出久君の叔父さん(同学年)が、出久君の運命を変えるようです。Season2   作:SS_TAKERU

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お待たせしました。短編最終話を投稿します。
お楽しみ頂ければ、幸いです。


第1.9話:夏の思い出作り‐その5(終)‐

砂藤side

 

 昼食を済ませ、片付けも終えた頃、俺は急遽女子達と香山先生を相手に、お菓子作りをレクチャーする事になった。

 なんでも、女子達で洗い物をしている時にそんな話題が出て、トントン拍子で話が纏まったらしい。

 ……まぁ、材料の心配はしなくていいし、簡単な物で良いとは言われたが…出来れば、もう少し事前に話してもらいたかったぜ!

 

「今回作るのは、マフィン。紙に書いてある分量で、標準サイズの型6個分になる。全部の材料を倍にすれば12個分、半分にすれば3個分。その時々に応じて計算してくれ」

 

 それでも、やる以上は全力だ。大急ぎで作った手書きのレシピをそれぞれに手渡しながら、順を追って説明していく。

 

「作り方自体は簡単。混ぜて、型に入れて、焼く。だけど、キチンと下準備をしておかなかったら、焼き上がりが均一にならなかったり、口当たりや食感が悪くなる。だから、下準備は横着せずにやってくれ」

「砂藤先生! 下準備ってどうするんですか?」

「誰が先生だよ」

 

 おそらく手を挙げながら質問してきた葉隠に、俺はそう返しながら、無塩バターと卵を手に取って、皆に見せる。

 

「下準備は2つ。1つは材料を冷蔵庫から出して、室温に戻しておく事。特にバターと卵は忘れずに」

「室温に…それだとバターは柔らかくなりますし、卵は…あぁ、そう言う事ですのね!」

 

 俺の一言で、何かを察する八百万。蛙吹、麗日、耳郎も察しているみたいだが…芦戸と葉隠はよく解っていない様子だ。

 ………と言うか、香山先生もイマイチ解っていない様子なのが…驚きだ。

 

「バターが固いままだと、他の材料と混ざりきらずバターの粒が残ってしまって、焼き上がりが均一にならなくなる」

「卵も冷たいまま使うと、バターと馴染まなくて乳化…上手く混ざり合わないんだ。そうなったら、焼き上がりが均一にならないし、食感も悪くなる」

「なるほど…では、バターは予め溶かしておいても?」

「今回のレシピは、バターにグラニュー糖(・・・・・・・・・・)()粉の順番で混ぜていく(・・・・・・・・・・)やり方だから、やめた方が良いな。溶かしバターを使う時は、卵にグラニュー糖(・・・・・・・・)粉の順番で混ぜて(・・・・・・・・)最後に加える(・・・・・・)形になる」

「どちらの方法で作るかは、作り手の好みだな。あぁ、溶けたバターをもう一度固めて使うのはやめてくれよ。口当たりが悪くなる」

「砂藤君、バターは他の物で代用しても良いの? 例えばマーガリンとか!」

「代用は出来る。ただ、マーガリンだと独特の油臭さが出るから、俺としてはお勧めできない。マーガリンを使うんだったら、オイル…オリーブオイルやグレープシードオイルを使った方が良いな。あ、オイルを使う時は水分が多い分、バターよりも少なめに使ってくれ。目安はバターの8割だ」

 

 八百万と麗日から出た質問にそう答え、俺は下準備の2つ目。薄力粉とベーキングパウダーを合わせて、(ふる)っておく事を皆に伝える。

 こうしておかないと、生地の中にダマが残って、焼き上がりが均一にならないからな。

 

「よし、下準備が終わったところで始めようか。まず、ボウルにバターを入れて、空気を含ませるように混ぜていく。俺は泡立て器でやってるけど、皆はハンドミキサーでやってくれ。あ、ミキサーの速度は中速でな」

 

 バターがある程度混ざったところで、グラニュー糖を複数回…最低5回に分けて加え、その都度混ぜる。この時、ボールの側面に飛び散ったグラニュー糖をゴムベラで落としていく事を、忘れちゃいけない。

