出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2   作:SS_TAKERU

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お楽しみいただければ幸いです。


第34.3話:特別授業

イレイザーヘッド(相澤消太)side

 

 ヒーロー公安委員会のお偉いさんであった緑谷の父親…緑谷久氏からの求めに応じ、俺を襲撃した(ヴィラン)、アンバーこと猛崎琥珀について。

 そしてそれに関連する事柄として、猛崎琥珀の弟であり、事故死した俺の教え子でもある猛崎理央についても説明をした訳だが…

 

「……一通りの事情は理解しました。しかしながら…」

「イレイザーヘッド。厳しい言い方になりますが、貴方の行動には()()()()()()…と言わざるを得ないでしょう」

 

 当たり前ではあるが、緑谷氏からの評価は厳しいものだった。

 

「敢えてどん底に落とし、そこから這い上がらせる事で、更なる成長を促す。その意図は理解出来ますし、学生の内に挫折を体験させる事で、社会に出てからの糧として欲しい。そんな貴方の教師としての愛情もよくわかります」

「しかしながら、除籍にした後、何のフォローも無かったというのは、いただけませんね。すぐに復籍するから大丈夫だと思ったでしょうが…突然除籍された生徒の衝撃や困惑を甘く見ていましたね。彼のように何の落ち度も無いのであれば猶更です」

「……返す言葉もありません」

 

 決して声を荒げることなく、淡々と…それでいて自ら反省する事を促すような緑谷氏の口調に、俺は深々と頭を下げる。

 

「緑谷さん、相澤君をあまり責めないでほしい。彼に除籍と復籍の権利を与えたのは、この私。最終的な責任は私にあるのだから、どうか…」

 

 そこへ根津校長がフォローを入れてくださり―

 

「…失礼。つい責めるような口調になってしまいましたね。申し訳ない」

「いえ…」

 

 猛崎理央に関しては、ここまでとなった。

 

「話は変わりますが、(ヴィラン)アンバー…いえ、猛崎琥珀が貴方を狙っている以上、十中八九貴方の行動を感知出来る様、雄英高校からそれほど離れていない場所に潜伏していると予想されます」

「現在、関係各所の協力を得て150人態勢で捜索を行っています。場合によっては、雄英高校所属のプロヒーロー(皆さん)のお力を借りる事にもなるでしょう。その時は…」

「もちろん、出来る限りの協力をさせてもらうのさ」

「ありがとうございます。では、皆さんに現時点で判明している『ジュエルズ』の()()()()()をお渡しします」

 

 そう言うと、緑谷氏はアタッシェケースから密閉された袋を取り出すと、躊躇いなく袋を破り、中に収められていた紙資料を差し出してきた。

 

「空気に触れると15分で消えてしまう特殊インクで書かれています。当然ながら、複写や写真撮影も不可能ですので、しっかり記憶してください」

 

 資料の数は全部で3つ。全員で回し読みする事を考えると、記憶に使える時間は3分も無いぞ…。

 随分とスパルタだ。と内心呟きながら、俺達は資料の暗記に励む。そしてジャスト15分後。

 

「おぉ、ホントに全部消えちまった…」

 

 感心したようなマイクの声が聞こえる中、資料の文字は完全に消失した。

 

「念の為、シュレッダーにかけてしまおう。そうすれば、より安全だ」

「助かります。根津校長」

 

 校長自らの手で、資料はシュレッダーで裁断され…『ジュエルズ』についての話し合いが始まった。

 

「それでは、資料について何かご質問があれば」

「デハ、私カラ…『ジュエルズ』ノ構成員ハ全員元“()()()”トアッタガ…」

「はい、それに関しては間違いありません。全員が『ジュエルズ』に参加するまでは“無個性”であった事が確認されています」

「しかし、『ジュエルズ』として活躍を始めると、全員が“個性”を使用している…アスカロン、これはやはり…」

 

 エクトプラズムさんの質問に緑谷氏が答えた直後、思いつめた表情で呟くオールマイトさん。これはやはり、()()()()()なんだろう。

 

「ええ、『ジュエルズ』の構成員は全員、何者かから“個性”を与えられています。これが何を意味するか、おわかりですね? オールマイト」

「オール・フォー・ワンの仕業…」

「えぇ、祖国で“無個性”として、どん底の日々を送っていた人間に“個性”を与えて恩を売り、自らの駒として利用している」

「彼らが(ヴィラン)、それもある程度組織化された集団ばかり襲撃しているのも、戦闘経験を積む為であり、蓄えられていた資産を奪い取る為でもある。そう考えれば説明がつくね」

「犯行現場に必ず残されている『We aren't stones(俺達は石ころじゃない).We are jewels(俺達は宝石だ)!』というメッセージも、犯行声明であると同時に、奴らの()()()()ってことか…umm…」

「自分達を宝石と称しつつも、四大宝石*1を避けているのは、()()()()()()とも受け取れるわね」

 

