出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2 作:SS_TAKERU
お楽しみいただければ幸いです。
出久side
さて、父さんによる特別授業も無事終了し、放課後を迎えた訳だけど…
「緑谷の御尊父様! お手間で無ければもう少しの間、ご指導いただきたく存じます!」
「お願いします!」
実際に手合わせした轟君達だけでなく、八百万さん達も父さんに更なる指導を懇願。
「お前達、
相澤先生はそんな皆を静かに窘めていたけど―
「もう暫くでしたら、構いませんよ」
父さんはあっさり了承。
「もちろん…担任である
しかも、相澤先生に笑顔を向けながら、謎のプレッシャーまでかけてくれた。その結果…
「………他のクラスの目もありますので、続きは
数秒の沈黙の後、条件付きで許可してくれた。喜びの声を上げる皆の陰で、そっと胃の辺りを抑えていたのが見えたけど…うん、見なかった事にしておこう。
雷鳥side
さて、
「緑谷ちゃんのお父さんのお話…凄かったわ」
玉葱を微塵切りにしながら、どこか呆然と呟く梅雨ちゃん。まぁ、それも無理はない。
皆が質問し、それを久義兄さんが説明する。という形で明らかになったのは、組み手で披露し、皆が“個性”と誤認したものは、全て
前世でそういった類の知識も相応に得ていた俺は、驚きつつも大いに納得した訳だが…これまでそういった類のものに触れた事が無かった梅雨ちゃん達には、とてつもない衝撃だった事は、想像に難くない。
それにしても、軽身功*1や縮地法も十分に凄いが、己の気を打ち込む事で相手の動きを麻痺させるという技法を応用し、“個性”因子を一時的に麻痺させて“個性”を封じるという技を編み出した事には、驚きの一言だ。
「“個性”が無かった時代でも、あんな凄い事が出来ていたのね」
「まぁ、10年単位の鍛錬が必要だったみたいだけどね。久義兄さんも4歳の時から鍛錬を始めて、一通り習得するのに20年近くかかったって言ってたし」
「そうね。今から習得するのは、ちょっと難しそうだわ」
「まぁ、俺達は俺達のやり方で強くなっていけば良いさ」
そう言いながら、俺は梅雨ちゃんが微塵切りにした玉葱をフライパンに入れて炒め始める。
今日はいつもより時間が押しているからな。いつも通りの時間に夕食を始める為にも、時短料理でいきますか!
「課長、随分と良いお顔をされていますが、雄英高校で何か楽しい事でも?」
「ええ、とても楽しい時間を過ごせました」
帰宅途中、車を運転する部下の言葉にそう答え、私は出久君や雷鳥君、そして同級生の皆さんの事を改めて考える。
今年の雄英高校1年生は、滅多に無い当たり年。そう聞いてはいたが、正直言って予想以上。
このまま成長していけば、デビュー1年目から
「やる気と才能に満ちた若者達。将来が実に楽しみです」
「課長がそこまで仰るとは…
「たしかに…
「私もいい加減、後輩が欲しいですよ」
部下のぼやきに苦笑しつつ、私は気持ちを切り替え―
「それで、
仕事の話に取り掛かる。
「あまり良いとは言えません。向こうもこちらが調べているのは、承知の上で動いているでしょうから…なかなか尻尾を出してくれませんよ」
「資金の動きなどは?」
「今のところは、特に不自然な動きはないようです」
「関係各所と協力を密にして、不審な動きは一切見逃さないように」
「了解です」
部下に指示を下したところで車は、我が家の近くに停車。
「明日は1日自宅にいる予定ですが、何かあればすぐに連絡を」
「わかりました。お疲れ様です」
車を降りた私は、愛しの引子さんの待つ自宅へ一直線に向かっていく。
「ただいま戻りました。引子さーん」
ここからは夫婦水入らずの時間です。
生徒達の懇願で
「………らしくないな」
仕事に集中出来ず、ペンが全く進まない。
猛崎琥珀が
彼女を悪の道へと誘った存在が他にいたとしても、そこに踏み込ませてしまったのは…俺だ。
敢えてどん底に落とし、這い上がらせる指導方針が間違っていたとは思わない。だが、
「猛崎…俺は、どうすればいいんだろうな……」
思わず弱気な声が漏れてしまったその時―
「HAHAHA! 相澤君、随分と弱気になってるじゃないか!」
声をかけてきたのはオール…いや八木先生。今の呟き、聞かれていたか…。
「…まだ帰ってなかったんですか? もうすぐ18時ですよ」
「いや、帰ろうとしていたんだけどね。忘れ物を取りに戻ったら、相沢君が残っていたという訳さ」
「そうですか。それじゃあ、忘れ物を取ったら早く帰宅してください。仕事も無いのに残るのは、非合理的です」
誤魔化すように会話を済ませ、再度書類に向かおうとしたその時―
「相澤君は、どうすれば良いと思う?」
「ッ!」
極めて真剣な声で、八木先生が問いかけてきた。これは………誤魔化しは出来そうにないな。
「………正直、どうすれば良いのか、わからずにいます。自分の見通しの甘さが…彼女から弟を奪い、
「………」
「八木先生、彼女を止めるにはどうすれば良いと思います? 俺の首を差し出せば、それで満足するんでしょうか?」
「それは…」
「いえ、わかってます。俺を殺しても、もう彼女は止まらない…止まれないでしょう。だからこそ、どうすれば良いのか…」
「……相澤君」
俺の迷いを聞き、静かに口を開く八木先生。
「厳しい事を言ってしまえば、今更君の命を差し出したところで、償える訳ではない。今回の事は、君がこれからの生涯、死ぬまで背負い続けなければならない」
「そして、どうすれば良いかだが…酷く
「なっ…謝って済むような事では―」
「この謝罪は
「心から、反省していることを伝える為に…」
八木先生の言葉に、俺は胸を打たれた気分だった。3年前も彼女に心からの謝罪はした自信は…ある。
だが、それは彼女に伝わらなかった…謂わば自己満足で終わっていたのかもしれない…。
「許す許さないは彼女が決める事。謝罪する側が決める事じゃない。だが、そもそも謝罪の意思が伝わらなければ、許す許さない以前の問題だよ」
「そう、ですね…」
「相澤君、合理を突き詰める事は決して悪い事じゃない。だが、人間は合理だけで生きている訳じゃない事を、忘れてはいけないよ」
「えぇ、肝に銘じておきます…まったく、八木先生もすっかり教師らしくなりましたね」
「そりゃぁ、
そう言って笑いながら、『すごいバカでも先生になれる!』と書かれた
まったく、本当に非合理的で…だが、熱心な先生だ。
「うっ、ぐぅっ……」
1人になって気が緩んだ直後、私の体は悲鳴を上げた。心臓が破裂しそうなほど激しく脈打ち、全身から脂汗が大量に噴き出していく。
「ま、だ…まだだ。まだ、止まれない…」
私は這うようにカバンへと向かい、ドクターから処方してもらった薬を震える手で注射器にセット。
「くぅっ…」
首筋に打ち込んだ。薬液が体内に流れ込む感覚に身を委ねる内に、体も大分落ち着いてきた。
-………正直な話、予測よりかなり悪い。一切の希望的観測を排除して考えた場合……長くて2ヶ月。短くて半月。もっと短い可能性も十分にある-
「短くて半月…それだけあれば十分です」
ドクターの言葉を思い出しながら、私は静かに呟く。そう、作戦決行まであと7日。それまで、この体が持てばいい…。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。