 

「砂藤! 砂藤! バターが溶けて油が滲んできたよ!」

「あぁ、そのままだと膨らみが悪くなって固くなるから、冷蔵庫に数分入れるか、氷水が入ったボウルにつけて、少し冷やすといい」

 

 芦戸の焦った声にそう伝えながら、皆のボウルを見て回る。うん、バターとグラニュー糖がよく混ざり、空気を含んでフワフワした状態になってるな。

 芦戸も…冷蔵庫に数分入れて冷やした事で回復したみたいだ。

 

「次に、卵黄と卵白が完全に混ざるまで溶いた卵を少しずつ加えて、その都度混ぜていく」

「卵はいっぺんに入れちゃいけないの?」

「卵を一気に入れたら、油分と水分が分離して台無しになる。少しずつ、少しずつ、最低でも10回に分けて入れてくれ」

「ふーん、お菓子作りってルールがいっぱいあるんだね!」

「だが、ルールをきちんと守れば、誰でも上手く作れる。それがお菓子作りの醍醐味だ」

 

 柄でもない…まるで吸阪のような事を言いながら、俺は篩った薄力粉。その3分の1を投入し、混ぜていく。あ、そうそう―

 

「粉を入れて、いきなりハンドミキサーを回すと粉が飛び散るから、先に軽く混ぜてからスイッチを入れ―」

「「ワフッ!」」

 

 ………遅かったか。

 

 

八百万side

 

 飛び散った粉で、芦戸さんと葉隠さんの顔が真っ白になるというハプニングは起きましたが、全員が粉の3分の1を混ぜる事が出来ました。

 

「それじゃあ、次は常温の牛乳と無糖ヨーグルトを混ぜた物。その半分を加えて混ぜてくれ。それが混ざったら残った粉の半分、その次はまた牛乳とヨーグルトを加えて混ぜていく」

 

 砂藤さんの指示に従い、材料を順番に混ぜていきます。牛乳とヨーグルト、篩った粉、また牛乳とヨーグルト。ここまで混ぜたところで、砂藤さんから新たな指示が…。

 

「最後に残った粉を全部入れて混ぜるんだけど…この最後の混ぜでは、ハンドミキサーは使わないでくれ。ここでの混ぜ具合で、マフィンの形や食感が決まる。だからゴムベラを使って、状態を確認しながらゆっくりと混ぜていくんだ」

 

 砂藤さん曰く、この最後の混ぜ具合を軽く…大きな粒が残る程度にすれば、横方向に大きく膨らみ、食感はホロホロと崩れる感じに。逆に粒が無くなるほどシッカリと混ぜるとモッチリとした食感になるとの事。

 

「細かい粒が残る程度に程よく混ぜるのが理想なんだが…ホロホロと崩れる食感や、モッチリとした食感が好きな人もいるから、この辺は好みだな」

 

 私としては…モッチリとした食感が好みなので、シッカリと混ぜる事にしましょう。

 

「あとは、型に入れて焼けば完成。なんだけど、色々な物を混ぜてアレンジする事も出来る。具体的な例としては、ミックスベリー、オレンジピール*1とオレンジのコンポート、バナナとチョコチップとか…かな」

 

 なるほど…アレンジもまた魅力的ですわ。どういった物を作るか、よく考える事にしましょう。

 

 

梅雨side

 

「はい、吸阪ちゃん」

 

 砂藤ちゃんに教えてもらったマフィンだけど、その出来は上々。皆でお茶の時間を楽しんだ後、私はマフィンのお裾分けを吸阪ちゃんへ持って行ったわ。ストレートのアイスティーも一緒よ。

 

「おっ、マフィンか。いただきます」

 

 早くも夕食の準備に取り掛かっていた吸阪ちゃん。アイスティーで喉を潤してから、マフィンを一口。

 

「うん、美味い。生地の甘さと混ぜ込んだミックスベリーの甘酸っぱさが、よく合っているよ。流石だね、梅雨ちゃん」

「ケロケロ、砂藤ちゃんの教え方が良いのよ」

 