 それぞれが意見や考察を述べる中、俺は無言で考え続けていた。

 早くに両親を失っていた猛崎琥珀は、猛崎理央(あいつ)が死んだ後、親類の家に引き取られた。だが、この親類が()()()()()()()()()()()で…それが彼女にとって更なる不幸だった。

 両親の遺産を騙し取られ、奴隷の様に扱われる日々…親類が別件で逮捕され、事態が露呈した事で、彼女は解放されたが…

 

 -私を助けて、弟を殺した罪滅ぼしのつもりですか?- 

 

 彼女の呟きに、俺は何も言う事が出来なかった。

 その後彼女は、親類に殆ど使われてしまった遺産の残りをかき集め、外国留学に旅立ったと聞いていたが…まさかこんな事になっていたとは…

 こうなる前に、彼女を救う事は出来なかったのか? 俺はそんな非合理的な考えを止める事が出来なかった。

 

 

出久side

 

 昼休みも終わり、午後の授業がもうすぐ始まる。今日はヒーロー基礎学、一体どんな内容なのか、本当に楽しみだ。

 

「わーたーしーがー!!」 

「普通にドアから来た!!」

 

 HAHAHA! と高笑いをしながら教室に入ってくるオールマイト。すぐさま痩身形態(トゥルーフォーム)に戻り、授業がスタートする。

 

「今日のヒーロー基礎学は、予定を変更して…()()()()()()()()()()()を行います!」

 

 特別講師による特別授業、オールマイトの言葉に一瞬ざわつく教室。だけど、それはすぐに収まり―

 

「今日の特別講師は、本当に凄いよ。うん、本当に凄いから見て驚くように! それでは、お願いします!」

 

 静寂の中で特別講師を迎え入れた。

 

「失礼します」

 

 だけどその静寂はすぐに破られた。他ならぬ僕と雷鳥兄ちゃんによって…

 

「と、父さん!」

「久義兄(にい)さん!」

 

 だって、仕方ないじゃないか! 特別講師として入ってきたのが、自分の父親なんだから!

 

「アイエエエエ! 義兄さん!? 義兄さんナンデ!?」

「ら、雷鳥兄ちゃん、お、落ち着いて! 口調がなんだかおかしくなってるでございますです!」

「い、出久こそ落ち着け! そ、そうだ! 素数、素数を数えよう!」

 

 パニック状態に陥る僕達。

 

「緑谷のお父さんが特別講師!?」

「凄い! イケてるオジサマだよ!」

 

 皆も程度の差はあれ、それぞれに驚いている。それを尻目に―

 

「ヒーロー公安委員会より参りました。外事第四課課長の緑谷久です。息子と義弟がお世話になっております」

 

 父さんはスマートに自己紹介を済ませていた。

 

 

「「お見苦しいところをお見せして、申し訳ありませんでした!」」

 

 数分後、パニック状態から立ち直った僕と雷鳥兄ちゃんが皆に謝罪し、特別授業がスタート。

 気づけば教室の後ろには、プレゼント・マイク先生やエクトプラズム先生といった、この時間授業を担当していない先生達が見学に訪れている。

 

「では、気を取り直して! 緑谷君は普段、アスカロンのコードネームで活動していて、一般のヒーローではまず行わない特殊な任務を行っている」

「機密事項もあり、その全てを話す事は出来ないが、公表出来る範囲の情報を知るだけでも、君達には貴重な体験となるだろう! 心して聞いてほしい!」

「いやぁ、大先輩であるオールマイトからそう言われると、少々面映ゆいですが…出来る限りの事はさせていただきましょう。それでは、まず確認として…おそらく聞き覚えが無いであろう()()()という部署について、わかる人はいますか?」

 

 父さんからの質問。それに対し、真っ先に手を挙げたのは、八百万さんだ。

 

「はい、八百万…百さん」

「それでは僭越ながら…外事課は外国諜報機関の諜報活動や国際テロリズム、戦略物資の不正輸出、外国人の不法滞在などを捜査する部署…と記憶しておりますが」

「その通りです。私が所属してる第4課は、主に国際テロリストの捜査を担当しています。私も普段は欧州各国を飛び回っていますね」

「飛び回る…不躾な事をお伺いしますが、ヒーロー公安委員会の課長職ともなれば、現場に出られる事は少ないのでは?」

「…一般的な課長職だとそうなるのですが、私の場合は少々事情がありまして…」

 

 八百万さんの問いかけに、どこか気まずい表情の父さん。一体どうしたんだろう?

 

「それに関しては、私がお答えしよう! 緑谷君はこれまでの功績から、本来ならもっと上のポスト、参事官や部長にもなれるのだが、本人が現場で働く事を希望して、昇進を断り続けているのさ!」

「その為、上層部(うえ)から少々()()()()()()()()()()…外国で起きる面倒事の対処に駆り出され続けている訳です。これも一種のパワハラ…なんでしょうね」

 

 まさか、父さんがずっと海外赴任していたのは、そんな理由からだったなんて…驚きだ!

