は驚きましたが…お元気そうで何よりです」

 

 俺達が驚きで僅かにフリーズしている間に、随分とフレンドリーな挨拶を交わしているオールマイトさん達。どうやら、2人は親しい間柄のようだな。

 

「アスカロン、いや緑谷君とは、これまでに何度か()()()()()()()()()があってね! 優男に見えるが、相当な実力者さ!」

「いえいえ、『平和の象徴』と評されていたオールマイトに比べれば、浅学菲才の身に過ぎません」

 

 オールマイトさんが認めるほどの実力者…。緑谷の才能は、父親譲りの部分もあったという事か。

 

「それで、緑谷さん。今日はどういったご用件で? まさか、挨拶をしに来ただけ…では、ないのでしょう?」

 

 そんな事を考えていると、根津校長が緑谷氏に来訪の目的について問いかけていた。たしかに、単なる挨拶が目的とは考えにくいが…。

 

「えぇ…では、本題に入らせていただきます。実は、我々が捜査を進めていたある(ヴィラン)集団が、日本へ密入国した。との情報を入手しました」

(ヴィラン)集団の名は『ジュエルズ』。これまでに13の国で殺人と窃盗を行い、国際手配されています」

「『ジュエルズ』。たしか『(ヴィラン)殺し集団』の異名を持つ武闘派集団だったね。構成員全員が、宝石の名をコードネームにしていると聞いた事があるよ」

 

 緑谷氏と根津校長の声に耳を傾けながら、回されてきた紙資料に目を通していく。

 その資料には、ジュエルズの構成員に関する大まかな情報が記されていたが…これは―

 

「そして昨日。構成員の1人である琥珀(アンバー)の足取りが、一部ではありますが判明しました」

 

 合理的に考えればすぐに解る事だった。遠隔操作式の銃架や高性能爆薬を日本国内で、しかも個人が入手する事など、まず不可能。

 何らかの組織、もしくは集団が、海外で入手した物を秘かに持ち込んだ。そう考えた方が、極めて自然。

 

「アンバーは、ある墓地に足を運んでいました。昨日発砲事件が発生した…そう、イレイザーヘッド。あなたが襲撃された墓地です」

 

 猛崎琥珀は…(ヴィラン)アンバー…。

 

「これは偶然とは思えない…イレイザーヘッド、お話を聞かせて頂きたい」

 

 緑谷氏からの要請に、俺は力無く頷くしか出来なかった。

 

 

猛崎琥珀(アンバー)side

 

 偽名と偽造身分証を使い、郊外にあるウィークリーマンションを借りた私は、そこで『ジュエルズ』の仲間達と合流した。

 

「全員無事に合流出来て、何よりです」

「あぁ、お前の()()()()()()()だ。チーム全員で大暴れしなきゃ、話にならん」

 

 そう言って笑う柘榴石(ガーネット)

 

「そうよぉ、琥珀(アンバー)が本懐を遂げるんですもの。出来る限りの援護をしなくちゃ、()()()()()!」

 

 しなやかなポーズを決めながら、野太い声で力強く宣言する紅水晶(ローズクォーツ)

 

「やる事はいつもと変わらねぇ。力の限り暴れるだけだ!」 

 

 そう言うと、力瘤を作りながら笑みを浮かべる橄欖石(ペリドット)

 

「…今度のゲームは、何としても負けられない」

 

 藍玉(アクアマリン)はいつも通りのクールな口調で、静かに燃えている。

 

「皆さん、ありがとうございます」

 

 私は4人の仲間に深々と頭を下げ、イレイザーヘッド打倒に改めて闘志を燃やすのだった。




最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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