 口ではそう謙遜しながらも、私は吸阪ちゃんに美味しいと言ってもらえた事が嬉しくてたまらない。顔に出ちゃいそうで、ちょっぴり怖いわね。

 

「そういえば吸阪ちゃん。その鍋の中身は何なの?」

 

 ちょっと強引に話題を変えてみる。うん、鍋の中身は気になっていたから、可笑しい事は無いわ。

 

「あぁ、調理の過程で鶏ガラが結構な量出たからね。ソイツを使って、鶏ガラスープ作りさ」

「ケロ? 調理の過程って…何を作ったの?」

 

 鶏ガラが結構な量出る調理なんて、考えればすぐにわかる。だけど、私は敢えて問いかけた。

 

「あぁ、結構な大きさの丸鶏が数匹あったんでね。それを解体して(・・・・)、今夜は串焼きパーティーさ(・・・・・・・・・)!」

 

 ……流石だわ、吸阪ちゃん。

 

 

雷鳥side

 

 さて、時間はあっという間に経ち、日没まであと1時間弱。楽しい夕食の時間がやってきた。

 

「そろそろ焼いていくか」

 

 大型のバーベキューコンロ3台にそれぞれ炭を入れ―

 

「轟、頼む」

「任せろ」

 

 轟の炎で一気に着火。網も敷いて、準備は万端だ。

 八百万に創造して(作って)もらった作務衣に着替え、前掛けとバンダナを装備した俺と出久、梅雨ちゃん、麗日、耳郎は―

 

「それじゃあ、担当はさっき打ち合わせした通り。鶏は俺、牛は梅雨ちゃん、野菜巻き(・・・・)は出久、麗日、耳郎だ」

「わかったよ。雷鳥兄ちゃん」

「ケロケロ、美味しい串焼きを作りましょうね」

「頑張ります!」

「足引っ張らないよう、努力するね」

 

 最後の打ち合わせを済ませ、それぞれ準備に入る。

 今日のメニューは、さっき梅雨ちゃんに伝えた通り、串焼き。牛肉、豚肉、鶏肉を使った豪華版だ。

 牛肉*2は、一口サイズにカットした所謂ステーキ串。

 豚肉*3は、様々な野菜を巻いた野菜巻き串。

 そして鶏*4は、丸鶏を捌き、串を打つところから始めた焼き鳥だ。

 ちなみに、用意されていた丸鶏が中抜き*5だったので、内臓系はお預けだ。

 

「出来れば、心臓(ハツ)肝臓(レバー)砂肝(ズリ)なんかも欲しかったんだが…無い物は仕方ない」

 

 そんな事を呟きながら、まずはささみ串を並べていく。

 炭火は、発せられる遠赤外線の効果で、表面はパリッと、中はフンワリと焼きあがるのが利点だが、火加減の難しさが欠点となる。

 すなわち、少しの判断ミスで黒焦げになってしまうという事だ。油断せずに焼いていくとしよう。

 

 

出久side

 

 雷鳥兄ちゃんが真剣な表情で鶏肉を焼く姿を横目に見ながら、僕達も豚肉を焼き始める。

 豚バラの薄切りで、様々な野菜*6を巻いた野菜巻き串。お肉と一緒に、野菜もたくさん食べられる優れものだ。

 

「豚肉にはしっかり火を通しつつ、野菜は適度に…」

 

 野菜に火が通り過ぎたら、食感が半減して台無しになる。最適な状態を見極めて…今!

 

「はい! 野菜巻き串のレタス、焼き上がりました! 塩胡椒は振ってますけど、好みでレモンやポン酢、一味唐辛子で味付けして食べてください!」

「同じく、野菜巻き串の舞茸と―」

「万能葱も―」

「「焼きあがったよ!」」

「ケロケロ、ヒレステーキ串が焼きあがったわ。味付けは岩塩でシンプルにね」

「こちらもささみ串が焼きあがった。味付けとして、串の半分に梅紫蘇、残り半分には葱明太子を乗せてある。そのまま食べてくれ」

 

 僕達の声に、焼き上がりを待っていた皆が、大皿へ一斉に手を伸ばしていく。果たして反応は…

 