 

 

猛崎琥珀(アンバー)side

 

「戻ったわよぉ♪」

「食料、調達してきたぜ」 

 

 それぞれ物資と食料調達に行っていた紅水晶(ローズクォーツ)橄欖石(ペリドット)が戻ってきた。それを合図に、部屋に残っていた私達はそれぞれの作業を中断し、リビングへ集合する。

 

「ホント、日本って凄い国ねぇ。こんなに状態の良い部品が、ジャンクパーツとして格安で売られているなんて、信じられないわぁ」

 

 リサイクルショップから買ってきた電子部品を紙袋から出しながら、しみじみと呟く紅水晶(ローズクォーツ)

 

「これがジャンク!? 何かの間違いだろ…このトランジスターなんて、俺の故郷だったら新品扱い…1つ20(ドル)は下らないぞ」

「それ、150円だったわ…ドルに直すと1(ドル)30(セント)ってところね」

「なん、だと…」

「この紙袋いっぱいの電子部品、幾らだったかわかる? 総額8800円。80(ドル)もしなかったのよ…」

「……信じられねぇな…800、いや1000(ドル)したって言われても信じるぞ」

 

 柘榴石(ガーネット)が呆然とした表情を見せる中―

 

「ほれ、飯の用意出来たぞ」 

 

 食料を調達し、台所に入っていた橄欖石(ペリドット)が、料理を盛った人数分の皿を持ってきた。

 

「……deep fried food(揚げ物)か」

 

 そこに盛られていたのは、拳大の揚げ物。千切りのキャベツとくし型に切られたレモンも添えられていて、私にとっては実に懐かしい料理だ。

 

「外国人観光客のフリをして、Shopping street(商店街)を歩いていたら、Butcher(肉屋)でこいつが揚げられていてよ。片言の日本語で聞いてみたら、メンチカツって料理らしい」

「挽肉に刻んだ玉葱や香辛料を混ぜ、衣を付けて揚げた料理ですね。日本の総菜としてはポピュラーかつ比較的安い部類に入る物です」

「1つ食ってみたが、マジで美味かったぞ」

橄欖石(ペリドット)! アンタ、抜け駆けしたのっ!?」

「ちげーよ! 食った事がないって、Butcher(肉屋)のオヤジに話したら、金は要らねぇから試食してみろって、揚げたてを1つ差し出されたんだ。断る訳にもいかねぇだろ。それに美味いから買うって言ったら、オマケだって2個もタダでくれたんだ」

I can't believe it(信じられない)What on earth are Japanese people thinking(日本人は何を考えているんだ)?」

 

 橄欖石(ペリドット)の話に、日本語を話すことすら忘れ、呆然と呟く藍玉(アクアマリン)

 

「それだけ平和で豊かな国ってことなんだろう…何しろ、つい最近まで平和の象徴(オールマイト)がいた国なんだからな。まぁ、問題が無い訳じゃないだろうが…」

「俺達もこんな国に生まれたかったぜ……さぁ、飯にしよう。冷めちまったら用意した橄欖石(ペリドット)に悪い」

 

 そして、柘榴石(ガーネット)の一言で、昼食が始まったわけだけど…

 

「な、何よこのパン! フワッフワで何も付けなくても何個でも食べられちゃうわ! こんな上質な白パンを庶民が手頃に買えるだなんてっ!?」

「おい、待て。このメンチカツが絶品なのはまだわかるが、付け合わせの野菜までなんでこんなに美味いんだよ! 野菜ってやつはもっと、青臭かったり、えぐみがあったりするもんだろ!」

 

 随分と久しぶりとはいえ、私には馴染み深い日本の食材は、他の皆に凄まじいまでの衝撃を与えていた。

 

 

 紆余曲折あったものの昼食は無事終了。それぞれに定時薬の投与を行っていると―

 

「こんにちは」

 

 ドアをノックする音と共に、そんな声が聞こえていた。

 

「「「「「ッ!」」」」」

 

 私達は、それまでのリラックスしていた気持ちを瞬時に切り替え、戦闘態勢を整える。だけどドアの向こうにいる相手は突撃してくる事もなく…

 

「あぁ、こう言わなくちゃいけなかったか…『We aren't stones(俺達は石ころじゃない).We are jewels(俺達は宝石だ)!』」

 

 私達『ジュエルズ』の理念にして合言葉を口にしていた。これは即ち…

 

「…橄欖石(ペリドット)

「おう」

 

 柘榴石(ガーネット)の指示で、橄欖石(ペリドット)がドアへと近づき、ゆっくりと開いていく。

 

「お初にお目にかかります、『ジュエルズ』の皆さん。ドクターからの連絡を受け、死柄木弔の名代としてやってきました。私、Mr.コンプレスと申します」

 

 そこに立っていたのは、死柄木弔の名代だという白髪交じり(ロマンスグレー)の男、Mr.コンプレス。

 

「予想よりも早かったな。動きが速いのは良いことだ」

「これより皆様を死柄木弔のもとへとお連れします」

 

 気取った仕草で一礼するMr.コンプレスに頷き、私達は準備を整える。

 さぁ、作戦成功に向けて…第一段階スタートだ。

*1
ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの4つ




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