「うわっ! この豚とレタスの串…食べ応えがあるのに、サッパリ食べられて…美味しっ!」

「こっちの舞茸の奴も美味しい! 麗日、流石だね!」

「この万能葱を巻いた物も、シャキシャキした葱の歯触りと適度な辛味が、豚バラの脂とよく合っている。見事だ、耳郎」

「うぉっ! サッパリしたささみに、明太子の塩気と辛味が最高だぜ!」

「こっちの梅紫蘇も美味いぞ! ささみが更にサッパリと食べられる!」

「このヒレステーキやべぇ! 殆ど噛む必要が無いくらい柔らかいぞ!」

 

 うん、掴みは上々みたいだ。この調子で頑張っていこう!

 

 

香山睡(ミッドナイト)side

 

「うん、夕暮れの海を見ながら焼き鳥…最高ね!」

 

 吸阪君の焼いた鶏皮串*7と緑谷君達の焼いた野菜巻き串(大葉、えのき、ミニトマト)をツマミに、ビール*8を飲んでいると―

 

「はい、お待たせしました」

 

 吸阪君が新たな串を持ってきたわ。これは…

 

「やげん*9とせせり*10、それからぼんじり*11です。量が少ないので、先生優先という事で…」

「吸阪君、流石ね!」

 

 通好みな3品を前に、思わず喉が鳴る。

 2杯目(おかわり)が用意されたノンアルコールビールを片手に、まずはやげんを一口。

 

「んー!」 

 

 コリコリした歯ざわりといい、ちょっと濃い目の塩加減といい、酒の肴に最適ね!

 そして、ここにビールを加えたら…

 

「くぁぁぁっ、たまらないわ!」

 

 焼鳥とビール! まさに盤石の組み合わせね!

 

 

葉隠side

 

「はぁ、美味しかった!」

 

 竹で作られた串入れが満杯(・・)になる程、串焼きを食べ、シメに用意された焼きおにぎりのスープ茶漬け*12も2杯お替りして、もうお腹は満杯!

 幸せな気持ちでお腹を擦っていると―

 

「あーあ、明日の昼前には帰らないといけないのか…もっと皆で楽しみたかったなぁ……」

 

 三奈ちゃんのそんな声が聞こえてきた。そう、明日は朝食を食べたら、帰り支度をしなくちゃいけない。楽しい時間って、本当にあっという間だよね…。

 

「たしかに、ここでの楽しい時間をもっと過ごしたい気持ちは…正直、ある」

 

 その時口を開いた吸阪の声に、誰もが耳を傾けた。

 

「だがな、楽しい時間っていうのは、少し足らない位が丁度良い(・・・・・・・・・・・・)もんだ。足らないからこそ、次来た時にも思いっきり楽しめる。飽きるまでここにいたら、次に来た時楽しめなくなっちまうぞ」

「うむ! 吸阪君の言うとおりだ! また1-Aの皆で楽しい時間を過ごす為にも、新学期に向けて頑張っていこう!」

 

 吸阪と飯田の言葉に、誰もが頷き、これからの日々に気合を入れていく。

 こうして、夏の楽しい時間は終わりへと向かうのだった。

*1
オレンジの果皮の事。シロップ煮にして乾燥させた物は製菓材料としてよく使われる

*2
A5ランクの和牛。部位はサーロインとヒレ。

*3
最高級の黒豚。部位はバラ

*4
最高級の地鶏

*5
鶏から頭、羽、足先(モミジ)、内臓を取り除いている物の事。内臓を残している物は『丸』と呼ばれる

*6
レタス、万能葱、ミニトマト、ホウレン草、大葉、舞茸、えのき

*7
味付けは塩と黒胡椒

*8
当然ながらノンアルコールビール

*9
胸骨の先端にある軟骨

*10
首の後ろ部分の肉

*11
尻尾の付け根部分の肉

*12
白胡麻と塩昆布を混ぜたおにぎりを香ばしく焼き、熱々の鶏ガラスープをかけた変わり茶漬け




最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次回より、仮免許取得試験編を開始します。
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